日本内視鏡外科学会雑誌 30巻6号 (2025年11月発行)

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総説

腹腔鏡下骨盤内臓全摘術のコツとピットフォール向井　俊貴 , 秋吉　高志 30巻6号 , 2025年11月 , pp.377-386

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◆要旨：腹腔鏡下骨盤内臓全摘術（Lap-TPE）は，局所進行/再発直腸癌に対する根治的治療法の一手段として，近年その低侵襲性が注目されている．開腹手術に比べ，出血や術後合併症の軽減が期待される一方で，高度な技術と周到な準備が求められる．本稿ではLap-TPEのエビデンス，適応，手術に必要な局所解剖，手技の実際，術後管理を包括的に解説し，安全な導入に向けた指針を示す．

原著

膵腫瘍に対する低侵襲膵体尾部切除術の検討紙谷　直毅 , 吉川　高宏 , 西岡　歩美 , 根津　大樹 , 福岡　晃平 , 右田　和寛 , 中川　正 , 髙　済峯 30巻6号 , 2025年11月 , pp.387-393

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◆要旨：【目的】膵体尾部切除術を施行した腹腔鏡下手術（LDP）とロボット支援下手術（RDP）について比較検討を行う．【方法】2012年4月から2023年3月までに膵体尾部切除術を施行した115例を対象とした．【結果】脾温存術式（SPDP）を導入した後の期間において，LDP52例，RDP36例が施行されていた．背景疾患，腫瘍因子は両群で差異を認めなかったが，予定した脾温存の達成率はLDP群75.8％，RDP群95.0％とRDP群で高い傾向にあった（p＝0.08）．手術時間はRDP群で有意に延長したが（p＜0.01），その他の短期成績について差異を認めなかった．L-SPDP群とR-SPDP群の比較では，手術時間以外の短期成績に差異を認めなかった．【結語】脾温存術式においてロボット支援下手術は有用なアプローチ方法と考えられる．

腹腔鏡下肝切除術の低侵襲性を人工膵臓療法による短期成績から考える藤澤　和音 , 前田　広道 , 宗景　匡哉 , 川西　泰広 , 相田　眞咲 , 北川　博之 , 並川　努 , 瀬尾　智 30巻6号 , 2025年11月 , pp.394-401

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◆要旨：【目的】腹腔鏡下肝切除術の低侵襲性について，人工膵臓を用いた血糖値管理の結果から検討した．【方法】2022年1月から2023年4月までの期間に肝亜区域切除または部分切除症例で人工膵臓療法を施行した30例を，腹腔鏡手術（L群8例）と開腹手術（O群22例）に分け短期成績を検討した．【結果】合併症発生率に有意差を認めなかったが，平均在院日数はL群で有意に短かった．血糖値は両群とも80％以上の時間で目標値内に管理され，インスリン投与量（単位時間・体重あたり）はL群で有意に少なかった．【結語】腹腔鏡下肝切除術の低侵襲性が示唆され，人工膵臓療法によって両群とも良好な血糖値管理が可能であった．

高度胆囊炎に対する腹腔鏡下胆囊亜全摘術の短期治療成績木下　千尋 , 法水　信治 , 坂本　英至 , 尾辻　英彦 , 三竹　泰弘 , 長尾　拓哉 , 甲斐　巧也 , 篠原　涼 30巻6号 , 2025年11月 , pp.402-409

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◆要旨：高度胆囊炎に対する腹腔鏡下胆囊亜全摘術（laparoscopic subtotal cholecystectomy : LSC）の治療成績を報告する．2004年6月〜2023年8月に当院で高度胆囊炎に対し施行したLSC 168例について検討した．critical view of safety（CVS）の確保が困難と判断した症例に対し，胆囊頸部で離断し縫合閉鎖した（reconstituting）．手術時間は平均141.5分，出血量は平均31.1mL，ドレーン留置期間は平均3.3日，術後在院日数は平均5.4日であった．開腹移行例や血管胆管損傷例は認めなかった．術後胆汁漏を6例（3.6％）に認めたが，再手術例はなかった．退院後遺残胆囊結石を6例（3.6％），胆囊癌を4例（2.4％）認めた．reconstitutingを用いたLSCの短期成績は比較的良好であり，有用な術式と考えられた．

症例報告

2型糖尿病を合併する高度肥満症に対してlaparoscopic sleeve gastrectomy with transit bipartitionを施行した1例畑尾　史彦 , 大城　崇司 , 石橋　雄次 , 古田　隆一郎 , 森田　泰弘 , 今村　和広 30巻6号 , 2025年11月 , pp.410-415

