神経研究の進歩 32巻3号 (1988年6月発行)

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特集　視床—基礎と臨床

視床の比較解剖学伊藤　博信 32巻3号 , 1988年6月 , pp.357-367

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I．はじめに

　各種の脊椎動物の視床を比較する場合，まず視床とは何かという定義にもとづいてその相同性を確認する必要がある。古くから異なる種間の中枢神経系各部の相同は，もっぱら個体発生の経緯を調べたり，成体での局所的な相互関係や細胞構築，線維構築などを比較して推測されていた。Herrick（1910）による視床の定義はこの代表的な例である。彼はサンショウウオの第三脳室に存在する吻尾方向に走る3本の溝（背側溝，中間溝，腹側溝）を基にして間脳を視床上部，背側視床（狭義の視床），腹側視床，視床下部，の4領域に分けた。すなわち狭義の視床とはその内側面が第三脳室に面し背側溝と中間溝に挟まれた部分ということになる（図1）。この基本的な原則にもとづいてHerrick以降間脳各部の相同を論ずる多くの研究がなされ今日に至っている（新見，1983）。しかしながらこの3本の溝は一定したものではなく，種によっては類似の溝が余分にあったり，また成体では明瞭でなく発生の途中で一過性にのみ現われたりする場合があるため，この溝による視床の同定ははなはだあいまいなものであった（Ito et al．，1986）。

　一方1960年代の後半に入ると，Nautaとその一派が線維連絡の重要性を唱え，互いに相同な構造物は基本的に同じパターンの線維連絡をもつと主張した。このアイデアは広く受け入れられることとなり，1970年代はあたかも比較神経学のルネッサンスといった観を呈した。その後電子顕微鏡による微細構造の比較やその部位が含有する物質の比較などのいくつかの重要な手段が付け加えられたが，相同を論ずるさいの線維連絡のもつ重要性は少しも変わってはいない。

視床と大脳皮質の関係中野　勝磨 32巻3号 , 1988年6月 , pp.368-383

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I　はじめに

　視床は情報の単なる中継所ではなく，多くの情報を受け，分析統合し，高次の大脳皮質へ伝達する。視床の機能，形態を追求することは脳の機能を解明する重要なカギとなる。視床は脳の深部に存在するため，古典的変性法では通過線維が大きな障害となった。軸索流法の導入により，この問題がほぼ解決され形態学的研究が長足の進歩を遂げた。本稿では視床と大脳皮質との関係を述べるが，広範な領域を筆者一人でそのすべてを総括することは能力的に，また限られた紙面からして不可能である。臨床との関連もさることながら，霊長類の大脳皮質とか視床は細分野，亜核に分けられ，これらの神経回路の解析と特定機能との対応が重要であるので，サルの知見を中心に記述する。専門領域の関係上，記載が運動系の連絡に偏るのは否めないが，できうるかぎり広く記述することに努める。なお，視覚・聴覚系の綜説は多いので省略する。またネコの視床に関する新見の詳細な記載があるので参照されたい^114,115）。

視床と大脳基底核の関係中村　泰尚 , 徳野　博信 , 森泉　哲次 , 北尾　康子 32巻3号 , 1988年6月 , pp.384-397

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はじめに

　基底核は大脳皮質と視床のいくつかの核との間に神経回路を作っていて，大脳皮質およびその他から入ってくる諸情報を統合し，視床を介してまた大脳皮質に送り返すと考えられている^{14,27,76,82）}。この回路の途中で，視床から基底核へ向かう連絡も重要なものとしてよく知られている。これらの関係を大まかに図示すると図1のようになる。大脳皮質から投射を受ける基底核は尾状核と被殻であって線条体と総称されている。基底核の一部から，逆に大脳皮質へ向かう投射も各種報告されているが主経路ではないと考えられる^{46,48,83,92）}。図1の基底核と視床の関係をもう少し詳しく図2に示す。黒質および脚橋被蓋核（PPN）はそれぞれ中脳，あるいは中脳と橋の境界に位置する構造物であるが，線維連絡の上から広義の基底核に含めることにする。淡蒼球外節と視床下核のそれぞれの連絡は省いてある。このようにすると，淡蒼球内節，黒質網様部，PPNが基底核の出力源になること，またそのいずれもが視床のいずれかの核に線維を送っていること，および，線条体が基底核の入力源として大脳皮質以外に複数の視床核からも線維を受けていることなどがわかる。なおこの三つの出力源の核は視床以外にも投射していることもよく知られている。なお最近，基底核の一部から間接的に脊髄に影響を及ぼす経路も話題に上っている^25，105）。この綜説ではこの三種類の基底核の出力と，視床からの入力を受ける線条体の関係を順を追って考えてみることにする。

