呼吸器ジャーナル 66巻4号 (2018年11月)

特集 結核・非結核性抗酸菌症—エキスパートが教える 実臨床に役立つ最新知見

序文 佐々木 結花
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 本邦において,古の時代,結核は国民病であった.経済,文化,戦争,地域性など,様々な背景によって姿を変え,現在でも多くの人々が影響を受けている.ロベルト・コッホが結核菌を発見して以来,多くの医学者が結核撲滅に対し努力を続け,診断,治療,予防対策を確立してきた.医学の発展のなかで結核病学が果たした役割は大きい.

 現在,本邦では結核が減少し,臨床上「遭遇しないであろう領域」と思われていないか,不安となる.30年以上結核に携わると,頭が結核だらけとなってそのように思うのかと自省するが,「予防可能例」の患者さんを目にすると,また,その不安が頭をもたげてくる.

Ⅰ.結核・非結核性抗酸菌症の臨床

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Point

・日本における外国出生結核患者の割合は増加を続けており,2016年は全結核患者の7.6%,20歳代では57.7%を占めた.

・外国出生結核患者は20歳代が半数以上と若年者が多く,多剤耐性結核の割合が高い.

・日本においても入国前健診実施の方針が示されており,成果が期待される.

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Point

・各国では,肺NTM症の疫学実態を把握するために,様々な手法を用いた疫学研究が試みられてきたが,その多くが近年の肺NTM症の増加傾向を示唆している.

・本邦では,1970年代初頭からの一連の疫学調査により肺NTM症が他国に比して高蔓延状態にあり,なお増加傾向であることが示されている.

・肺NTM症の増加傾向の要因として,①感染発病リスクの増大による実際の患者数の増加と,②肺NTM症の診断機会の拡大が新規に診断される患者の増加に寄与している可能性が考えられる.

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Point

・抗酸菌検査の進歩(主として迅速化,高精度化)がもたらした恩恵について解説する.

・現行の抗酸菌検査法が抱える課題について解説する.

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Point

・肺結核の初期病変は気道末端に始まる粒状影である.

・気道を介して,粒状影,(多)小葉性浸潤影,気管支〜細気管支病変が広がる.

・HRCT上,浸潤影,すりガラス状影,粒状影の共存には特に注意する.

・画像診断上の課題は,微細粒状影より,小葉性〜多小葉性浸潤影にある.

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Point

・最もよくみられる病型は,結節・気管支拡張(nodular bronchiectatic;NB)型である.

・長期の経過中に,様々な合併症(真菌感染,喀血,気胸,悪性腫瘍)が生じることがあり,画像上の変化に留意する必要がある.

・外科療法や気管支動脈塞栓術など各療法に適した画像収集や画像作成が必要である.

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Point

・抗結核化学療法の原則は,常に多剤併用を行い,決して単剤治療を行わないことである.

・結核治療の成功のためには,副作用の適切なマネージメントが重要である.

・多剤耐性結核の治療は困難であり,結核専門施設に送るべきである.

潜在性結核 猪狩 英俊
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Point

・結核低蔓延国に向かっている日本では,潜在性結核感染症の診断と治療は重要な対策になっている.

・潜在性結核感染症の診断は,インターフェロンγ遊離試験を使用する.

・インターフェロンγ遊離試験の特性(感度・特異度)に加えて,有病率も評価することが重要である.

・潜在性結核感染症の治療対象は,発病リスクを考慮し,相対リスクが4以上の状態にある者に勧奨している.

・潜在性結核感染症の治療には,イソニアジドを6〜9カ月内服する治療になる.

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Point

・低蔓延化に伴い結核に対する医療従事者の関心が低下し,結核の診断の遅れによる院内・施設内感染が目立つ.

・早期に低蔓延国となるためには,結核患者の確実な治療,接触者健診の強化,結核菌分子疫学調査の活用,潜在性結核感染症の早期発見と治療(発病予防),が重要である.

・低蔓延化に伴う結核病床の減少により,各二次医療圏の感染症指定医療機関での入院受け入れ体制の整備が必要である.

抗GPL抗体の開発と臨床 北田 清悟
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Point

・MAC壁成分であるGPLに対する血清抗体を測定するキットが市販されており,保険診療で使用できる.

・優れた感度,特異度,ならびに陽性的中率を有し,肺MAC症の補助診断として有用である.

・疾患活動性を反映することから経時的に測定することによって難治性のMAC症の管理ツールとしても利用できる.

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Point

・肺MAC症治療の目的は自覚症状の改善と,重症化予防による長期予後の改善である.

・治療開始時期は患者個人の立場から考えられる利益とリスクを比較して決めるべきである.

・治療期間は少なくとも菌陰性化後1年以上必要で,再感染対策が今後の重要な課題である.

M. abscessus症の治療方針 森本 耕三
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Point

M. abscessus complexはM. abscessus subsp. abscessus,M. abscessus subsp. massiliense,およびM. abscessus subsp. bolletiiの3亜種に分けられる.

・主にM. abscessus subsp. abscessusおよびM. abscessus subsp. bolletiierm(41)遺伝子の活性化によりマクロライドの誘導耐性が起こり難治化の原因となる.

