糖尿病診療マスター 11巻2号 (2013年3月)

特集 各種ガイドラインを糖尿病治療に生かすには

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はじめに

 平成23年度の人口動態統計の概況によると,全死因のうち第1位は悪性新生物,第2位に心疾患,第3位に肺炎,第4位が脳血管障害となっている.心・脳血管障害といった動脈硬化性疾患を合わせると,日本人の死因のおよそ3割を占めている.脳血管障害に関しては減少傾向を認めるものの,心疾患に関しては増加の一途をたどっている.

 わが国の疫学調査によると,糖尿病は心疾患と脳血管障害の強いリスク因子であり,糖尿病患者の生命予後を改善させるためにも動脈硬化性疾患の発症予防・進展抑制は重要である.

 2012年,動脈硬化性疾患予防ガイドラインが5年ぶりに改訂された.このガイドラインを糖尿病治療に生かすべく概説する.

CKD診療ガイド2012 馬場園 哲也
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はじめに

 これまでの多くの疫学,臨床研究によって,腎臓病が透析療法や腎移植を必要とする末期腎不全のみならず,動脈硬化性疾患の発症に対する危険因子としても重要であることが明らかにされ,近年慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)の概念が提唱された.日本腎臓学会は,増加するCKD患者の病診連携を推進するうえでのツールとして,2007年に「CKD診療ガイド」を刊行した.2009年に比較的軽微な改訂が行われた後,このたび大改訂版として「CKD診療ガイド2012」が作成された.このなかで糖尿病診療に関連が強い項目として,第1章「CKDの定義,診断,重症度分類」の紹介を行い,若干の考察を加えたい.

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はじめに

 本邦の糖尿病患者における高血圧合併の頻度は,非糖尿病者に比べ約2倍高い.一方,高血圧患者が糖尿病を有する頻度も非高血圧患者の2~3倍高く,共通の背景因子が両者の成因に寄与することが示唆される.高血糖,高血圧はいずれも糖尿病性合併症の発症進展に寄与し,殊に両者が合併するとそのリスクは大きく増加する.したがって,糖尿病患者の予後を改善させるためには血糖だけではなく血圧の厳格な管理が重要であり,日本高血圧学会による『高血圧治療ガイドライン』(JSH2009)1)は目標血圧および降圧薬選択を以下のように推奨している.

 目標血圧:糖尿病合併の高血圧は血圧値に関わらずハイリスク群として扱う.至適降圧目標値は130/80mmHg未満とする.すでに糖尿病性腎症を合併しており1g/日以上の蛋白尿を認める場合は,さらに厳格な125/75mmHg未満での血圧管理を目標とする.

 降圧薬選択:アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を第一選択薬とし,カルシウム拮抗薬(CCB)または少量の利尿薬を第二選択薬とする.

 このガイドラインが発表され,3年余が経過した.いくつかの新しい臨床試験の成績が発表され,現時点で実地臨床においてJSH2009を活用する際に生じる可能性がある疑問点として,本稿では以下の2点に焦点を絞って解説する.

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 2009年11月,『脳卒中治療ガイドライン2009』1)が発表された.2004年に日本で初めて日本人のための『脳卒中治療ガイドライン』が作成された後,主に治療のエビデンスを追加し改編されたものである.約1万件の文献をエビデンスレベルに則り評価し,推奨グレードを表1のように分類している.

 脳卒中は主に脳梗塞,脳出血,クモ膜下出血に分類される(図1).糖尿病は脳梗塞の重要な危険因子であり,糖尿病患者にはアテローム性動脈硬化によるアテローム血栓性脳梗塞や,減少はしてきたものの穿通枝領域のラクナ梗塞の発症が多い.また,心原性脳塞栓症の2/3を占める心房細動患者においても糖尿病は危険因子となる.本稿では,脳卒中一般の発症予防と脳梗塞・TIA(transient ischemic attack ; 一過性脳虚血発作)の急性・慢性期の抗血小板治療・抗凝固治療について述べる.

禁煙ガイドライン 佐々木 温子
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はじめに

 2型糖尿病,心疾患,がん,慢性呼吸器疾患などの非感染性疾患は,non-communicable disease(NCDs)と呼ばれ,世界で毎年3,500万人が死亡し,死因の60%を占めている.その発症や進行に関与するのが,過度の飲酒,不健康な食事,運動不足,そして本稿のテーマである喫煙などの生活習慣である.

 ひと口に生活習慣といっても,喫煙は他の生活習慣と根本的に異なる点がある.それは喫煙は単なる悪習慣でなく,ニコチンという依存性のある薬物摂取であるという点である.ニコチン摂取と同時に多くの有害物質を体内に取り込み,タバコの燃焼を介して有害物質がさらに産生され,全身疾患をもたらす.喫煙に適量はなく,ここまでは安全という閾値がない.このような商品は,製造・発売禁止となって当然であるが,タバコ産業は国際的な超巨大産業に成長している.対策は全世界的な規模で行う必要があるとして,WHOはたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(Framework Convention of Tobacco Control : FCTC)を2005年に発効した.日本も2004年に批准している.しかし,タバコの販売は現在もなお合法であり,タバコのもつ依存性や喫煙の害の情報を十分に知らされていない状況で人生初めての喫煙を経験し,知らない間に依存症に陥り,自らの喫煙により周囲の人々の健康をも損ないながら,NCDsの発症へと至っているのが現状である.

