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はじめに
近年,インフルエンザやノロウイルスなどの感染症の流行が毎年起き,保育所や幼稚園において,これらの集団感染がしばしば発生する。また,こうした場所では他にも幼児の年齢的特性から,水痘,流行性耳下腺炎なども発生する。夏場には食中毒の危険性が高まり,地方衛生研究所によれば,2007年の腸管出血性大腸菌感染症(O157など)による集団発生の1/4が保育所・幼稚園であったと報告されている(古賀,2009)。このように,保育所や幼稚園は感染症発症率が高いとされ,これを予防することが喫緊の課題となっている。これらの感染症を予防するには感染源への対策,宿主の抵抗力を上げる,感染経路を遮断する,のいずれか1つを絶つことが必要である。そして,予防の基本として手洗いが有効とされている(萩原,2005)。
幼児の手洗いに関する知識は,4〜6歳の児では病気を引き起こすメカニズムとして「バイキン」を理解していると報告されている(平元,森,2003)。3歳は理解力が曖昧だが,5歳になると物事の理由がわかり理解できるようになる。一方,4歳では理解の程度の個人差が大きく,それまでの家庭環境や本人の理解力によって違いがあるといわれている(中塚,大瀧,1993)。したがって,意味を理解して手洗いができるようになるには5〜6歳までかかると考えられる(上田,1983)。
幼児期は,基本的生活習慣を身につける時期である。保育所保育指針(厚生労働省,2008)と幼稚園教育要領(文部科学省,2008)ではともに,「健康」という領域で「健康な心と体を育て,自ら健康で安全な生活を作り出す力を養う」としている。このことから,病気の予防手段としての手洗いの意味がわかり,手洗いの習慣を身につけることは,病気の予防の観点から「自ら健康で安全な生活を作り出す力」につながると考えられる。
幼児の手洗いに関する研究を概観すると,3〜6歳児を対象に,手洗いによる細菌数の変動を調査した研究では,手掌で洗い残しが56.5%あり,手背・指・指間は70%以上,拇指は82%が洗い残されていた(原田,2004)。また,手洗いの問題として,石鹸をつける前に手を十分に濡さない,石鹸を泡立てない,といった行動が報告されている(原田,2004)。これらのことから幼児の手洗いは,手を洗う行為を形式的にはできていても,手を清浄にするという目的の達成は不十分であると考えられる。
望ましい手洗い行動を考えると,大別して洗浄とすすぎに視点を置くことができる。洗浄に関する研究では,3〜5歳児を対象として指部を石鹸洗浄後に20秒間すすいだ群に,手洗い前後で有意な細菌数の減少がみられた(山本,鵜飼,2003)。すすぎの効果については,3〜5歳児を対象に流水のみの洗浄を行ない,5秒間洗った群と20秒間洗った群を比較した結果,除菌率50%以上の児の割合が後者で有意に多かったことが報告されている(山本,鵜飼,東,茅野,2002)。
これらのことから,効果のみられた洗浄時間,すすぎ時間を保証する手洗い方法の獲得が望まれる。手洗いの必要性や病気との関係についての知識を与えながら,洗い残す部位なく手を清潔にできる手洗い指導を行なうことが,子ども1人ひとりの感染症予防や,集団感染を防ぐことにつながるであろう。
そこで,本研究では,身のまわりのことができるようになり理解力が発達してきた4歳児は,歌をうたいながら手を洗うことによって,洗う部位を理解し,かつ,十分な洗浄とすすぎ時間を確保することで,感染症予防に有効な手指洗浄行動が獲得されると考える。手指洗浄に必要となる行動を振りつけた「手洗いの歌」を制作し,教示および模倣を含む一連の手洗い指導プログラムを作成し,4歳児の手指洗浄行動の形成の効果を検討した。
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