糖尿病診療マスター 8巻4号 (2010年7月)

特集 糖尿病合併症とその治療に関するエポックメーキングトピックスの展開

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JDCSの背景とは?

 2型糖尿病とその合併症の病態や特徴には,人種差や民族差があることが知られている.わが国のものも含めたこれまでの糖尿病診療ガイドラインの多くは,欧米の大規模臨床研究に基づいて築かれてきた.しかし,その研究対象者には,アジア人(とくに東アジア人)は含まれていたとしても少数であり,したがって,その結果が日本人患者にも当てはまるという保証はない.日本人糖尿病患者を対象にした大規模臨床エビデンスが求められてきた所以である.

 Japan Diabetes Complications Study(JDCS)1,2)は,日本人2型糖尿病患者を対象にした大規模臨床介入研究で,1996年に開始された.目的は,①現代日本の糖尿病専門施設に通院する2型糖尿病患者の病態や治療状況などについて前向きに調査すること,②生活習慣改善を中心とした強化治療が,2型糖尿病患者のコントロールや予後を改善するかを検討すること,の2つであり,最終的にはそれらを通じて,日本人ならびに東アジア人に適した糖尿病治療エビデンスの確立に寄与することである.

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 1型および2型糖尿病患者の糖尿病治療において,血糖値を厳格にコントロールする強化療法が細小血管障害の予防に有用であることは広く知られている.しかし,大血管障害の予防については,未だ検証段階である.HbA1C(JDS)≦6.5%を目標とするという根拠は専ら疫学研究で得られたものであり,より検証的な試みとして無作為化比較臨床試験(ACCORD,ADVANCE,VADT)が行われた.結果としては,血糖値を厳格にコントロールした強化療法において大血管障害の予防効果を認めず,一部(ACCORD)では逆に死亡率の増加が報告され早期に試験中止という結果となった.本稿では,これらの試験を概説し,結果が思わしくなかった理由について述べる.

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●インスリン依存状態糖尿病の移植医療として,低侵襲で繰り返し施行が可能である膵島移植の臨床試験が進められている.

●エドモントンプロトコールによる膵島移植の5年後のインスリン離脱率は1割台であるが,内因性インスリン分泌は8割前後で保たれ,良好で安定した血糖コントロールを達成できる.

●膵島移植の長期成績の向上のために,新たな免疫療法下での膵島移植が開始されている.また,補助療法としてのインクレチン関連薬の併用が注目されている.

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□はじめに

 糖尿病性腎症の自然経過では,微量アルブミン尿から顕性蛋白尿へと進展し,腎機能の低下を経て血液透析療法へと至る.この経過は慢性に進行し,治療により可逆性となるか否かについての十分なエビデンスは得られていなかったため,これまでの治療目的は主に腎症の発症・進展の抑制であった.しかし,最近になって,早期腎症は寛解(remission)あるいは退縮(regression)するということが明らかとなってきた.その結果,これまでの進展抑制を目的とする治療戦略から,寛解や退縮を目的とした治療戦略への転換・対策が求められている.

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□はじめに

 糖尿病患者における脳卒中発症予防は,血糖の管理のみでは達成できず,血圧の厳格なコントロールが重要であることが前回のガイドラインで推奨された.

 昨年改訂された脳卒中治療ガイドライン20091)では,さらに,HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の投与による脂質管理も推奨されている.また,糖尿病患者の脳梗塞再発予防には,血糖のコントロールに加え,新たにインスリン抵抗性改善薬のピオグリダゾンによる治療が推奨された.

 本稿では,新たなエビデンスを中心に,糖尿病患者における脳卒中発症予防,脳梗塞再発予防について述べてみたい.

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 経カテーテル的にバルーンを用いて冠動脈狭窄を治療する冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)は,1977年にGru¨ntzigらにより第1例目が成功して以降,虚血性心疾患に対する新たな治療法として急速に世界に普及するに至った.遅れること10年,1988年にPaul Yockらによって血管内超音波法(intravascular ultrasound:IVUS)が初めて臨床の場で使用され,PCIを行ううえでの有力な補助診断としての地位を築いてきた.本邦では1995年に保険承認され,以降15年余りが経過しているが,現在ではPCIの60~80%と大多数の治療にIVUSが使用されている.この分野の進歩はめざましく,光干渉断層装置(optical coherence tomography)・血管内視鏡・冠動脈CTなどそのほかのイメージングモダリティも開発され,臨床に応用されている.

