看護研究 47巻6号 (2014年10月)

特集 看護ケアプログラムの体系化に向けて─看護研究と行動分析学

鎌倉 やよい
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 看護の役割は拡大し,看護師の実践能力に対する期待も高い。看護実践を支えるためには看護師の判断力が重要であり,看護過程としてアセスメント,看護診断,計画立案,実施,評価がなされるようになってきた。アセスメントの結果としての看護診断は,看護師が取り組む問題として分類・体系化され,看護診断ごとにその定義,診断指標,関連因子,リスク因子が明示されている。

 看護診断を確定した後には,その問題を解決することができる看護ケアを提供し,その結果が評価される。これらの看護ケアは,診断された問題を高い確率で解決する効果が実証された方法論であることが求められるが,その方法論はいまだ確立されたとは言い難い。

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はじめに

 看護学は実践の科学として歩を進めてきた。看護系学会が数多く設立されて研究活動が活発に行なわれ,数多くの論文が学会誌に発表されている。看護学・保健学を専攻する博士後期課程も開設されて博士の学位を有する人材も増加し,量的・質的な研究手法が実施されている。

 看護研究について,医師から質問を受けたことがあった。医師が行なう研究は診断法や治療法に関する基礎研究や臨床研究であり,その成果はすべて医療を受ける患者に還元しているが,看護師による研究は,その成果を患者に還元できているのかといった率直な疑問であった。また,ランダム化比較試験(randomized controlled trial ; RCT),多施設共同試験でなければ,エビデンスとしては不十分であるとの批判をも受けてきた。これらの批判は,看護研究は十分なエビデンスのある成果を得て,患者に還元できているのかという課題を示している。

 看護研究を概観すると,実験研究は少なく,質的研究,調査研究,尺度開発等が大半を占める。質的研究は半構成的面接などによって得られた発言をデータとして,帰納法的にカテゴリ化する手続きを用いて患者の意味世界を明らかにしている。調査研究はある課題に関する現状を把握し,データ間の関係を探索し,課題に影響する要因等を明らかにしている。また,アセスメント指標の開発や尺度開発は患者の状態を判断する指標を与え,問題のある患者をスクリーニングする方法等を明らかにしている。これらは,患者の状態を理解する研究であり,アセスメントに寄与すると考えられる。

 では,看護の方法論は確立してきただろうか。看護診断に対する看護介入分類(Nursing Interventions Classification ; NIC)も開発されつつあり,必要なケアの項目が示されている。しかし,看護の方法論は,個々の看護技術の適用というよりも目的を指向する一連のプログラムとして開発され,そのプログラムを,さらなる研究によって改善することが重要であるように思われる。

 本稿では,そうしたプログラム開発の方向性,ならびにプログラムを開発するために随伴性のアレンジとして行動に介入する視点,そして看護場面でのシングルケース研究法(後述)と,行動に着目した食事指導プログラムに言及する。

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A. 「看護すること」とはどんな行為なのか

 本稿では,「看護すること(nursing)」を支援する学としての行動分析学の基本的考え方と,この考え方に基づくいくつかの技法を紹介する。看護することは人間の健康に関するケアと深くかかわっているが,健康やケアという用語はさまざまな意味をもち,曖昧なまま多くの人々に受容されてきたので,看護すること自体もなかなか定義しにくい用語となっている。

 人の生命維持や社会とかかわる諸活動が阻害されると,私たちはその原因を取り除いて元の状態へと戻そうとする。そのときに人の内部的な原因にもっぱら注目するのが,医療的行為一般の姿であろう。看護することは,人の内部的原因を直接取り除くことを援助するだけでなく,諸活動が阻害された前後の期間,すなわち健康の予防や回復に結びつくような期間においても,その人を取り巻く外部的な状況を変化させることで,健康にかかわる要因に働きかけているようにみえる。

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1.はじめに

 ある看護問題を解決するために特定のケアが本当に役立つかどうかや,2種類以上のケアの効果に違いがあるかどうかなどを科学的な方法で確かめることの重要性が増している。なぜなら,看護に携わる人には効果があるという根拠(エビデンス)に基づいたケアを提供する責任がある,という考えが広まってきたからである。ケアがエビデンスに基づいていないと,効果のないケアを提供してしまうかもしれないという懸念がある。それを払拭するためにまず必要なのは過去に誰かが発表したエビデンスを調べることだが,適切なものが見つからないことも少なくないだろう。そのため,もっと多くの人がエビデンスを得て発表すれば,看護ケアの方法はさらに進歩するに違いない。

