糖尿病診療マスター 8巻3号 (2010年5月発行)

選択した文献の文献概要を表示する書誌情報をダウンロードする

すべて選択

特集　臨床医のための実践的食事療法

管理栄養士がいなくてもできる食事指導のアイデアとは？南　文子 , 西山　和子 , 大久保　雅通 8巻3号 , 2010年5月 , pp.268-283

PDF(1502KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　糖尿病の薬物療法の進歩には目覚しいものがあります．しかし，それだけで糖尿病の血糖コントロールができるわけではありません．糖尿病治療の土台である食事療法を十分に行ったうえで，運動療法，薬物療法を組み合わせていくことが大切だと思います．それでは実際に食事療法を指導する場合，管理栄養士を導入することが望ましいわけですが，それにはいくつかのハードルがあることも事実です．この座談会ではそれらの問題点を明らかにしながら，実地臨床に応用できる食事指導のヒントを探っていくこととします．

Ｉ．食事療法の基本

噛むこと正木　孝幸 , 吉松　博信 8巻3号 , 2010年5月 , pp.285-290

PDF(367KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　肥満糖尿病の改善には言うまでもなく食事療法が重要である．しかし一方で，その実行と継続は困難である．大切なことは治療に関する知識の提供ではなく，知識を行動に移し継続させる方法論である．そのため肥満糖尿病の治療にあたっては，患者が有する固有の問題点をそのライフスタイルのなかからピックアップし，肥満糖尿病の治療に応用することが必要になる．食事の際，あまり噛まないという点は，肥満糖尿病の患者の行動の問題点のひとつであり，食事の際に，よく噛む(咀嚼法)を用いた行動療法的アプローチの有用性はここに存在する．そこで本稿ではまず，食欲調節の概論をまず述べ，次に咀嚼と関係ある脳内因子である神経ヒスタミンについて，最終的に実際の肥満糖尿病における咀嚼法の具体的な方法について述べる．

野菜を一緒に食べる坂口　名菜 , 村田　薫 , 森　政博 , 逸見　幾代 8巻3号 , 2010年5月 , pp.291-294

PDF(337KB)

有料閲覧

文献概要を表示

□はじめに

　これまで糖尿病患者における動脈硬化性疾患の病因としては，高インスリン血症が重要視されていた．しかし，近年における国内外の研究により食後高血糖が動脈硬化を進展するリスクファクターであることが明らかにされ，最近は軽症な糖尿病状態での食後高血糖が大いに問題視されている．2007年9月には，「食後血糖値の管理に関するガイドライン」が国際糖尿病連合(IDF)より発表された．

　Glycemic Index(血糖上昇指数：GI)は食後2時間までの血糖値によって決められる値であるから，ほかのどの指標よりも強く食後高血糖値と関連する．そこで，本稿では野菜摂取の有効性についてGIの視点からまとめる．

Ⅱ．食事療法の応用

宅配食品の利用―教育入院したつもりで体験する加藤　則子 , 池田　祥子 , 加藤　光敏 8巻3号 , 2010年5月 , pp.295-300

PDF(436KB)

有料閲覧

文献概要を表示

□はじめに

　糖尿病の治療は食事・運動療法が基本であるが，実践的指導を短い診療時間で行うことは難しい．この理由は患者個々の生活様式・習慣を把握したうえで，行動変容を促さなければなければならないからである．食事療法指導の一環として，食べて実感できる宅配食品の利用は価値がある．

　糖尿病食事療法では「宅配食」の名称が使われている．しかし厚生労働省の指針では「宅配食品」と称されており，インターネットの検索でも後者のキーワードのほうが的確に検索できるので本編では「宅配食品」を用いることにした．

低炭水化物食か低脂肪食か？　どちらを指導する？津田　謹輔 8巻3号 , 2010年5月 , pp.301-308

PDF(713KB)

有料閲覧

文献概要を表示

なぜ今，低炭水化物食が話題になっているのか？

　糖尿病の食事療法については，古くから繰り返し議論されているテーマがある．三大栄養素の適正比率の問題もそのひとつである．糖尿病患者に対する三大栄養素の適正比率について，その大枠はコンセンサスが得られているものの，エビデンスに基づいたものとはいえない．それゆえ，低炭水化物食や低脂肪食といった議論が繰り返し行われている．

