感染対策ICTジャーナル 14巻4号 (2019年10月)

Special feature 国内・海外のガイドラインから読み解く 手術部位感染(SSI)対策の正解

■Update 1

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はじめに

 手術部位感染(SSI)が発症すると,入院期間が延長し,医療費が増加するとともに,患者の手術治療に対する満足度が著しく低下することになる。SSIを減少させるために,日本の外科医と手術に関与するスタッフは努力を続けている。

 米国疾病管理予防センター(CDC)が1999年に発表したSSI防止のためのガイドライン以降,SSIに関する様々なガイドラインが発表されてきた。特に2016年11月~2017年5月にかけては,世界保健機関(WHO),米国外科学会/米国外科感染症学会(ACS/SIS),CDC(改訂版)のガイドラインと次々に発表された。また,本邦のガイドラインもいくつも発表されている。

 ガイドラインはいずれもエビデンスを重視して推奨内容が決められるとされているが,発表されたガイドラインを比較検討してみると,扱っている項目については大きな違いはないが,その推奨内容は必ずしも同じではない。

 本稿では,ガイドラインの推奨内容の違いやその問題点に関して概説する。

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 手術部位感染(SSI)対策を考える上で,サーベイランスは欠かせない。ガイドラインで推奨されているSSI対策はあくまでプロセスであり,最終的にはアウトカムであるSSIを減少させなければ,対策を導入する意味は無い。また,SSI発生頻度が既に低いのであれば,新たに導入する対策の上乗せ効果もあまり期待できない。SSI対策の実施前後でサーベイランスが必要であることは言うまでもない。

■Perioperative SSI対策における周術期管理の最新エビデンス

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はじめに

 医療関連感染(Healthcare-Associated Infection:HAI)を予防するうえで耐性菌対策は重要な課題となっており,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus:MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-Resistant Enterococci:VRE)の感染によって,死亡率の増大や入院期間の延長,医療費の増加などが発生し,感染制御に重要な影響を与えている1)。手術部位感染(Surgical Site Infection:SSI)においても同様で,耐性菌によるSSIの発症は重篤化や治療の難渋化が予想される。またそれだけでなく,SSI発症患者には創部の洗浄やドレナージ管理などの術後処置が頻繁に行われることになるため,多くの医療従事者の介入が必要になる。それらの処置やケア,医療従事者を介した院内伝播のリスクが高くなることからも,SSI対策において保菌者対策と伝播予防策を適切に実践することが重要である。

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はじめに

 近年,世界保健機関(WHO)1)やアメリカ外科学会-アメリカ外科感染症学会(ACS-SIS)2),アメリカ疾病管理予防センター(CDC)3)などからSurgical Site Infection(SSI)予防ガイドラインが次々と発表され,その中で血糖や体温などの全身管理における推奨も記述されている。また本邦においても日本外科感染症学会(JSSI)から発表された『消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2018』4)の中でも,予防抗菌薬投与や術中処置と並んで周術期全身管理における推奨が示されている。このように,SSIを予防するためには抗菌薬や消毒薬の選択だけではなく,全身管理の重要性が注目されている。本稿では,各ガイドラインの推奨をもとにSSI対策における周術期全身管理の役割について解説する。

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はじめに

 手術部位感染(SSI)は院内感染症の一つで尿路感染症に次いで2番目に多い感染症で,約20%弱を占めるとされ,外科手術症例で発生する最も多い院内感染症である。一度SSIが発生すると,術後在院日数延長や医療費の増加を招く。適切な予防的抗菌薬を使用すれば,SSIを減少させることは明らかである。米国疾病管理予防センター(CDC)より『手術部位感染防止ガイドライン1999』1)が発表されて以来約20年が経過し,我が国でも予防抗菌薬適正使用に対する意識は多くの外科医にとっても高まっていると考えられる。予防的抗菌薬投与に関して4つの原則を留意する必要がある。第1に予防的抗菌薬は,SSIの頻度を減少させることが証明されている手術に使用すること,第2に安全かつ安価で,有効なスペクトルを持つ抗菌薬を使用すること,第3に皮膚切開時に血中および組織内で殺菌濃度に達すること,第4に抗菌薬の治療域濃度を創閉鎖後2~3時間持続させること,の4つである。したがって,予防的抗菌薬使用にあたり留意すべき点としては,選択,投与開始時期および再投与,および投与期間の4点である。本稿では,2016年に発刊された日本化学療法学会と日本外科感染症学会のconsensus statementである『術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン』2)を踏まえて予防的抗菌薬投与の考え方について述べる。

