臨牀透析 34巻5号 (2018年5月)

特集 透析患者の体力と認知力を考える―患者と家族が満足するキュアとケア

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効率化の科学として登場したマーケティングは,1990年代以降は顧客満足(CS)が重要な概念となり,効率化から満足化への転換が進んでいる.とくにブランド論は,短期的な売り上げや利益よりも顧客との関係性や絆の構築を重視した.企業は満足を提供し顧客のロイヤルティを獲得することで,顧客の生涯価値(CLV)を得る.また,ロイヤルティの高い顧客は他人に推奨してくれる.このようななかで,企業と消費者の関係の“見立て”が変化している.消費者は「家族」や「仲間」であり,彼らに満足体験=カスタマー・ジャーニーを提供することが現在のマーケティングの最前線である.医療機関も患者に対する見立てを変えていくことが患者満足向上の鍵になるだろう.

[総論]2.認知症予防 浦上 克哉
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認知症の第1 次予防は,つい最近まで不可能と思われていたが,近年の科学的エビデンスから可能性が示されてきた.認知症の人が462 万人,軽度認知障害(MCI)の人が400 万人という日本の状況からは,第1 次~第3 次までの認知症予防対策を徹底的に行っていくことが急務と考えられる.認知症検診を行い,軽度認知障害を早期に見つけ認知症予防教室を勧めて認知症への進展を防止する(第1 次予防).軽度の認知症を見つけたら専門医療機関へ紹介し早期診断・早期治療に結びつける(第2 次予防).認知症への適切な薬物治療とケアにより進行防止をはかる(第3 次予防).認知症予防の一つの方法としてアロマセラピーが注目されている.アルツハイマー型認知症では嗅神経から神経変性が始まるので,アロマの香りで嗅神経を活性化させる方法である.

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CKD 患者の認知機能および身体機能低下は透析患者のみならず,保存期の段階から生じていることが明らかとなっている.そのため,より早期からの対策が必要となる.地域在住高齢者においては認知機能と身体機能は相互に関連することが報告されており,近年CKD 患者においてもその関連が明らかにされている.その関連性からも,地域在住高齢者と同様にCKD 患者の認知機能低下予防には,身体機能を良好に保つことが重要となる可能性が示唆されている.一方,運動療法や身体活動が保存期CKD 患者の認知機能低下予防に実際に効果的かどうかは明らかではなく,さらなる検証が必要である.

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透析患者では低栄養に慢性炎症や動脈硬化性疾患が合併しやすく,生命予後に影響するため,低栄養患者を早期に発見し治療する必要がある.透析患者の低栄養状態は,protein energy wasting として定義され,低アルブミン血症などの生化学検査,体格,筋肉量,そして食事摂取量の低下をもとに診断される.透析患者の栄養状態を評価するためには,透析患者に特有の病態を考慮に入れた,複合的な栄養指標が有用であり,SGA,MIS,GNRI,SI などが使用されている.栄養指標には日本人透析患者にそのまま適用することが難しい場合があるため,日本人のデータに基づいた栄養指標の開発が必要である.

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地域居住高齢者では,フレイルにはたんぱく質摂取量の低下のみならず,朝食時たんぱく質摂取不足,脂肪摂取量の増加,孤食,口腔の問題などが関与する.一方,透析患者ではエネルギーおよびたんぱく質摂取不足がおもな原因である.透析時の栄養補給により,栄養および炎症指標,通常歩行速度などの身体機能が改善する.通常,高齢者では少なくとも1.0~1.2 g/kg 理想体重/day のたんぱく質摂取がフレイルの進行予防に必要である.したがって,十分な透析量およびポリファーマシー回避を配慮したリン吸着薬を組み合わせたうえで,必要なエネルギーおよびたんぱく質を摂取することが,透析患者のフレイル予防において重要である.

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透析患者の食事療法は複雑で患者のストレスが生じやすい.CKD ステージや透析modality による必要栄養量を把握し,食事療法に対する患者背景を理解し,継続的かつ具体的な指導を行う.治療用特殊食品を積極的に利用することで無理のない食事調整が可能となる.しかし購入方法や価格,内容に問題も生じやすいため,患者の負担を配慮する.食事制限だけでは栄養状態の維持は困難である.リンやカリウム吸着薬のアドヒアランスにも留意し,他職種との連携をはかる.これらを考慮することで患者の満足度が向上する.

