臨牀透析 33巻8号 (2017年7月)

特集 予後改善を目指した透析医療

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透析患者において食事管理の良否は生命予後に直結する.過剰なエネルギー摂取や食塩摂取はそれぞれ脂質異常症や体液負荷を惹起し,心血管疾患(CVD)のrisk factor となる.また,たんぱく質の過剰はリンの過剰摂取の原因となって高リン血症を助長し,慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD―MBD)のrisk factor となる.これらの改善には,食品の栄養学的特徴,および透析患者の病態を十分に理解したうえで,患者個々の食習慣や生活状況に合わせたテーラーメイドな栄養指導が必要である.そのためには医療スタッフの諦めない支援と指導の工夫が重要である.

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貧血は慢性腎臓病患者にしばしば認められる代表的な合併症の一つであるが,その原因は多様である.慢性腎臓病以外に原因が認められない場合,腎性貧血と診断する.腎性貧血の治療は,過不足のない体内鉄を維持しつつ,ESA の投与を行うことが重要である.ESA への反応性に乏しい場合,予後不良の危険があり,ESA の増量に委ねるのではなく,その原因を検証し適切な対処を行うことが重要である.

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長期にPD を継続するためには,適正透析を実践し,腹膜炎と被囊性腹膜硬化症を予防して安全性を担保する必要がある.残存腎機能が低下すると体液過剰や透析不足に陥りやすいのは事実だが,PD 処方や食事指導の工夫が十分なされないままHD に移行してしまっている例も散見され,この点は改善の余地があるといえよう.酸性PD 液時代の知見をもとに設定された5 年という継続期間は,中性PD 液時代にある本邦においては,医学的妥当性が乏しくなってきており,検証しなおす必要がある.

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透析患者の大多数はなんらかの血圧異常を呈し,予後改善を目指した透析医療を実践するためには,多面的な対策が求められる.さまざまな病因が関与するほか,血圧値は透析時・非透析時間でも変動しやすく,病態評価は不可欠な第一歩となる.闇雲な数値達成は,必ずしも予後改善にはつながらない.高血圧では過剰体液量の関与が最大の特徴であり,ドライウエイトの適正化は最重要課題となる.一方で,透析低血圧・起立性低血圧・常時低血圧は透析関連低血圧と総称され,安全な透析治療の障害となるだけでなく,いずれも予後不良因子である.透析間の体重増加抑制や家庭血圧の測定励行,栄養管理など,コメディカル・スタッフとも協力しながら対応する.

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透析患者の心臓死の2 大原因は心不全死と心臓突然死である.透析患者では多くの心疾患を合併することはいうまでもない.各心疾患をいかに予防するかに配慮するとともに,いかにして心不全死や心臓突然死の主因である致死性不整脈を予防するかも,心予後改善には重要な課題である.心不全死の過程である,心リモデリングをどのように抑えるか,不整脈の誘因因子をどのように排除するかがポイントとなる.近年,何気なく当たり前のように使用している透析液のK 濃度やCa 濃度がQT 延長を介して,致死性不整脈に関与しているとの報告がある.

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安定した血液透析を行うためには良好なバスキュラーアクセス(VA)の作製と維持が必要である.VA の選択は良好な開存率と合併症の少なさから自己血管を用いた動静脈瘻(AVF)が第一選択とされる.それが不可能な場合,人工血管を用いた動静脈瘻(AVG),動脈表在化,カフ型カテーテルがVA として用いられる.良好なVA を維持するためには感染をはじめとした合併症を未然に防ぐこと,また早期の発見と対処が必要である.

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透析患者の死因として感染症が重要な位置を占めることが,日本透析医学会統計調査委員会の統計調査から明らかになっている.死因としての感染症は,肺炎および敗血症が2 大感染症である.肺炎の診療ガイドライン(成人市中肺炎,成人院内肺炎,医療・介護関連肺炎)が日本呼吸器学会から出版されており,肺炎の重症度の判定およびその予防・治療に活用されている.おもな敗血症にはカテーテル関連血流感染やバスキュラーアクセス関連感染および重症下肢虚血の壊疽によるものがある.慢性血液透析用バスキュラーアクセス作製および修復に関するガイドラインが出版されており,治療および予防に活用されている.肺炎球菌およびインフルエンザウイルスのワクチン接種は発症の予防,また肝炎ウイルスに対する直接型抗ウイルス薬は患者の生命予後の改善に寄与することが考えられる.

