感染対策ICTジャーナル 14巻3号 (2019年7月)

Special feature 何が同じで,どこが違う? 現場向けESBL産生菌・CRE(CPE)対策

■Important ESBL産生菌・CRE(CPE)対策のための3大知見―両耐性菌の共通・相違の視点から

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はじめに

 本稿では,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(Extended-Spectrum β-Lactamase:ESBL)産生菌とカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae:CRE)およびカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae:CPE)の国内・海外の疫学に関する内容を,両耐性菌における共通点・相違点の観点から述べる。

 なお,詳細な解説は他稿に譲るが,特に “CRE” という用語は各地域において異なった定義で用いられている可能性があるため,地域間の比較を行う際は注意が必要である。

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はじめに

 日本においては依然としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が最多の耐性菌ではあるが,2000年代以降多剤耐性のグラム陰性桿菌の急速な増加が新たな問題となってきている。特に注目すべきは大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科の耐性菌で,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌を含む第三世代セファロスポリン耐性腸内細菌科細菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE),カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)である。これらは世界保健機関(WHO)が公表した『新規抗菌薬の開発が緊急に望まれる耐性菌リスト』の中で最も高い優先度に位置付けられている[https://www.who.int/news-room/detail/27-02-2017-who-publishes-list-of-bacteria-for-which-new-antibiotics-are-urgently-needed(2019年3月20日アクセス)]。日本は四方を海に囲まれ地理的に隔離されている特性から,これまで日本の耐性菌の状況は海外とは異なる状況にあった。しかし近年の交通や流通網の発達と高速化により,ヒト・動植物・食品を含む物を介した耐性菌の国内への侵入が増加することが予想され,現に一部ではすでに問題となっている。したがって,日本だけでなく海外の耐性菌の動向を知ることも耐性菌対策において重要であると考えられる。

 ESBL産生菌とCPEの両者に共通する問題点として,1)耐性遺伝子がプラスミドを介して株や菌種を跨いで拡散する,2)耐性菌が宿主の腸管内に定着しやすく市中や他施設からの持ち込みが起こりやすい,の2点が主としてあげられる。一方で両者には基質となるβ-ラクタム系薬の分解性に差異があり,ペニシリン系薬やセファロスポリン系薬は両者ともに分解するが,ESBLはカルバペネム系薬を分解できず,CPEはモノバクタム系薬を分解できないことが多い。

 本稿では,ESBL産生菌とCRE・CPEの定義と分類を中心に,これらの耐性菌による問題点について解説したい。

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はじめに

 種々の薬剤耐性菌の中でも,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(Extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生菌やカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(Carbapenemase-producing Enterobacteriaceae:CPE)は,耐性遺伝子が伝達性プラスミドにより媒介され菌種を超えて伝播することや,ヒトの腸管内に無症候性に保菌される特徴を持つため,伝播を完全に制御することは難しい。ESBL産生菌については,いまだに全国的な増加傾向に歯止めがかかっておらず1),もはや医療現場だけでなく環境,動物,食物などを介して健常者にも拡がっており,尿路感染症など市中感染症の原因となっている2)。一方,CPEは,ESBL産生菌に比べて検出頻度はかなり少ないと思われるが,保菌者が水面下で拡がっている可能性もあり,医療施設においては1例検出された場合でもアウトブレイクに準じて早急に対応するように求められている3)。昨今,感染対策への意識が高まり,特に急性期の医療施設では薬剤耐性菌検出患者に対して個室配置を含む接触予防策が積極的に実施されるようになった。その一方で,薬剤耐性菌検出患者への一律的な接触予防策の有効性や,経済的・人的負担,倫理的配慮や解除基準などについて様々な議論がされるようになり,より効果的で実践的な薬剤耐性菌対策が模索されている。

 本稿では,まず,医療施設における薬剤耐性菌対策として一般的に参考にされている米国疾病管理予防センター(CDC)の『隔離予防策のガイドライン』4)やその一部として公開された『医療施設における多剤耐性菌の管理』5)における接触予防策について振り返り,整理する。次に,本題であるESBL産生菌とCPEを含む薬剤耐性菌に対する接触予防策の実施および解除基準について,その後に公表された各種指針やガイダンスを抜粋し,今後のESBL産生菌とCPEに対する接触予防策の課題について考察する。

■Coping skill 現場別 ESBL産生菌・CRE(CPE)対策の実践―両耐性菌の共通点・相違点を踏まえて

❶一般外来 上灘 紳子
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はじめに

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(Extended Spectrum β-Lactamase:ESBL)産生菌およびカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae:CRE)は,ともに伝播経路は接触感染で,健常人も腸管内に長期に保菌しやすいという共通点があるが,感染症を起こしたときの治療の困難さや感染制御の難しさでは,CREは特に問題視されている。

