臨床皮膚科 66巻7号 (2012年6月)

連載 Clinical Exercise・58

Q考えられる疾患は何か? 北見 由季
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症例

患 者:76歳,男性

主 訴:鼻背部の結節病変

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:10年前に胃全摘,5年前に直腸癌手術,Parkinson病,脳梗塞で現在治療中

現病歴:初診の1年3か月前,歩行中に路上で転倒し,左鼻背に擦過傷を負った.同部位に残存した小結節が徐々に増大してきた.

現 症:鼻背左側に小指頭大,弾性軟のわずかに自発痛を伴う暗紅褐色結節を認めた.中心はやや黄色調で痂皮が付着していた(図1).

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要約 70歳,女性.1987年に子宮癌の手術.術後より左下肢リンパ浮腫が出現した.2010年3月より左下腿前面に皮疹が出現した.徐々に拡大したため,2010年6月当科を受診した.左下腿前面に径9.9×9.7cm大の圧痛を伴う,中心部に黒色変化を伴う比較的境界明瞭な暗赤色扁平隆起性皮膚腫瘍があり,周囲に大豆大までの衛星病変を認めた.ダーモスコピーでは全体的にblue-whitish veilを呈し,一部出血斑・紅斑・血管成分と思われる箇所を認めた.組織学的に真皮上層から皮下組織にかけてびまん性に紡錘形で核の大小不同,分裂像を伴う異型細胞がスリット状構造を呈して増殖していた.異型細胞は第VIII因子,ビメンチン強陽性,CD34陰性で,Ki-67標識率はほぼ100%であった.皮膚血管肉腫と診断した.子宮癌術後のリンパ浮腫に合併したStewart-Treves症候群と考えた.四肢の慢性リンパ浮腫を伴う症例では,血管肉腫の出現の可能性を常に考えて経過観察することが重要である.

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要約 39歳,女性.低温熱傷による下腿潰瘍に対し,吉草酸酢酸プレドニゾロン(リドメックスコーワクリーム®),トラフェルミン(フィブラストスプレー®),スルファジアジン銀(ゲーベンクリーム®)およびトレチノイントコフェリル(オルセノン軟膏®)による外用治療を受けていたが,難治で,熱傷部周辺に発赤腫脹および全身に掻痒を伴う紅色丘疹を認めた.外用剤などによる接触皮膚炎を疑い,パッチテストを施行し,リドメックスコーワクリーム®,ゲーベンクリーム®およびオルセノン軟膏®が陽性となった.成分濃度ごとのパッチテストにてセタノールが陽性となり,3剤ともに基剤として含まれるセタノールによる接触皮膚炎と診断した.下腿潰瘍は外用剤による接触皮膚炎を併発することが多く,潰瘍難治化の原因となることが多い.とりわけ基剤に対する感作が成立した場合,多数の薬剤が原因となりうる.難治性潰瘍で使用している外用剤のパッチテストを施行し陽性の場合,成分別パッチテストが必須であることを再認識した.

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要約 62歳,男性.上行結腸癌の術後化学療法開始5日目から咽頭痛,口内炎および顔面,頸部,胸部,腋窩,鼠径に淡紅色斑,孤立性紅色丘疹と小水疱が出現した.胸部の水疱は病理組織学的に多形紅斑の像を呈した.Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)様皮疹と診断し,プレドニゾロンによる治療を開始したが,治療開始3日目に下血し,内視鏡検査で十二指腸に出血性潰瘍を認めた.その6日後に回腸穿孔をきたし,開腹により壊死回腸を切除した.薬疹の原因薬剤は確定できなかった.SJSおよびSJS様薬疹においては,表在性粘膜病変に比較して,消化管病変を伴うことは稀であるが,自験例の経験から皮疹自体は軽症であっても重篤な消化管病変をきたす可能性がある.慎重な経過観察が必要と思われる.

