眼科 60巻12号 (2018年11月)

特集 神経眼科とOCT

1 神経眼科的OCT診断法 三村 治
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眼科臨床における光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)の応用とその発展はまさに劇的といえるほど眼科画像検査を変えつつある。残念ながら,わが国の保険診療では神経眼科疾患の適用は承認されていないが,欧米では神経内科で中枢神経疾患のOCT検査がルーチンで行われたり1),片頭痛患者でも網膜神経線維層厚の菲薄化が報告されたりする2)など神経内科領域・神経眼科領域でさまざまな情報を提供してくれている。

2 視神経異形成のOCT 石川 裕人
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視神経異形成(optic nerve dysplasia)や乳頭異形成(optic disc dysplasia)といっても決して珍しいものではない。さらに近年では重症の中隔視神経形成異常症(septo-optic dysplasia)を含む視神経異形成の報告が急増している1)。異形成のうち無形成など極端なものはきわめてまれであるが,むしろ上方視神経低形成(superior segment optic hypoplasia:SSOH)2)や小乳頭による偽乳頭浮腫(pseudo-papilloedema)3)など,異常が軽度で視力良好なものは,日常臨床でしばしば遭遇する異常である。しかし,視神経異形成はその多くで何らかの視野変化を伴い,特に緑内障や視神経・視路疾患との鑑別・合併の診断に迷うことが多い4)。最近SD-OCTの進歩に伴い,optic pitをはじめ多くのまれな視神経先天異常でその解析が行われつつある。ここでは稀少な視神経先天異常のOCT所見の解説ではなく,比較的ポピュラーで視力良好な視神経異形成と乳頭異形成の乳頭形状とOCT所見について解説し,その鑑別・注意点についても述べる。

3 視神経炎のOCT 松本 佳子 , 中村 誠
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視細胞からの信号を受けた網膜神経節細胞(retinal ganglion cell:RGC)は軸索を通じて視覚情報を伝達する。軸索は眼内では網膜神経線維として視神経乳頭に集まり,眼外へ出ると視神経となる。視神経は視交叉を経て,視索となり外側膝状体へ情報を伝達する。

4 前部虚血性視神経症 前久保 知行
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非動脈炎性前部虚血性視神経症(Non-arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy:NAION)は短後毛様動脈の灌流障害によって視神経乳頭障害が生じ視野障害,視力障害が起こる1)。卒中型で発症し,起床時に自覚することが多い2)。急性期には虚血性障害によって乳頭は腫脹し,軸索流の阻害や間質浮腫が生じることで,さらに篩状板部で軸索が圧迫を受けるコンパートメント症候群が二次的に起こる。その後,網膜神経節細胞のアポトーシスが誘導され神経節細胞の減少が生じ,約2か月で乳頭蒼白となる3)。急性期では乳頭腫脹とともに線状出血や火炎状出血を伴うことや乳頭周囲に網膜皺,網膜内浮腫,中心窩網膜下液が生じる症例もある。血流障害は短後毛様動脈の分枝における分水嶺の位置に関連することが知られており,乳頭血流が区域性に障害を受け,それに対応する区画性視野障害が生じることが多い。しかし,短後毛様動脈のバリエーションや分水嶺の位置にも個人差があり,障害性もさまざまである。発症メカニズムや障害部位において厳密な意味では明確となっていない点も存在する疾患である。

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眼科診療の検査機器は,各分野とも日進月歩で変化しているが,視神経疾患での進化も著しい。筆者が眼科医となった2000年初頭に実用化され,革命的な検査機器といわれている光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)は,ここ約20年で想像を超える速さで進歩し,眼底疾患の診断方法や病態解明を目覚ましく変化させた。

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視神経線維は視交叉部で交叉性線維と非交叉性線維に分かれる。交叉性視神経線維は鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であり,非交叉性視神経線維は耳側半網膜からの線維である。その解剖学的走行によって,視交叉以降の病変では,視神経線維の逆行性変化により特徴的な所見が光干渉断層計(OCT)で検出される。視交叉部に発生する腫瘍には下垂体腺腫,髄膜腫,頭蓋咽頭腫などがあり,これらが正中より発生した場合,交叉性線維が障害され,耳側半盲を呈する。交叉性線維に対応する乳頭周囲網膜神経線維(circumpapillary retinal nerve fiber layer:cpRNFL)の消失を引き起こし,鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞に細胞死を起こす。検眼鏡的には視神経乳頭はband atrophy(帯状萎縮)となる(図1)。それに対し,非交叉性線維は耳側半網膜に分布する網膜神経節細胞の軸索からなるので,主に視神経乳頭の上下側の耳側寄りのcpRNFLが障害される。