 米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のガイドライン『医療環境における多剤耐性菌の管理2006』1,2)では,「外来環境では,多剤耐性菌の感染または保菌が判明している患者には標準予防策を適用し,湿性生体物質への接触には手袋とガウンを確実に用いること」を推奨している。

 本稿では,鳥取大学医学部附属病院(当院)で実施している外来における抗菌薬耐性菌対策について,外来エリアでの伝播疑い事例を踏まえて述べる。

❷救急外来 椎野 泰和
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救急外来

1 特殊性

 救急外来には,内因,外因,急性期,慢性期はもちろん,海外からの渡航者,海外での治療歴を持つ患者,帰国者など多種多様な患者が24時間出入りし続ける極めて特殊な環境である。また,患者だけでなく,医療従事者についても不特定多数が入れ替わり立ち替わりする可能性があり,固定メンバーが存在しない場合もありえる。このような状況で,患者,事務員,医療従事者が一定のルールを守って感染対策を行うことは必ずしも容易ではない。各病院がベストではなくても,今できる感染対策を着実に行っていくことが重要である。

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はじめに

 尿路感染は医療関連感染の最も一般的な原因であり,特に尿路カテーテルを使用している患者においては全医療関連感染の40%を占めると報告されている1)

 本来,薬剤耐性菌でも感受性菌でも尿路感染を防ぐために心がけることは同じであり,臨床的に問題となりやすいカテーテル関連尿路感染[Catheter-Associated Urinary Tract Infection(CAUTI)]については,ガイドラインに準拠した尿路管理を行うことが最も大切である。

 しかし,ガイドラインに基づいた厳重な対策を行っているつもりでも尿路感染のアウトブレイクは起きうるものであり,兵庫県立リハビリテーション中央病院(当院)におけるExtended-Spectrum β-Lactamase(ESBL)産生菌アウトブレイク事例と具体的な対策を紹介したい。

❹消化器外科 畑 啓昭 , 大倉 啓輔
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はじめに

 消化器外科では,周術期の患者がAntimicrobial Resistance(AMR)対策の基本的な対象となる。手術は準清潔手術に分類されるものが多く,ほぼ全例で予防抗菌薬が投与されるため,細菌叢への影響が避けられない。また,肝胆膵疾患の術前には,胆管炎や膵炎などの感染症を治療しながら手術を迎えることも多い。術後には,ドレーンが留置されている場合が多く,周囲環境を汚染するリスクは高い。ひとたび縫合不全などの合併症が起きると,緊急での検査・出棟,膿瘍のドレナージやドレーンの交換処置,胃瘻・腸瘻チューブの管理,日々のガーゼ交換など,感染対策上注意すべきことが一気に増える。本稿では,このような消化器外科の患者から,Extended-Spectrum β-Lactamase(ESBL)産生菌やCarbapenem-Resistant Enterobacteriaceae(CRE)が検出されないように,あるいは検出された場合でも伝播させることがないように注意すべき点をまとめる。

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はじめに

 長期療養施設・介護施設には様々な形態が存在している。代表的な形態としては,住居のみ提供される住宅系施設(必要度に応じて介護サービスなどを外部から取り入れる場合もある),グループホームなどの福祉系施設,そして,特別養護老人ホームなどの介護保険施設に大別される。それぞれ看護師や医師の配置に数的差異があり,医療資源も施設ごとに大きく異なる特徴を有している。また,施設において最も多い職種は医療職ではなく,介護職であることも耐性菌対策を検討するうえで考慮すべき点である。厚生労働省による『平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況』1)によれば,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)が7,891施設と最も多く,次いで介護老人保健施設が4,322施設と報告されている。したがって,本稿では長期療養施設・介護施設の中で多くの施設数・入居者数を抱える特別養護老人ホームおよび介護老人保健施設に焦点を当てて,ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌・CRE(CPE)[カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌)]の対策を現場目線で考えてみたい。

特別養護老人ホームや介護老人保健施設の医療側面における特徴

 日本における長期療養施設・介護施設には様々な形態があり,医療側面におけるマンパワーなどに相違がある。図1,表1に医療側面から見た長期療養施設・介護施設の社会的位置付け,および人的資源を示す。同じ長期療養施設・介護施設であっても,医療面における資源は施設ごとに異なっている。なかでも介護老人保健施設は最も病院に近い性質を有しており,医療法上は医療提供施設に位置付けられている。一方で,特別養護老人ホームは,医師は非常勤であり,看護師も日中のみの常駐となっている。また,長期療養施設・介護施設で勤務する職種の多くは,医療の専門家ではなく,介護の専門家であり,日常業務のほぼすべてが介護業務であることも考慮しておく必要がある。このように施設の特性により,施設ごとに医療資源が限られていることを理解し,施設の状況に合わせた対策を講じていかなければ,対策の継続性は困難になるであろう。

