精神看護 10巻1号 (2007年1月)

特集1 「行動制限最小化」につながる看護をさがす

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 行動制限最小化に迷いと不安はつきものだ。なぜならそれは、行動制限をなるべく行なわず、できるだけ早期に解除することを目指しながらしかもその結果が事故に至らないよう中断・解除についてできる限り正確に判断していく、という複雑な要素を含んでいるからだ。

 一体この過程のすべてをどう"適切""正確"に判断していけばよいのか。行動制限にまつわる迷いと不安も最小化して事故を減らしたい。

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 私がいる病棟は、精神科救急入院料(いわゆる精神科スーパー救急)を取っています。この病棟では入院時より隔離や拘束などの行動制限が行なわれることがあります。

 拘束は患者さんの自由が特に制限される行為であるため、看護師は、日常生活の援助を行なうために日に何度か「拘束の中断」を行なう場合があります。「拘束の中断」とは、排泄、食事、入浴、洗面など、療養上の生活の快適さへの配慮のために拘束を一時的に外し、再び拘束することです。「解除」とは区別し、指定医の診察を要するものではないといわれています。当病棟の取り決めとしては、医師からは「中断できない場合」のみ指示が入ることになっており、それ以外の中断は看護師の判断で行なってよいことになっています。

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 当院は、東京都城南地区の地域支援型病院である。総病床数506床を有し、このうち30床が精神科病床として運営されている。精神科医療報酬Ⅰ(平均在院日数25日以内)の届出をしている。

 二次医療圏における救急医療に加えて、行政医療として精神科身体合併症救急の受け入れも行なっている。急性期医療を基本としているため、患者は強い興奮・不穏状態にあったり、希死念慮をもっていたりすることがある。高齢者も多い。

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Ⅰはじめに

 わが国の精神科病院では精神保健福祉法に基づく適正な手続きのもと、治療と患者の安全を確保する目的で隔離および身体拘束といった行動制限が行なわれている。隔離の判断は精神保健指定医(以下指定医とする)または医師(12時間以内)、身体拘束の判断は指定医が行なうことと規定されている。

 しかし、医師の指導・監督のもとで看護師にも判断に関する権限が委譲される可能性があることが指摘されており、以下にそのような状況について整理した。

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看護が現実的・具体的にできることを話し合いたい

 近年、行動制限最小化委員会の設置に代表されるように、精神科医療において行動制限(隔離、身体拘束)を短縮させようとする取り組みが各施設で活発に行なわれている。

 これまで、行動制限を短縮するためのわが国における実践には、管理尺度やクリニカルパスなどの診療マネジメントツールを用いて行動制限のレビューを容易にする取り組みについての報告がある*1*2。また、看護実践からは、脱エスカレーション法を用いて暴力へ言語的・非言語的に介入することにより機械的拘束を減少させるためのプログラム*3である抑制時ケア基準*4や、行動制限緩和マニュアル*5が報告されている。

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行動制限の最小化がなぜ議論されるようになったか

 行動制限は、精神科に限らず古くから多くの医療現場で必要とされ、実施されてきた医療行為の1つですが、近年その「最小化」が話題となっています。この背景には、行動制限という患者の人権にかかわる制限行為が、不適切に行なわれないための歯止めの意義がありますが*1、一方ですべての医療行為がそうであるように、医療が客観的にその質を評価され、透明性を求められるようになったという、いわば時代的な社会的要請であるともいえます。つまり、組織としてのシステマティックな取り組みや学術的議論などが行なわれるようになってきたということでしょう*2*3*4*5*6

 行動制限についての枠組みが整備されつつある一方で、最も患者に接近してケアを行なう現場の看護師にとっては、まだまだ悩むところが多いという声を耳にします。これには、行動制限に関する意識に職種間で依然温度差があることや、実施や解除にあたり判断に迷う場面が存在するということがあるでしょう。また、必要とはいえ制限行為を行なうこと自体への心理的抵抗感、行動制限に関連する医療事故の存在なども大きな要因でしょう。

特集2 実は「痩せ」も危険だった!

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 食べているのにどんどん痩せていく。そんな患者さんがいませんか?

