神経研究の進歩 42巻2号 (1998年4月)

特集 イオンチャネルとレセプター―生理と病態

序文 高橋 國太郎
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 イオンチャネルは,歴史的にはHodgkin,Huxley,Katzらの研究を源流として,神経細胞などの電気的興奮性を説明する機能単位としてHilleによって定式化された。当初は実体としては証明はなくTasakiらの膜電位変化は膜全体の相転移によるとするphysicochemicalな学説も理論的な魅力もあり,大いに議論を呼んだ。しかしその議論の中からやがて実証的な研究が発展し,シングルチャネルの電流記録,イオンチャネル蛋白の精製,イオンチャネル遺伝子の核酸配列から一次構造の決定がアセチルコリン受容体チャネル,電位依存性Naチャネルを突破口として次々に成功し,現在は膜イオン透過の実体としてイオンチャネル分子があることを疑うものはなくなった。

 そして,すべての細胞の形質膜,小胞体膜にイオンチャネルは発現し,細胞の内環境と外環境,細胞内では小胞体での蓄積部位と細胞質の相互作用を担う進化的にもっとも古い基本的な機能単位であることがわかってきた。と同時にこの興味ある巨大蛋白分子の分子構造に基づくイオン透過の作動原理の研究は,単にイオンチャネル蛋白だけでなくすべての蛋白構造科学にとって,これからの夢のある課題である。

Naチャネルの構造と機能 岡村 康司
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膜電位依存性Naチャネルは,神経,筋などの興奮性細胞に存在し,Kチャネルとともに,膜電位を介して機能的に共役して,活動電位の開始および伝搬に本質的な役割を担う膜蛋白分子である。Naチャネルは,四つの繰り返し構造より成る膜タンパクであるαサブユニットに主たる機能を備え,最近の変異分子を発現させる実験により,Na選択的な透過性の分子機構や膜電位に依存した開閉機構などの機能構造相関が明らかになった。また,ニューロンでNaチャネル電流の発現や機能が複数の因子や経路により修飾される機構についても理解が深まってきた。一方,周期性四肢麻痺などのヒト遺伝病の研究は,Naチャネルの不活性化機構の理解を促進し,機能の理解が神経生物学や生理学を越えて医学的にも重要となってきた。

Naチャネルと疾患 紫芝 良昌
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骨格筋にはvoltage-gated Naチャネルがあるが,これに変異が起こると,paramyotoniaや高K血症性周期性四肢麻痺が起こる。運動・食事などによる軽度の高K血症が変異Naチャネルのinactivationを障害するため細胞内にNaが流入しついには,正常Naチャネルのinactivationから脱分極を起こすが,この脱分極の程度によってparamyotoniaを来したり,周期性四肢麻痺発作が起こることになる。一方低K血症性周期性四肢麻癖は,ヨーロッパの家族性低K血症性周期性四肢麻痺の家系のlinkage analysisからvoltage-gated Ca-channel(DHP-receptor)の変異とlinkしていることが分かった。DHP-receptorの欠損はmuscular dysgenesisを起こすが,これは周期性四肢麻痺とは病態が異なるし,低K血症性周期性四肢麻痺を誘発する機序もDHP-receptorの機能とは関連をつけることが困難で病因の解明にはさらなる努力を必要とする。

Kチャネルの構造と機能 久保 義弘
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分子生物学的アプローチにより,Kチャネルは,構造的に6回膜貫通型,2回膜貫通型,1回膜貫通型,2リピート型というファミリーに大別され,かつ一つのファミリー内に多数のメンバーが存在すること,さらに,スプライスのバリエーション,異種分子との会合,構造の大きく異なる調節作用を持つ分子との会合などにより,その機能は非常に高い多様性を示すことが明らかにされた。また,Kチャネルの,膜電位依存性のゲート機構,内向き整流性機構,不活性化機構,イオン透過機構,種々の細胞内因子による活性調節機構などの構造と機能の関連についても,次々と明らかにされてきた。Kチャネルの構造と機能の多様性,そして構造機能連関研究の最近の進歩について概説する。

Kチャネルと疾患 山下 直秀
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Kチャネルの遺伝子異常に基づく疾患としては,持続性高インスリン血症性低血糖(PHHI),long QT症候群,Bartter症候群,episodic ataxia/myokymia症候群などがあり,非インスリン依存性糖尿病でも,その病因の一つとして検討がなされている。PHHIではSUR遺伝子に変異が存在し,その結果KATPの機能異常がもたらされて高インスリン血症が生じる。long QT症候群type 1ではKvLQT 1,type 2ではHERG遺伝子の変異があり,心筋活動電位の再分極相に異常を来して不整脈を起こす。Bartter症候群ではNa-K-2CIコトランスポーター遺伝子異常の他に,ROMK遺伝子の変異を示すものがある。episodic ataxia myokymia症候群ではKCNA 1遺伝子の変異が見つかっている。これらの遺伝子異常以外にも,甲状腺疾患やアルツハイマー病などでKチャネルが病態の形成に関わっている。