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◆要旨：従来の腹腔鏡下スリーブ状胃切除術にバイパスを付加して効果を高める“スリーブプラス”が近年世界的に注目されている．これまで日本では一部施設においてスリーブプラスとして十二指腸を離断して十二指腸-空腸を吻合する腹腔鏡下スリーブバイパス術が行われてきた．この術式は特に2型糖尿病への治療効果が高い反面，高難度かつ術後に通常内視鏡による十二指腸観察が困難という欠点がある．今回われわれは2型糖尿病を合併する高度肥満症症例に対して，十二指腸を離断せず胃-空腸バイパスを加えるlaparoscopic sleeve gastrectomy with transit bipartitionを実施したので，日本で初めて報告する．

遅発性右側外傷性横隔膜ヘルニア嵌頓に対し腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行した2例中村　祥一 , 篠原　英仁 , 吉成　美喜 , 山方　伸茂 , 池添　清彦 , 馬場　活嘉 30巻6号 , 2025年11月 , pp.416-422

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◆要旨：われわれは，遅発性に生じた右側外傷性横隔膜ヘルニアに対し腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行した2例を経験したため文献的考察を含め報告する．［症例1］76歳，女性．転落外傷・多発肋骨骨折に対し加療歴あり．2年後，心窩部痛を主訴に受診した．CT検査で結腸と大網の脱出を伴う右横隔膜ヘルニア嵌頓の所見を認め腹腔鏡下修復術を行った．右横隔膜外背側の3cmのヘルニア門から横行結腸と大網が脱出していた．還納後ヘルニア門を非吸収性の有棘糸による連続縫合で閉鎖した．［症例2］78歳，男性．刺創受傷歴あり．38年後，腹痛を主訴に受診した．CT検査で小腸の脱出を伴う右横隔膜ヘルニア嵌頓の所見を認め腹腔鏡下修復術を行った．右横隔膜外背側の2.5cmのヘルニア門から小腸が脱出していた．還納後ヘルニア門を非吸収糸で単結紮縫合閉鎖した．遅発性外傷性横隔膜ヘルニアは比較的稀な病態であるが，胸腹部への外傷歴がある患者が腹部症状を訴える場合には本病態を考慮する必要がある．また，横隔膜ヘルニアに対する腹腔鏡下手術は安全かつ低侵襲であり，有効なアプローチ法と思われた．

腹腔鏡下局所切除術を施行した下行脚膵臓側の十二指腸GISTの1例稲本　道 , 増田　健人 , 藤田　悠介 , 西山　和宏 , 滝　吉郎 , 河本　泉 30巻6号 , 2025年11月 , pp.423-431

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◆要旨：患者は60歳，女性．当科で直腸癌に対する手術後，定期通院中であった．フォローアップのCTで，十二指腸下行脚膵臓側に22mm大の腫瘍を認め，十二指腸gastrointestinal stromal tumor（GIST）が疑われた．MRIでは乳頭からは距離があり，局所切除が可能と判断した．腹腔鏡下に右側結腸を脱転して膵頭十二指腸前面の視野を展開し，腫瘍を慎重に膵臓から剝離していった．マージンをとって十二指腸壁とともに全周性に局所切除し，2層にて縫合閉鎖した．病理検査でGIST（低リスク）と診断された．経過良好で術後6日目に退院となり，術後18か月現在無再発生存中である．

腹腔鏡下に修復した急性期外傷性横隔膜損傷の1例高橋　立成 , 赤井　正明 , 柳原　飛翔 , 三又　雄大 , 高木　章司 30巻6号 , 2025年11月 , pp.432-437

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◆要旨：患者は89歳，男性．交通外傷で受傷し，当院救急搬送となった．胸腹部造影CT検査で外傷性横隔膜損傷と診断され，同日緊急で腹腔鏡下手術を施行した．横隔膜損傷部より，胃・横行結腸が胸腔内へ脱出しており，これを還納し，損傷部を合成吸収性バーブ付き縫合糸で縫合閉鎖した．また，小腸穿孔を認め，縫合閉鎖した．術後24日目に気管切開し，術後78日目に転院，術後4年の胸部X線検査で再発はなかった．急性期外傷性横隔膜損傷に対する手術アプローチ法は様々だが，開腹手術の報告が多い．本症例は急性期症例に対して腹腔鏡下に修復した．当院で経験した他の5例と比較検討しながら報告する．