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 糖尿病網膜症では血管新生による硝子体出血や牽引性網膜剥離が視力低下の原因となる.また,糖尿病黄斑浮腫も視力低下に直結する重要な病態である.これらの病態に関わる重要なサイトカインが血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)である.増殖糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy:PDR)や糖尿病黄斑浮腫症例に対してVEGFの中和抗体を硝子体内に注射することで,治療効果が得られることが2006年以降報告されている.

 また,糖尿病網膜症の病態解明が進み,炎症性疾患の一面があることが明らかとなった.2002年にステロイド薬の一種であるトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト®)の眼局所投与が糖尿病黄斑浮腫に有効であることが報告され,治療法として薬物治療がstandardのひとつとなった.

 本稿ではこの2剤による糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫の治療について述べる.

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□はじめに

 1型,2型糖尿病のいずれの患者も,網膜症・腎症・神経障害など,重篤な結果に至る慢性合併症のリスクを有している.糖尿病は心血管疾患発症の重要な危険因子でもある.1993年に発表された1型糖尿病に対する大規模臨床試験のDiabetes Control and Complications Trial(DCCT)1)を皮切りに,血糖コントロールを改善することが合併症を避けるために不可欠であることが確かめられてきた.その結果,各国の治療ガイドラインに明示されているように,臨床医は至適な代謝コントロールが糖尿病の治療目標であることは承知している.しかし,実際の適用に際しては,厳格なコントロールの必要性への合意や理解が実行に直結しているわけではない.治療に対するさまざまなアプローチにより,至適な代謝コントロールの達成効果が異なる.DCCT以降,厳格な血糖コントロールの反響が種々の分野に波及しているので概説する.

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□はじめに

 1型糖尿病を対象にした大規模臨床試験DCCT(Diabetes Control and Complications Trial)や,2型糖尿病を対象にしたUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)において,約10年間の厳格な血糖コントロールによって細小血管障害の発症リスクが軽減する一方で,大血管障害は細小血管障害ほどには良好な血糖コントロールだけで抑制できないという結果も,また明らかにされた.

 2型糖尿病患者においては患者の約40~50%が心筋梗塞や脳梗塞などの大血管障害で死亡し,寝たきりや認知症に陥っているのが現状である.したがって,大血管障害の発症・進展をいかに予防するかが,細小血管障害の抑制はもちろんのことであるが,増加の一途をたどる糖尿病人口の長期予後を決定する因子として非常に重要となる.

 1999年に検診データを中心にしたDECODE試験1)(Diabetes Epidemiology Collaborative analysis of Diagnostic Criteria in Europe)や舟形町研究2)が相次いで発表され,食後血糖の管理の重要性が唱えられはじめた.約10年経った今,糖尿病の治療がどう変化し,心血管疾患は予防できるようになったのかを検証したい.

Photoguide●楽しく食べる 第16回

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 十分に咀嚼することは,糖尿病の食事療法や予防に有効と考えられています.よくかむことで口腔内の衛生を保つこともできます.今回は,野菜たっぷりで歯ごたえのある野菜ゼリーをご紹介します.

Perspective●展望

糖尿病医療学よ,興れ! 石井 均
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□糖尿病治療には説明と納得が必須で,そのことが患者の主体的参加を可能にする

 糖尿病治療において安全に適切な血糖コントロールをしていくことが重要であるが,それはなかなか容易ではない.早期からの血糖コントロールの重要性が唱えられれば唱えられるほど,それがいかに難しいかを逆にクローズアップすることになった.

 ひとが治療を始めようと決心するためには,いろいろな要因が揃うことが必要であり,疾患の予後を説明するだけでは不十分である.不十分な説明,および不十分な納得では,適切な療養は行われない.つまり,「ひとは動かない」.

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 2010年5月27~29日,岡山市で第53回日本糖尿病学会年次学術集会が開催されました.今学術集会は,1999年以来11年ぶりとなる糖尿病診断基準の改訂,HbA1cの国際標準化など,今後の糖尿病診療にも変化を及ぼすトピックスに溢れています.

 新たな局面を迎える糖尿病診療――.今回のMaster Interviewでは,学術集会の最終日(5月29日)に,日本糖尿病学会理事長の門脇孝先生をお迎えし,これまでのご経歴から,今後の日本糖尿病学会の方向性まで,さまざまなお話を伺いました.

News & Master's View

糖尿病劇場in札幌 柳澤 克之
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 毎年春と秋に開催している北海道CDEスキルアップセミナー.今回は2010年4月10日に第14回の開催を迎え,実践的糖尿病患者教育研究会の皆さんが行っている「糖尿病劇場―糖尿病療養指導を考える―」を実施することができましたので,このご報告をしたいと思います.