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電位依存性Caチャネルは閾値により2種類に分けられるが,高閾値型Caチャネルはα1,β,α2/δ(骨格筋ではγも加える)のサブユニットから構成され,薬物の作用やα1の構造との対応からL型(α1s, c, D),N型(α1B),P/Q型(α1A),R型(α1E)の6種類に分けられる。α1サブユニットがチャネルとして機能し,電位依存性,活性化,不活性化,イオン選択性を示し,Ca拮抗剤の結合部位を有しており,それぞれの性質を担う構造も明らかになっている。β,α2/δは生理的なチャネル機能の発現を制御する。生体内物質のCaチャネルに対する機能調節には,セカンドメッセンジャーを介するリン酸化などの間接制御と,活性化したGタンパクによる直接制御の存在が明らかとなった。さらに,その作用する部位や配列も特定されつつある。また,細胞内機能タンパクがCaチャネルと密接に関わっていることも示され,細胞機能とCaチャネルの構造との対応も注目されている。

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記憶や学習の基礎過程と考えられている,海馬や大脳皮質のシナプス伝達の長期増強や長期抑圧の誘発には,NMDA型グルタミン酸受容体の活性化によるシナプス後細胞内のCa2+濃度の上昇が必須であると考えられてきた。しかし,最近の研究により,T型やL型の膜電位依存性Ca2+チャネルからのCa2+の流入によっても長期増強や長期抑圧が生じることが明らかとなった。NMDA受容体や種々の膜電位依存性Ca2+チャネルは異なる活性化と不活性化の特性を持っており,それぞれ特定のパターンの神経活動により活性化され,様々なシナプス可塑性を引き起こすことができる。Ca2+透過性チャネルの多様性は,記憶や学習の神経機構を柔軟なものにする一因と思われる。

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電位依存性Ca2+チャネルは,細胞内へのCa2+の流人の調節や神経伝達物質の放出を担う重要な機能を有している。最近になり,電位依存性Ca2+チャネルの遺伝子変異がさまざまな遺伝神経筋疾患の原因となることが明らかにされている。電位依存性Ca2+チャネルα1Aサブユニット(CACNL1A4)の変異は,家族性片麻痺性片頭痛(familial hemiplegic migraine:FHM),家族性発作性失調症タイプ2(familial episodic ataxia type 2:EA2),脊髄小脳失調症タイプ6(spinocerebellar ataxiatype 6:SCA6)で同定されている。FHMでは5家系において,保存性の高いドメインに4種類にミスセンス変異が報告されている。EA2では,翻訳領域を中断させる2種類の変異が報告されている。またSCA6では,CACNLA4遺伝子の3'末端に存在しポリグルタミンに翻訳されるCAGrepeatの軽度の延長が発症の原因であることが明らかにされた。

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 Cl-チャネルは神経・筋・上皮を含めて広く全身の細胞膜に分布し,静止膜電位の形成,興奮性抑制または亢進,上皮膜電解質・水輸送,細胞容積調節など,動物細胞の基本的機能に深く関与している。遺伝子クローニングなどによって分子として同定されているものはリガンド作動性レセプターアニオンチャネル,CIC,CFTRの3種にすぎない。リガンド作動性レセプターチャネルにはGABAAレセプター(GABAAR),GABACレセプター(GABACR),グリシンレセプター(GlyR)があり,いずれも回膜貫通型蛋白の5量体で形成される。GlyRのα1サブユニットのアミノ酸点変異によって家族性「ビックリ」病が,GABAARのβ3サブユニットの遺伝子欠損によってAngelman症候群やPrader-Willi症候群がもたらされる。CICは約11回の膜貫通領域を持つ大型蛋白であり,おそらくその4量体がチャネルを形成する。骨格筋に発現しているClC1の遺伝子異常で筋強直症が,腎に発現しているCIC5異常によって先天性腎結石症が発症する。

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イオンチャネル型グルタミン酸受容体の機能と構造に関するいくつかの話題を取り上げた。哺乳動物の中枢には三つのタイプのグルタミン酸受容体がある。NMDA型チャネルのイオン透過機序はアイリング説に基づいたモデルによって正確に記述される。この方法を用いてアミノ酸を置換して作った変異型チャネルのイオン透過機序を調べることは分子構造と機能の関連を解明するための有望な方法と思われる。NMDA型チャネルのCa2+イオンの透過性は長期増強の成立に重要な役割をはたしているが,AMPA型チャネルにもCa2+を透過するものがあることがわかっている。グルタミン酸受容体の特徴はその多様性にある。それぞれのタイプの受容体に複数のサブユニットがあり,その組み合わせでチャネルが構成されているわけであるからその数は非常に大きなものになる。さらにサブユニットRNAのsplicingとeditingが行われていることが示されていることからその多様性は驚くほど多い。

