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はじめに
日本においては依然としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が最多の耐性菌ではあるが,2000年代以降多剤耐性のグラム陰性桿菌の急速な増加が新たな問題となってきている。特に注目すべきは大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科の耐性菌で,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌を含む第三世代セファロスポリン耐性腸内細菌科細菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE),カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)である。これらは世界保健機関(WHO)が公表した『新規抗菌薬の開発が緊急に望まれる耐性菌リスト』の中で最も高い優先度に位置付けられている[https://www.who.int/news-room/detail/27-02-2017-who-publishes-list-of-bacteria-for-which-new-antibiotics-are-urgently-needed(2019年3月20日アクセス)]。日本は四方を海に囲まれ地理的に隔離されている特性から,これまで日本の耐性菌の状況は海外とは異なる状況にあった。しかし近年の交通や流通網の発達と高速化により,ヒト・動植物・食品を含む物を介した耐性菌の国内への侵入が増加することが予想され,現に一部ではすでに問題となっている。したがって,日本だけでなく海外の耐性菌の動向を知ることも耐性菌対策において重要であると考えられる。
ESBL産生菌とCPEの両者に共通する問題点として,1)耐性遺伝子がプラスミドを介して株や菌種を跨いで拡散する,2)耐性菌が宿主の腸管内に定着しやすく市中や他施設からの持ち込みが起こりやすい,の2点が主としてあげられる。一方で両者には基質となるβ-ラクタム系薬の分解性に差異があり,ペニシリン系薬やセファロスポリン系薬は両者ともに分解するが,ESBLはカルバペネム系薬を分解できず,CPEはモノバクタム系薬を分解できないことが多い。
本稿では,ESBL産生菌とCRE・CPEの定義と分類を中心に,これらの耐性菌による問題点について解説したい。
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