視床VL核の入出力篠田　義一 32巻3号 , 1988年6月 , pp.398-410

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はじめに

　大脳基底核と小脳からの出力は，視床VL核の共通部位を介して大脳運動野に至ると，最近まで考えられていた（KempとPowell，1971）。電気生理学的方法を用いた研究によって，基底核からの入力と小脳からの入力が視床内で別々の部位に投射しており，単一細胞への収束がないこと（Uno，OzawaとYoshida，1978；Yamamotoら，1983）が明らかにされた。その後，新しい解剖学的手法を用いた研究により，このことが確認された（Asanuma，ThachとJornes，1983 a，b）。基底核からの出力は，主に視床VA核・VL核の前部に投射し，小脳からの出力は，主にVL核の後部に投射するということができる（Asanumaら，1983 a，b；Hendryら，1979；SchellとStrick，1983；Sugimotoら，1981）。

　基底核と小脳入力の視床内分布について得られた上記の動物実験の結果は，ヒトについても成り立つ。パーキンソン病の2大症状である振戦と固縮の治療に脳定位手術が施行される。パーキンソン病の振戦のみならず，小脳核あるいはその出力系の病変によって起こる振戦は，視床VL核の後部と後核群の境の部位の破壊で消失する。ヒト視床のこの部位は，HasslerによってVim核と呼ばれているところに相当し，小脳歯状核からの入力が濃密なところである。

外側膝状体の機能分化福田　淳 , 澤井　元 , 森際　克子 , 若桑　和夫 32巻3号 , 1988年6月 , pp.411-428

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I．はじめに

　背側視床にある外側膝状体は背側核と腹側核とに分けられる。背側核は網膜からの視覚情報を大脳皮質視覚領に伝送する中継所である。一方，腹側核は網膜情報のほか，前庭神経情報，小脳核出力などの多くの入力を受け，また，上丘，視蓋前域などの視覚中枢のほか，脳幹，視床非特殊核，視交叉上核などに投射線維を送り，一種の統合的な働きをするところと考えられている。一般に，視覚情報処理系は背側核を経由する"膝状体系（geniculate system）"と他の領域を経由する"膝状体外系（extrageniculate system）"とに二分されるが，こういう機能系の分類に従えば，腹側核は"膝状体外系"に属する。腹側核を含む膝状体外系の機能と形態に関しては，すでに小川によるいくつかの優れた綜説^1,2）があるので参照されたい。また，視覚伝導系を"膝状体系"と"膝状体外系"とに二分することのさまざまな問題点は，川村^3,4）によって明確に指摘されているので合わせて読まれたい。

　本稿では，最近研究の進展の目ざましい外側膝状体背側核（LGNd）に的をしぼり，その機能分化について，1）網膜入力による層形成と並列情報処理，2）抑制機構の機能・形態分化とその制御，さらに3）視覚情報伝達抑制と選択的ゲート機構の順に，最近のわれわれのシマリスおよびネコにおける研究成果を混じえつつ紹介する。なお，ネコ外側膝状体の抑制機構および抑制性ゲートの脳幹からのコントロール機構に関するより広汎なreviewは，最近のShermanとKoch^5）によるものがあるので参照されたい。