M. massilienseおよびC28 sequevarのM. abscessus subsp. abscessusはマクロライド感受性となる.

・専門医と連携し,症例ごとに慎重に治療方針の決定を行う必要がある.

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Point

・肺Mycobacterium avium complex(MAC)症の治療後や治療経過中に呼吸器系検体から新たな菌種が検出される場合があり,定期的に検出菌の同定検査を考慮すべきである.

・肺M. kansasii症は日本では肺MAC症に次ぐ頻度であり,肺結核症との鑑別が問題になる.

・稀なNTM症に遭遇した際には,混入・定着か真の起因菌かを慎重に判断する必要がある.

・特にM. gordonae,M. fortuitumに関しては比較的分離頻度が高いものの,混入・定着である可能性が高い.

・全身症状,空洞を有する症例,経時的に増悪する症例では可能な限り専門機関に相談し,分子生物学的手法で菌を同定することが望ましい.

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Point

・クラリスロマイシンは主たる副作用として,味覚障害,肝障害,消化器症状などを認める.

・リファンピシン,リファブチンは主たる副作用として,肝障害,腎障害,骨髄抑制,アレルギーなどを認める.リファブチンはぶどう膜炎も認める.

・エタンブトールは主たる副作用として,中毒性視神経炎,末梢神経障害,骨髄抑制,アレルギーなどを認める.

・ストレプトマイシンは主たる副作用として,腎障害,聴神経・前庭機能障害などを認める.

肺非結核性抗酸菌症の外科 白石 裕治
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Point

・肺非結核性抗酸菌症では診断確定時から外科治療介入の可能性を念頭に置く.

・外科治療の目標は根治ではなく病状のコントロールである.

・切除対象は空洞,気管支拡張,荒蕪肺などの気道破壊性病変である.

・手術は肺非結核性抗酸菌症の内科・外科治療に精通した施設で行うことが望ましい.

Ⅱ.結核・非結核性抗酸菌症の基礎研究

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Point

・結核菌は活性化されたマクロファージや樹状細胞での殺菌に抵抗する細胞内寄生性病原体である.

・結核菌抗原により誘導されたT細胞を中心とする獲得免疫は多彩で菌の排除を促進するものと許容するものがある.

・菌はこのように相反する宿主免疫機構を利用するがごとくに,生体内で排除されず長期の寄生や疾患が成立する.

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Point

・抗結核薬の作用機序とその耐性獲得機構は,各薬剤によって異なる.

・薬剤感受性試験には,培養を用いる方法と遺伝子診断を応用した迅速検査法がある.

・薬剤耐性結核の発生防止には,耐性化のメカニズムと各検査法の原理を理解することが重要である.

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Point

・非結核性抗酸菌は環境からヒトに感染すると考えられるが,多くの非感染者にとって環境からの曝露に注意する必要はない.

・肺MAC症患者は治療後しばしば新たな菌を再感染するため,その予防のために環境からの曝露は注意すべき課題と考えられる.

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Point

・virulenceとhost defenseとのせめぎ合いの観点から,非結核性抗酸菌は結核菌よりもvirulenceが弱いにもかかわらず,免疫能がほぼ正常な宿主で感染症となりうる.

・非結核性抗酸菌に対する免疫は,マクロファージとTh1細胞を中心とした細胞性免疫が主体である.

・非結核性抗酸菌は,通性細胞内寄生菌で,マクロファージ殺菌エフェクターに抵抗性である.

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Point

・近年の全ゲノム解析により,NTM症について多くの新事実が明らかになってきた.

・NTM臨床分離株群のゲノム解析を通して,NTMの病態形成に重要な因子や適応進化の様式に迫ることができる.

・NTM臨床分離株および環境由来株のゲノム解析を通して,NTM症の伝播・感染経路に迫ることができる.

Ⅲ.臨床におけるトピックス

下気道と抗酸菌感染 倉島 篤行
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Point

・気管・気管支の構造的偏位が発病頻度に結び付いている.

・Lady Windermere syndromeは無視はできない.

・肺MAC症病巣の肺内分布特徴は結核症とは異なる理由がある.

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Point

・肺外非結核性抗酸菌(NTM)症は,限局型と播種型(全身型)から成り,好発部位は皮膚やリンパ節,骨などである.

・限局型は,宿主要因に関係なく発症し,外科的切除などの局所治療で治癒することがある.

・播種型は,宿主要因を背景に発症し,抗菌薬治療だけでは不十分なこともある.

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Point

・非結核性抗酸菌(NTM)症は播種性NTM症と肺NTM症に大別され,両者の臨床像の違いから病態メカニズムは異なることが推察される.

・播種性NTM症は,Th1を中心とする細胞性免疫に関連する一連のシグナル伝達の異常により発症することが多い.

・肺NTM症は,病態生理および疫学データから疾患感受性遺伝子の存在が疑われるが,詳細な機序は十分に解明されていない.

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症例1 70代女性(図1)

【既往歴】白内障術後,子宮筋腫術後,虫垂炎術後.

【生活歴】喫煙歴なし.

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呼吸器ジャーナル
66巻4号 (2018年11月)
電子版ISSN:2432-3276 印刷版ISSN:2432-3268 医学書院

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