■Know-how SSI対策の基本と製品選びのコツ

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SSIと皮膚管理

 皮膚の各部位には多数の細菌が存在しており,普段は生体防御としての役割を担っている1)。しかし,手術時にはこれらの皮膚表面に生存する細菌は,術中に組織や切開部に残存することで手術部位感染(Surgical Site Infection:SSI)の原因になる可能性がある。術野消毒や術中の創の汚染防止,術後の創被覆は,このSSIを防止するための感染対策であり,手術開始から創の一次治癒までの間,病原体の侵入を防止する必要がある。

 本稿では,術野消毒の基本的事項と汎用される各消毒薬の特徴と選択時の注意点,各ガイドラインの推奨内容や創の汚染防止に関する情報を中心に紹介する。

❷手指衛生と手袋 小林 美奈子
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手指衛生

 手指はあらゆる場面で常にヒトや環境に触れているため,手指衛生は医療現場において基本中の基本である。手指衛生にエラーが生じると,手指に付着した汚れや病原微生物は瞬く間に広がり,これが伝搬経路となり医療関連感染につながる。

 手指衛生のための手洗いの種類には,❶日常的手洗い,❷衛生的手洗い,❸手術時手洗いがあり,それぞれ定義や方法,目的が表1に示すごとく異なっている。

❸環境清掃と環境消毒薬 嶋 雅範
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 手術室は『手術医療の実践ガイドライン』において高度清潔区域(バイオクリーンルーム)の清浄度クラスⅠ,もしくは清潔区域(一般手術室)の清浄度クラスⅡに分類され,病院内において最も高い清浄度を要求される区域である。一般的に空中に浮遊する細菌が術野に落下して手術部位感染(SSI)を引き起こすリスクは低いと言われている。しかし,環境要因が少なからず関係するSSIのリスク低減・予防のために,手術室の環境清掃は重要である。

 また手術室に従事するスタッフを始め多くの医療従事者は,「手術室はきれいな場所」という概念が影響し,環境表面の衛生概念が欠如していることがある。不特定多数のスタッフの手指が触れる場所は清潔に維持することで,汚染から患者を守るだけでなく,医療従事者を感染から守る事が重要となる。

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はじめに

 手術医療は,用いられる器材の適切な使用なくしては成立しない。近年は内視鏡手術やロボット支援手術などの低侵襲手術,あるいは体内にインプラントを留置する手術など,手術手技自体が大きく変化してきている。これら手術手技を可能にしているのは使用する器材の高機能化であるが,一方で構造の複雑化も著しく,その適切な運用には器材の構造や特徴を理解することが必須である。したがって,手術に携わる者は従来から使用されている鋼製小物の扱いに十分精通しておくことはもちろんだが,新しい手術手技のために導入された器材の扱いについても習熟することが求められる。これは,安全で迅速に手術を進めていくうえで極めて大事であり,また,手術中に使用中の器材のトラブルにも適切に対応し,手術を問題なく終わらせることにつながる。

 器材の術中管理で特に留意しなければならないのは,破損と汚染である。これらの事象の発生は,手術時間の延長,侵襲度の高い手術術式への変更,あるいは手術部位感染(SSI)につながる可能性があり,手術患者に不利益をもたらす要因となる。したがって,手術中に器材を扱う者は,破損や汚染予防に努めると同時に,手術中にこれらの事象が起こってしまった場合でも適切な対応ができるようにしておくことが大事である。

 本稿では,特に手術中の器材の破損の予防と汚染時の対応に焦点を当てて述べる。

■Operation 手術種類別にみたSSI対策の実際

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はじめに

 SSI(Surgical Site Infection:手術部位感染)はいかなる疾患,手術でも起こりうる合併症である。清潔手術である整形外科や血管外科手術とは異なり,消化器外科手術では腸管を扱うために汚染度を示す創分類は必然的にクラス2(準清潔手術)以上となり,SSIの発生率は高くなる。ここでは消化器外科に限定し,日本外科感染症学会(JSSI:Japan Society for Surgical Infection)ガイドライン1)を踏まえたSSI予防対策について解説する。