 エビデンスを得るための看護研究にはさまざまな方法があるが,ケアの効果を科学的に確かめる上で最も強力なのは実験法である。なぜなら,本当は効果がないのに効果があるようにみえてしまう可能性が多く知られており,実験ではそのような可能性を防ぐために特別な方法を用いるからである。観察や調査のような実験以外の方法でもケアの効果についてあたりをつけることはできるが,実験に比べるとどうしても根拠としての曖昧さが多く残ってしまう。

 本稿で紹介するシングルケース実験デザイン(single case experimental design;以下,シングルケースデザイン)は実験法の1つである。名前は多少似ているが,非実験的な相関研究の一種であるケース・コントロール研究や,観察や逸話的研究の一種とみなせるケーススタディとは大きく異なる。むしろ,研究法としてはランダム化比較試験(randomized controlled trial;以下,RCT)などと同じカテゴリーに入る。ただし,シングルケースデザインでエビデンスを強める方法はRCTなどとかなり異なる部分があるので,本稿でそれを解説したい。

 シングルケースデザインは看護研究の教科書でも紹介されている(例えば,ポーリット&ベック/近藤監訳,2010)が,それほど詳しくは取り上げられていない。また,これまでも看護系の雑誌で紹介されたことがある(例えば,La Grow & Hamilton, 2000 ; Sterling & McNally, 1992 ; Teut & Linde, 2013)が,必ずしも議論は十分でない。このような事情のため,シングルケースデザインにはあまり馴染みがないという読者も多いかもしれない。そこで,この研究法の考え方を説明する前に,まずは典型的な例を紹介する。なお,以下にあげる例は看護そのものよりも隣接領域や他領域の研究として行なわれたものが多くなることをご了承いただきたい。

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 本稿では,近年の看護研究の動向からシングルケース実験研究法(以下,シングルケース研究法)の位置づけについて概説し,臨床場面において行動分析学を基軸にした実験デザインを用いた研究を紹介する。そこから,看護ケアのエビデンスを蓄積するための1つの研究方法論としてシングルケース研究法をどのように活用できるのかを検討し,シングルケース研究法を行なう上での課題とその将来的展望について述べる。

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はじめに

 わが国の死因第2位は心疾患である。2011年の死亡数は19万4926人で,全死亡数の15.6%を占めている(厚生統計協会,2013)。その中でも,狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患患者は,心疾患の中で占める割合が最も多い。心疾患患者に対する手術療法は年々増加し,2011年では全国で6万284件施行された(Amano, Kuwano, & Yokomise, 2013)。この増加の要因としては,人工心肺装置を用いない心拍動下バイパス術など,手術の低侵襲化によって手術適応が拡大したことと,患者が自らのQuality of Life(以下,QOL)向上を求めていることなどがあげられる。

 患者は手術前から虚血発作や心不全などによって,日常生活での行動が制限されている。その上,手術直後には開胸術に伴う呼吸機能の低下,胸骨切開に伴う胸郭の拡張運動の制限,移植血管(グラフト)採取部の下肢創部痛,運動に対する不安などの原因によって活動が抑制される。一方,手術後には病変が修復されるため,心機能の改善をめざして心臓リハビリテーションが実施される。米国公衆衛生局(U.S. Public Health Service)によれば,心臓リハビリテーションとは「医学的な評価,運動処方,冠危険因子の是正,教育およびカウンセリングからなる長期にわたる包括的なプログラムである」と定義され,その目的は,個々の患者の心疾患に基づく身体的・精神的影響をできるだけ軽減し,突然死や再梗塞のリスクを是正し,症状を調整し,動脈硬化の過程を抑制あるいは逆転させ,心理社会的ならびに職業的状況を改善することであるとされている(AHCPR/NHLBI/日本心臓リハビリテーション学会監修,戸嶋裕徳監訳,1996)。

 わが国では,1997年に「循環器疾患のリハビリテーションに関するガイドライン」(厚生省循環器病委託研究5公─3「循環器疾患のリハビリテーションに関する研究」班,1997)が提示された。心臓手術後には,少なくとも日常生活に支障のないレベルの運動耐容能を獲得することが重要である。この心臓リハビリテーションでは,術後の回復状況に応じて段階的にステージが設定され,運動量や日常生活動作における一定の負荷量の目標が示されている。現在わが国では,これらに準じたプログラムが各施設で実施されている(村山,2000)。なかでも運動療法は中心的な役割を担い,2002年には「心疾患における運動療法に関するガイドライン」〔循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000─2001年度合同研究班),2002〕が作成された。