Pulvinarの機能小川　哲朗 32巻3号 , 1988年6月 , pp.429-443

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I．はじめに

　背側視床（dorsal thalamus）は動物の進化につれて著明な変化のみられるところで，系統発生的に古い構造と新しい構造から構成されている。下等動物ではこの古い構造がよく発達しているのに比して新しい構造は十分に分化しておらず，高等動物ではこれに反して新しい構造の分化発達が顕著である。背側視床を構成する多数の核についての動物間の相同性は多くの研究者の努力にもかかわらずなお十分に確立されていないばかりか，同じ名称が異なった核に与えられたり，異なった名称が同一の構造に使われたりしており，ある特定の名称をもつ視床核の機能を論ずるさいの混乱の基となっている。

　Pulvinar（以下Pulv．）は系統発生的に新しい核であり，とくに霊長類では大脳皮質の前頭連合野および頭頂一側頭一後頭連合野の拡大と並行して大きくなることが知られている^22）。サルのPulv．に対して，ネコのPulv．（Riochの命名による）は求心性および遠心性線維結合や機能の点からみて，サルのPulv．と相同のものとは考えられず，むしろ後外側核nucl．lateralis posterior（LP）が相同とみなされている^20）。したがって本稿では，サルのPulv．およびネコについてはLPをPulv．の相同とみなし，その機能を最近の知見に基づいて論ずる。なおPulv. は大脳皮質連合野と密接な線維連絡があることからきわめて重要な統合機能をもつとされ，とくにヒトではPulv. からの中心的投射部位が上縁回（supramargina1）や角回（angular gyrus）であり，この部を破壊すると高度な認知機能（言語や思考の記号表象）に障害がくることが知られている。一方Pulv. 自体の破壊は慢性的疼痛の緩解に寄与するという報告や，異常な不随意運動および痙縮を減弱させるという報告などがあり，運動機能や感覚機能への関与が示唆されている。最近はPulv.（ネコではLP）の視覚機能とくに視誘導行動との関連において，第二視覚系（膝状体外視覚系^43，66））の重要な中継点としての機能が注目されている。したがって本稿ではまずPulv.の視覚との関わりを中心に論じ，最後にその他の考えうる機能について文献的考察をしたいと思う。

視床における神経伝達物質佐々木　秀直 , 田代　邦雄 32巻3号 , 1988年6月 , pp.444-457

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はじめに

　視床は中枢神経系のさまざまな領域から入力線維を受けており，また大脳皮質，線条体などを中心に種々の領域へ投射線維を送っている。視床は機能的にも解剖学的にも複雑なために，大脳皮質，小脳，線条体などと比較して，神経伝達物質の研究は遅れているのが現状である。研究方法として，免疫組織化学，すなわち，目的とするニューロンの伝達系を特定の伝達物質やその特異的合成・分解酵素を指標として同定する方法，あるいは伝達物質受容体の分布や密度を特異的なligandを用いて研究する方法が導入されて以来，脳幹や視床領域の伝達物質研究も飛躍的に発展してきた。とくに近年，免疫組織化学的手法に加えて，トレーサーとしてhorseradishperoxidase（HRP）やwheat germ agglutinin（WGA）などを利用して神経回路網の同定も合わせて行なう手法（immunotracing method）が一般的となり，視床の伝達物質の解明が進んでいる。問題は，とくに免疫組織化学的手法に必然的に伴うものであるが，用いた抗体の特異性，組織の前処理，固定方法などによっては，結果に大きな差が生じうることである。その一例として，最近では，視床内に直接コルヒチンを注入する方法がとられるようになり，その結果，従来にはその分布が知られていなかったneuropeptide群に関する知見が次々と明らかにされつつある。また，結果の解釈にあたっては，種属間の差，個体発生段階での差なども充分に考慮されなければならない。これらの諸問題については，Herkenhamの最近の綜説に詳しく論じられている^44）。

　本稿では，最近の視床の神経伝達物質研究の成果について要約・紹介するとともに，若干の問題点についても適宜触れることにする。なお，neuropeptideについては，伝達物質として未だ確立されていないものもあるが，本論文では"伝達物質"として統一的に記述した。表1に，現在まで視床との関連で検討されている伝達物質をまとめて示した。

