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1.はじめに
ある看護問題を解決するために特定のケアが本当に役立つかどうかや,2種類以上のケアの効果に違いがあるかどうかなどを科学的な方法で確かめることの重要性が増している。なぜなら,看護に携わる人には効果があるという根拠(エビデンス)に基づいたケアを提供する責任がある,という考えが広まってきたからである。ケアがエビデンスに基づいていないと,効果のないケアを提供してしまうかもしれないという懸念がある。それを払拭するためにまず必要なのは過去に誰かが発表したエビデンスを調べることだが,適切なものが見つからないことも少なくないだろう。そのため,もっと多くの人がエビデンスを得て発表すれば,看護ケアの方法はさらに進歩するに違いない。
エビデンスを得るための看護研究にはさまざまな方法があるが,ケアの効果を科学的に確かめる上で最も強力なのは実験法である。なぜなら,本当は効果がないのに効果があるようにみえてしまう可能性が多く知られており,実験ではそのような可能性を防ぐために特別な方法を用いるからである。観察や調査のような実験以外の方法でもケアの効果についてあたりをつけることはできるが,実験に比べるとどうしても根拠としての曖昧さが多く残ってしまう。
本稿で紹介するシングルケース実験デザイン(single case experimental design;以下,シングルケースデザイン)は実験法の1つである。名前は多少似ているが,非実験的な相関研究の一種であるケース・コントロール研究や,観察や逸話的研究の一種とみなせるケーススタディとは大きく異なる。むしろ,研究法としてはランダム化比較試験(randomized controlled trial;以下,RCT)などと同じカテゴリーに入る。ただし,シングルケースデザインでエビデンスを強める方法はRCTなどとかなり異なる部分があるので,本稿でそれを解説したい。
シングルケースデザインは看護研究の教科書でも紹介されている(例えば,ポーリット&ベック/近藤監訳,2010)が,それほど詳しくは取り上げられていない。また,これまでも看護系の雑誌で紹介されたことがある(例えば,La Grow & Hamilton, 2000 ; Sterling & McNally, 1992 ; Teut & Linde, 2013)が,必ずしも議論は十分でない。このような事情のため,シングルケースデザインにはあまり馴染みがないという読者も多いかもしれない。そこで,この研究法の考え方を説明する前に,まずは典型的な例を紹介する。なお,以下にあげる例は看護そのものよりも隣接領域や他領域の研究として行なわれたものが多くなることをご了承いただきたい。
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