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まれではあるが,先天性後頭葉疾患ではシナプスを越えた経シナプス逆行性変性が網膜神経節細胞(retinal ganglion cell:RGC)に生じ,視索病変と同様な半盲性視神経萎縮がみられるとされている1)。しかしながら,これまで,発症後57年経過した同名半盲患者の視神経乳頭および網膜神経線維層に異常がなかったという報告もあり2),外側膝状体よりも後方の後天性視路障害によって生じる同名半盲患者では,シナプスを越えてRGCまで障害が及ぶことはなく,眼底に異常はきたさないとされていた。しかし,光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)の登場により,黄斑部および視神経乳頭構造の定量的評価が可能となり,わずかな眼底異常所見をOCTでは検出できるようになってきた。time-domain OCTを用いた研究においては,先天性および後天性同名半盲患者の乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillary retinal nerve fiber layer:cpRNFL)厚の菲薄化が報告された3)~5)。次いで,解像力が向上したspectral-domain OCTでは半盲側に一致した黄斑部網膜内層厚の菲薄化がみられることが報告され6)~8),後部視路疾患の網膜への影響の解明が進んでいる。

綜説

眼圧変動と緑内障進行 澤田 明
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現在,多くの日本の臨床家が,眼圧変動が緑内障進行に悪い影響を及ぼすと考えていると推察する。確かに多くの論文により,その仮説は支持されている。しかしながら,眼圧変動が緑内障に悪影響を及ぼすという論文ばかりではないことはご存じだろうか?

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緑内障配合点眼薬とは,眼圧下降作用を有する2成分がひとつのボトル内に含まれる緑内障点眼薬である。日本では2010年4月にラタノプロストとチモロールマレイン酸塩を含有するラタノプロスト/チモロール配合点眼薬(ザラカムⓇ)が最初に使用可能となった。現在(2018年8月)までにプロスタグランジン関連/β遮断(以下,PG/β)配合点眼薬が4種類,炭酸脱水酵素阻害/β遮断(以下CAI/β)配合点眼薬が2種類使用可能となっている(表1)。また,2017年からはラタノプロスト/チモロール配合点眼薬,2018年6月からはドルゾラミド/チモロール配合点眼薬の後発医薬品が導入された。海外ではドルゾラミド/チモロール配合点眼薬は既に1998年から使用可能で,日本での導入は10年以上遅れている。また,海外ではβ遮断点眼薬を含まない配合点眼薬(ブリンゾラミド/ブリモニジン配合点眼薬)も使用可能となっており,今後日本への導入が期待される。

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サーカディアンリズムとは,約24時間周期で体内の細胞や臓器が体内時計に従ってリズムを刻み恒常性を維持する生理機能である。体内時計中枢の発振が時計遺伝子を制御し,時計遺伝子は全身のほとんどの細胞にあり,各臓器がベストな状態で機能できるように,人類創生のときから備わっている最も基本的なシステムである。太陽が昇り沈むという現象は普遍的な自然界のリズムであり,それに順応することは生物にとって重要かつ必然的であったのだろう1)。2017年のノーベル生理学・医学賞はサーカディアンリズムを担う時計遺伝子の発見に対して授与された。

機器・薬剤紹介

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緑内障手術は眼圧下降を目的とする手術であり,安全で長期にわたって眼圧下降が続いてくれることが理想である。合併症の少ない緑内障手術として,わが国では以前からトラベクロトミー眼外法(眼外法)が普及しているが,手術の煩雑さや,結膜の瘢痕化による濾過手術への影響がしばしば問題となることがあった。近年,MIGS(minimally/micro-invasive glaucoma surgery)と総称される,低侵襲で合併症の少ない種々の緑内障手術が考案された。眼内からアプローチすることで結膜を温存し,短時間で手技も比較的簡単ないくつかの手術が国内でも承認され,急速に普及してきている。そのなかでもトラベクトーム手術は,2004年に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の承認を得て,日本でも2010年に国内で最初に承認された代表的なMIGSである。その特徴や成績について本項で紹介する。