Richter型小腸嵌頓を伴うⅣ型食道裂孔ヘルニアに対して腹腔鏡下腸閉塞解除およびヘルニア修復術を施行した1例福迫　諭 , 藏原　弘 , 林　知実 , 井上　真岐 , 門野　潤 , 新地　洋之 30巻6号 , 2025年11月 , pp.438-444

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◆要旨：症例は82歳，女性．腸閉塞疑いで当院救急外来紹介となった．腹部造影CT検査で食道裂孔を介して小腸が縦隔内に脱出したⅣ型食道裂孔ヘルニアによる腸閉塞であり，腹痛や脱出小腸の虚血所見を認めず，全身状態も安定していたため，経鼻胃管およびイレウス管による腸管減圧後に腹腔鏡下腸閉塞解除およびヘルニア修復術を施行した．術中所見で小腸壁が小網の腹側から食道裂孔に嵌頓したRichter型ヘルニアであった．小腸壁の圧迫痕はあったが，虚血所見はなく腸切除は行わなかった．術後3日目から経口摂取を再開し，術後8日目に自宅退院した. Richter型のⅣ型食道裂孔ヘルニアの報告はなく，文献的考察を加えて報告する．

TEP法を用いて二期的に修復しえたde Garengeot herniaの1例小林　達矢 , 渡邊　将広 , 林　英司 , 河原　健夫 , 桐山　宗泰 , 陸　大輔 30巻6号 , 2025年11月 , pp.445-450

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◆要旨：症例は75歳，女性．右大腿部の膨隆を主訴に当院を受診した．右大腿部に母指頭大の膨隆を認めた．CTで右大腿ヘルニアへの虫垂の嵌頓を認め，周囲に液貯留を伴っていた．de Garengeot herniaと診断し，感染のリスクを考慮し二期的に手術を行う方針とした．まず緊急で腹腔鏡下虫垂切除術を施行した．経過は良好で，術後2日目に退院した．初回手術後57日目に完全腹膜外修復法（totally extraperitoneal repair：TEP法）で右大腿ヘルニアを修復した．術後経過は良好で，術後2日目に退院した．de Garengeot herniaは非常に稀な疾患であり，一期的手術や二期的手術など様々な報告がある．今回われわれはTEP法により二期的にde Garengeot herniaを修復しえた症例を経験したため報告する．

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腹腔鏡下で診断した後腹膜窩ヘルニアに対する手術佐子　英梨子 , 高野　公徳 , 田島　佑樹 , 藤崎　洋人 , 本郷　久美子 , 中川　基人 30巻6号 , 2025年11月 , pp.451-452

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要旨　後腹膜窩ヘルニアは比較的稀だが，絞扼性腸閉塞の原因となりうる疾患であり，早期の適切な手術介入が重要である．今回，本邦で過去に報告のないヘルニア囊を持つ後腹膜窩ヘルニアを内視鏡下で正確に診断し低侵襲に治療しえた1例を経験したため報告する．

文献抄録

Robotic technology in emergency general surgery cases in the era of minimally invasive surgery 30巻6号 , 2025年11月 , pp.453

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目次 30巻6号 , 2025年11月 , pp.375

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欧文目次 30巻6号 , 2025年11月 , pp.376

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編集後記長谷川　傑 30巻6号 , 2025年11月 , pp.454

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　日本における外科医療を取り巻く状況は大きな転換期を迎えています．少子高齢化に加え，外科医の数は減少傾向にあり，働き方改革の波の中で従来型の長時間労働に依存した教育や診療体制は維持できなくなりつつあります．また，臨床の多忙さから研究に割ける時間は限られ，基礎から臨床に至る研究力の低下が懸念されています．これらの課題は，医療制度全体に関わる深刻なテーマであり，外科医一人ひとりが直面する現実でもあります．

　一方で，世界に目を向けると，手術技術や周辺機器は新たな段階へと進化を遂げています．従来のda Vinciに加え，多様なロボットシステムが登場し，各国で臨床導入が始まっています．またAIによる画像解析，VRを用いたトレーニング，術中ナビゲーションの高度化など，外科医療を取り巻くテクノロジーは急速に広がりを見せています．こうした潮流は，手術そのものの安全性・精度の向上だけでなく，教育や研究の在り方をも大きく変えつつあります．

投稿時のチェックリスト 30巻6号 , 2025年11月

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基本情報

日本内視鏡外科学会雑誌
30巻6号
(2025年11月発行)

電子版ISSN：2186-6643 印刷版ISSN：1344-6703 日本内視鏡外科学会

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