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はじめに
糖尿病に罹病している患者の数は増加傾向にあり,世界中で2030年までに4.4億人(世界人口の7.7%)に達すると予想されている(Shaw, Sicree, & Zimmet, 2010)。特に成人以上で糖尿病と診断された患者のうち,90〜95%が2型糖尿病であるといわれている(Centers for Disease Control and Prevention, 2013)。
2型糖尿病の治療目標は,定期的な外来受診と食事療法・運動療法・薬物療法を実施し,よりよい血糖管理をすることによって,合併症の発症や進行を予防することである(World Health Organization, 2013)。Reddy, Wilhelm, & Campbell(2013)によると,糖尿病患者は,糖尿病に関連した慢性的なストレスに遭遇しているといわれている。
糖尿病患者に対する介入方法としては,これまでに「変化ステージモデル」や「自己効力感」「ストレスコーピング」「目標設定」「セルフモニタリング」「ソーシャルサポート」などの健康行動理論や行動変容技法が開発されている(Steinsbekk, Rygg, Lisulo, Rise, & Fretheim, 2012;柴山,2007)。なかでも,相互目標の設定(mutual goal setting)を行ない,自分の行動を観察して記録する(Snyder & Gangestad, 1986;足達,2006)「セルフモニタリング」を毎日実施するという手段が有効であるといわれている(Bandura, 1977 ; Moriyama et al., 2009 ; Vermunt et al., 2013 ; Kuijpers, Groen, Aaronson, & van Harten, 2013 ; Glynn, Murphy, Smith, Schroeder, & Fahey, 2010 ; Maves, 1992 ; Laxy et al., 2014)。介入効果を評価する指標としては,Problem Area in Diabetes(PAID)(Polonsky et al., 1995 ; Welch, Weinger, Anderson, & Polonsky, 2003),Self-efficacy on Health Behavior(Bandura, 1977),HbA1cなどがある。
近年,在宅療養中の患者を支える新たな医療サービスとして,ICTを用いた遠隔看護の活用が注目されている(Kawaguchi, Azuma, Satoh, & Yoshioka, 2011 ; The International Council of Nurses, 2010 ; Kumar, 2011)。遠隔看護は,遠隔地にいる患者に看護技術を提供するための電気通信および情報技術を使用することであり,看護師の不足の解決のみならず,遠隔地にいる患者の場所まで向かう移動時間や距離の削減をすることが可能であるといわれている(The International Council of Nurses, 2010)。
先行研究では,遠隔看護の活用によって,患者の満足度が増し,看護業務も効率性を増すなど,患者と看護師双方からよい評価につながることが明らかになっている(St George et al., 2009 ; Ellis, Hercelinskyj, & McEwan, 2011)。特に,糖尿病患者に用いた研究では,HbA1c値の改善(Jordan, Lancashire, & Adab, 2011)や食事療法へのつらさの軽減(西片,2009),遠隔看護の短期介入の効果を検証するもの(Koopman et al., 2014),遠隔看護を用いた介入による血圧と血糖変化のプロセスを明らかにした研究(Wakefield et al., 2014)がある。しかし,いまだ遠隔看護の方法論は確立されていないのが現状である。
一方,Nijland, van Gemert-Pijnen, Kelders, Brandenburg, & Seydel(2011)は,遠隔看護のWebアプリケーションについて,「Webアプリケーションは,個人が自分の特定のニーズにプログラムを調整することができるように設計されるべきである」と述べている。しかし,患者のニーズに合わせた特別なプログラムを含むWebアプリケーションの実証実験はない。
そこで今回筆者らは,Kawaguchi, Azuma, Satoh, & Yoshioka(2011)が開発した遠隔看護システムに,患者参加型のGoal Attainment Scaling(GAS)を使用したことによる,2型糖尿病患者の自己管理行動への効果について検証したので,本稿にて報告する。
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