Brain and Nerve 脳と神経 16巻11号 (1964年11月発行)

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研究

脈無し病に関する臨床的研究—外科的治療とその遠隔成績相羽　正 16巻11号 , 1964年11月 , pp.889-905

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I．緒言

　大動脈弓およびその頭側主幹動脈に狭窄ないし閉塞をきたす原因はいろいろあるが^1），なかでも若い女性に多い病因不明の動脈炎に起因するものは，その眼所見から1908年高安により「奇異ナル網膜中心血管ノ変化ノ一例」なる題のもとにはじめて報告され^2），さらに1948年清水，佐野によりその症候学，病理などについて詳細な研究がなされ，その結果ひとつのClinico-pathological entityとして確立されるにいたり「脈無し病Pulseless disease」と名づけられた^3）4）。以来，本病の報告例は急激に増加し，わが国だけでも1961年1月までに218例に達し，また剖検例の報告も18例を算し^5），かつて考えられたほど稀な疾患ではないとみなされるようになつた。本病の治療の試みは原因である動脈炎の本態がまだ解明されないため，真の意味の根治的治療が期待できずもつばら阻害されている脳血行の改善や頸動脈洞反射亢進の緩解を目的として自律神経外科，血管外科が試みられた。すなわち，1940年内村により頸部交感神経切除術^6）が，1948年清水，佐野^3）により総頸動脈の血栓摘除術，自家静脈移植術がそれぞれ本病に対して試みられ報告された。また，清水，佐野は本病における頸動脈洞反射九進に対し頸動脈洞部交感神経叢と頸動脈体の除去を試み，あわせ報告した。以後，近年の血管撮影法の発達や各種血管外科的手技，代用血管の進歩とあいまつて脈無し病の外科的治療の報告も増加しつつあるが^{7）〜15）71）}，いずれも症例数も少なくまた術後観察期間も短く，ために本病の手術的治療の遠隔成績，全身状態の変化，予後などに関しては，これまで臆測の域をでずいまだ明らかにされていない現状である。

　著者は東京大学医学部清水外科教室，同脳神経外科教室において経験された60例の脈無し病患者のうち53例について経過を観察し，主要症状の予後，全身状態の変化，死亡例などについて検討を行なつた結果，脈無し病の外科的治療の遠隔成績，長期観察例における全身状態の変化ならびに本病の予後などに関し二，三の知見を得た。なお，本病患者の20例に胸部大動脈撮影，両側の逆行性上腕動脈撮影，椎骨動脈撮影などをあわせ行なういわゆるtotal brachiocephalic arteriographyを試み，本病の動脈撮影像にみられる特徴を検討しさらにこれを主要症状の予後，治療の遠隔成績などと対照しその手術適応の決定や予後判定上の有用性につきいささか知見を得ることができた。

気脳術におけるAxial transverse tomography 森　温理 , 石川　安息 16巻11号 , 1964年11月 , pp.906-912

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　気脳術にさいしcoronalおよびsagittal tomographyに加えてaxial transverse tomographyを25例につき施行し，本法がcoronalおよびsaglttal tomographyよりもすぐれている点を求めた。

　撮影方法はcoronalおよびsagittal tomography施行後，仰臥位にてalltholoporogical lineが撮影台と45°になるよう頭部を後方に曲げ，1cmおきに撮影台より3cmより13cmにいたるaxial transverse tomographyを行なつた。

　その結果coronalおよびsagittal tomographyよりも両側同時に広範囲の脳室系および頭蓋底の重要な部分を把握できることが明らかとなり，これにより病変の診断に役だちうるものと考えられた。

心搏リズムと自律神経機能—心臓・血管反射を指標とした自律神経機能検査法の検討加藤　政孝 16巻11号 , 1964年11月 , pp.913-921

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I．緒言

　心臓および血管の生理的機能は種々の因子によつて影響をうけるが，なかでも自律神経系の影響がきわめて重要であることは，論をまたない。自律神経系の機能状況を直接測定するには，該神経系のインパルスを電気生理学的方法によつて測定するよりほかに方法はないが，このような方法は臨床的に応用することができない。したがつて当然該神経系の奏効臓器の機能を通して測定するしか道はない。しかるに奏効臓器の機能を左右する因子は，自律神経のみではない。そこに自律神経機能検査法の困難性がある。