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はじめに

 ステロイド薬は抗炎症作用や免疫抑制作用などさまざまな薬理作用を有しており,自己免疫疾患をはじめとする種々の疾患の治療に必要不可欠の薬剤となっている.一方で,ステロイド薬にはさまざまな副作用が存在するため,使用の際には副作用に対する十分な注意と対策が必要不可欠である.ステロイド薬よる副作用には糖代謝異常の他,消化性潰瘍,骨粗鬆症,感染症,白内障,無菌性骨壊死,肥満などがあるが,本稿ではそのなかの糖代謝異常に焦点を絞り,各種疾患ガイドラインにおいてステロイドによる糖代謝異常がどのように記載されているかについて述べる.またステロイド薬投与時の血糖コントロールについて,自験例をもとに血糖モニタリングの留意点について述べる.

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はじめに

 生活習慣病のうち,糖尿病では骨折リスクが上昇するというエビデンスが豊富である.2型糖尿病では2つのメタ解析により大腿骨近位部の骨折リスクが1.4倍あるいは1.7倍に上昇することが報告されており,その骨折リスク上昇に骨質劣化が大きく関与する.本稿では糖尿病における骨折リスク上昇に対する薬物治療開始の考え方について,『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』(以下,骨粗鬆症ガイドライン)をもとにして述べたい.

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はじめに

 ヨード造影剤を使用したCT,カテーテル検査などの画像診断や,それらに基づく治療法は,現在の医療現場において必須である.しかし腎機能が低下した慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)患者にヨード造影剤を使用することが,造影剤腎症(contrast-induced nephropathy : CIN)(Tips 1)を引き起こすリスクを高くすることは,古くから知られた事実である.これまでわが国では,CKD患者に対するヨード造影剤の使用に関する指針がなかったが,2012年に日本医学放射線学会,日本循環器学会および日本腎臓病学会の3学会合同で,『腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2012』1)が作成された.本ガイドラインはCINを予防することを目的とし,CTやカテーテル検査・治療において,適切にヨード造影剤を使用するための指針である.

 糖尿病はCKDを合併する頻度が高く,ヨード造影剤を使用した検査・治療を行う際はCINの発症に十分な注意が必要である.また近年,ビクアナイド薬を使用中の糖尿病患者では,ヨード造影剤が乳酸アシドーシスの発症リスクとなることが注目されている.本稿では,本ガイドラインが糖尿病診療に直接関連する問題として,この2点に関する指針を紹介し,考察を加えたい.

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はじめに

 本稿では,医療訴訟でどのようにガイドラインが利用されているのかについて述べる.刑事裁判においても,その責任の有無を決するにあたってはガイドラインの記載が重要な地位を占めるが,医療問題が紛争化する場合はほとんどが民事裁判であるため,本稿も民事医療裁判(損害賠償請求訴訟)を念頭に論じる.

Perspective◆展望

疾患とガイドライン 内潟 安子
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 『糖尿病治療ガイド』と『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』は糖尿病診療にあたるわれわれの代表的ガイドブックです.糖尿病に限らず,多くの患者さんを抱える疾患は関連学会からガイドラインが出版されています.われわれが上記のすべてのガイドラインに精通することは,日常診療ではなかなか至難のことです.

 また,疾患が多くの分野にまたがる場合(糖尿病がまさしくこれに該当する),日本糖尿病学会による糖尿病診療のガイドラインと他の分野のそれとの間に微妙な相違が生じることもありうることで,そうなると,われわれはその整合性に惑うことにもなります.

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 岡本先生は長年インスリン分泌細胞の研究に携わり,実験糖尿病からヒト糖尿病のメカニズムを追及し,新たな治療の可能性を示されました.DNA二重らせん構造の発見以来,分子生物学が隆盛を極めるなか,あるセミナーで岡本先生の講演を聴いたことがきっかけで,岡本先生の研究室に入り,実験の基礎や考え方を教わりました.

 今回は,研究するとはどういうことか,基礎研究の発想の源などについて伺いました.

どうする?! 糖尿病患者のCommon Disease対応

腰痛 古川 真
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症例呈示

77歳,女性.

▶現病歴 20年前より糖尿病を指摘され,近医にて加療されていた.3年前左股関節の変形性関節症の手術の際にHbA1c 9.5%(以下,すべてNGSP値)と血糖コントロール不良を指摘されていた.食事療法とインスリングラルギン10単位,グリメピリド2mg,メトホルミン750mgにて加療され,HbA1c 6.3%まで改善していた.左股関節は人工骨頭置換術を施行され,杖歩行が可能な状態まで改善していた.

