JSES 内視鏡外科 1巻3号 (1996年6月発行)

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特集　腹腔鏡下手術における腹壁吊り上げ法

不可能に挑戦する“皮下鋼線腹壁吊り上げ法”手術橋本　大定 1巻3号 , 1996年6月 , pp.215-222

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　気腹法下の手術では，高圧に起因する合併症のほかに，外科手術の基本となる止血，結紮，縫合などの操作が迅速かつ確実に行えない．われわれは，各種の内視鏡下手術を平圧下で行える皮下鋼線腹壁吊り上げ法（double subcutaneous wiring　＆　adjustable plate lifting）の開発や，各種の高機能鉗子（オジギ鉗子，結紮穴鉗子など）の開発，カメラの開発（フォグレススコープ，3Dスコープなど）によりこれらの問題を解決し，さらに術式の工夫（ダブルオジギマヌーバー，ダブル綿球テクニック，スライディングウインドウ）を加えた結果，胆嚢摘出術に関してはどんな困難症例をも安全，確実，迅速に内視鏡下で手術できるようになった．

腹腔鏡下手術における腹壁吊り上げ法の利点と問題点北野　正剛 , 板東　登志雄 , 吉田　隆典 , 二宮　浩一 1巻3号 , 1996年6月 , pp.223-227

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　腹壁吊り上げ法では気腹にまつわる合併症が回避されるほか，通常の手術機器を用いて開腹術と同様の手技が容易に施行できるという利点がある．しかしながら，気腹法でできない手技が可能となるわけではなく，両者において可能な手技は基本的には同等であり，吊り上げ法では，小切開創から使い馴れた道具で切除や吻合が簡単にできるということである．肝静脈系損傷の可能性があり，炭酸ガス塞栓が危惧される肝切除では吊り上げ法が不可欠であるが，腹腔内全般にわたる広い視野が得られないため，広いスペースが必要な脾摘出術や腸閉塞の手術は吊り上げ法ではかえって難しい手技となる．今後，腹腔鏡下手術の適応を広げていくためには，両者を適宜使い分けていくのが肝要と思われる．

細径鋼線皮下吊り上げ法による腹腔鏡手術の適応と限界永井　秀雄 1巻3号 , 1996年6月 , pp.228-233

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　腹腔鏡下手術の大部分を占める胆嚢摘出術に対しては，筆者らの細径鋼線皮下吊り上げ法はほぼ問題なく対応できる．肥満例には吊り上げ本数を2本から3〜4本に増やすことにより対処可能である，ただし，超肥満例では吊り上げと気腹の併用が望ましい．心肺機能低下例では吊り上げがよい．総胆管結石除去術，鼠径ヘルニア修復術にも有用であった．肝切除ではガス塞栓を避けるためにも吊り上げが望ましい．進行結腸癌に対しては，広範囲の腸剥離やリンパ節郭清を要するため吊り上げ器具が邪魔となり，本法には限界があった．いずれの術式を選ぶかは操作性と安全性のバランスを勘案し，臨機応変に対応するのが肝要と考える．

特集　泌尿器科における腹腔鏡下手術

腎癌に対する腹腔鏡下手術の是非松田　公志 , 三上　修 , 芦田　真 , 大原　孝 1巻3号 , 1996年6月 , pp.234-239

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　早期腎癌が増加し，腎摘除術の大半が腎癌に対して行われている現在，腹腔鏡下腎摘除術の腎癌への適応拡大の意味は大きい．早期に腎血管を処理すること，Gerota筋膜を含めた剥離，副腎合併切除，傍大血管リンパ節郭清など，根治的腎摘除術に求められる要件を腹腔鏡下手術は満たすことができる．一方，手術時間の短縮，安全な組織摘出法の確立など，残された問題も少なくない．3症例に対する腹腔鏡下根治的腎摘除術の経験を踏まえて，根治的腎摘除術の手技，適応，問題点と今後の発展について述べた．

