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□はじめに
私は昭和43(1968)年の暮れに糖尿病患者教育を始めましたが,当時関東地方では,本格的に糖尿病患者教育を行っていたのは東京都済生会中央病院くらいでしたので,結構評判になり糖尿病患者が1年間で30人から200人に増えていきました.
当時,私も若かったので,コントロール不良の家庭をオートバイで抜き打ち訪問.食品交換表がどこに置いてあるのか,計量スプーンを使っているか,無造作に果物やお菓子が目に付くところに置いていないかなど見て回りました.
そんなある日,とてもコントロール良好の,当時,82歳のパン屋さんの家に行きました.昔のことで小学校しか出ていない方でしたが,ノートに書いた食品とそのカロリーは完璧なものでした.びっくりしてその秘訣を聞いてみると,「先生,日常,人の食べるものはそんなに多いものではないですよ.だから3日分の食事を書いたものに,栄養士さんがチェックしたのをとっておけば,次に食べるときに,それだけで十分役立ち,自分の食べた分の1単位が何グラムかとそれぐらいならすぐ覚えますよ」と言うのです.私はこの患者を「糖尿病の神様」と呼んで,「糖尿食は難しくない」という演題で講演を続けてもらい大評判でした.それをきっかけに生まれたのが,普段食べる食品のみの「私の食品交換表」作りでした.このようにして誰でも糖尿病の食事療法が覚えられるような工夫が次々と出てきました.
またあるコントロール良好の看板屋さん(中年男性)の家を訪問したときですが,台所の前に大きな看板があるのです.それには,サイクルメニュー1週間分が掲げられており,その看板が4つあると言うのです.つまり「春夏秋冬の1週間のサイクルメニュー」です.「いつも同じものを食べて飽きませんか」と聞いたところ,「先生,普段これより豊富に食べていますか」とやり返されました.また,「さばがサイクルメニューに載っているが,ないときは類似の魚で代用することはある」と言うのです.これも患者指導に取り入れました.
患者から学び患者に返していくのが糖尿病の診療でしょう.その後,いろいろな工夫が行われましたので,紹介したいと思います.
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