　一方，わが国の食事療法は，食品交換表にしたがって指導することが多い．食品交換表はしばしばエネルギー重視，栄養素のバランス重視といわれる．それに対して最近食事指導の方法として，カーボカウントが話題になっている．カーボカウントとは，摂取する炭水化物量を計算して，「何を」「どれだけ」食べると，血糖値が「どれだけ」上昇するのかを考え，食後血糖値を管理する方法である．その背景には，食後血糖上昇に最も大きな影響を与えているのは炭水化物であり，血糖上昇には，炭水化物の質より量が重要であるという考え方がある．そして血糖値と炭水化物の関係が改めて意識されるようになった．そうすると血糖値を上げないためには，炭水化物を減らせばよいことになり，またまた低炭水化物食が話題になってきた．

　ここで，一般的なこととして，「低脂肪」や「低炭水化物」といっても相対的な問題であるという点も注意が必要である．たとえば脂肪エネルギー比30%といえば欧米で「低脂肪」であっても，わが国では「高脂肪」となる．

カーボカウント法の実際箱田　知美 8巻3号 , 2010年5月 , pp.309-314

PDF(433KB)

有料閲覧

文献概要を表示

カーボカウント法ってどんなもの？

　カーボカウント法は糖尿病の食事療法のひとつであり，血糖値を適正範囲に保つため，食事中のカーボ(Carbohydrateすなわち炭水化物)量に注目するという考えに基づいている¹⁾．これまで，糖尿病の食事療法は，食品交換表²⁾に基づいた摂取エネルギーを意識した指導が主体となっていた．指示エネルギーのなかでバランスよく食品を選び調理するという，糖尿病だけに限らず，ほぼすべての人に勧められる健康的な食事指導であった．糖尿病の食事療法は，それに加え血糖値を上手く制御することが求められる．とくに内因性インスリン分泌がほぼ枯渇している糖尿病患者の場合，血糖値の変動は大きい．当院においては，上手にインスリン治療を続けるひとつの方法としてカーボカウント法を患者に指導している．

　Box 1に示すように，三大栄養素である炭水化物，蛋白質，脂質は，摂取すればすべて血糖値に影響する．しかし血糖値への影響の程度は，その割合と時間が異なっている．一般的なバランスの食事を考えると，エネルギー比で炭水化物60%，蛋白質15%，脂質25%くらいであるから，食後高血糖の原因となっているのは，主に炭水化物である．炭水化物の血糖値を上昇させる曲線は超速効型インスリンの効果曲線とほぼ同じである．この炭水化物による食後血糖上昇を上手にコントロールするため，食事中の炭水化物量をカウント(計算)し，それに見合った超速効型インスリンを使用するというのが，カーボカウント法の基本である．ここではインスリン強化療法で超速効型インスリンを使用している患者に実際行っている例を紹介する．

Ⅲ．コラム：食事療法を補助するツール

「おべんとう丸くん」（フジッコ株式会社）使用体験記住田　尚子 8巻3号 , 2010年5月 , pp.315-317

PDF(515KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　理想的な食事とは，ご飯などの主食をベースに，肉や魚，卵料理などの主菜，野菜やきのこ，海藻類などの副菜を，1日3食バランスよく摂取することです．しかし，健康に関する情報が氾濫している現代，患者さんからは「何をどれだけ食べたらよいかわからない」とか，「○○だったら，いくら食べても大丈夫ですよね」という声がよく聞かれます．実際，食事指導をするなかで，個人に合った「バランスのよい食事の適量」をわかりやすく示すことは容易なことではありません．

　健康のために昼食をお弁当にされているという主婦の方に，その日のお弁当を見せていただいたことがあります．すると，おかず入れには，卵焼き，ウインナー，唐揚げ，ちくわと主菜がほとんどで，副菜はミニトマトのみでした．これではお弁当を作っても，バランスのいい食事内容とは言えません．

　いかにわかりやすく，患者さんに合った「適量」を伝えるか，その悩みを解消するために，当院では例として食育ツール「おべんとう丸くん¹⁾」(フジッコ株式会社)を患者さんに紹介しています．