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超高齢社会を迎え,老年症候群の一症候であるフレイル,サルコペニアに早く対応することが,透析患者の予後改善に重要である.早い時期からフレイル,サルコペニアに気づくためには,まずは関心をもち,診断基準を知っておく必要がある.サルコペニアの診断基準では,筋肉量は電気インピーダンス(BIA)法または二重エネルギーX 線吸収(DXA)法で評価する.しかし最近では,第3 腰椎レベルの腹部筋肉面積が肝疾患患者のサルコペニア判定に利用できることが報告されており,透析患者に応用できる可能性がある.フレイルの診断基準は統一されていないが,日本人高齢者ではJ―CHS 基準や介護予防チェックリストが利用できる.フレイル,サルコペニアの予防・改善には,栄養と運動の両面から介入する必要がある.栄養面では透析日および非透析日とも,分岐鎖アミノ酸を中心としたたんぱく質を十分に確保する.一方,運動では週3〜4 回の筋肉トレーニングや有酸素運動がサルコペニア予防に有効である.

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睡眠障害は血液透析患者に非常に多い合併症である.透析患者の睡眠障害は,単に不眠症だけでなく睡眠時無呼吸症候群(SAS),周期性四肢運動(PLM),むずむず脚症候群(RLS)も高頻度に合併し,重複かつ重症の比率が高いことが大きな特徴である.睡眠障害の個々が重症で重複する場合だけでなく,個々は軽症や中等度であるが3 重複や4 重複することで眠気や不眠の症状が重症化する場合もある.一方で睡眠障害には不眠症やRLS のように患者が自覚しやすいものと,SAS やPLM のように患者が自覚しにくく積極的な検査で初めて発見診断できるものがあることを知る必要がある.SAS の改善は透析患者の生命予後に影響し,RLS の治療はQOL 改善に寄与するものと考えられている.

【用語解説】睡眠深度

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慢性腎臓病(CKD)における骨ミネラル代謝の異常は,長期的には血管を含む全身の石灰化を介して生命予後にも影響を及ぼす病態として,全身性疾患として「慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD―mineral and bonedisorder;CKD―MBD)」という概念で捉えられるようになった.わが国では2006 年と2012 年にガイドラインが発表されたが,これらのガイドラインは生命予後をoutcome として策定されている.本稿ではCKD―MBD ガイドラインのoutcome と診療マーカーの臨床的意義について概説する.

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透析患者における末梢動脈疾患の頻度は高く,不良な予後と関連する.症状がないことも多く,ankle brachial index(ABI)によるスクリーニング,フットケアにより,早期の発見を行う必要がある.その他の対策としては,生活習慣の改善・薬物療法・運動療法が治療においては重要であるが,適応がある場合には,血管内治療・外科的バイパス術が行われる.そのほか,微小循環の改善目的でlow density lipoprotein(LDL)吸着療法も試みられる.皮膚潰瘍がみられる場合には,潰瘍病変に対する対策が,コントロール不可能な感染・疼痛,下肢構造が保てない場合には下肢切断が行われるがその後の予後は不良である.生命予後の改善だけではなく,QOL の改善,救肢が治療目的となる.

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日本の透析患者の生命予後改善に貢献した透析の特徴には,長い透析時間,ハイフラックスダイアライザとRO 装置に加え,地域・施設の差なく透析液水質を上げたセントラル透析液供給装置の普及がある.このため,2013 年版「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」はわが国の既治療の確認に近く,週3 回1 回4 時間以上の透析でほぼ達成できるものとされる.この標準的なスケジュールは,現在の社会,病態などの利害関係において合理的で維持可能な妥協点である.その枠組みで行う大量液置換HDF に生命予後改善のきざしが見えてきた.頻回短時間,長時間など透析スケジュールの変更にも,患者,医療者双方に負担はあるものの,生命予後に好影響が予測される.

連載 腎不全とともに生きる患者および家族へのナラティブ・アプローチ

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事例紹介 Aさんは,糖尿病性腎症を原疾患とする60 歳代の男性.30 年以上も前から糖尿病を指摘されて治療を受けており,徐々に腎機能の低下を認めて透析導入,導入時の体重は70 kg 台であった.家族構成は,妻と二人暮らしで娘が4 人県内に在住している.当院へ維持透析目的で転入となったが,血管が脆弱でシャントの発育不良もあって穿刺困難が続いていた.転入当初から表情が暗く,死を連想させる悲観的な発言が多く聞かれていたA さんに対して,私たちに何ができるか悩みながら関わった事例である.

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第27 回 日本サイコネフロロジー研究会

目次

次号予告

編集後記

基本情報

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臨牀透析
33巻8号 (2017年7月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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