　この困難性の解決のひとつの方法として，心臓または血管系に反射的に影響するきわめて微小の刺激を与えて，それによつて生ずる心臓または血管系の反応の程度を測定すれば，かかる反射系の遠心路は自律神経系を経由するから，その自律神経系の反応性を測定することができることになる。このさい与える刺激は，自律神経系の況状を乱さない小さい刺激であり，かつできるだけ一定の強度の刺激であることが望ましいわけである。

周期閃光刺激の強さの脳波活動に対する影響北島　和夫 16巻11号 , 1964年11月 , pp.923-933

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I．はじめに

　α波帯域の頻度の周期的光刺激は脳波をよく駆動することをAdrianとMatthews^1）とが示して以来，周期的光刺激による脳波パタンの変化およびその刺激頻度に対する脳波の駆動性の変化の研究は数多くある。しかし，これらの多くは導出電極附近の脳（脳波発生系）における促進過程や抑制過程については，かならずしも十分な成果をあげたとはいいがたい。

　一方，刺激の強さと生体の反応との関係は，たとえば筋神経標本で単一または頻回の神経刺激の強さと筋収縮高，活動電位の高さ^2）3）4），放電頻度^12）47）などとの関係，あるいは鼓索神経刺激の強さによる唾液腺の分泌量の変化を観察するなど多くの方法がある。しかし刺激強度と脳波反応量との関係を追求する適当な方法はなく，満足すべき成果はみられていなかつた。

脳圧下降剤，特に高張尿素液に関する臨床的研究—前篇佐藤　錬一郎 16巻11号 , 1964年11月 , pp.935-950

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I．緒言

　頭蓋内圧亢進症（脳圧亢進），ことに急性のものは患者の自覚的苦痛を増加させるだけでなく，全身状態の悪化をきたし，時としてはpressure coneによる死を招く。幸い死をまぬがれ得たとしても高度な脳圧亢進の持続した結果として種々の不つこうな後遺症を残すことが少なくない。臨床治療の立場から原因のいかんを問わず対症的に，たとえその効果が一過性であつても，確実に脳圧下降をはかれる薬剤の出現が望まれるわけである。

　1919年Weed and McKibben^41）42）が高張溶液は頭蓋内圧（脳圧もしくは髄液圧）の下降をきたすことを報告して以来，種々の高張溶液の脳圧下降剤が報告され，臨床的にも用いられてきたが，その多くは脳圧下降作用が不確実で効果の持続時間も短く，時には好ましからざる二次的圧上昇（rebound phenomenon），あるいは副作用のあることが指摘され，今日まで一般に臨床的に使用されているのは高張ブドウ糖液にすぎない。この高張ブドウ糖液にしても上述のような欠点があるために，その効果を疑問視して二次的圧上昇の危険を強調し，その乱用をいましめる人^13）16）さえあるのが最近までの状態であつた。

海外文献

Pseudotumor cerebri／水頭症 Walker,　A. E. , Acamkiewicz,　J. J. 16巻11号 , 1964年11月 , pp.933,993

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　p.c. は脳圧亢進・乳頭浮腫を呈し，肥満した若い，月経異常などある娘に好発するので，内分泌機能がひとつの重要因子と思われる。Addison病にp.c. がおこつたというのもそれをうなつかせる。副腎の慢性機能櫛制がp.c. 症状を合併することになりそうで，著者はコーチコイド長期使用で起こった4例を報告しているが，文献にはこれと別に24例ほどの症例がある。著者第1例は9才少年，2才頃からアレルギー性鼻炎，ぜんそくあり，主にプレドニソン治療を受ける。入院6ヵ月前トリアムツノロン内服。入院7週前より前頭痛・複視・両側乳頭浮腫があらわれる。入院後トリアム中止，ACTHに変え，症状軽状。第2例は少年2才，アタキシーで起立歩行できず嘔吐あり，四肢tremorあり，眼振（＋）。髄液圧140mm，蛋白10mg％。急性小脳アタキシアとしてプレドニソロン投与，改善。3才，プ7.5mg持続。4才，肥満す。嘔吐あり入院。両側乳頭浮腫，足にアタキシー，四肢にtremorあり，レ線で脳室異物なし。プ中止して6〜7才に症状去る。第3例は7才少女，6.5才のとき嗜眼症にて入院。リウマチ熱としてコーチコイド3ヵ月投与。軽快。再発しふたたびコ投与。入院前に悪化・嘔吐・歩行困難，乳頭浮腫，髄液圧350mm，Pandy（—）。尿素投与で髄液圧低下EEG上δとθ波多し。コ中止で軽快。第4例は少年，2.5才，ネフローゼにて入院。コ治療1年，尿アルブミン（++++）。7才乳頭浮腫にて再入院，骨粗鬆があつたのでプ減量，EEG界常あり。著者例以外の文献報告24例でも平均7.5才で小児期に限られ，またプレドニソンかトリアムシノロンを平均3.5年連用して発病している。したがつてCushing症状をある程度そなえている。カロティンの血中濃度上昇という例があり，ビタミンA中毒でp.c. を惹起するから，ビタミン代謝障害が一因をなすことも考えられる。