 北海道CDEスキルアップセミナーはCDEJ発足の翌年から,その資質向上を目的に,いろいろなテーマのもと,主にケーススタディをグループワークなどで行ってきていました.「糖尿病劇場」はケーススタディを劇の上演形式で,会場とのディスカッションをしながら進め,楽しみながら勉強もできる,すばらしい方法と考え,会の中心メンバーである山本壽一先生(ハートライフ病院)に本セミナーでの上演をお願いしたのです.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第22回

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開業医からの紹介状:

 72歳,女性.15年ほど前に健診にて糖尿病を指摘され〔空腹時血糖値152mg/dL,HbA1C(JDS)7.6%〕,以後,外来に通院中の方です.生活習慣への介入にて血糖コントロールは安定していましたが,10年ほど前から血糖コントロールが徐々に悪化し薬物治療を開始しました.α-グルコシダーゼ阻害薬を投与しましたところ,下痢と腹痛がひどく投与を断念.SU薬(アマリール®1mg錠1/2錠),超速効型インスリン分泌促進薬では昼食前に低血糖を生じます.また,チアゾリジン薬では口唇に浮腫(クインケ浮腫)が出現し,BG薬にて下痢を生じます.薬剤の選択,増量が難しく,血糖コントロールに苦慮しております.ご高診のうえご加療のほどお願いいたします.

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門 第22回

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□糖尿病食事療法の再発の時間的経過

 前回,依存症再発の時間的経過の法則について述べた.それは,

 再発の2/3は90日(3カ月)以内に起こっている.また,6カ月を過ぎると1年までは再発が少ない.

 というものであった.それでは糖尿病食事療法における再発経過はどのようなものか(Box 1).筆者らの施設で糖尿病教育コース終了後,食事療法を継続することを決心した患者を対象に追跡調査を行ったが,その結果を紹介する1)

Brush Up!CDE●糖尿病療養指導士講座 第4回

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□糖尿病療養指導士としての薬剤師の役割

 糖尿病治療は良好な代謝コントロールを維持し,合併症の発症と進展を予防し,QOLの低下を防止することを目的としている.糖尿病の基本となる食事療法・運動療法・薬物療法は患者の日常生活そのものであり,自己管理が重要になる.そのため療養指導に際し,コメディカル各職種は医師の治療方針を正しく適切に患者に伝え,自己管理できるよう援助する必要がある.

 糖尿病医療の進歩に伴い,継続治療への心理的支持,治療技術や指導内容は多様化し,指導の評価法についても各職種の持つ範囲が広がり,かつ専門性が深くなってきた.患者を“一人の生活者”とみなし,患者中心の医療のため,多様な指導内容,評価の活用にコメディカル各職種が密接な連携を保ち,それぞれが専門性を活かしたチームアプローチを行う必要がある1)

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 HbA1C値の国際標準化に際し,HbA1C値の表記法については,日本糖尿病学会から下記のように発表されております.

 「和文論文(総説・抄録などを含む)や和文著書,国内学会の発表においては,当面は,現行のJDS値で標記されたHbA1C(JDS)値と国際標準化された新しいHbA1C値の両者が明瞭に区別可能となるよう表記する.原著論文を除く,総説・著書などにおいては,原則として当面の間は両者を併記する.」(2010年6月7日付)

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2型糖尿病の血糖管理においてメトホルミン投与後インスリン以外の糖尿病薬では何が最も効果的なのか?

福嶋 清香・中神 朋子

中国では糖尿病の有病率は増加しているのか?

小林 千顕・辻野 大助・西村 理明

メトホルミンにても血糖コントロール不良2型糖尿病患者におけるインクレチン関連薬の効果―シタグリプチン対リラグルチドの対決

細井 雅之,日浦 義和,川崎 勲

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 1980年代には完全静脈栄養法(以下TPN)が全盛であったが,90年代の終わりになると積極的な腸管利用が推奨されるようになった.TPNがあたかも悪い栄養法であるかのごとく評価されるという,米国栄養教育の内容が日本に入ってきた時代である.この結果,無理に経腸栄養を勧めたり,非現実的な経口摂取を叫んだりする状況が医療現場につくられてしまった.これは,医師の卒前教育が行われないままに応用医学が普及した結果である.

 2006年の診療報酬改定で「栄養管理実施加算」が導入され,2010年からは「栄養サポートチーム(NST)加算」が始まった.これにより,栄養サポートチームの看護師や管理栄養士,薬剤師が,受け売りではなく,自ら栄養管理を立案する立場を得ることとなった.医師とコメディカルが栄養管理の方針を話し合うときには客観性のある判断が必要となるが,本書は多くの医療者らが疑問に感じていた部分に明快な解答を示してくれている.

基本情報

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糖尿病診療マスター
8巻4号 (2010年7月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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