眼科 60巻11号 (2018年10月)

特集 サルコイドーシス アップデート

序論 後藤 浩
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サルコイドーシスは本邦における同定可能なぶどう膜炎のなかでは最も数の多い疾患として知られる。したがって我々眼科医は,ぶどう膜炎,特に肉芽腫性のぶどう膜炎を診た際に,まずはサルコイドーシスの可能性を念頭に置いて診察を進めていくことが求められる。

1 診断基準の変遷と現状 石原 麻美
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サルコイドーシスは全身諸臓器に類上皮細胞肉芽腫を形成し,多彩な臓器症状や全身症状を呈する症例から,自覚症状のないものまで幅広い臨床症状を呈する疾患である。組織生検が得られれば診断がつけられるが,心臓,眼,神経など組織診断が難しい臓器もあるため,サルコイドーシスに特徴的な全身検査所見と臨床所見とを併せて診断する臨床診断が取り入れられている。

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眼病変はサルコイドーシスの約25~60%でみられ1),肺外病変のなかでは最も頻度が高い。症状としては,飛蚊症,霧視,視力低下などが多い。両眼性が80%以上を占める2)3)。肉芽腫性ぶどう膜炎であり,汎ぶどう膜炎を呈することが多い。慢性の経過をたどりやすい。

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サルコイドーシスは原因不明の多臓器疾患で,組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とする疾患であるとされてきた。その病態は徐々に解明されつつあり,発症には遺伝的素因,病因抗原となる感染,環境因子等が関与すると考えられている。疾患感受性のある個体に,本項のテーマであるPropionibacterium acnes(P. acnes)等を病因抗原として,Th1タイプの細胞性免疫反応が生じ,全身諸臓器に肉芽腫性炎症が発症すると考えられるようになってきた。サルコイドーシスは結核と同様に肉芽腫性疾患であり,組織学的には乾酪壊死の有無が大きな違いであるが,類似点が多く,サルコイドーシスの病因抗原としては,欧米ではマイコバクテリウムが重要な役割を担っていると考えられてきた。実際,眼科領域においてもぶどう膜炎では,サルコイドーシスと結核性ぶどう膜炎は類似した眼所見がみられる。一方で,本邦においてはP. acnesが最も重要なサルコイドーシスの原因と考えられてきた。本項では,P. acnesがサルコイドーシスの病因抗原と考えられるようになった背景から,眼科領域での解析結果を述べ,P. acnesがどのように全身諸臓器に到達するかについて考察する。

4 ステロイド療法と代替療法 高瀬 博
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サルコイドーシスは全身諸臓器に非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫が形成される原因不明の炎症性疾患である。最も頻度の高い罹患臓器は肺であり,次いで30~60%に両眼性の肉芽腫性ぶどう膜炎を中心とした眼症状を呈する1)~3)。また,サルコイドーシスは本邦のぶどう膜炎の原因疾患として最も頻度が高く,一般眼科医にとっても日常診療における遭遇機会の多い疾患といえる4)5)。サルコイドーシスは一般にステロイド治療に良好に反応する疾患であり,呼吸器科領域などでは自然治癒とされる経過もしばしば存在する。しかし,その多くは慢性再発性の経過を辿るため,眼科領域においては一見寛解状態にあると考えられる症例においても潜在的には軽度の炎症が遷延し,長期的には続発緑内障や嚢胞様黄斑浮腫などによる治療抵抗性,不可逆的な視覚障害に陥る症例も決して少なくない。そのため,サルコイドーシス患者に対しては,炎症がいったん沈静化したと思われる場合でも,長期的な経過観察と適切なステロイド維持治療を行う必要がある。

