糖尿病診療マスター 11巻3号 (2013年4月)

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はじめに

 インクレチン関連薬は2009年12月に初めて本邦で発売された.DPP-4阻害薬であるシタグリプチンが最初に発売されたのに続き,ビルダグリプチン,アログリプチン,リナグリプチン,テネリグリプチン,アナグリプチンがすでに臨床での使用が開始されている.GLP-1受容体作動薬はリラグルチド,エキセナチドが発売されており,週1回投与の徐放製剤(エキセナチドLAR)も製造販売承認されている.インクレチン関連薬は本邦ですでに200万人以上の糖尿病患者に用いられており,インクレチン関連薬の発売に伴い糖尿病の薬物療法は大きく様変わりした.各インクレチン関連薬の使用法や特徴については各論に譲り,ここではインクレチン関連薬の登場がもたらしたインパクトについて概説する.

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インクレチンとは

 インクレチンは食事摂取に伴い消化管から分泌され,膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進し,血糖を下げる作用のあるホルモンの総称である.インクレチンホルモンには,上部小腸に存在するK細胞から分泌されるGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)と,下部小腸や結腸に存在するL細胞から分泌されるGLP-1(glucagon-like peptide-1)がある.

 インクレチンの作用には,膵臓に働いてインスリン分泌を促進・グルカゴン分泌を抑制する「膵作用」と,膵臓以外の臓器に働いてさまざまな影響を及ぼす「膵外作用」がある.

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DPP-4阻害薬の概要

 DPP-4阻害薬は,DPP-4に結合することによってインクレチンの分解を抑制し,インクレチン作用を増強する働きがある.日本では2009年12月にシタグリプチン(ジャヌビア®,グラクティブ®)が発売され,以後ビルダグリプチン(エクア®),アログリプチン(ネシーナ®),リナグリプチン(トラゼンタ®),テネリグリプチン(テネリア®),アナグリプチン(スイニー®)が発売され,2013年2月現在,6剤が使用可能である.

 DPP-4阻害薬の血糖降下作用は,メタ解析によると単剤でHbA1cを0.5~1.0%低下させる1),また血糖値依存性のインスリン分泌促進・グルカゴン分泌抑制作用により,食後血糖上昇を抑制する2).さらに,食後血糖値の改善に応じて空腹時血糖値も改善すると考えられる.GLP-1は心血管系にも作用することが知られており,DPP-4阻害薬にもその作用が期待されている.メタ解析の結果では,DPP-4阻害薬と他の糖尿病薬あるいはプラセボとの比較で,心血管イベントのハザード比0.48で,52%のリスク減少が示されている3)

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DPP-4阻害薬のよい適応は?

 シタグリプチンが発売された当初,糖尿病専門医の間でもDPP-4阻害薬をどのような症例に使用すべきか意見が分かれた.すなわち,①他の経口糖尿病薬治療によってもコントロール不良,あるいは病歴が長く複数の経口糖尿病薬をすでに投与されている難治症例.②検診などで糖尿病を指摘され初めて糖尿病の薬物療法を開始する病歴の短い症例,あるいは経口血糖降下薬1剤程度であと一歩という比較的軽症例.上記①②のいずれがよい適応か? ということであった.

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はじめに

 下部消化管より分泌されるGLP-1(glucagon-like peptide-1)は,血糖値に応じた膵β細胞からのインスリン分泌促進作用に加え,グルカゴン分泌抑制,胃内容物排出抑制,食欲抑制作用など,多様な作用を有する1).GLP-1受容体作動薬は,このGLP-1の生理活性を薬理学的濃度まで高めた新しい糖尿病注射薬である.これまでの糖尿病治療薬では体重増加・低血糖といった問題が常に懸念されていたが,GLP-1受容体作動薬は体重減少が期待でき,単剤での低血糖リスクが少なく,医療者も患者も安心して使用できるため,2010年にわが国で発売されて以来,2型糖尿病の診療に大きな変化をもたらしている.さらに,血糖降下作用を超えて,膵保護作用や抗動脈硬化作用が期待されている薬物でもある2, 3)

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 本稿ではGLP-1受容体作動薬リラグルチドおよびエキセナチドの実際の臨床症例について,紹介する.