 運動療法の効果として,主に運動耐容能の改善(佐藤ら,1999a;1999b;牧田,澤,間嶋,2002;Adachi, et al., 2001),自律神経活性の改善(佐藤,牧田,高橋,間嶋,2002;武山ら,1997;Iellamo, Legramante, Massaro, Raimondi, & Galante, 2000),肺血管拡張能の改善(安達ら,2002),グラフト開存率の改善(久保ら,1993),冠危険因子の是正(Hedbäck, Perk, Engvall & Areskog, 1990 ; Maines, et al., 1997 ; Lavie & Milani, 1997),QOLの改善(吉田ら,2002),精神面への効果(Saitoh, et al., 2000),医療費の抑制(露木ら,2004)等が報告されている。運動耐容能は,手術による心筋虚血の改善や心負荷の軽減に加えて,運動による血管拡張能や骨格筋の改善と相俟って向上する。これまでに,運動と心機能との関係が明らかにされ,運動療法の段階的なプログラムが確立されてきた。

 しかし,段階的なステージとして「トイレ歩行」「病棟内歩行」などと歩行の範囲は教示されているが,1日の歩行を安全に増加させるための,そのステージでのプログラムは明確ではない。さらに,運動療法の効果は短期間では生じにくいため,退院後にも患者自身が運動負荷を安全に拡大していくことが求められる。そのため,患者が入院中に,自らの歩数と心負荷を判断して,安全な範囲で自律的に歩数を調整する方法を学習することが重要であり,そのための看護プログラムを開発することが必要である。

 しかし現在のところ,応用行動分析的アプローチとして心臓手術後の離床に対する理学療法室での段階的ADL(activities of daily living)拡大法(宮澤ら,2008)が報告されているだけで,自発的な歩行を安全に増加させるための学習法や自律的に調整するためのプログラムは存在していない。

 そこで,本研究では,まず従来の心臓リハビリテーションの評価を行なうことに加えて,歩行後の血圧・脈拍が安全な範囲であるかどうかを,セルフモニタリングすることを中心とした自律的調整プログラムを導入し,その効果を検討した。

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はじめに

 近年,インフルエンザやノロウイルスなどの感染症の流行が毎年起き,保育所や幼稚園において,これらの集団感染がしばしば発生する。また,こうした場所では他にも幼児の年齢的特性から,水痘,流行性耳下腺炎なども発生する。夏場には食中毒の危険性が高まり,地方衛生研究所によれば,2007年の腸管出血性大腸菌感染症(O157など)による集団発生の1/4が保育所・幼稚園であったと報告されている(古賀,2009)。このように,保育所や幼稚園は感染症発症率が高いとされ,これを予防することが喫緊の課題となっている。これらの感染症を予防するには感染源への対策,宿主の抵抗力を上げる,感染経路を遮断する,のいずれか1つを絶つことが必要である。そして,予防の基本として手洗いが有効とされている(萩原,2005)。

 幼児の手洗いに関する知識は,4〜6歳の児では病気を引き起こすメカニズムとして「バイキン」を理解していると報告されている(平元,森,2003)。3歳は理解力が曖昧だが,5歳になると物事の理由がわかり理解できるようになる。一方,4歳では理解の程度の個人差が大きく,それまでの家庭環境や本人の理解力によって違いがあるといわれている(中塚,大瀧,1993)。したがって,意味を理解して手洗いができるようになるには5〜6歳までかかると考えられる(上田,1983)。

 幼児期は,基本的生活習慣を身につける時期である。保育所保育指針(厚生労働省,2008)と幼稚園教育要領(文部科学省,2008)ではともに,「健康」という領域で「健康な心と体を育て,自ら健康で安全な生活を作り出す力を養う」としている。このことから,病気の予防手段としての手洗いの意味がわかり,手洗いの習慣を身につけることは,病気の予防の観点から「自ら健康で安全な生活を作り出す力」につながると考えられる。

 幼児の手洗いに関する研究を概観すると,3〜6歳児を対象に,手洗いによる細菌数の変動を調査した研究では,手掌で洗い残しが56.5%あり,手背・指・指間は70%以上,拇指は82%が洗い残されていた(原田,2004)。また,手洗いの問題として,石鹸をつける前に手を十分に濡さない,石鹸を泡立てない,といった行動が報告されている(原田,2004)。これらのことから幼児の手洗いは,手を洗う行為を形式的にはできていても,手を清浄にするという目的の達成は不十分であると考えられる。

 望ましい手洗い行動を考えると,大別して洗浄とすすぎに視点を置くことができる。洗浄に関する研究では,3〜5歳児を対象として指部を石鹸洗浄後に20秒間すすいだ群に,手洗い前後で有意な細菌数の減少がみられた(山本,鵜飼,2003)。すすぎの効果については,3〜5歳児を対象に流水のみの洗浄を行ない,5秒間洗った群と20秒間洗った群を比較した結果,除菌率50%以上の児の割合が後者で有意に多かったことが報告されている(山本,鵜飼,東,茅野,2002)。