腎癌に対する腹腔鏡下手術の是非鈴木　和雄 , 牛山　知己 , 影山　慎二 , 麦谷　荘一 , 藤田　公生 1巻3号 , 1996年6月 , pp.240-245

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　腎癌に対する腹腔鏡下手術の是非について検討した．副腎，腎周囲脂肪組織を含めた根治的腎摘除術は可能と考えられるが，腫瘍の摘出は皮膚小切開から一塊として取り出すべきであり，腹腔内で腫瘍を細切する方法は避けるべきと考える．現時点では広範な所属リンパ節郭清は不可能であるため，手術の適応を早期の孤立性小腎癌およびcytoreduction nephrectomyのいずれかに限るべきと考える．炭酸ガス気腹を用いない腹腔鏡補助下腎摘除術は，直視下の腎動静脈の確実な処理，腫瘍の一塊摘出，大動脈周囲リンパ節切除が可能であり，腎癌に対する低侵襲手術の1つとして有用と考えられる．

腎・副腎に対する経腹的アプローチ法寺地　敏郎 , 吉田　修 1巻3号 , 1996年6月 , pp.246-250

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　後腹膜的アプローチには，（1）腹腔内臓器に直接触れずにすむ，（2）腹腔内臓器損傷の危険性が低い，（3）バルーンによる広範囲の剥離を素早く行える，（4）腎静脈より先に直接腎動脈に到達できる，などの長所がある．術野が狭く深いという短所はあるものの，後半の2つの長所により後腹膜的アプローチは腎摘徐術に対しては魅力的な方法である．一方，経腹的アプローチは術野が広く，十分に習熟していない術者にとってはやさしい．たとえば，脂肪の多いクッシング症候群の症例では，後腹膜的アプローチで副腎に到達するのは難しい．経腹的アプローチでは，どんな副腎疾患の患者においても，多くの場合容易に副腎に到達できる．したがって，副腎摘除術においては，経腹的かつGerota筋膜外アプローチがよい．

腎・副腎に対する経後腹膜的アプローチ法馬場　志郎 1巻3号 , 1996年6月 , pp.251-255

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　腎・副腎に対する後腹膜鏡下手術に用いられる2種類のアプローチ法を，手術手技と適応疾患あるいは手術法について考察した．副腎皮質腺腫に対する腹腔鏡下手術と後腹膜鏡下手術との比較から，後者は手術時間が約1時間短縮され，腹腔内臓器を侵すことがなく，かつ腹腔鏡下手術の持つ低侵襲性を維持している点で，将来は後腹膜臓器の大部分の良性疾患に適応が拡大されるものと考えられる．しかし，後腹膜腔気腹に関する生理学的影響はいまだ十分に安全性が確立されたものとはいえず，今後なお慎重に分析，検討すべきである．

手術テクニック

胸部外科における術中体位高木　啓吾 1巻3号 , 1996年6月 , pp.256-257

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はじめに

　手術において体位は手術を成功させるうえで重要な要素であることはいうまでもない．胸腔鏡下手術ではトロッカーの挿入のみならず，術中大開胸が必要となったときの皮膚切開延長にも適した体位設定が要求される．また，切除部位によっては個々の症例に応じた体位バリエーションも考えられる．

　ここでは胸腔鏡下手術における標準的体位とその基本的な考え方，および体位バリエーションについて述べる．

New lnstruments

エンドステッチ，バーサポート万代　恭嗣 1巻3号 , 1996年6月 , pp.258

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1．エンドステッチ

　内視鏡下に施行する縫合・結紮は開腹手術で行うのと比較し，はるかに困難といわざるをえません．エンドステッチ（オートスーチャー社製）は，この内視鏡下手術手技のなかで最も困難といわれる縫合・結紮を新しいアイディアと工夫により迅速にかつ容易にする自動縫合結紮器具です．外見は持針器のようですが，その仕組みは鉗子のアゴの先端に糸付きの両端針が固定されています．手元のレバーを操作することによりアゴの針が固定されている側からもう一方のアゴへ移動するというものです．このことによりアゴの間に挟鉗された組織に縫合針が刺入され，この操作を繰り返すことにより連続縫合や外科結びなどの結紮も施行することができます．この器具の利点として術者のストレスの軽減，手術時間の短縮，内視鏡下手術の適応拡大が考えられます．