視床変性症水澤　英洋 32巻3号 , 1988年6月 , pp.459-472

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I．はじめに

　視床変性症（thalamic degeneration：ThD）という名称の意味するところは，視床を中心とする原発性の神経細胞変性，すなわち，血管障害，腫瘍，炎症，中毒，原因の明らかな代謝障害などを除く原因不明の継続的な神経細胞の死^61）である。ThDの歴史は，1939年にSternが高度の進行性痴呆を呈した経過9か月の41歳男性例において両側対称性視床変性を報告したことに始まる^69）。1956年にはSchulmanが同様な症例を記載した^65）。その後，これらの症例はCreutzfeldt-Jakob病（CJ病）の範疇で論じられることが多く，1962年Garcinらは，高度な視床変性とspongioseを伴う軽度の大脳皮質病変を認めた亜急性痴呆の症例を報告し，前2例と合わせCJ病の視床型とした^6,15）。この立場は，1968年のKirschbaumによるCJ病のモノグラフにも引き継がれている^29）。また，このような症例は，Stern-Garcin症候群と呼ばれることもある^48,67）。一方，1965年小田らは高度な痴呆と視床変性を認めた女性例を報告し^59），spongioseを伴うGarcinらの例と区別して，Stern，Schulmanの例と合わせ，視床を中心とする系統変性症，すなわち原発性視床変性症と考えるべきであるとした^60）。

視床と痛覚石島　武一 32巻3号 , 1988年6月 , pp.473-486

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はじめに

　痛みに関する研究は近年めざましい発展をとげたが，まだまだ不明な点が少なくない。とくに視床では複雑な神経回路網の中に痛覚情報が拡散し，はっきり捕えることがむずかしくなる。

　痛みの研究には動物実験による方法と，ヒトを対象にした除痛術からのapproachとがある。前者では対象となるのはacute painであり，臨床的に問題となるchronic pain，いわゆる頑痛とは多少異なる点がある。頑痛には2種類あって，ひとつは末梢性疼痛，もうひとつは中枢性疼痛である。前者は末梢の痛覚受容器が刺激されて起こるもので，somaticあるいはperipheral painといわれる。末期癌の痛みはその代表である。それはacute painの延長線上で考えることが可能であるが，後者は中枢内の上行性伝導路のどこかに異常が起こった場合に発生するもので，centralあるいはdeafferentationpainともいわれる。幻肢痛，視床痛，ヘルペス後神経痛などが代表で，それの成因と治療については研究が始まったばかりである。

視床と健忘症板東　充秋 32巻3号 , 1988年6月 , pp.487-492

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I．はじめに

　脳損傷によって，意識が保たれ，知的能力も注意力も十分であるのに，本人にとって重要な出来事でさえ数分から数時間後には思い出せない状態に陥ることがある。これは健忘症と呼ばれる。アルコール中毒によるKorsakoff症候群や初老期痴呆では健忘症状は痴呆を伴うことが多く，診断が困難になる。また，言語性の検査が多いので失語が合併しているときにも診断が困難なことが多い。しかし，稀に，比較的典型的な症例，すなわち，意識障害，痴呆や失語など他の症状を伴わないか，これらの症状が軽いのに健忘症状が著しい例が存在する。側頭葉切除例や外傷例がよく知られているが，脳血管障害においても比較的典型的な症例が存在する。とくに最近では，CTやMRIなどの画像診断が発達してきて，健忘症状との関係が深い病巣が明らかになってきた。

視床と言語杉下　守弘 32巻3号 , 1988年6月 , pp.493-497

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　言語機能を脳の一定の部位に限局させようという試み―すなわち言語の大脳局在論―は，その部位として19世紀後半には大脳の外表すなわち大脳皮質を候補としてきた。たとえば，1863年のBroca^7）による左第三前頭回を構音機能の座とする説や，1874年のWernicke^33）による第一側頭回に言語の音響心像が存するとする説などである。これらは中枢説として知られるものである。その後，言語の大脳局在論は大脳外表の中枢間を連絡する神経線維の役割に注目するようになった。Wernicke（1874^33），1906^34））は言語の運動心像が存在する第三前頭回と言語の音響心像が存在する第一側頭回を連絡する弓状束の損傷で，復唱障害などが生ずると考えた。このような例では，左第一側頭回が健全であるので，話し言葉の理解は保たれている。また，左第三前頭回が保たれているので，話し言葉を自発的に発することができるという。しかし，聞いた言葉を理解してもそれを左第三前頭回へ伝達する左弓状束が損傷されているので，聞いた言葉を復唱することができないというのである。20世紀初頭に一つの体系としてまとめられた言語の古典的大脳局在論は，以上にのべた大脳皮質の中枢とそれらをつなぐ神経線維束で言語機能を説明するものであった。