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はじめに

 わが国でインクレチン製剤としてのDPP-4阻害薬が登場して3年半近くが経過し,この間約300万人以上の糖尿病患者さんに使用され,2型糖尿病治療薬のなかで重要な地位を占める状態となっている.DPP-4阻害薬は食事・運動療法で血糖コントロール不十分な2型糖尿病に使用する場合のいわゆる第一選択の内服薬としても有用である.しかしながら,症例によっては従来から使用されている糖尿病薬であるスルホニル尿素(SU)薬,メトホルミン(Met),α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI),チアゾリジン薬,さらにはインスリン注射と併用することもあり,基本的にどの薬剤との併用でも同程度の血糖改善効果が期待される.本稿では,インクレチン製剤,特にDPP-4阻害薬に焦点を絞り,従来の糖尿病薬との併用療法の有効性と注意点について概説する.

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はじめに

 新しい糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬として,dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬やglucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬がある.インクレチン関連薬は,これまでの治療薬にはない,新たな作用機序をもちあわせており,他の糖尿病治療薬との併用は,有効性が認められているが,現状では明確な指標はなく,診療に苦慮する場合もある.

 ここでは,当院における症例を紹介し,他剤との併用療法の実際を解説する.

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はじめに

 糖尿病治療の目標は,良好な血糖コントロールにより,血管合併症の発症や進展を予防することで健康な人と変わらない日常生活の質を維持し,健康な人と変わらない寿命を確保することである.血糖コントロールにおいては,単にHbA1c値を改善することだけでなく,血糖の変動幅を小さくすることや,低血糖を回避することも重要である1)

 強化インスリン療法を始めとするインスリン療法は,確実に血糖を低下させることができ,その有用性についてはこれまで多数の臨床研究で証明されている.また,2型糖尿病患者でも診断時にはインスリン分泌能は健常人の約50%程度しか残存していないばかりか,罹病期間が長くなるとともに膵β細胞機能が徐々に低下していくことが,UK Prospective Diabetes Study(UKPDS)で明らかにされている2).特に日本人はインスリン分泌能低下が2型糖尿病患者の主病態とされていることから,外因性インスリンを補うことは理に適った治療法といえる.しかし,インスリン単剤療法ではインスリン増量による低血糖や体重増加をきたしやすいことから患者のQOLやコンプライアンス,ひいては治療意欲の低下を招き,十分な血糖コントロールを得られない場合も少なくない.

 こうしたインスリン治療の状況をふまえ,さらなる血糖コントロールを目指して,これまでインスリンとさまざまな種類の経口血糖降下薬の併用が試みられてきた.インスリン抵抗性が高度な症例ではビグアナイド薬やチアゾリジン薬などのインスリン抵抗性改善薬を併用することで,インスリン量を減量することが可能である.またSU薬やグリニド薬などのインスリン分泌促進薬を併用することで,内因性インスリン量を増やし,重要なインスリン標的臓器である肝臓への生理的なインスリン供給が増加し,インスリン注射量や注射回数の減量が期待できる.

 DPP-4阻害薬は血糖依存的に内因性インスリン分泌を増幅させるだけではなく,グルカゴン分泌を抑制する3).また,膵β細胞の保護作用や,肝臓における糖取り込みの亢進など,多彩な効果を示すことが知られている3, 4).2009年にDPP-4阻害薬であるシタグリプチンが国内で初めて臨床使用が可能となって以来,DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった種々のインクレチン関連薬が臨床現場に普及し,2型糖尿病の薬物療法における選択肢は大きく広がった.そして2011年9月,シタグリプチンとインスリンとの併用投与が国内でも可能となった.DPP-4阻害薬は既存の経口血糖降下薬とは作用機序が異なることから,インスリンと併用することで糖尿病治療における有用性が期待されている.

 本稿では,海外・国内での臨床研究と当院でのシタグリプチンとインスリンの併用経験を合わせて,DPP-4阻害薬とインスリンの併用療法の有用性について概説する.