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要約 68歳,女性.強皮症腎で血液透析中.2010年8月肺結核に対しHRZE〔イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ピラジナミド(PZA),塩酸エタンブトール(EB)〕療法が開始された.同年10月発熱,全身に掻痒を伴う紅斑が出現し,翌日当科を受診した.発症前に抗結核薬以外に薬剤変更がなく,抗結核薬による薬疹を考えた.第2病日には口唇のびらんと四肢の水疱が出現し,臨床,病理組織所見より中毒性表皮壊死症と診断した.ステロイドパルス療法開始するもびらんは拡大し,透析に加えて単純血漿交換療法(plasma exchange:PE)の併用で治癒した.治癒後,治療目的でINHとRPFを少量より投与開始し,症状の誘発はみられなかった.透析患者に発症した感染症を伴う中毒性表皮壊死症において,十分な管理のもとに速やかにステロイドパルス療法やPEを行うことは有用であり,予後の改善につながると考えた.

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要約 51歳,女性.潰瘍性大腸炎などの既往があった.2008年3月より顔面に掻痒を伴う水疱とびらんを繰り返し生じていた.一部はびらんの辺縁に小水疱を形成しながら拡大した.粘膜疹はなかった.病理組織学的には表皮下水疱で水疱内や水疱辺縁部の基底膜に沿って多数の好酸球が浸潤していた.蛍光抗体直接法で皮疹部の基底膜部に線状にIgG・C3が沈着していた.ELISA法では抗BP180NC16a抗体(Index値)19.7であった.1M食塩水剥離皮膚を基質として用いた蛍光抗体間接法で表皮側にIgG沈着を認めた.プレドニゾロン(PSL)20mg/日の内服とヒドロコルチゾン軟膏外用にて,皮疹は明らかな瘢痕を残さず改善した.その後PSLを5mg/日まで漸減したところ顔面に水疱が再燃した.33か月以上の観察で水疱が頭頸部にほぼ限局した特異な臨床経過などより,Brunsting-Perry型類天疱瘡と診断した.稀な症例であり若干の文献的考察も交えて報告する.

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要約 51歳,女性.初診1か月前より指尖部の色素沈着,味覚の低下を自覚した.間もなく頭髪や体毛が脱落しはじめ,その後手掌にも色素沈着が生じたため,精査目的で受診した.初診時,全身のびまん性脱毛と手掌・指尖部の色素沈着,爪甲先端の白濁を認めた.4週後,頭髪は疎となり約8週後には爪甲は全て脱落した.内視鏡検査で胃からS状結腸にかけて消化管ポリポーシスを認め,病理組織学的には好酸球主体の炎症性ポリープの所見であった.蛋白漏出シンチグラフィーでは上行~横行結腸にRIの貯留がみられた.非遺伝性で,以上の所見よりCronkhite-Canada症候群と診断した.便潜血と低アルブミン血症が持続していたため,消化管ポリポーシスに対しプレドニゾロン30mgを内服したところポリープ数が減少し低アルブミン血症が改善した.皮膚症状も軽快したが,プレドニゾロン中止後,好酸球増多と手の色素沈着が再燃した.本症の病態には好酸球を主体とした消化管の持続的な炎症に伴う吸収,栄養障害が関与していることが示唆された.

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要約 20歳,女性.尋常性痤瘡の治療のため,17歳11か月時より,産婦人科医院にて1クール28日の経口避妊薬(レボノルゲストレル,エチニルエストラジオールの合剤およびプラセボ)を開始した.その後,痤瘡の改善が認められなかったが,2年以上内服を継続していた.20歳5か月時に,セカンドオピニオン目的に,当院産婦人科を受診し,皮膚科紹介受診となった.顔面の片側に紅色丘疹および膿疱を40個認め重症の尋常性痤瘡と診断した.経口避妊薬を中止し,より医学的エビデンスレベルの高い治療である0.1%アダパレンゲル,1%クリンダマイシンゲルの外用,およびミノサイクリン100mg/日の内服を行ったところ,治療開始後3か月で紅色丘疹および膿疱は著明に改善した.より医学的エビデンスレベルの高い標準治療を,医師の適正な管理の下で行うことの重要性を示す症例である.