料理カード（実物大「そのまんま料理カード」，群羊社）を用いた食事指導の実際住田　尚子 8巻3号 , 2010年5月 , pp.319-322

PDF(651KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　最近の厚生労働省の調査では，糖尿病患者数は1,000万人に届きそうな勢いで増加しています．わが国の糖尿病の大半を占める2型糖尿病において，治療の基本となるのは食事療法，そして運動療法です．しかし，多くの糖尿病患者さんは自覚症状がなく，これらの治療を継続することは必ずしも容易ではありません．

　従来糖尿病の食事療法には，主に「糖尿病食事療法のための食品交換表」が使われてきました．しかし，飽食の時代と称される現代，食生活の多様化により今までどおりの食事指導ツールでは対応できない患者さんも増えています．当院では，実物大「そのまんま料理カード」¹⁾を用いた食事指導を実施し，一定の効果を上げているので紹介したいと思います．

糖尿病食事療法のいろいろな工夫平尾　紘一 8巻3号 , 2010年5月 , pp.323-326

PDF(594KB)

有料閲覧

文献概要を表示

□はじめに

　私は昭和43(1968)年の暮れに糖尿病患者教育を始めましたが，当時関東地方では，本格的に糖尿病患者教育を行っていたのは東京都済生会中央病院くらいでしたので，結構評判になり糖尿病患者が1年間で30人から200人に増えていきました．

　当時，私も若かったので，コントロール不良の家庭をオートバイで抜き打ち訪問．食品交換表がどこに置いてあるのか，計量スプーンを使っているか，無造作に果物やお菓子が目に付くところに置いていないかなど見て回りました．

　そんなある日，とてもコントロール良好の，当時，82歳のパン屋さんの家に行きました．昔のことで小学校しか出ていない方でしたが，ノートに書いた食品とそのカロリーは完璧なものでした．びっくりしてその秘訣を聞いてみると，「先生，日常，人の食べるものはそんなに多いものではないですよ．だから3日分の食事を書いたものに，栄養士さんがチェックしたのをとっておけば，次に食べるときに，それだけで十分役立ち，自分の食べた分の1単位が何グラムかとそれぐらいならすぐ覚えますよ」と言うのです．私はこの患者を「糖尿病の神様」と呼んで，「糖尿食は難しくない」という演題で講演を続けてもらい大評判でした．それをきっかけに生まれたのが，普段食べる食品のみの「私の食品交換表」作りでした．このようにして誰でも糖尿病の食事療法が覚えられるような工夫が次々と出てきました．

　またあるコントロール良好の看板屋さん(中年男性)の家を訪問したときですが，台所の前に大きな看板があるのです．それには，サイクルメニュー1週間分が掲げられており，その看板が4つあると言うのです．つまり「春夏秋冬の1週間のサイクルメニュー」です．「いつも同じものを食べて飽きませんか」と聞いたところ，「先生，普段これより豊富に食べていますか」とやり返されました．また，「さばがサイクルメニューに載っているが，ないときは類似の魚で代用することはある」と言うのです．これも患者指導に取り入れました．

　患者から学び患者に返していくのが糖尿病の診療でしょう．その後，いろいろな工夫が行われましたので，紹介したいと思います．

Photoguide●楽しく食べる　第15回

食物繊維たっぷりおはぎ佐々木　亜希 , 福島　光夫 , 山名　美奈子 , 土江　節子 8巻3号 , 2010年5月 , pp.265

PDF(191KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　間食では，その内容や量に配慮が必要です．おなじみのおはぎもちょっとした工夫で，食物繊維の豊富な低エネルギーおはぎにすることができます．

Perspective●展望

臨床医のための実践的食事療法大久保　雅通 8巻3号 , 2010年5月 , pp.266

PDF(129KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　糖尿病の治療の三本柱は「食事療法」，「運動療法」，「薬物療法」であるといわれることが多い．本当にそれでよいのだろうか？　2009年12月にDPP4阻害薬が発売され，6種類の経口血糖降下薬が使えることになった．インスリン治療が進歩していることも明らかである．では，十分な食事療法を行うことなく，薬物療法で良好な血糖コントロールを得ることは容易だろうか？　私の答えはいずれも「ノー」である．食事療法は糖尿病の治療法のひとつではなく，治療の基礎となる部分ととらえるべきである．いかに新しい薬物が出現しても，少なくとも現時点において，食事療法を十分に実施しない限りその効果は半減してしまう．