 陰性症状が中心で、病棟では目立たない患者さんです。

 でもおかしいなと思った頃には認知機能が落ち、身体疾患も併発し、坂を転がるようにどんどん状態が悪くなってしまう患者さんです。

 あわててカロリーを追加しても、痩を止めることはできません。そういう患者さんの身体では、一体何が起きているのでしょう。対策を考えます。

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 数年前より、「NST」という言葉を聞くようになりました。Nutrition Support Teamの略称で、「栄養サポートチーム」という意味です。栄養管理の必要な患者に対して、医師・薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師・リハビリスタッフ・医事課・資材課などさまざまなスタッフが連携し、栄養支援をするチームのことです。

 当院でも2003年よりNSTが立ち上げられ、活発な活動を展開しています。その動きに触発され、私たちは自分たちが働く精神科病棟においても、患者の栄養状態を見直す必要があるのではないかと考えるようになりました。そこで手はじめとして、スクリーニング調査を行なうことにしました。体重、身長、検査データ(総蛋白質、アルブミン、ヘモグロビン、血糖など)、必要カロリー量、活動係数、ストレス係数等を書き出し、数人の患者を評価してみました。

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瘦せも非常に問題です

 統合失調症で、肥満は大きな問題です。肥満は高脂血症、糖尿病、高血圧を引き起こすだけでなく、セルフ・イメージの悪化を引き起こし、患者さんのQOLを著しく損なうからです*1*2。肥満を起こす誘因に、生活習慣と抗精神病薬、とくに構造式で三環系構造を有するピン系の抗精神病薬があります*3。肥満に関して、最近は日常の看護でもかなり注意させるようになりました。

 ところが統合失調症の患者さんの身体合併症を治療していると、肥満と対極にある「瘦せ」も非常に問題であることに気づきます。著しい「瘦せ」は間違いなく統合失調症患者さんのQOLを低下させます。陰性症状が前面に出ている慢性期の無為・自閉的な患者さんでは、「瘦せ」は大きな問題です。それにもかかわらず、臨床の現場であまり注目されていません。

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連載にあたってのご挨拶

 本誌「為さんのこのニュースに注目」の連載が前号をもって終了になりました。かつて為金さんは大阪府立中宮病院(現在、地方独立行政法人大阪府立病院機構「大阪精神医療センター」)で精神科看護に従事していらっしゃいました。当時、私も東京都立松沢病院で精神看護に従事しておりましたが、東京と大阪の公立精神病院のよしみで交流する機会がたびたびあり、いわゆる「触法」や精神科救急の問題など多くのことを為金さんと話し合い、また多くの助言を頂戴いたしました。狭い世界と言ってしまえばそれまでですが、私の大先輩にあたる為金さんが担当されていたこの連載のあとを継ぐことになったのも何かの縁です。そのようなことを考えながら、編集担当の石川さんから連載の依頼を聞いておりました。

 お名前を申し上げれば読者の皆さんの多くがご存知の、この業界では高名な○○先生が、為金さんの後任に私を推挙していただいたということも石川さんから伺い、お断りすることもできずに引き受けてしまいました。

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 近年、精神科における薬物療法は、新規抗精神病薬の導入により大きく変わりつつあります。当院においても、従来型抗精神病薬の多剤併用・大量投与から新規抗精神病薬による単剤化へと切り替えがなされてきました。今後もその流れは続いていくと思われます。そのなかで看護もまた変化していくのが必然であると考えています。

 今回、当院における単剤化への取り組みとそのなかで経験した患者の変化、看護師の役割の変化を踏まえ、精神科看護のあり方を見つめ直した経緯を報告いたします。

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はじめに

 患者の妄想や陰性感情の対象となったことがあるかを当院の精神科病棟のスタッフにアンケートをとったところ、6割を超える看護師が「ある」と答えた。看護師は、内面においてストレスフルな感情を経験していた。患者の否定的行動化は看護師に消耗感を与え、バーンアウトの要因になるという報告もある。しかし、多くの場合は感情のコントロールが行なわれるため、看護師が感情を語ったりその経験が共有されることは少ない。

 今後は院内での適切なサポート体制が求められるが、それを考えるときには当事者となった看護師の経験した感情を理解することが必要である。

 そこで今回、患者の妄想や陰性感情の対象となることは、看護師にどのような感情を経験させ、またメンタルヘルスにどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的に研究を行なった。