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A5. 多変量解析を用いてアウトカム指標との関連を評価する際に,AMD(加齢黄斑変性),PCV(ポリープ状脈絡膜血管症),RAP(網膜内血管腫状増殖)など3つ以上のカテゴリーを持つ説明変数とする際には「ひとつのグループを基準としてその他のグループと比較する」ことが一般的です。たとえば質問にある「AMD」,「PCV」,「RAP」の3群間で多変量解析を用いて治療後の視力改善の度合いを評価するような場合は,「AMD群を基準としてPCV群ではどうか?」,「AMD群を基準としてRAP群ではどうか?」という比較をします。基準は研究者が任意に決めることができます。また,特定の2つの群間の比較,たとえばPCV群とRAP群のみの比較を行う場合は,AMDを除いたモデルで評価することになるでしょう。

説明変数として名義変数を用いる場合は単にグループ間の違いを比較することになりますが,順序変数であれば「単調に増加する」あるいは「単調に減少する」といった傾向を評価することもできます。また,連続変数をあるカットオフ値を使ってカテゴリー変数に変換したうえで解析することで,単調増加・減少ではなくJ字やV字の関係にあることを想定したモデルを考えることもできます。

網膜橋渡し研究アップデート

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橋渡し研究とは基礎研究の成果を医薬品や医療機器として臨床の現場で実用化することを目的とする研究領域であり,基礎研究で見つかった有望な「シーズ」を臨床の現場の「ニーズ」に結び付けることを目指して,世界中で数多くの前臨床研究や治験が実施されている。網膜硝子体分野においては,1990年代から飛躍的に進歩した抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)療法の確立1)と光干渉断層撮影(optical coherence tomography:OCT)の開発2)などにより,滲出型加齢黄斑変性をはじめとする難治性網膜疾患の予後を大きく向上させた。このように,橋渡し研究によってアンメットニーズに応える治療法や診断・手術用医療機器が臨床の現場に届けられれば,我々の日常診療は劇的に改善され得る。本連載では,現在国内外で治験段階に入っている分子標的薬,遺伝子治療,細胞療法,医療機器などをレビューすることで,網膜橋渡し研究の現状を紹介したい。

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要 約

目的

川崎病は4歳以下の幼児に好発し,成人発症の症例はまれである。今回成人発症の川崎病患者で,眼病変を呈した1例を経験したので報告する。

症例

35歳男性。急性喉頭蓋炎の診断で耳鼻科において抗菌薬,ステロイド全身投与による加療後も持続する発熱の原因精査中,両眼の球結膜充血と霧視を訴え,当科受診。両眼に球結膜充血を認め,左硝子体混濁を認めた。診断基準は満たさないが,成人Still病としてステロイドパルス療法施行。解熱後に手足末端に膜様落屑が出現し,川崎病と診断した。ステロイドパルス療法で全身症状が改善するとともに眼病変も改善した。

結論

成人発症の川崎病はまれで,鑑別疾患に上がりにくいが,可能性を考えておく必要がある。

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要 約

背景:エルロチニブ塩酸塩は非小細胞肺癌などに経口投与される上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤である。重篤な眼科的副作用として角膜穿孔,潰瘍が挙げられている。今回我々は本薬剤使用中に角膜穿孔をきたした1例を経験したので報告する。

症例:74歳男性。2週前からの両眼視力低下と眼脂を自覚し,近医眼科受診。両眼の角膜潰瘍を指摘され,紹介受診となった。肺腺癌の脳転移を認め,2か月前よりエルロチニブ塩酸塩内服およびベバシズマブ点滴により加療中であった。初診時矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.05),両眼の角膜輪部上皮は粗造で,両眼の鼻側に角膜潰瘍を認めた。潰瘍部の細胞浸潤は軽微であったが前房内細胞を認めた。診察所見や全身諸検査上,細菌性や自己免疫疾患などによる角膜潰瘍は否定的であったため,原因として疑わしいエルロチニブ塩酸塩内服を中止した。中止後徐々に上皮化が進行したが,3週後右眼の角膜菲薄化部位の穿孔と虹彩嵌頓,前房消失を認め,層状角膜移植術を施行した。左眼は瘢痕を残すものの治癒した。

考按:エルロチニブ塩酸塩は重篤な角膜障害を引き起こす可能性がある。両眼性の角膜潰瘍をみたら,全身投与薬の副作用も念頭に置き,診断・治療を進める必要がある。

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編集後記

基本情報

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眼科
60巻12号 (2018年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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