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はじめに
わが国の死因第2位は心疾患である。2011年の死亡数は19万4926人で,全死亡数の15.6%を占めている(厚生統計協会,2013)。その中でも,狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患患者は,心疾患の中で占める割合が最も多い。心疾患患者に対する手術療法は年々増加し,2011年では全国で6万284件施行された(Amano, Kuwano, & Yokomise, 2013)。この増加の要因としては,人工心肺装置を用いない心拍動下バイパス術など,手術の低侵襲化によって手術適応が拡大したことと,患者が自らのQuality of Life(以下,QOL)向上を求めていることなどがあげられる。
患者は手術前から虚血発作や心不全などによって,日常生活での行動が制限されている。その上,手術直後には開胸術に伴う呼吸機能の低下,胸骨切開に伴う胸郭の拡張運動の制限,移植血管(グラフト)採取部の下肢創部痛,運動に対する不安などの原因によって活動が抑制される。一方,手術後には病変が修復されるため,心機能の改善をめざして心臓リハビリテーションが実施される。米国公衆衛生局(U.S. Public Health Service)によれば,心臓リハビリテーションとは「医学的な評価,運動処方,冠危険因子の是正,教育およびカウンセリングからなる長期にわたる包括的なプログラムである」と定義され,その目的は,個々の患者の心疾患に基づく身体的・精神的影響をできるだけ軽減し,突然死や再梗塞のリスクを是正し,症状を調整し,動脈硬化の過程を抑制あるいは逆転させ,心理社会的ならびに職業的状況を改善することであるとされている(AHCPR/NHLBI/日本心臓リハビリテーション学会監修,戸嶋裕徳監訳,1996)。
わが国では,1997年に「循環器疾患のリハビリテーションに関するガイドライン」(厚生省循環器病委託研究5公─3「循環器疾患のリハビリテーションに関する研究」班,1997)が提示された。心臓手術後には,少なくとも日常生活に支障のないレベルの運動耐容能を獲得することが重要である。この心臓リハビリテーションでは,術後の回復状況に応じて段階的にステージが設定され,運動量や日常生活動作における一定の負荷量の目標が示されている。現在わが国では,これらに準じたプログラムが各施設で実施されている(村山,2000)。なかでも運動療法は中心的な役割を担い,2002年には「心疾患における運動療法に関するガイドライン」〔循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000─2001年度合同研究班),2002〕が作成された。
運動療法の効果として,主に運動耐容能の改善(佐藤ら,1999a;1999b;牧田,澤,間嶋,2002;Adachi, et al., 2001),自律神経活性の改善(佐藤,牧田,高橋,間嶋,2002;武山ら,1997;Iellamo, Legramante, Massaro, Raimondi, & Galante, 2000),肺血管拡張能の改善(安達ら,2002),グラフト開存率の改善(久保ら,1993),冠危険因子の是正(Hedbäck, Perk, Engvall & Areskog, 1990 ; Maines, et al., 1997 ; Lavie & Milani, 1997),QOLの改善(吉田ら,2002),精神面への効果(Saitoh, et al., 2000),医療費の抑制(露木ら,2004)等が報告されている。運動耐容能は,手術による心筋虚血の改善や心負荷の軽減に加えて,運動による血管拡張能や骨格筋の改善と相俟って向上する。これまでに,運動と心機能との関係が明らかにされ,運動療法の段階的なプログラムが確立されてきた。
しかし,段階的なステージとして「トイレ歩行」「病棟内歩行」などと歩行の範囲は教示されているが,1日の歩行を安全に増加させるための,そのステージでのプログラムは明確ではない。さらに,運動療法の効果は短期間では生じにくいため,退院後にも患者自身が運動負荷を安全に拡大していくことが求められる。そのため,患者が入院中に,自らの歩数と心負荷を判断して,安全な範囲で自律的に歩数を調整する方法を学習することが重要であり,そのための看護プログラムを開発することが必要である。
しかし現在のところ,応用行動分析的アプローチとして心臓手術後の離床に対する理学療法室での段階的ADL(activities of daily living)拡大法(宮澤ら,2008)が報告されているだけで,自発的な歩行を安全に増加させるための学習法や自律的に調整するためのプログラムは存在していない。
そこで,本研究では,まず従来の心臓リハビリテーションの評価を行なうことに加えて,歩行後の血圧・脈拍が安全な範囲であるかどうかを,セルフモニタリングすることを中心とした自律的調整プログラムを導入し,その効果を検討した。
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