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・53

連載 あるある小事典

連載 当事者研究【最終回】

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それは河崎君の爆発からはじまった

清水 今日は「私たちにとって当事者研究とは何か」をテーマに話し合いたいと思います。5年にわたる『精神看護』の連載は終わるということで、ちょうどいい区切りになるとは思いますけれど、当事者研究自体は永遠にやり続けるテーマかなと私は思っています。

向谷地 はじまりは、河崎君の≪「爆発」の研究≫(2002年1月号)がべてる祭で最優秀新人賞を受賞して、家族で寿司券をもらったときだよね。

連載 うちの病院ちょっといい話

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 執筆依頼を受ける前に、精神科で働いている知り合いの看護師から「病棟や精神科デイケアでどんなレクリエーションをやっている?」と聞かれました。「レクリエーションねぇ……。どこも同じようなものなんじゃないかなあ?うちは思春期の患者さんばかりだから、何をやっても面白かったりするけどね。変わったレクリエーションはあまりないなぁ」そんな感じで答えつつ、当院の思春期を対象としたデイケアでやっているプログラムを紹介しました。そのうちの1つである『連詩』がどこをどう巡ってか、医学書院の『精神看護』担当者の耳に入り、今回、執筆することになってしまいました。

 ところで皆さん、連詩はご存知でしょうか?私もつい最近まで連詩など見たこともやったこともありませんでした。たまたま当デイケアに研修に来ていた心理の学生が教えてくれたのがきっかけでした。その学生の話を聞いて、果たしてデイケアのメンバーができるのだろうか、イメージすることが苦手な子でも大丈夫なのだろうかといろいろな心配事が頭をよぎりましたが、やってみなければわからないということに行き着き、いざトライ!となりました。

連載 精神看護キーワード事典・17

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 10月を過ぎると、来年度に向けて退職したい人は申し出るように言われる。採用や人員配置に向けて動き出さなくてはならないからだ。春を待たず、冬のボーナスが支給されたら辞めるという人も出てくる。人が動く季節だ。

 昔は、自分が来年度どうしたいかを考えればよかった。大学院の受験をしたり、合格が決まって春からの新しい生活にわくわくしていた楽しい日々もあった。「3月で辞めます」というときは、修士課程や博士課程に進学が決まったという、いわゆるもうひとつの寿退職か(寿退職はしませんでしたが)、次の就職先から上司への依頼があって異動を祝福してもらったという円満退職の経験しかない。

連載 これで患者さんに説明できる。精神科薬の“薬理学的リクツ”・4

「抗てんかん薬」と看護 姫井 昭男
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入院患者は典型治療ではないので対応が難しくなっているはずです

 「てんかん」は、すでに古代ギリシア時代には、その病態が1つの疾病として記述されていました。当時、急に起こる意識消失、痙攣、不随意な運動といった症状を見た人々は、それが“神の意によって起きた”と考え、「神聖病」と称していました。そのためでしょう。症状を治めるために祈祷や呪術が行なわれていたという記録が残っています。

 現在は脳電気生理学や分子生物学の導入による脳機能の解明によりてんかんの原因が解明されてきていますが、それはたった80年ほど前からの話です。上記のように病因が不可解であった長い歴史をもつために、患者さんの多くは非常に偏見に満ちた扱いを受けていました。史書を紐解いてみると歴史上の偉人のなかにはてんかんであったであろうと思われる人も多く、てんかんは非常に一般的な病気で、しかもてんかんが原因で知能が障害されることはないことが証明されています。

連載 宮子あずさのサイキア=トリップ・55

「枠」もってますか? 宮子 あずさ
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リミット・セッティングという考え方

 精神科での勤務も10年を超えました。緩和ケア病棟を兼務する今は、精神科病棟で過ごす時間はわずかになっています。それでも、自分が今さまざまな物事について考え、判断を下す際、この精神科で培った感覚が非常に本質的な役割を果たしている。これは確かなことです。

 特に役に立っているのが、「リミット・セッティング」という考え方です。この役割と意味を教えてくれたのは、私と同年代のある重症神経症の女性でした。彼女は、母子葛藤をベースに家庭内で激しい暴力を繰り返しています。私が知っているだけでも数回は入院してきましたが、行動化がひどく閉鎖病棟に転送したときもありました。ここ数年は、閉鎖病棟での長期入院を反復し、入院受け入れの機会はぐっと減っています。

基本情報

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精神看護
10巻1号 (2007年1月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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