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要約 60歳,女性.初診の約1年前より毛髪が疎になり,顎髭が目立ちはじめてきたため2008年8月精査を希望して当科を受診した.初診時,前頭部,後頭部にかけて大小,不正形の脱毛斑が多数存在していた.脱毛部に病毛は認めず,軟毛化していた.左右頰部下部,下顎部には硬毛がみられ,嗄声であった.以上の所見を男性化徴候と考え,女性に生じた男性型脱毛症を強く疑った.当院産婦人科にコンサルトしたところ血中テストステロンの異常高値を指摘され,精査にてホルモン産生卵巣腫瘍(Sertoli-Leydig細胞腫)が発見された.卵巣腫瘍摘出術施行3か月後には脱毛は軽快傾向を示した.本症例においては卵巣腫瘍が産生したテストステロンにより,男性型脱毛症などの男性化徴候を示したと考えられた.

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要約 54歳,男性.出生後より下肢骨発育障害があった.出生時は毛髪を認めたが,乳児期に汎発性脱毛となった.20歳頃より全身に大豆大までの小結節が多発,時に排膿するため当科を受診した.初診時,汎発性脱毛に加え眉毛もほぼ脱落し,睫毛も粗であった.また全身に半球状に隆起する小結節が散在していた.低身長で下肢骨は彎曲短縮し,大脳基底核の石灰化を認めた.前腕からの皮膚生検では真皮中層に小型の囊腫を認め,囊腫内は角質が層状に充満していた.壁は重層扁平上皮から成り,大部分は顆粒層を認めなかった.脱毛,くる病症状,一般検査所見からビタミンD依存性くる病II型と考え遺伝子検索を行ったところ,VDR遺伝子の異常が判明した.同症は禿頭が特徴的であるが,近年囊腫を合併した報告も散見される.VDR遺伝子異常により,リガンド非依存性に毛周期を障害する機構が明らかになってきている.

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要約 39歳,男性.既往歴,家族歴,薬物服用歴に特記事項はない.2008年3月頃より左頰部に自覚症状のない皮疹が出現し,他院でステロイド局注,内服,外用,塩酸ミノサイクリン,ジアフェニルスルホン内服,タクロリムス外用などで治療されたが徐々に拡大したため2011年3月当科を受診した.左頰部に赤褐色から茶褐色の丘疹が集まり不定形の局面を形成し,前額,右頰部の一部にも同様の所見がみられた.生検病理組織像にて真皮浅層に好酸性無構造物質の沈着を認め,沈着物はPAS染色弱陽性,エラスチカ・ワンギーソン染色で淡黄染,ダイロン染色陽性で緑色偏光を示し,アミロイドP陽性,アミロイドA陰性,AE1/AE3陰性でありcolloid miliumと診断した.積極的な治療は希望されず紫外線防御を指導した.顔面の左側優位に皮疹が出現した要因は不明であった.本症はアミロイドーシスとの鑑別が最も問題となる.

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要約 40歳,男性.16歳頃から全身に紅斑が出現し,39歳時に紅斑に浸潤を触れるようになった,初診時にはびらん,潰瘍,結節を認めた.病理組織学的に紅斑部では異型細胞が増生し,これらCD30がほぼ陰性であったが,結節部では大型異型細胞が増生しCD30陽性であり,菌状息肉症の大細胞転化と診断した.末梢血の異型リンパ球,リンパ節転移や遠隔転移は認めなかった.化学療法,放射線照射,Mohs軟膏,紫外線療法を施行したが改善せず,顔面・頸部・右肩に著しい潰瘍の拡大を認め,初診の約2年後に肺転移を生じ死亡した.菌状息肉症の大細胞転化は病期の進行した症例で発症頻度が高く,急激な臨床経過をたどり,予後不良である.したがって大細胞転化は,予後に関する重要な因子と考えた.わが国では菌状息肉症に対する有効な治療法の選択肢は限られているのが現状である.

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要約 63歳,女性.初診の6か月前から右中指の腫脹,疼痛を自覚していた.初診時,右中指に境界明瞭な暗紫色局面を認めた.病理組織学的には,表皮直下に毛細血管の増生と拡張があり,真皮から脂肪組織にかけてリンパ球中心の細胞が稠密に浸潤していた.免疫組織化学的に,CD3・CD45RO陽性T細胞とCD20陽性B細胞が混在し,T細胞はCD4およびCD8陽性細胞が混在していた.κおよびλ軽鎖はともに陰性であった.CD68は一部陽性であった.病変は生検の5か月後に消退した.偽リンパ腫と診断したが,原因についてはacral psuedolymphomatous angiokeratoma of children(APACHE)であるのか,虫刺症などによる他の偽リンパ腫であるのかは確定できなかった.偽リンパ腫の疾患概念には変遷があり,APACHEの本態の解明を含めて偽リンパ腫の疾患概念の整理が必要であると考えた.