 今回,2週間前ぐらいより腰が痛くなり,杖で歩くのも難しくなってきたため,かかりつけの整形外科を受診したが,「腰はなんともない」と言われたとのこと.しかし安静を保つも腰痛の改善なく,心配して様子を見に来た娘さんが,腰痛のためベッド上で身動きできなくなっている状態を発見,当院に救急車で搬送された.

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糖尿病のデルマドローム

 皮膚は「内臓の鏡」と言われます.実際,さまざまな悪性腫瘍や内科疾患で,特徴的な皮膚の症状が出現することがあり,デルマドロームと呼ばれています.皮膚症状から内科疾患を診断するという,皮膚科医冥利に尽きる分野です.糖尿病にはいくつかの有名なデルマドローム,多発性環状肉芽腫,脂肪類壊死症,浮腫性硬化症など,「これを診たら糖尿病」という皮膚病変があります.このほかにも,デュピュイトレン拘縮や壊死性筋膜炎を含む皮膚の深在性,浅在性の細菌感染症,重症の足爪白癬などを診たときにも,基盤に糖尿病があるかを考えます.かつては,そういった皮膚病変を診て,糖尿病の診断が初めてつくという症例も少なくなかったのですが,最近ではすでに糖尿病の診断がついている患者がほとんどです.これは,健康診断の普及,国民の健康意識の高まり,さらに日本糖尿病学会の広報活動の成果ではないかと思います.

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2型糖尿病患者では食塩感受性高血圧が多いのか?

長谷川 夕希子・山本 弥生・中神 朋子

新規経口糖尿病薬イメグリミンの2型糖尿病患者への効果―3つの作用を併せもつ新薬

細井 雅之・上野 宏樹・川崎 勲

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 近年,特に糖尿病と悪性疾患の合併が注目されています.しかし,糖尿病に伴う腎機能障害のために造影CTや造影MRIの実施が困難なことも少なからずあります.悪性疾患が疑われていながらも精査ができず,ジレンマを感じることもあると思います.

 腎機能に比較的関係なく施行できる画像検査の一つに造影超音波検査があります.最近,造影超音波検査では,主に第2世代造影剤のソナゾイド®が用いられています.ソナゾイド®は,ほとんどが呼気から排出されるため,基本的に腎機能に関係なく使用することができ,禁忌は卵アレルギーのみとされています1)

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 風邪の診断をするときによく思い出すのは,田坂佳千先生の「かぜ症候群における医師の存在意義は,他疾患の鑑別・除外である」という教えである.ありふれた疾患の水面下には,目では見えない大きく深い世界が隠れている.内科全般にわたる広範な医学知識と適切な問診や身体所見から目に見えない部分を感じとることが必要だ.風邪のふりをした,とんでもない重症疾患があるのだ.

 風邪には咳,咽頭痛,鼻汁の3つの症状がある.この中の一つの症状しかなければ風邪の診断は怪しい.咳+発熱だけなら肺炎,咽頭痛+発熱だけなら急性喉頭蓋炎,鼻汁+発熱だけなら副鼻腔炎かもしれない.本書では典型的な風邪の症状について,いくつかの症状パターンに分けてわかりやすく解説されている.漢方処方が不得意な私にとっては,咳には「麦門冬湯」,鼻水には「小青竜湯」,咽頭痛には「桔梗湯」との提案はありがたい(p 11).診療の幅が広がりそうだ.漢方はことさら強い主張はないのに,中国3000年の歴史から凛としてロマンチックな雰囲気を醸し出してくれる.

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 物事を単純化することは,しばしば行動を誤らせる原因になる.現実世界では,単純化されたマニュアル的な対応だけでは通用しないことがしばしば起こる.しかし細かいことにこだわらなければ,おおむねマニュアルは使い勝手が良いことが多い.

 クリニカル・パールというのは,米国では昔から行われていた教育手段だという.日本でも,経験のある医師がしばしば臨床の“コツ”を伝えるという教育手段はあった.それは経験則として語られていたと思う.個人的な見解だが,日本で聞くその手の“コツ”というのは,しばしば誤用されて伝わっているものだったり,独善的な知識の場合もあると感じていた.それはその経験則が,何から導き出されているのか十分検証されることがなかったからだと思っていた.私はそういう“コツ”を聞くと最初は疑いの目をもち,書物や文献によって検証して納得したものしか信用していなかった.

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お知らせ
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医療と臨床心理―糖尿病医療学における臨床心理学の支援

日 程:2013年3月20日(水・祝)

    13:30~17:30

場 所:京都大学百周年時計台記念館1階

 百周年記念ホール(500名収容)

 〒606-8501 京都市左京区吉田本町

 Tel 075-753-2285

 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm

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糖尿病診療マスター
11巻2号 (2013年3月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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