連載　神経病理アトラス・8

奇形・脳性麻痺・精神薄弱の病理室伏　君士 16巻11号 , 1964年11月 , pp.951-958

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　今回のシリーズでとりあげた脳奇形，精神薄弱，脳性麻痺は，胎生期および幼少児期にいちじるしい発育をとげる脳の，原因的には遺伝的内因性，あるいは外因性の傷害作用により，臨床的にはその傷害の時間や部位による大脳機能障害（知能，運動など）という表現をとる点で共通する。したがつて後2者は症候上の総括概念で，変異に富む原因と病理解副像とをそなえている。

連載　神経化学実験法・10

脳組織のアミノ酸定量法　脳組織のアンモニア定量法（微量拡散法）高垣　玄吉郎 16巻11号 , 1964年11月 , pp.960-964

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脳組織のアミノ酸定量法

I．Berl-Waelschのカラムクロマトグラフィーの方法

　脳組織にはグルタミン酸とこれに関連したアミノ酸が特に高濃度に存在しており，それらの濃度の変化は機能の上から興味をもたれている。従つて，脳のアミノ酸定量法としては，すべてのアミノ酸を系統的に分離定量しうる方法はかならずしも必要でない場合がある。

　Waelschの研究室では，現在Moore-Steinの方法の原理による短いカラムを用いたアミノ酸定量法を行なつている。すなわち，それはBerl-Waelsch （1958年）^1）のアルミナ・カラムを用いる方法をさらに少し改良したものである^2）〜4）。この方法の特徴および限界は次のようである。

症例報告

放射線脊髄炎の1例小塚　隆弘 , 川村　次郎 , 寺下　博 16巻11号 , 1964年11月 , pp.965-969

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I．緒言

　放射線治療に際しての副作用としては，造血臓器に対するもの，生殖器系に対するもの，内分泌系や消化器系に対するもの，放射線肺炎あるいは腎炎などが一般的なものとしてあげられる。最近，中枢神経系に対する副作用，とくに放射線脊髄炎が注目をあびるようになつた。これは脊髄のどの部分にも起こりうるものであるが，ことに頸髄に発症した報告が多い。このことは頸部に発生する悪性腫瘍が放射線感受性が高く，放射線治療の適応になるものが多く，そのうえ位置的に頸髄に近くて，これが放射線線束に含められるためでもあるが，一方では治療装置の進歩と技術の向上とによつて患者の生存期間が長くなつたので，このような長い潜伏期を有する副作用が生存期間中に発現するようになつたともいえるであろう。

　われわれは発病当初には原発巣が不明であつたために再発，放射線治療を繰返した上咽頭癌患者にこの放射線脊髄炎の発生をみとめ，生存中にほぼ診断を決定し，剖検によつてこれを確認したので発表する。

脳血管性障害による片麻痺患者に認められたPara-osteo-arthropathyの2例塚越　広 , 鬼頭　昭三 , 松尾　裕 , 松島　瑤子 , 亀山　正邦 , 中村　晴臣 , 椿　忠雄 16巻11号 , 1964年11月 , pp.969-973

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I．緒言

　1918年Madame DéjerineおよびCeillier^1）は，脊髄損傷による対麻痺患者の関節周辺部に化骨現象の起こつている例を報告し，さらに1919年，戦傷による脊髄損傷患者に，多数の同様な疾患を認めて，これをpara—osteo-arthropathyと名づけ，詳細な検討を行なつた。

　本症の特徴は，Madame DéjerineおよびCeillierによれば，臨床的ならびにレントゲン学的に，関節および骨周囲に明らかな骨新生が認められるが，本来の関節および周には形態学的変化の存しないことであるという。