5 硝子体手術の功罪 臼井 嘉彦
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サルコイドーシスは,ぶどう膜炎のなかで最も頻度が高い疾患であり,主に副腎皮質ステロイド薬を用いた薬物療法が中心となる。しかし,黄斑上膜など,薬物療法が効かない合併症が生じた場合は硝子体手術の適応となる。硝子体手術については,近年,極小切開硝子体手術や広角観察システム,トリアムシノロンアセトニドを代表とする硝子体可視化製剤など,硝子体手術の革新的な進歩により,短時間かつ安全に硝子体手術が施行できる時代となっている。そのため,サルコイドーシスに合併した黄斑上膜であれば,視機能の低下が著しい場合は炎症のない非活動期において硝子体手術の適応で異論がないと思われるが,薬物療法でも軽快する可能性の高い硝子体混濁に対して硝子体手術を施行することは,専門家でも議論の分かれるところであろう。しかし,硝子体手術の施行にあたっては,施行時期や手術手技,術後合併症および視力予後に関する十分な理解が必要である。本稿では,本来であれば薬物療法が中心となるはずのサルコイドーシスについて,硝子体手術の有用性と問題点を中心に私見も含め論述する。

綜説

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眼科医療は,基礎医学,疫学,診断,治療と,いずれの領域をとってみても,その発展は目覚ましく,緑内障診療の分野もその例外ではない。近年は毎年のように新しい薬剤や診断機器,治療機器の名前を耳にし,自分自身の知識を着実にアップデートしていくことは,緑内障専門医にとっても容易ではない。このような背景を考慮し,わが国の緑内障診療の指針となるべく,日本緑内障学会は,2003年に緑内障診療ガイドラインを発表した1)。以後,時代ごとの医療の進歩に伴う緑内障診療の変化とともに,2006年に第2版2),2012年に第3版と改訂され3),日本緑内障学会々員のみならず,広く一般眼科医による緑内障診療の基本を明示するものとして重要な役割を果たしてきた。さらに,2018年の1月に,現時点の最新版となる第4版が発表となった4)。第3版からの大きな変更点として,ガイドライン作成に関する指針,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に準じて,推奨の強さとエビデンスの強さを提示した(表1)。このマニュアルは,エビデンスに基づく医療(evidence-based madicin:EBM)の考え方を重視した国際標準に従ったものである。同マニュアルが推奨する大規模なシステマティックレビューによるエビデンス総体の評価と統合については将来の課題とし,今回の改訂では,従来の緑内障学会々員から選出されたガイドライン作成委員会によって,エビデンスの評価を含めた改訂作業を行った。また,諸外国の緑内障診療ガイドラインとの整合性を重視する必要があることから,委員会で議論され,特に国際的な合意事項については,本ガイドラインの内容と矛盾のないように改変した。今回の改訂では,国際合意に基づいて,分類に小児緑内障を新設したことが大きな変更点である。さらに,新たに普及した概念,既に臨床応用されている検査法,薬剤,レーザー,手術などの新しい治療法について記載が加えられた(表2)。本稿ではこの最新の緑内障診療ガイドラインについて,第3版からの変更点を中心に解説を加えたいと思う。

篩状板と緑内障 面高 宗子 , 中澤 徹
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緑内障は,本邦の中途失明原因第一位の眼疾患で,有病率の高い眼疾患である。多治見スタディでは40歳以上の約5%,70歳以上では約11%もの有病率となっている1)。今後も,高齢者の数は増加すると考えられることから,日常診療で最も注意が必要な眼疾患である。

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眼圧には,日内変動,日々変動,季節変動等の長期的な変動のほか,体位や運動,瞬目などによる短期的な変動もある。緑内障治療において,眼圧は重要な指標となるが,常に変動している眼圧を,正確に評価することは難しい。本稿では,緑内障の一般的な治療手段である,点眼,手術,およびレーザーの効果について,眼圧変動の観点から考えてみたい。

機器・薬剤紹介

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光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)は1996年に初めて市販化された。発売当初のタイムドメインOCTは,網膜の層構造を鮮明に描出することは不可能であったが,その後,スペクトラルドメインOCTやスウェプトソースOCTが登場し,現在では組織切片を見るかのような鮮明な画像を短時間で取得可能となっている1)~3)。OCTを用いることで,非侵襲的に客観的な画像で自然経過や治療後の経時的変化を評価することが可能となり,その有用性からOCTは眼科医にとって不可欠な診療ツールとなっている。OCT Bi-μⓇ(興和,図1)は2017年に発売された超高解像度OCTであり,深さ分解能が2μmと市販眼科用OCTで世界一の分解能を持っている(2018年7月時点)。以下にOCT Bi-μの特徴,使用方法,代表症例画像を提示する。