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はじめに

 米国疾病管理予防センター(CDC)の新ガイドライン(CDC 2017)の冒頭で「手術部位感染(SSI)のおよそ半数はエビデンスに基づいた対策を行うことで予防できる」と記載されている1)。SSI対策に関するエビデンスは様々な方法で入手できる。SSI対策は世界的に大きな問題となっており,様々な団体がそれぞれの視点からガイドラインを作成し始めた(表1)。しかし,対象とするターゲットが異なること,引用文献と評価方法が異なることなどから,エビデンスが脆弱な領域ではガイドラインごとに少しずつ主張が異なる。ガイドラインを利用する側からすれば非常にわかりにくく,どのガイドラインのどの推奨を信じてよいのか混乱の元となっている。

 整形外科手術は,開放骨折でない限りほぼ清潔手術である。CDCや世界保健機関(WHO)によれば,SSIリスクは術野汚染細菌量と比例する2,3)。インプラントを使用する手術では,SSI原因菌はインプラントを挿入する際に創内に混入すると考えられており,インプラント使用時は少量の汚染菌でも感染が成立する2)。清潔整形外科手術の術野汚染機序は限られており,消毒後の皮膚に残存する細菌の再増殖と落下細菌が主体となる。SSIが術後経過に及ぼす影響の大きさを考えると,これらの要因に対し整形外科医が特に敏感になることは想像に難くない。

 このような意識の高さから,整形外科領域では世界中の専門家で国際コンセンサスを作成する試みがなされた4,5)。実臨床で問題となる様々なシチュエーションを厳選し,それらに対して現時点で考えられる最善の対策をまとめた。残念ながら,その多くはエビデンスが不十分である。そのような状況でもより正確な判断が行えるよう,冷戦時代に米国軍が開発したDelphi法に従ってコンセンサス形成が試みられた。2013年に初版が作成され,日本語ダイジェスト版がまとめられている4)。2018年の夏に大幅な改訂が行われ,全体と10個の専門領域に細分化し,650を超える設問を厳選し,200,000件以上の文献を引用しコンセンサスをまとめた(MSIS 2018,図1)5)。それぞれの設問に対して現時点でどの程度のエビデンスがあり,また不足しているかが一目瞭然となった。整形外科領域で最も情報量が多く,かつ実践的な内容になっている。本稿ではこのMSIS 2018も参考に,特に整形外科医としての立場から近年のSSI対策に関する考え方を整理する。

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はじめに

 手術部位感染(Surgical Site Infection:SSI)は回避すべき術後合併症である。心臓血管外科においては,深部胸骨感染症(DSWI)あるいは縦隔炎は臓器・腔のSSIに相当し,頻度は0~4%と少ないものの死亡率は7~47%に及ぶため,発症の予防がとりわけ重要である。本邦における発症頻度は1.8%,死亡率は25.8%である1)。SSIはまた,入院費用の増加や入院期間の延長をもたらす。縦隔炎を発症するとSSIを発症しない場合の79万円に対し,560万円余分にかかり,入院期間はSSIを発症しない場合の17.9日に対し,80日を要する2)

 SSIの予防に関しては1999年に米国疾病管理予防センター(CDC)から『SSI予防のためのガイドライン』3)(以下CDC 1999)が公開された。近年,世界保健機関(WHO)から,『WHO SSI予防ガイドライン』4)(以下WHO 2016),米国外科学会/米国外科感染症学会(ACS/SIS)から『SSIガイドライン,2016改訂版』5)(以下ACS/SIS 2016)が公開され,さらにCDCから,『SSI予防のためのガイドライン,2017』6)が公開された。

 本稿では,費用(定価ベース)を含めた一宮市立市民病院(当院)のSSI予防策を紹介し,SSI予防バンドルとしての実際の効果を示す。また近年の3つガイドラインを比較し,相違点や最近のトピックについて言及する。ガイドラインを参考にしつつ,各施設の実状に応じたSSI予防策を選択し,それらをすべて実践することの重要性について述べる。

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はじめに

 陰圧閉鎖療法(Negative Pressure Wound Therapy:NPWT)は急性および慢性の創傷ケアに広く用いられている。NPWTは治癒傾向のない糖尿病性壊疽や,熱傷および外傷,さらには手術創など,多くの種類の創傷の標準的なケアとなってきている。また最近では,予防的に切開創にNPWTを使用することでSSIを回避する試みも行われるようになってきている。

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目次

CRBSI対策の考え方 森兼 啓太
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感染対策ICTジャーナル
14巻4号 (2019年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-4964 ヴァン メディカル

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