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I.はじめに
背側視床(dorsal thalamus)は動物の進化につれて著明な変化のみられるところで,系統発生的に古い構造と新しい構造から構成されている。下等動物ではこの古い構造がよく発達しているのに比して新しい構造は十分に分化しておらず,高等動物ではこれに反して新しい構造の分化発達が顕著である。背側視床を構成する多数の核についての動物間の相同性は多くの研究者の努力にもかかわらずなお十分に確立されていないばかりか,同じ名称が異なった核に与えられたり,異なった名称が同一の構造に使われたりしており,ある特定の名称をもつ視床核の機能を論ずるさいの混乱の基となっている。
Pulvinar(以下Pulv.)は系統発生的に新しい核であり,とくに霊長類では大脳皮質の前頭連合野および頭頂一側頭一後頭連合野の拡大と並行して大きくなることが知られている22)。サルのPulv.に対して,ネコのPulv.(Riochの命名による)は求心性および遠心性線維結合や機能の点からみて,サルのPulv.と相同のものとは考えられず,むしろ後外側核nucl.lateralis posterior(LP)が相同とみなされている20)。したがって本稿では,サルのPulv.およびネコについてはLPをPulv.の相同とみなし,その機能を最近の知見に基づいて論ずる。なおPulv. は大脳皮質連合野と密接な線維連絡があることからきわめて重要な統合機能をもつとされ,とくにヒトではPulv. からの中心的投射部位が上縁回(supramargina1)や角回(angular gyrus)であり,この部を破壊すると高度な認知機能(言語や思考の記号表象)に障害がくることが知られている。一方Pulv. 自体の破壊は慢性的疼痛の緩解に寄与するという報告や,異常な不随意運動および痙縮を減弱させるという報告などがあり,運動機能や感覚機能への関与が示唆されている。最近はPulv.(ネコではLP)の視覚機能とくに視誘導行動との関連において,第二視覚系(膝状体外視覚系43,66))の重要な中継点としての機能が注目されている。したがって本稿ではまずPulv.の視覚との関わりを中心に論じ,最後にその他の考えうる機能について文献的考察をしたいと思う。
The pulvinar of the primate comprising four subdivisions, oral, inferior, lateral and medial, increases in size together with the evolutionary expansion of the association cortex to which the pulvinar projects. On the basis of this anatomical feature an idea was developed that the pulvinar played an important role in the higher integrative functions. Since the 1970s when anterograde and retrograde transport tracing methods were used to study neural connectivities in the central nervous system, an extensive literature concerning afferent and efferent connections of the pulvinar has been provided and it has been established that the pulvinar, especially inferior and lateral nuclei, is critically involved in the extrageniculate visual pathways.
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