脳内動静脈瘻に接して発生した脳膿瘍の1例笹生　俊一 , 鈴木　二郎 , 高久　晃 , 原田　範夫 16巻11号 , 1964年11月 , pp.974-976

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I．はじめに

　脳膿瘍に関しては古くから多くの記載がみられるが，その原因として最も多いのは，耳性膿瘍で，ついで鼻性外傷性，転移性，肺性，心臓性，顔面性，手術後等があげられる。

　しかしながらその原因がまつたく不明の場合も少なくない^1）。われわれの教室においても，柱外科教室時代から28例の脳膿瘍を経験しているが，そのうち10例が発生原因の不明なものであつた。

薬剤

新誘導体Ethoxycarbodiphenylhydantoinの抗てんかん作用田椽　修治 , 後藤　蓉子 , 関場　一恵 , 新井　進 16巻11号 , 1964年11月 , pp.977-981

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I．まえがき

　現在使用されている抗てんかん剤の数は多いが，そのなかでもつとも広く用いられているものは，バービチュレイトとヒダントイン誘導体である。後者のうちからはアレビアチン（5,5—Diphenylhydantoin）やメサントイン（3—Methyl−5,5—phenylethylhydantoin）などのすぐれた抗てんかん剤がみいだされているが，これらには薬用量においても種々な副作用が認められており，その改善が強く望まれている。

　われわれ^1）はさきに，直鎖系誘導体の作用改善を企て，フェネトゥライドのN位置のアセチル化によつて得られるクランポールが，抗てんかん作用が強力で副作用の少ないことを知り，さらに同じ位置をethoxycarbo基で置換した新誘導体Ethyl　α—phenylbutyroyl allophanateが，強力な抗精神運動発作作用を示すことを報告した^2）。

新しい抗てんかん剤3—Ethoxycarbo−5,5—diphenylhydantoin （P−6127）の使用経験岸　嘉典 , 万丸　章三 , 福井　悟 , 青木　剣一郎 16巻11号 , 1964年11月 , pp.982-993

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I．まえがき

　1938年MerrittとPutnam^3）によつててんかんの治療に導入されたdiphenylhydantoin （Aleviatin）はphe—nobarbital （Luminal）とともに，今日なお抗てんかん剤の主座を占めている。当初用いられたnatrium塩は胃腸障害がいちじるしかつたが非natrium塩にかえることによつてこの副作用が除かれた。しかしなお発熱，発疹，頭重，めまい，複視，歩行失調，眼振のほか，長期連用にさいして歯肉増殖や体毛増生などの副作用があつて，治療のさまたげとなつている。

　このため，より有効な，そしてより副作用の少ない抗てんかん剤開発の一環として，多数のhydantoin誘導体が実験的臨床的screeningにかけられ，Mesantoin，Ethotoin,N3（1—methyl−5,5—phenyl-ethyl-hydantoin）などが臨床的に使用されたが，あるものは副作用が強いため放棄され，あるものは効果が弱い欠点があつたりして，diphenylhydalltoinにまさるものはまだ出現していない現状である。

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編集後記編集部 16巻11号 , 1964年11月 , pp.996

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　あわただしい学会シーズンも終り，まもなく年の暮を迎えようとしています。本誌編集部もやつと11月号をお届けすることができ，ほつと一息ついたところですが，休むことのできぬ雑誌編集・整理の悲しい定めで，すぐ翌日から来年の2月号，3月号の仕事がまちかまえています。

　今月は，編集委員にかわつて，実務的な問題に二，三ふれてみたいと思います。本号を御覧になつてお気づきのように，今月から投稿原稿の受理年月日を記すことにいたしました。多くの雑誌ではすでに行なわれていることで，これまで記してなかつたことのほうが不思議なくらいですが，記さなかつたことには特に理由もありません。本誌は，投稿順の掲載の原則を守つておりますので，受理年刀日を御覧いただけばだいたい何カ月ぐらいで掲載になるかおわかりになると思います。後でちよつとふれます「薬剤」のコラムの論文の場合とか，特に編集会議で認められたときとか，依頼論文の場合，同じ号に同じ著者の論文がかさなつた場合などに多少掲載順序が前後することもありますが，投稿順の原則は守られているといつてよいと思います。

基本情報

Brain and Nerve 脳と神経
16巻11号
(1964年11月発行)

電子版ISSN：2185-405X 印刷版ISSN：0006-8969 医学書院

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