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はじめに

 インスリン療法は最も確実に血糖を低下させるが,低血糖のリスクや体重増加,また頻回注射による患者の負担も懸念される.血糖コントロールが不十分な状況でも安易にインスリン量の増量や注射の回数を増やせないことも少なくない.2011年9月,インスリン製剤とDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬シタグリプチンとの併用が保険適用となり,臨床の場でインスリン療法およびシタグリプチンの使い勝手の幅が広がっている.

 DPP-4阻害薬は消化管由来のインクレチンホルモンであるGLP-1(glucagon-like peptide-1)およびGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)のDPP-4による不活化を阻害して2つのインクレチン血中濃度を上昇させ,インクレチン作用を増強する.インクレチンは食事の摂取による血中グルコース濃度依存的に内因性インスリン分泌を促進し,グルカゴン分泌を抑制することで血糖改善作用を発揮する.

 DPP-4阻害薬は単独で使用する場合には低血糖のリスクが少なく体重増加をきたしにくい1)が,インスリン製剤と併用することによってインスリン療法の最も深刻な副作用である低血糖頻度や体重を増加させることなく,血糖コントロールを改善することができるのだろうか? 当センターでの特徴的な症例を紹介しつつ,両者の併用の意義を再考していきたい.

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 インクレチン関連薬が誕生してまもなく,テレビ番組でも新薬として紹介され話題の薬となった.当時,患者さんが「夢の薬が出たってテレビでやっていたね」と嬉しそうに声をかけてきたことが記憶に残っている.

 まだまだその使用感については,専門医の先生方の間でもさまざまな見解が述べられている現状であるが,糖尿病治療の選択肢が広がったことは確かである.

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医療現場がどう変わったか

 糖尿病治療中の入院患者においては検査や受診などで延食になった場合,血糖降下薬の服用や注射の実施については別途指示が必要になる.インクレチン製剤ではα-グルコシダーゼ阻害薬や速効型インスリン分泌促進薬などとは異なり,服用タイミングが厳密に問われることなく服用・注射できることがメリットとしてあげられる.各製薬会社が作成している「くすりのしおり」にある,飲み(注射し)忘れた場合(表1)に従って,服用や注射の実施の対応を考えることができる.

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はじめに

 インクレチン関連薬には,インクレチンの一つであるGLP-1の代わりに受容体に結合することで,インスリン分泌を促進するGLP-1受容体作動薬と,DPP-4というインクレチンを切断し不活性化するホルモンの作用を除外し,インクレチン濃度を上昇させるDPP-4阻害薬の2種類がある.

 GLP-1受容体作動薬は低血糖の心配が少なく,食べる食事の内容(糖質の比率など)によって血糖値がばらつくことが少ないと考えられている.またGLP-1は食欲抑制作用,胃の排出を抑制,心筋保護作用や心機能改善効果も認められており,GLP-1受容体作動薬は体重を減少させる特徴ももつ点でも注目されている.

 本稿では,当院肥満外来通院患者におけるGLP-1受容体作動薬を使用した症例の減量経過を中心に報告する.

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 糖尿病治療において,多くの医療者は良好な血糖コントロールと低血糖のリスク,体重増加とのジレンマに苛まれてきた.そのようななか,インクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬は,従来の薬物にはなかった血糖依存性のインスリン分泌促進作用やグルカゴン分泌抑制作用を有しており,体重増加をきたしにくいこと,単独では低血糖のリスクが低い特徴をもっていることから,これらの薬剤の登場により糖尿病の治療は大きな変革を迎えた.さらに,インクレチン関連薬は日本人を含め東アジア人において,他民族に比して効果が大きいという報告1)もあり,わが国の糖尿病治療における同薬の役割は極めて重要になりつつある.2013年2月現在で処方可能なインクレチン関連薬は,DPP-4阻害薬であるシタグリプチン,ビルダグリプチン,アログリプチン,リナグリプチン,テネリグリプチン,アナグリプチン,GLP-1受容体作動薬であるリラグルチド,エキセナチドであり,現在さまざまなインクレチン作動薬の開発が進んでいる(表1).本稿では新たな治療薬の開発状況について解説する.

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糖尿病診療マスター
11巻3号 (2013年4月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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