　従来食事指導の教材として広く使われてきたのは食品交換表である．食品交換表を十分に活用できたときは，血糖コントロールの改善につながることが期待できる．しかし，近年日本人の生活習慣が急速に変化し，著しい食生活の多様化がみられるようになった．素材を重視した食生活の時代には，食品交換表は強力なツールであったが，現在は糖尿病の専門施設においてさえ交換表を用いた指導が困難なケースが増えている．糖尿病を必ずしも専門としない実地医家にとっては，さらに実践的な食事指導の方法が求められているといえよう．

News ＆ Master's View

スタチン治療と糖尿病発症藤澤　智巳 8巻3号 , 2010年5月 , pp.327

PDF(98KB)

有料閲覧

文献概要を表示

　HMG-CoA還元酵素阻害薬は通常「スタチン」と呼ばれ，そのLDL低下作用と心血管イベントの抑制に関する多くのエビデンスを背景に，広く日常診療に使われている．しかしながら，スタチンの使用が糖尿病の発症リスクと関連するか否かについては議論されてきた．今回，スタチン使用と糖尿病の発症についてのメタ解析が報告されたので紹介する．

　1994年から2009年にかけてMedline，Embase，Cochrane Central Register of Controlled Trialを用いて，1,000名以上を対象とし1年以上行われたスタチンを用いた発表あるいは未発表のランダム化研究を抽出．最終的に91,140名を含む13のスタチン研究が抽出された．平均4年におよぶ観察期間中，合計4,278名(スタチン群2,226名とコントロール群2,052名)に糖尿病の発症がみられ，スタチン治療は糖尿病に対して9%のリスク増加を認めた(オッズ比1.09；95%CI 1.02-1.17)．メタ回帰によると，スタチンによる糖尿病発症リスクは高齢者で最も高く，投与前の肥満度やLDL低下率ではリスクの残りを説明し得なかった．あるいは脂溶性・水溶性スタチン間で違いを認めなかった．

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療　第21回

「膵腎同時移植を希望している患者です．貴科における移植前の評価をお願いいたします…」𠮷岡　成人 8巻3号 , 2010年5月 , pp.329-331

PDF(285KB)

有料閲覧

文献概要を表示

臓器移植部からの紹介状

　20年前に発症した1型糖尿病の方です．経過中10年ほどインスリン治療を中断した経過がありますが，3年前に網膜症の発症を契機にインスリン治療を開始．昨年よりは腎不全にて人工透析の導入となっております．患者は理解力も十分で，インテリジェンスもあります．貴科にて，移植前の評価をお願いいたします．

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門　第21回

糖尿病療養行動を促進する方法―再発予防②：再発に至る過程を詳細に分析する/高危険度状況― 石井　均 8巻3号 , 2010年5月 , pp.341-348

PDF(639KB)

有料閲覧

文献概要を表示

□再発に至る道

【症例21-1】50歳代男性，2型糖尿病：再発への道

「おばさん，生ビール大ね，まず塩辛とポテトサラダ」

　　(略)

　期間の長短はあれ，だれでも一度は優等生の時期があるのだ．しかし，突然襲う精神的不安要因をきっかけに，人は自ら積極的に食ってしまうのだ．なぜなら食うことによってまずは気持ちが落ち着き，不安定さから逃避できるからである．

「飲まないあなたより，飲むあなたのほうがずっといい，ずっと面白い」

「フーン，なるほどね」

考えているうちにもう一杯．

「三次会，カラオケ，行きましょう，行きましょう」

でやってしまう．こうなると馬鹿な自分の全面復活．

　　(略)

帰路反省が始まる．(略)しばらくは，また抑制生活に戻る．

　どっちつかずの狭間の中で，仕事の方はあれこれ忙しくなる．夜の会食も増える．

――鴨志田恵一「糖尿列島」(情報センター出版局)より

Brush Up！CDE●糖尿病療養指導士講座　第3回

自験例の書き方(症例)から学ぶ糖尿病療養指導―管理栄養士編室田　享子 , 竹田　夏代子 , 佐々木　美香 , 赤澤　知美 8巻3号 , 2010年5月 , pp.350-353

PDF(366KB)