■Forestall ESBL産生菌・CRE(CPE)持ち込み対策―リスクと事例から考える未然防止のポイント

❶入院時・転院時 三浦 美穂
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入院時の感染対策

 久留米大学病院(当院)では,2010年から2011年にかけての高度救命救急センター(救命センター)におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus:MRSA)のアウトブレイク事例を契機に1),耐性菌の早期発見および早期介入のシステムを検討してきた。耐性菌の早期発見には積極的監視培養(Active Surveillance Culture:ASC)が有効である2-4)。しかしASC実施場所と内容については,各医療施設で患者の背景や地域の流行状況で異なる。当院では耐性菌の持ち込み対策として,重症度の高い患者において侵襲的処置が多い部署を対象とし,救命センターやSurgical Intensive Care Unit(SICU),Neonatal Intensive Care Unit(NICU)でASCを実施している。

 当院のASC実施部署は,入院時に鼻腔および便の細菌培養検査を必須としている(入院直後の検体採取が困難であれば72時間以内に採取)。対象の耐性菌はMRSA,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(Extended-Spectrum β-Lactamase:ESBL)産生菌,多剤耐性緑膿菌(Multidrug Resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP),多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(Multiple Drug Resistant Acinetobacter baumannii:MDRAB),カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae:CRE)の5菌種である。

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海外で治療歴のある患者の耐性菌のリスク

 外国人が日本へ来日する,あるいは邦人が海外へ渡航する数は年々増えており,観光庁による2017年度の報告ではそれぞれ2,800万人,1,700万人を超えている。それに伴い,外国人が日本の病院に入院する機会や,邦人が海外で医療機関を受診したのちに日本の病院に入院する機会も増えている。海外の医療機関と日本の医療機関では耐性菌の疫学的状況が異なる。海外で医療を受けた患者は日本に在住している患者に比し,より高頻度に基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE),カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)を保菌している可能性がある。更に,日本では検出が稀なタイプのCPE/CREやその他の高度耐性菌を保菌するリスクもある。実際,国立国際医療研究センター(当センター)で行った研究では,1年以内に海外の医療機関へ入院した患者について入院時に耐性菌スクリーニングを行うと,ESBL産生菌(26.1%),CPE(4.5%)と高率に保菌が認められた1)

 高度耐性菌を保菌した患者が日本の病院に入院し,院内の水平伝播の原因となったケースがいくつか報告されており,CRE/CPEによるものも報告されている。例えば,2014年に欧州から持ち込まれたバンコマイシン耐性腸球菌/多剤耐性Acinetobacter baumannii/KPC型CPE型肺炎桿菌の事例などである2)。早期発見と感染制御によって発症者はいなかったものの,2名のカルバペネム耐性A. baumannii,3名のカルバペネム耐性Klebsiella pneumoniaeの保菌者,更に院内数ヵ所のA. baumanniiによる環境汚染が認められている。

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はじめに

 平成30年度の診療報酬改定にて抗菌薬適正使用支援加算が新設された。これに伴って各施設に抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)が設置されたが,抗菌薬適正使用支援そのものは従来からInfection Control Team(ICT)が行ってきたことである。しかしながら,従来から行われている使用許可制,届出制のみでは起因菌判明時のde-escalationや投与期間への介入が不十分となることが指摘され,今回の抗菌薬適正使用支援加算では治療開始から終了まで,治療期間全体の適正化への関与が強く求められている。本稿では,抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS)の基本概念とともに,ESBL産生菌・CRE(CPE)対策におけるASTの活動を述べる。

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肺炎桿菌感染症の臨床像

 肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)はエンテロバクター属菌,セラチア属菌などとともに,基礎疾患を有する入院患者や免疫不全患者に日和見感染症を起こす腸内細菌科細菌の一つとしてよく知られている。一方で,「肺炎桿菌」の名称は重篤な市中肺炎の起因菌となりうることから命名されたものである。肺炎桿菌による市中肺炎は古典的には急速進行性で膨張性の進展を示し(典型例の胸部X線検査所見として,罹患肺葉の容積拡大により葉間裂が凸状となるbulging fissure signが知られる),膿瘍形成の頻度が高いとされる。また,台湾では1990年代以降,基礎疾患を有さない(あるいは糖尿病のみを有する)患者に,肺炎桿菌による重篤な市中発症肝膿瘍(時に眼内炎・髄膜炎などの播種性病変を合併)がみられることが報告されていた1)。さらに,台湾からの単施設研究では,単一菌による壊死性筋膜炎(NF typeⅡ)の起因菌としてA群溶連菌と並んで肺炎桿菌が最多の頻度で認められている2)。このような状況は,肺炎桿菌の中に重症感染症を起こす能力が高い高病原性株が存在する可能性,そのような高病原性株の頻度に地域差がある可能性を示唆していた。

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感染対策ICTジャーナル
14巻3号 (2019年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-4964 ヴァン メディカル

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