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グルタミン酸受容体のcDNAはこれまでイオンチャネル内蔵型が17種,代謝型が8種同定されている。その発現様式が時間空間的に解析された。発現のピークが,胎生期,誕生期,生後初期など様々であり,また,小脳のプルキンエ細胞や小脳の顆粒細胞にのみ限局して発現するものがある。外的刺激や病態時での変化が調べられ,虚血時の海馬CA1でのGluR2の特異的減少,分裂病脳海馬でのGluR 1,2などの減少,など報告されている。上述の変動を司る転写制御機構がGluR 1,2,KA 2,NMDAR 1,NMDAR 2B,NMDAR 2C,mGluR 6などで培養細胞へのトランスフェクションとトランスジェニックマウスの作製により解析されている。いずれのプロモータもTATA boxをもたず,GC-richである。GluR 2,NMDAR 1,NMDAR2A,NMDAR 2Cではサイレンサー配列,RE-1/NRSE配列が報告されている。

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グルタミン酸は,脊椎動物中枢神経系の主要な興奮性伝達物質であり,その受容体には多くのサブタイプがある。グルタミン酸受容体の多様性は,中枢神経系内シナプス伝達の多様な機能に対応していると考えられる。近年,各グルタミン酸受容体サブタイプを欠損させたミュータントマウス(ノックアウトマウス)が標的遺伝子破壊法により作製され,各受容体サブタイプのシナプス伝達における役割,およびそのシナプス機能が個体の行動制御において果たす役割,を解析するのための実験材料として多用されるようになり,興味深い結果が報告されている。

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生体は交感神経と副交感神経という二つの主な自律神経系によって相反的に支配され,支配臓器によっては体性神経系と協調しながら自律的に調節される。自律神経節では交感神経と副交感神経との間で広く情報処理やintegrationが行われており,従来から言われているような効果器に対する交感,副交感神経系の単純な相反支配といった概念を越えた調節機能を考える必要がある。さらに今日では,自律神経節内でペプチド性神経やプリン性神経,モノアミン性神経によるシナプス伝達が行われ,コリン性伝達も他の伝達物質によってシナプス前性,後性に調節を受けることもわかってきた。また神経節内には伝達物質とその受容体,さらにサブタイプも多く見つかっている。本稿では自律神経節におけるシナプス伝達とこれに寄与する受容体を紹介し,自律神経系疾患におけるこれらの受容体の役割について述べる。

聴覚の受容と伝達 大森 治紀
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音は内耳の有毛細胞で電気信号に変換される。音波という空気の振動が電気信号に変換され,シナプスを介して求心性神経に伝達され,はじめてわれわれの脳で音として理解される。グルタミン酸が神経伝達物質として放出される。一方,中枢神経系からは遠心性の神経支配が行われ,有毛細胞,そして有毛細胞から求心性神経線維へ信号伝達をするシナプスをコントロールしている。

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すでに半世紀以上前から,脊椎動物の脳神経系は胚発生の初期,背側中胚葉(オーガナイザーと呼ばれる)が分泌する神経誘導・形態形成因子の作用により,オーガナイザーに隣接する背側外胚葉から分化するとされてきた。これらの因子の実体は長い間,未同定のままであったが,最近になって,いくつかのタンパク質が,神経誘導・形態形成因子の有力候補として挙げられるようになった。本稿では候補タンパク質因子のうち,FGFを取りあげ,とくにその受容体(FGF受容体)を介したシグナリングの神経系発生・分化における役割について述べ,また他のタンパク質因子との関連についても述べる。

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ギャップ結合は,一般の膜イオンチャネルとは異なり,低分子物質なら非選択的に膜を通過させる性質を持つチャネルで,各組織の細胞間の接着・支持,物質移動の担い手として機能している。動物発生の早い時期から胚細胞間で発現しており,ギャップ結合の機能を介してコンパートメントが形成され形態形成が進行すると考えられている。神経の初期発生においても脊椎動物の原型であるホヤのモデル発生胚を用いた系で,ギャップ結合蛋白のGFP融合蛋白を強制発現させることにより,ギャップ結合蛋白の生成および作動部位での動態を解析することができる。また,一方でギャップ結合蛋白の異常による疾患が報告されている。神経疾患であるX-linked Charcot-Marie-Tooth病や,感覚器疾患の遺伝性非症候群性感音性難聴,また虚血性心疾患におけるコネキシンの異常などの最近の報告のいくつかを記した。

基本情報

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神経研究の進歩
42巻2号 (1998年4月)
電子版ISSN:1882-1243 印刷版ISSN:0001-8724 医学書院

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