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透析患者は筋力・体力・身体機能が低下している状態であるサルコペニアを認め,運動耐容能や身体活動量が低下している.運動耐容能低下や身体活動量低下は,生命予後不良と関連する.透析患者に対する運動療法は,筋力の向上や,運動耐容能,身体機能を改善させ,身体活動量を増加させる.また腎機能維持のための介入手段の一つとしても期待された治療法である.一方で,透析患者に対する運動方法や至適強度,運動療法を実施するタイミングについては未だエビデンスが十分でなく,心不全患者や高血圧患者の運動プログラムに基づいて実施しているのが現状である.今後,透析患者における運動強度や期間に関する検討が進められ,運動療法の推奨プロトコールが早期に作成されることが必要である.

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透析患者では,骨折のリスクが高いことはよく知られている.骨粗鬆症患者においては,骨粗鬆症治療薬により,骨折のリスクが低下することが示されてきている.透析患者に対しても,これら骨粗鬆症治療薬の使用が検討されてきており,骨密度の増加作用が報告されてきている.しかし,透析患者において,骨粗鬆症治療薬の骨折に対する有効性および安全性についてはまだ確立されていない.一方,透析患者ではサルコペニアやフレイルの頻度が高く,このことが透析患者において骨折の頻度が高い原因の一つとなっているものと考えられている.このため,透析患者の転倒と骨折の予防には,サルコペニアやフレイルへの対策が重要となってくる.

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薬剤や透析の処方と同列の専門的運動処方に基づく運動や身体機能訓練とは別に,生活身体活動を含めた運動は,食事や休養(睡眠)と並ぶ普遍的健康習慣であり,医療従事者にとっては職種や専門領域以前の,基本的なヘルスリテラシーである.すなわち運動についての情報提供や支援は,運動療法の専門家に限らず,すべての医療従事者が飲食や喫煙と同様に,患者への生活指導やケアの一環として行うのが本来である.

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慢性腎臓病(CKD)患者では脳卒中,認知症を発症するリスクが高く,eGFR が低下するに従い,認知機能障害の罹患率も増加することが示されている.透析患者でも認知機能障害の危険性が増加しており,COGNITIVE―HD研究では,71.1 %の患者になんらかの認知機能障害があると報告されている.日常生活においてよく笑うということは高次脳機能が維持されていることを反映する可能性があり,また笑うことは高次脳機能の維持に働く可能性がある.透析患者において笑いが認知症を予防するという報告はないが,日常生活において笑いの頻度を増やすことで脳卒中の危険因子を改善することにより,認知症予防につながる可能性がある.

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透析看護は,「慢性腎臓病(透析機器)とともに生きる人」を支える専門看護である.高齢透析患者の増加に伴い,認知症ケアに関する看護研究は増えているものの,透析看護領域において認知力維持に焦点を合わせた報告は見当たらない.そこで,日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン2017」の危険因子・防御因子の項をもとに,日常実践している透析看護がリスク低減あるいは防御因子を高めているかを考えてみると,認知力維持のために透析看護ができることとして,① 透析合併症予防,② 個人的ケアと評価,③ 多職種連携のコーディネート役,④ 認知力維持の研究・組織的取り組み,が挙げられる.そして,それらを個人あるいは組織で効果的に実践することが透析看護の役割と考えられる.

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全人的医療(biopsychological medicine)とは患者の視点をもつことを強調した医療である.高齢化した透析患者のADL は低下しており,介護度が高い患者が多くなってきている.したがって,患者の介護度に合わせた療養環境を整える必要があり,さらに維持血液透析のための通院手段に配慮する必要がある.長崎県での実態調査では,透析患者の認知症の頻度は高く,服薬アドヒアランスは悪く,摂食障害がみられ,誤嚥性肺炎などが生命予後に関わっていた.認知症は早期に発見し,認知症外来を受診して日常生活の継続をはかる.ADL の低下および認知力の低下した透析患者に対しては,患者および家族を中心に種々の職種が関わって患者を支えていく必要がある.

OPINION

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「医は仁術」は出典を辿れば8 世紀にまで遡る古い言葉である.われわれの世代には馴染みの深い言葉で,診療報酬不正請求に関するマスコミの記事などでは,よく「医は算術」などと揶揄されて用いられる.私は医学部5 回生の実習で「医は仁術」を多用する.10 年前まで,この言葉を知らない学生は,ほぼ皆無であった.しかし,最近では3 人に1 人ほどの医学生からは,この意味を「知らない!」,これ自体を「聞いたことがない!」と言われて,私はしばしば驚かされている.

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目次

第20回 在宅血液透析研究会

投稿規定

次号予告

編集後記

基本情報

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臨牀透析
34巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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