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要約 77歳,女性.1か月前より,徐々に増大する頸部の紅色腫瘤を主訴に受診した.右頸部に小指頭大と母指頭大の柔らかい紅色腫瘤を2個認め,ともに中央部が自壊排膿していた.熱感や圧痛などの炎症所見は乏しく,転移性皮膚癌やリンパ腫を考え皮膚生検を行った.病理組織学的に好中球を中心とした著明な炎症細胞を認め,乾酪壊死像は明らかでなかった.組織培養検査を実施したところ,組織の抗酸菌塗抹検査は陰性だったが,培養検査でMycobacterium tuberculosisが同定され,皮膚腺病と診断した.胸部X線像にて陳旧性結核像を認めたが,活動性の肺病変はなく,リンパ節からの皮膚浸潤と考えた.イソニアジド,リファンピシン内服にて速やかに寛解した.本邦では,肺結核が減少しているにもかかわらず,皮膚結核は減少しておらず,その理由として病気を抱えた高齢者を代表とする免疫低下者の増加が考えられる.結核の減少とともに皮膚結核も頻繁にみられる疾患ではなくなっているが,決して過去の疾患ではないことを常に念頭に置くべきであろう.

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要約 52歳,男性.潰瘍性大腸炎で加療中.7か月前より右下腿に大豆大紅斑が出現し,拡大膿疱化し他院で植皮術,局所処置で略治したが穿掘性の潰瘍が再燃した.左下側に薄い疱膜を伴う潰瘍と右下腿に巨大な不整形の潰瘍を認めた.血中抗Dsg1・Dsg3・BP180抗体は陰性であった.病理組織像で表皮中層の裂隙と棘融解を認めた.蛍光抗体直接法は1回目は表皮上層の角化細胞の細胞質に弱いIgGの沈着があり2回目は陰性であった.間接法は陰性,1M食塩水剥離皮膚の蛍光抗体間接法で表皮側に反応するIgG抗表皮基底膜部抗体を認め,免疫ブロット法でBP230陽性であった.臨床組織学的に,増殖性天疱瘡と似るが蛍光抗体直接法,間接法ともに陰性か弱い陽性所見しか呈さず,pyodermatitis pyostomatitis vegetansと診断した.しかし本症自体がまだ混乱している疾患概念であり,増殖性天疱瘡や壊疽性膿皮症と近縁の疾患であろうと思われる.

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要約 Narrowband UVB(NB-UVB)療法とUVA1療法によるクリニック外来での12年10か月間の治療において,照射回数,総照射量の観点から安全性の検討をした.NB-UVB療法を受けた患者総数は663名で,照射回数が100回を超えた患者数は81名であった.また,総照射量が100J/cm2を超えた患者は39名あった.これらのNB-UVBよる治療において,照射回数は最大629回,総照射量は最大844.7J/cm2となったが,悪性腫瘍および前癌状態である日光角化症の皮膚の変化は認められなかった.UVA1療法を受けた患者総数は286名で,照射回数が50回を超えた患者は48名であった.総照射量では500~1,000J/cm2の患者にピークがあり,3,000J/cm2を超えて照射した患者は2名あった.これらのUVA1による治療において,照射回数は最大320回,総照射量は最大3426J/cm2で悪性腫瘍の発症は認められなかった.しかし,今後のさらなる注意深い経過観察の必要がある.

