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免疫系は個体が生涯曝露されうる様々な外来抗原から自己を防御するため,多様なT細胞/B細胞受容体を用意していると考えられ,この中には自己の成分に対しても反応しうる,自己反応性リンパ球も存在する。通常,これらの細胞は巧妙な機序により,免疫寛容の状態にあるが,この自己寛容を破綻させる様々な要因が生じることで自己免疫疾患が発症する。たとえば後述する傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome : PNS)では,通常,血液脳関門に守られ末梢免疫系には認識されない神経組織抗原が,悪性増殖する腫瘍細胞により発現され,この神経組織抗原(onconeuronal proteins)が寛容状態のリンパ球を活性化し,これらが神経系に侵入して神経傷害に至る可能性が考えられている51)。また,Guillain-Barreé症候群 (GBS) などでは,微生物の先行感染に伴って産生された抗ガングリオシド抗体が,分子相同性の機序により神経組織を傷害する可能性が論じられている1)。
自己抗体が関与する免疫性神経疾患には,神経特異的自己抗体を生じる臓器特異的自己免疫病と,全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群(SjS)などの全身性自己免疫病に伴って生じる神経障害がある(表1)。
前者には,1)自己抗体が病態に一義的な意義を有するもの,すなわち抗体そのものが病態に直接関わり,in vitroあるいはvivoで抗体の投与により疾患モデルの作製が可能なもの,2)抗体除去療法により病態が速やかに改善するなど,自己抗体が病態に密接に関わるものの,抗体そのものでは病態再現に至らないもの,3)自己抗体の直接の役割は不明ながら,診断のマーカーとなったり,何らかの病態修飾をしている可能性が考えられるもの,4) 限られた施設からの少数例の報告であったり,再現性などに異なる議論があるなど,まだ意義の定まらないものなどがある。1)の代表として,抗acetylcholine receptor (AChR) 抗体が関与する重症筋無力症,抗電位依存性カルシウムチャネル (voltage-gated calcium channel : VGCC) 抗体によるLambert-Eaton myasthenic syndrome(LEMS)31),抗voltage-gated potassium channel (VGKC) 抗体が関与するIsaacs症候群やneuromyotonia37),PNSの一部,肺小細胞癌(small cell lung cancer : SCLC)を背景にしたLEMSや,代謝調節型glutamate receptor抗体で小脳失調が再現できたホジキン病40)などが挙げられる。
2)のグループには,抗ガングリオシド抗体を生じるGuillain-Barré症候群やMiller Fisher症候群,VGKC抗体を有するMorvan症候群や辺縁系脳炎などが挙げられる36)。
また,3)としてはYo,Huなどの細胞内抗原に対する抗体を有する多くのPNS,Rasmussen症候群などの難治性てんかんとの関連が示唆される抗glutamate receptor 3 (GluR3) 抗体32)などが挙げられる。4)としては単発あるいは少数例で病態と関連のある結合局在を有する抗体,たとえばSydenham's choreaとの関連が考えられた抗基底核抗体4), 抗myelin-associated glycoprotein (MAG) 抗体陽性のmonoclonal gammopathy of undetermined significance19, 52)などが挙げられる。
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