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大病院から診療所まで電子カルテの普及は加速度を増している.文書情報,画像情報の電子化はあらがいようがない時代の趨勢であり,紙の節約,検索性の良さ,保存場所の廃止など,良いことずくめのように報じられている.確かに電子カルテには優れた点が多い.字が読みやすいこと(他人の字は読みづらかった!).処方や採血のオーダーをするだけで,紙カルテに改めて記載する手間がいらないこと(記載漏れなく誤記もない!).コピーペースト機能により病歴など簡単に転記できること(しかも正確!).他科のカルテが容易に見られ,無駄な検査・処方の重複が避けられ,禁忌薬も共有できること(安全!).臨床写真をアップできること(いつでも見て比較できる!).端末さえあればどこでもカルテがすぐに見られること(楽ちん!)などが電子カルテの優れた点であろう.セキュリティーに関しても今のところ社会問題となるような事例は聞かない.しかし,電子カルテに移行することで失うものもある.患者の顔を見て話す余裕がない,記載に時間がかかる,想起性が低下する,などは導入時から言われてきたことであるが,最近感じるデメリットは2点ある.1つはコピーペーストによる思考の停止である.前回担当医の記載をそのまま鵜呑みにして,自分の記載としてペーストしてしまうこと,これは日によって異なる患者の状態に目をつぶることとなる.誤記もそのまま伝言されてゆき,いつしか真実になってしまう恐ろしさを秘めている.もう1つは皮膚科病名がどんどん淘汰されてゆくことである.病名マスターに載っていないものはレセプト病名として受け入れられないため入力しない.英語病名もどんどん忘れられてゆく.10年前,葡行性迂回状紅斑は知らなくともerythema gyratum repensの病名を知らない皮膚科専門医はいなかったであろう.しかし,あと10年経ったら英語病名を知っている者は少数派となっていることだろう.もっとも,日本語病名も漢字で書けなくなってはいまいか.合理性の名の下に失うものがないように心がけたいと思うこの頃である.
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