有料閲覧

文献概要を表示

□糖尿病療養指導士としての管理栄養士の役割

　糖尿病食事療法の目的は，①糖尿病患者に健常者同様の日常生活を営むのに必要な栄養素を摂取させること，②糖尿病の代謝異常を是正し，血糖，血中脂質，血圧などを良好に維持するのに役立たせることです．

　この目的を達成するための食事の基本は，①適切なエネルギー量の食事，②偏りのない食事，③規則的な食事習慣の実践にあります．糖尿病療養指導士の管理栄養士は，可能な療養指導項目が医師の次に多く，とくに具体的な食品交換，食事計画，献立の実際は，栄養士のみにできる役割となっています．しかし，患者にとって食事療法の重要性を理解できても，長年の食習慣を変えることは非常に難しいといえ，画一的な指導方法では，患者一人ひとりの行動変化にまでつなげることは困難です．

New Books

栄養塾　症例で学ぶクリニカルパール片多　史明 8巻3号 , 2010年5月 , pp.284

PDF(127KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　どの診療科が専門であっても，臨床医として修得しておかなければならない基本的事項が，いくつかある．栄養管理は，感染症の診断・治療や，水分電解質管理と並ぶ，患者マネジメントの基本であり，臨床医必須の知識・技術である．しかし，栄養管理法・臨床栄養学について，卒前に十分な教育を実施している大学は，まだまだ少ない．卒後教育においても，各種疾患の診断・治療に重きが置かれるなかで，栄養管理が長いあいだ軽視されてきたことは否めない．専門学会を中心とした，臨床栄養の卒後教育の取り組みが実を結び，各施設でも栄養管理についての教育に目が向けられるようになったのは，まだつい最近のことである．

　研修医に臨床栄養の講義をしていると，「栄養について勉強するのに，何か良い本はありますか？」という質問を受けることが多い．この質問を受けるたびに，いつも私は困っていた．分厚い臨床栄養学の専門書は確かにある．しかし，この分野の専門家を目指すわけではない医師の，限られた研修時間を費やすには効率が悪く，またよほどの心構えがない限り通読は困難である．内科学の教科書にも栄養管理の項目はある．だが全体のページ数のごく一部であり，そのほとんどが総論的事項である．2～3日で通読できて，臨床栄養学の全体を俯瞰することができ，なおかつ実践的な内容の本は……と考えると，答えに窮してしまうことが多かった．

Disease　人類を襲った30の病魔茨木　保 8巻3号 , 2010年5月 , pp.318

PDF(245KB)

フリーアクセス

文献概要を表示

　本書は病気を切り口にした医学史書です．ペスト，コレラ，天然痘などのパンデミックはこれまで，戦争以上に多くの人命を奪ってきました．異文化の接触のたびに病原体の交流が行われ，それはしばしば一つの文明を滅ぼすほどでした．人類の歴史とは感染症との闘いであったといっても過言ではありません．本書ではそうした歴史が，疾患ごとに見開き8ページ前後で解説されています．各章の長さは，診療の合間に読むのにもちょうどよいボリューム．そして何より一番の特徴は，誌面のビジュアル的な美しさでしょう．B5判全ページカラー，いずれのページにも医学の歴史を伝える貴重な絵画や生き生きとした写真が満載．医薬史研究家の小林力氏の流麗な邦訳と相まって，圧倒的な迫力で読者を時間旅行にいざなってくれます．まさに目で見る医学史の決定版といえるでしょう．

　医学の進歩には「闇」がつきまといます．学者たちはしばしば，疾患の原因を突き止めるためにぞっとするような実験を行ってきました．感染症説を否定しようと，コレラ菌入りのフラスコを飲み干したペッテンコファー，ペラグラの感染を否定するため，患者の汚物を飲んだゴールドバーガー，患者を用いてハンセン病の感染実験をしたために，医学界を追われたハンセン，梅毒の経過を調べるために，患者を無治療のまま追跡調査したアメリカのタスキギー研究……本書はそうした医学の闇についても容赦なく切り込みます．それらには倫理に反する試みも多いのですが，安全で衛生的な社会に生きる現代人は，先人たちの闇の果実の恩恵にあずかっているのだという事実もまた，認めなければなりません．