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欧文目次

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 水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)は,表皮―真皮境界部の接着に関わる分子であるBP180とBP230に対する自己抗体によって表皮下水疱をきたす自己免疫性水疱症である.BP180とBP230にはそれぞれ自己反応性のB細胞およびT細胞の標的となるエピトープが複数存在することが示されている.今回著者らは,多施設前向き調査にて,BP患者35人を12か月間にわたり追跡し,BP180とBP230におけるepitope spreading(ES)現象とBPの重症度および臨床経過との関連性を調べた.具体的には,BP180とBP230の一部の領域に相当する組み換え蛋白を作製し,ELISA法により各領域に対する抗体の有無を経時的に調べた.その結果,35人中17人にES現象が生じていることが示された.ES現象は主としてBPの病初期に起こり,診断時の重症度に強い関連性がみられることが判明した.また,BP180細胞外ドメインに対する抗体産生は,BP180およびBP230の細胞内ドメインに対する抗体産生に先行していた.さらに,BP180細胞外エピトープおよびBP230の細胞内エピトープに対する自己抗体は,BPの臨床経過中の重症度と相関していた.以上の結果は,BP180の細胞外ドメインに対する抗体産生はBPの発症において重要な出来事であり,それに引き続いて起こる分子内および分子間でのES現象はBPの臨床経過に影響するとの考えを支持するものである.

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 1990年代以降に医学教育を受けたOSCE世代と呼ばれる医師は「私は○○科のミノワです」と自己紹介でき,最後に「ほかに何か言い残したことはありませんか」とドアノブ質問ができる,という筆者らの観察は,評者もアンケート調査で実証してきた.また,評者らが開発したコミュニケーションスキル訓練コースを受講した,地域で高い評価を受けているベテラン医師が受講後にみせた行動変容は唯一,ドアノブ質問の使用増加であった.

 本書は,若い医師たちをこのように見ていながらも,日ごろ,目にして耳にする患者からのクレームをもとにどうしても伝えたい「言葉」の話を医療従事者に向けてまとめた書物である.クレーム実例から出発しているのでリアルであり,真摯な語りかけである.この領域で二冊のテキスト(『医療現場のコミュニケーション』『コミュニケーションスキル・トレーニング』,ともに医学書院刊)を執筆している評者にとっても,このような語りかけがどうしてもかくあるべしの理想論になりがちで非常に難しいのがわかるだけに,クレームからのアプローチは執筆の抑制を保つうえでうまい戦略だと感心させられた.

次号予告

投稿規定

あとがき 石河 晃
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 大病院から診療所まで電子カルテの普及は加速度を増している.文書情報,画像情報の電子化はあらがいようがない時代の趨勢であり,紙の節約,検索性の良さ,保存場所の廃止など,良いことずくめのように報じられている.確かに電子カルテには優れた点が多い.字が読みやすいこと(他人の字は読みづらかった!).処方や採血のオーダーをするだけで,紙カルテに改めて記載する手間がいらないこと(記載漏れなく誤記もない!).コピーペースト機能により病歴など簡単に転記できること(しかも正確!).他科のカルテが容易に見られ,無駄な検査・処方の重複が避けられ,禁忌薬も共有できること(安全!).臨床写真をアップできること(いつでも見て比較できる!).端末さえあればどこでもカルテがすぐに見られること(楽ちん!)などが電子カルテの優れた点であろう.セキュリティーに関しても今のところ社会問題となるような事例は聞かない.しかし,電子カルテに移行することで失うものもある.患者の顔を見て話す余裕がない,記載に時間がかかる,想起性が低下する,などは導入時から言われてきたことであるが,最近感じるデメリットは2点ある.1つはコピーペーストによる思考の停止である.前回担当医の記載をそのまま鵜呑みにして,自分の記載としてペーストしてしまうこと,これは日によって異なる患者の状態に目をつぶることとなる.誤記もそのまま伝言されてゆき,いつしか真実になってしまう恐ろしさを秘めている.もう1つは皮膚科病名がどんどん淘汰されてゆくことである.病名マスターに載っていないものはレセプト病名として受け入れられないため入力しない.英語病名もどんどん忘れられてゆく.10年前,葡行性迂回状紅斑は知らなくともerythema gyratum repensの病名を知らない皮膚科専門医はいなかったであろう.しかし,あと10年経ったら英語病名を知っている者は少数派となっていることだろう.もっとも,日本語病名も漢字で書けなくなってはいまいか.合理性の名の下に失うものがないように心がけたいと思うこの頃である.

著作財産権譲渡同意書

基本情報

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臨床皮膚科
66巻7号 (2012年6月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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