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はじめに
米国疾病管理予防センター(CDC)の新ガイドライン(CDC 2017)の冒頭で「手術部位感染(SSI)のおよそ半数はエビデンスに基づいた対策を行うことで予防できる」と記載されている1)。SSI対策に関するエビデンスは様々な方法で入手できる。SSI対策は世界的に大きな問題となっており,様々な団体がそれぞれの視点からガイドラインを作成し始めた(表1)。しかし,対象とするターゲットが異なること,引用文献と評価方法が異なることなどから,エビデンスが脆弱な領域ではガイドラインごとに少しずつ主張が異なる。ガイドラインを利用する側からすれば非常にわかりにくく,どのガイドラインのどの推奨を信じてよいのか混乱の元となっている。
整形外科手術は,開放骨折でない限りほぼ清潔手術である。CDCや世界保健機関(WHO)によれば,SSIリスクは術野汚染細菌量と比例する2,3)。インプラントを使用する手術では,SSI原因菌はインプラントを挿入する際に創内に混入すると考えられており,インプラント使用時は少量の汚染菌でも感染が成立する2)。清潔整形外科手術の術野汚染機序は限られており,消毒後の皮膚に残存する細菌の再増殖と落下細菌が主体となる。SSIが術後経過に及ぼす影響の大きさを考えると,これらの要因に対し整形外科医が特に敏感になることは想像に難くない。
このような意識の高さから,整形外科領域では世界中の専門家で国際コンセンサスを作成する試みがなされた4,5)。実臨床で問題となる様々なシチュエーションを厳選し,それらに対して現時点で考えられる最善の対策をまとめた。残念ながら,その多くはエビデンスが不十分である。そのような状況でもより正確な判断が行えるよう,冷戦時代に米国軍が開発したDelphi法に従ってコンセンサス形成が試みられた。2013年に初版が作成され,日本語ダイジェスト版がまとめられている4)。2018年の夏に大幅な改訂が行われ,全体と10個の専門領域に細分化し,650を超える設問を厳選し,200,000件以上の文献を引用しコンセンサスをまとめた(MSIS 2018,図1)5)。それぞれの設問に対して現時点でどの程度のエビデンスがあり,また不足しているかが一目瞭然となった。整形外科領域で最も情報量が多く,かつ実践的な内容になっている。本稿ではこのMSIS 2018も参考に,特に整形外科医としての立場から近年のSSI対策に関する考え方を整理する。
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