 これらのことから,効果のみられた洗浄時間,すすぎ時間を保証する手洗い方法の獲得が望まれる。手洗いの必要性や病気との関係についての知識を与えながら,洗い残す部位なく手を清潔にできる手洗い指導を行なうことが,子ども1人ひとりの感染症予防や,集団感染を防ぐことにつながるであろう。

 そこで,本研究では,身のまわりのことができるようになり理解力が発達してきた4歳児は,歌をうたいながら手を洗うことによって,洗う部位を理解し,かつ,十分な洗浄とすすぎ時間を確保することで,感染症予防に有効な手指洗浄行動が獲得されると考える。手指洗浄に必要となる行動を振りつけた「手洗いの歌」を制作し,教示および模倣を含む一連の手洗い指導プログラムを作成し,4歳児の手指洗浄行動の形成の効果を検討した。

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 近年,英語論文投稿が重要視されており,論文投稿数も増加している。筆者が所属する大阪大学のように,博士後期課程の学位取得条件には,査読のある海外の学術雑誌に原著論文が掲載採択されることが必須になっているところもある。今後,英語論文の投稿数は増加の一途をたどるだろう。看護系の研究者にとって,海外の学術雑誌への論文掲載は非常に高い壁である。英語を母国語としないため,英語の翻訳,英文校正,査読者への回答などいくつものハードルがあり,特に翻訳や英文校正では費用もかかる。海外の学術雑誌への論文投稿は経済的にも精神的にも負担であり,大きなエネルギーが必要だ。

 最近増加しているオープン・アクセス(open access ; OA)ジャーナルは,投稿数を増やす目的で,世界中の研究者に,投稿を促すダイレクトメールを送っている。読者の中にも,OAジャーナルを刊行している出版社から投稿勧奨メールを受け取った経験がある方もいるだろう。本稿では,筆者がOAジャーナルへの投稿で得た経験を紹介し,OAジャーナルへの投稿時の注意点を読者と共有したい。

連載 統計学のキー・ポイント─「検定」に焦点を当てて・5

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相関関係とはどんな関係か

 一般的に言って,身長が高ければ体重は重いし,手足も長くなるでしょう。人間は高齢になればなるほどさまざまな病気にかかる人も増えてきます。このように,世の中に存在する物事の間には,相互になんらかの関係があるのが普通です。このような「関係」を,統計学ではどのように扱っているのかということについて,今回は扱ってみたいと思います。

 英国人フランシス・ゴルトンFrancis Galtonは,チャールズ・ダーウィンCharles Darwinの従弟であり,ダーウィンの『種の起源』(1859年)の出版に触発され,進化と遺伝の問題,それを科学的に扱う生物統計学を研究するようになったといわれています。1865年には『遺伝的才能と性格(Hereditary Talent and Character)』という本の中で,天才が遺伝することと結婚により人類を向上させる可能性を論じています。1869年には『遺伝的天才』を発表し,天才が遺伝することを証明しようと試み,知性の分布をガウス分布(正規分布)に従うものと仮定しました。また,ゴルトンは,スイートピーの親種と子種の観察を行ない,大きな親種の子種の平均値は親種より小さくなり,小さな親種の子種の平均値は親種の平均値より大きくなるような傾向があることを見いだしました。当初,このような傾向は「reversion(先祖がえり)」と呼ばれていましたが,その後,「回帰regression」と呼ばれるようになりました。

連載 Words, words, words.─研究にまつわる知識と技法・words 17

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 ある読者の方から,「毎回,楽しみに読ませていただいているが,もう少し実践的なこと,技術的なことも書いていただけないか」というリクエストをいただいた。今年になって,「研究にまつわる知識と技法」というテーマで読書,コミュニケーション,対話,批判的思考などを取り上げ,研究に関連する実践的な知識やスキルについてお話ししているつもりなのだが,読み返してみると,少々,抽象的な話に偏っていたようにも思える。

 そこで,今年最後の2回は,研究と論文執筆に関する,より具体的な実践スキル,つまり,研究を構想・実施し,その成果を論文にまとめていくときに,どのような点に注意しなければならないか,どういったことを知っておかなければならないかについて,自分の経験や,ふだん学生と話していることなどを述べてみようと思う。とは言うものの,本当に役に立つかどうか保証の限りではないが,多少の参考になれば幸いである。

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看護研究
47巻6号 (2014年10月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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