網膜静脈閉塞症の疑問

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BRVO黄斑浮腫眼でのランダム化比較試験(RCT)であるBRAVOスタディ1)では,抗VEGF剤であるラニビズマブの硝子体注射による視力改善効果が,ETDRS視力チャートにおいて1年間で18文字のゲインであったと記載されている。一方,CRVO黄斑浮腫眼でのCRUISEスタディ2)では14文字のゲインであった。このように最近の大規模臨床RCTではその効果がETDRS文字数を単位として記載されるが,これは一体何であろうか? 今回はまずETDRS文字数の意味を理解したうえで,その結果を評価する際の注意点について考えてみたい。

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目的

未熟児網膜症(ROP)に対するベバシズマブ硝子体内注射(IVB)の有効性が報告されている。重症ROP症例に対するIVB治療と網膜光凝固術(PC)の併用療法の有効性を検討した。

対象と方法

対象は,奈良県立医科大学附属病院でROPと診断され,1年間以上経過観察できた60例120眼。重症例にはPC施行前の補助療法としてIVBを施行した。IVB+PC併用療法を施行した重症ROP症例11例22眼とPC単独治療を行ったROP症例49例98眼,2群間の出生時週数,体重および術後経過を検討した。

結果

出生時在胎週数はPC群がIVB+PC併用群に比べ有意に長く,体重は重かった。IVB+PC群ではIVB,PCともに1回の施行で全例ROPの再発なく軽快した。PC群のPC施行回数は1.1±0.3(平均±標準偏差)回であった。最終受診時,両群ともに全症例が瘢痕期分類1度で安定していた。3歳時の等価球面度数は,両群ともに軽度の近視を認めたがIVB+PC群(10眼)は−2.38±5.20diopter(D),PC群(66眼)は−1.37±3.13Dで2群間に有意差はなかった。

結論

重症ROPではIVB+PC併用療法が有効であり,再発なく術後経過良好であった。また,PC単独治療群と比較しても,屈折度数に有意な差がなかった。

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目的

視力と視野の状態をスコア化し統合するために考案されたFunctional Vision Score (FVS)は視覚障害の評価法として米国医学会が推奨し現在8か国で使用されている。網膜色素変性(RP)患者の経時的評価におけるFVSの有用性について検討する。

対象と方法

対象は2003年4月から2017年11月に順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科を受診しFVSを算出できたRP患者150例。視力値から視力スコアを,Goldmann視野(Ⅲ/4e含む)から視野スコアを算出し,FVSを求めた。身体障害者該当等級とFVSの関連,および,FVSの悪化に関連する因子について検討を行った。

結果

150例の内訳は女性53.3%,平均年齢は50.5±16歳であり,FVSの平均値は36.7±23.1であった。うち身体障害者等級該当者は149名で1級9名,2級101名,3級4名,5級35名であった。級数とFVSの間には中等度から強い正の相関が認められた(相関係数0.69,95%CI:0.60-0.77,P<0.0001)。2回以上の測定歴があり経時的評価が可能な38例では,平均55.1±33.1か月の経過でFVSが53.3±25.2から41.4±23.7に低下していた。FVSの悪化に寄与する因子は,FVSの初期値が有意ではないものの関連する傾向が認められ(ハザード比1.02,95%CI:1.00-1.05,P=0.05),年齢,性別との関連は認められなかった。

結論

FVSはRPの経時的変化の評価に有用でありその活用により関連因子の同定,予後の予測など幅広い応用が期待される。

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裂孔原性網膜剥離で黄斑部が剥離した症例に対して早期に黄斑部を復位させることを目的に硝子体ガス注入を行い,下方視するよう指導した。翌日黄斑部は復位していなかったが,視力は(0.02)から(0.2)に改善した。OCTでは,黄斑部の剥離は,その程度には変化がないものの,黄斑部付近の網膜外層の浮腫は改善傾向を示していた。最近,網膜剥離でみられる網膜外層の変化の主因は低酸素症であることが指摘されるようになってきていることから,これらの改善は,下方視している間はガスに押されて黄斑部の剥離が減少し,また黄斑部付近の網膜下液の温流が滞ったことで黄斑部外層により多くの酸素が供給されたことが原因と思われた。

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基本情報

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眼科
60巻11号 (2018年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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