　【ユーザー側から】本器具を使用しての結紮は針の受け渡しで行うため，従来の用手的結紮やinstrumentalな結紮とも異なり，結紮操作に慣れるには何回か練習を積む必要がある．また，細くなったとはいえ縫合針の径はまだ太く，胆管縫合などを想定した場合はさらに繊細な縫合針への改良が望まれる．しかし，一度習熟してしまえば便利な器具となることは間違いない．

Conventional lnstruments

エンドクリップⅡ10mm，リガクリップオールポート北野　正剛 1巻3号 , 1996年6月 , pp.259

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1．エンドクリップⅡ　10mm

特徴

●必要に応じてクリップを装填できるオートマチックタイプ

●スーパーインターロッククリップ

原著

三次元内視鏡の有用性に関する検討金子　公一 , 許　俊鋭 , 山崎　達雄 , 菅　理晴 , 森田　理一郎 , 尾本　良三 1巻3号 , 1996年6月 , pp.260-264

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　三次元内視鏡の臨床的有用性を客観的に評価するために，当科の医師20名が決められた模擬手術操作を三次元画像（3D）と二次元画像（2D）の下でそれぞれ行い，要した時間を比較検討した．全体の平均所要時間は3Dでの操作のほうが有意に短かった．また，内視鏡手術経験者7名と未経験者13名で，いずれも3Dが有意に早く操作を終了しており，操作時間は内視鏡手術経験には関係がなかった．個人別の3Dと2Dの所要時間は外科経験が長く，年齢の高い層ほど差が大きく，より3Dの恩恵を受ける傾向にあった．以上より，三次元内視鏡は客観的にみても臨床的に有用と考えられた．

症例報告

腹腔鏡補助下にHartmann手術後の再建を行った1例金丸　洋 , 堀江　良彰 , 多田　真和 , 高田　伸 1巻3号 , 1996年6月 , pp.265-269

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　腹腔鏡下手術の適応は大腸疾患にも広がっている．われわれは，汎発性腹膜炎を合併した虫垂周囲炎・S状結腸憩室炎に対してHartmann手術を行い，その後の腸管再建（人工肛門の閉鎖およびS状結腸・直腸吻合）を腹腔鏡補助下に行った1例を経験した．症例は58歳，男性．体位は砕石位とし，炭酸ガスで気腹した．トロッカーは下腹部に4本挿入した．直腸断端の同定と周囲組織からの剥離には，初回手術時に直腸断端に縫着しておいた長めのナイロン糸が有用であった．腸管吻合には吻合口径が25mmの自動吻合器（CDH 25：Ethicon社製）を使用した．Laparosonic Coagulation Shears（LCS）を用いることにより，良好な視野を確保しながら腸管を損傷せずに人工肛門部腹腔側のS状結腸周囲の脂肪組織の剥離が可能であった．術後の疼痛は軽く，22時間で排ガスを認めた．第4病日から経口摂取を始め，第17病日に退院した．手技は比較的容易で，今後の普及が予想される．

手術手技

自然気胸に対する胸腔鏡下手術の実際森川　利昭 1巻3号 , 1996年6月 , pp.270-277

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　これまでに経験した自然気胸に対する胸腔鏡下手術の手技の要点を記述した．自然気胸は良性疾患であり，胸腔鏡手術のよい適応であるが，特に安全に注意して手術を行わなければならない．手術は麻酔医の協力の下，穿刺下ないしは小開胸下にブラをendo staplerで切除する．癒着剥離，縫合術やフィブリン糊の新しい使用法は有力な手段である．また，出血やendostaplerなどのトラブルシュートについても述べた．

基本情報

JSES 内視鏡外科
1巻3号
(1996年6月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1341-7266 日本内視鏡外科学会

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