--------------------

Master Journal Club●海外文献紹介福嶋　清香 , 中神　朋子 , 小林　千顕 , 辻野　大助 , 西村　理明 , 細井　雅之 , 上野　宏樹 , 川崎　勲 8巻3号 , 2010年5月 , pp.332-335

PDF(327KB)

有料閲覧

文献概要を表示

2型糖尿病患者ではHbA_1Cを下げすぎると死亡率や心血管イベントが上昇する：英国General Practice Research Databaseからの報告

福嶋　清香・中神　朋子

ACCORD試験における重症低血糖の予測因子は何だったのか？

小林　千顕・辻野　大助・西村　理明

非糖尿病患者の糖化ヘモグロビンは糖尿病，心血管疾患発症のリスクを反映する

細井　雅之，上野　宏樹，川崎　勲

基本情報

糖尿病診療マスター
8巻3号
(2010年5月発行)

電子版ISSN：1347-8389 印刷版ISSN：1347-8176 医学書院

お気に入り登録(雑誌)
お気に入り登録(号)
最新号をみる

バックナンバー ( 閲覧可 )

文献閲覧数ランキング(
10月20日～10月26日
)

第1位肥満2型糖尿病にインスリンを使用する―Pros　肥満2型糖尿病にインスリン療法は極めて有用な治療法である弘世貴久糖尿病診療マスター 4巻 4号 pp. 460-467 (2006年5月15日) 医学書院
第2位 keep going 〜免疫が語る「知」〜坂口志文,石井均糖尿病診療マスター 15巻 8号 pp. 628-636 (2017年8月15日) 医学書院
第3位自験例の書き方(症例)から学ぶ糖尿病療養指導―臨床検査技師編高淵良子,秋野澄子,佐々木待子糖尿病診療マスター 8巻 5号 pp. 542-545 (2010年9月15日) 医学書院
第4位糖尿病性筋萎縮症（DLRPN）―免疫介在性多巣性神経障害としての位置づけ出口尚寿,西尾善彦糖尿病診療マスター 11巻 5号 pp. 535-538 (2013年7月15日) 医学書院
第5位 SGLT2阻害薬はファーストチョイスになったのか黒田麻実,山辺瑞穂糖尿病診療マスター 14巻 11号 pp. 878-882 (2016年11月15日) 医学書院
第6位インスリン治療とSGLT2阻害薬勝野朋幸糖尿病診療マスター 14巻 5号 pp. 360-366 (2016年5月15日) 医学書院
第7位通院中断を繰り返した糖尿病患者に対するPAID（problem area in diabetes survey）を用いたアプローチ中村晋,北川智子,酒井美沙子,香月節子,高橋美智子,萩原有利子,岩瀬正典,飯田三雄糖尿病診療マスター 2巻 5号 pp. 607-610 (2004年9月15日) 医学書院
第8位糖尿病外来における運動指導箱﨑道之,小池日登美,佐久間貞典,大久保雅通糖尿病診療マスター 10巻 7号 pp. 568-578 (2012年11月15日) 医学書院
第9位自験例の書き方(症例)から学ぶ糖尿病療養指導―総論：CDEJ認定試験と「自験例の記録」千田泰健,高渕良子,秋林千尋糖尿病診療マスター 8巻 1号 pp. 106-109 (2010年1月15日) 医学書院
第10位データヘルスの展望平井愛山糖尿病診療マスター 15巻 12号 pp. 1034-1040 (2017年12月15日) 医学書院

糖尿病診療マスター 8巻3号 (2010年5月発行)

特集 臨床医のための実践的食事療法

Ｉ．食事療法の基本

Ⅱ．食事療法の応用

Ⅲ．コラム：食事療法を補助するツール

Photoguide●楽しく食べる 第15回

Perspective●展望

News ＆ Master's View

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第21回

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門 第21回

Brush Up！CDE●糖尿病療養指導士講座 第3回

New Books

--------------------

基本情報

バックナンバー ( 閲覧可 )

文献閲覧数ランキング( 10月20日～10月26日)

特集　臨床医のための実践的食事療法

Photoguide●楽しく食べる　第15回

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療　第21回

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門　第21回

Brush Up！CDE●糖尿病療養指導士講座　第3回

文献閲覧数ランキング(
10月20日～10月26日
)