　1950年代になると，言語機能にとって重要な大脳部分として，大脳の外表ではなく内部構造である視床が問題となってきた。初期の研究としてはFisher¹⁵⁾（1959）やPenfield ＆ Roberts²⁶⁾（1959）の単行書『言語と脳』がある。とくに後老は，視床が言語機能において中心的な役割を果たすという説を広く流布させるのに力のあった書物である。

視床病変による運動障害—視床運動領大江　千廣 32巻3号 , 1988年6月 , pp.498-508

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I．はじめに

　視床のいろいろな病変（血管障害，腫瘍，変性）でどのような運動障害が生じるのかを文献のなかからみてみると，対側の半身運動麻痺（hemiparesis）と，振戦，舞踏病様運動，アテトーゼなどの異常運動が記載されていることがわかる^1,18）。これらは古典的視床症候群の中にも記載されているもので，よく知られたこととして受けとられているが，視床に限局した病変ではたしてこのような運動障害が出現するか否かを厳密に考えてみたい。

　なお，眼球運動の異常もよく知られているが，ここでは省略し，体幹，四肢の運動についてのみ考察する。

視床障害による精神症状東儀　英夫 , 紺野　敏昭 , 千葉　健一 , 野崎　有一 32巻3号 , 1988年6月 , pp.509-517

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I．緒言

　視床の損傷により，運動障害，知覚障害などの神経症状や失語，失認などの巣症状のほかに，意識障害，記憶・認知機能，発動性，注意力，情動の障害など，より広汎な大脳皮質の機能異常が関与していると考えられる精神症状が起こりうる。視床にはさまざまな機能を有する諸核が密集しているため，精神症状と病変部位の臨床病理学的対応が困難な場合が少なくない。血管支配のvariationが多い。このような事情から，大脳皮質の病変による精神症状に比して未知の問題が多く残されている。本稿では，精神症状の出現に関与する視床の機能および血管支配に関する解剖学的事項，精神症状の概観および各精神症状についての問題点について述べ，症例を呈示する。

原著

脊髄小脳変性症と夜間突然死—NREM睡眠期における呼吸不整との関連平野　良郎 , 片山　宗一 , 横山　誠之 , 鹿嶋　嗣一 , 木村　泰三 32巻3号 , 1988年6月 , pp.519-529

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はじめに

　Shy-Drager症候群（以下SDSと略す）などmultiplesystem atrophy（MSA）を含む脊髄小脳変性症（SCD）では，小脳症状，および排尿障害，起立性低血圧などの自律神経症状の進行にともなってADLの荒廃が著しくなり，ついには感染や呼吸不全などで死亡することが多い。またこれら変性疾患の中には，経過中に呼吸調節障害として夜間睡眠中の呼吸異常^9〜11），突然死^7,8）をみる症例も散見される。本稿ではこれらSCD例の突然死例をとくに取り上げ，MSAにおける呼吸調節障害について検討した。

　突然死という言葉は臨床上しばしば用いられるが，その定義はいまだ確定されておらず^1,2），発症より24時間以内の死亡を突然死とするものや，発症1時間以内を突然死とし，24時間以内を予期しない死（unexpecteddeath）とするものなど^3）さまざまである。突然死あるいは急死は従来，主として循環器領域で取り扱われ，Hurstの教科書^4）でもその80〜90％がcardiovasculardeathであり，しかもそのほとんどがcoronary heartdiseaseによるものとされている。

基本情報

神経研究の進歩
32巻3号
(1988年6月発行)

電子版ISSN：1882-1243 印刷版ISSN：0001-8724 医学書院

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