日本内視鏡外科学会雑誌 30巻2号 (2025年3月発行)

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総説

内視鏡下鼠径部および腹壁ヘルニア修復術に必要な知識—解剖から最新ガイドラインまで蛭川　浩史 30巻2号 , 2025年3月 , pp.59-75

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◆要旨：鼠径部ヘルニアおよび腹壁ヘルニア修復術は，一般外科領域において頻度の高い外科手術の一つである．とくに鼠径部ヘルニア修復術は初期キャリアの外科医が執刀する機会が多い重要な手術である．良性疾患ではあるものの，手術手技の未熟さや解剖学的理解の不足，術式選択の誤りが，術後の再発や予期せぬ合併症を起こし患者の生活の質を損ねる可能性がある．外科医は，解剖を理解し手術手技を修練し続けなければならない．また，ガイドラインでは以前は否定されていた術式が見直され標準的な方法として推奨される場合があるほか，新たな技術の紹介も行われるため，最新のガイドラインを熟知し，知識のアップデートを怠らないことが不可欠である．

原著

婦人科腹腔鏡手術後の肩痛のリスク因子とプレガバリンの効果徳光　隆一 , 金城　泰幸 , 尾石　友子 , 西田　純一 30巻2号 , 2025年3月 , pp.76-82

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◆要約：婦人科腹腔鏡手術後の肩痛に対しプレガバリンを用いることで，有病率と要因，肩痛の軽減効果について後方視的に検討を行った．2017年1月から2018年12月の379例を対象とし，患者希望時にプレガバリンの頓服投与を行った．診療録よりプレガバリン服用の有無，肩痛変化の有無および患者の年齢，BMI，手術時間，出血量を抽出して解析に用いた．379症例中，プレガバリン投与を希望したのは35症例（9.2％）で，若年者，低BMI者に多かった．また，全例で肩痛の軽減が確認された．婦人科腹腔鏡手術後の肩痛は若年者，低BMI者がリスク因子となる可能性があり，プレガバリンの術後頓服投与は有効である可能性が示唆された．

術前MRIを用いたロボット仙骨腟固定術における難度の予測岸本　尚也 , 今竹　ひかる , 江本　郁子 , 安彦　郁 30巻2号 , 2025年3月 , pp.83-88

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◆要旨：ロボット仙骨腟固定術における仙骨前面の展開の難度を術前に予測する方法は限られている．仙骨前面の脂肪が，血管などの解剖学的位置の把握を困難にする場合が多い．今回，当院で施行した36例に対して，術前MRIを用いて仙骨前面の脂肪の厚みを計測し（仙骨前距離），仙骨前面の展開に要する時間（展開時間）との関連を検討した．結果，展開時間にはBMIの影響が強く，術者の執刀経験数を考慮しても，BMIは展開時間の延長に関連していた．一方で，仙骨前距離は手術難度の指標となりうる可能性が示唆されたが，今後症例数を積み重ねて検討する必要があると考察された．

症例報告

用手整復後に左閉鎖孔ヘルニア偽還納と診断し腹腔鏡下に修復した1例長谷部　圭史 , 三宅　隆史 , 吉田　大樹 , 渡邉　克隆 30巻2号 , 2025年3月 , pp.89-94

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◆要旨：症例は75歳，男性．腹部膨満感を主訴に当院を受診した．単純CTで左閉鎖孔ヘルニアと診断し，超音波下に用手整復を施行した．超音波検査で脱出した小腸は消失し，単純CTでも小腸は閉鎖孔から整復されていた．経過観察入院としたが，腸閉塞症状の改善がみられなかった．第3病日に造影CTを施行し，左閉鎖孔ヘルニアの偽還納と診断し，腹腔鏡下に手術を施行した．左閉鎖孔からヘルニア囊は還納されていたが，腹膜前腔で腹膜をヘルニア門として小腸が嵌頓していた．ヘルニア囊を切開し，小腸の嵌頓を解除した．嵌頓小腸は軽度の発赤のみで腸切除は要さなかった．閉鎖孔ヘルニアの偽還納は現在までに報告例がなく，稀な症例を経験したため，報告する．

Indocyanine green蛍光法が胆管内進展した大腸癌肝転移に対する腹腔鏡下肝切除時の切除範囲決定に有用であった1例須田　倫之 , 大塚　新平 , 蘆田　良 , 加藤　吉康 , 三浦　勇也 , 杉浦　禎一 30巻2号 , 2025年3月 , pp.95-101

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◆要旨：症例は82歳，女性．労作時胸痛を主訴に前医を受診し，高度貧血を認め，精査でS状結腸癌同時性肝転移と診断された．原発巣の切除後に，肝転移の切除目的に当院へ紹介された．当院の画像検査で切除可能多発肝転移（3病変）と診断し，1病変は胆管内進展が疑われた．同3病変に対して，腹腔鏡下肝部分切除術を施行した．術中にICG蛍光法を用いることで胆管内進展によって術前に投与したICGの排泄障害が生じた領域を明瞭に視認でき，過不足ないR0切除が可能であった．ICG蛍光法は，腹腔鏡下肝切除の際に胆管内進展範囲の推定に有用である．

ロボット支援下直腸切断術後の会陰ヘルニア修復術後に発症した続発性子宮広間膜裂孔ヘルニアに対し腹腔鏡下にメッシュを用いてヘルニア修復術を行った1例由比　元顕 , 平木　将紹 , 武居　晋 , 真鍋　達也 , 能城　浩和 30巻2号 , 2025年3月 , pp.102-106

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◆要旨：症例は63歳，女性．直腸癌に対するロボット支援下直腸切断術の術後10か月目に有症状の会陰ヘルニアを認めたため，腹腔鏡下に子宮を仙骨に固定し骨盤底を閉鎖しメッシュで修復を行った．ヘルニア修復術後28か月目に会陰部の膨隆が再燃し，CT検査で会陰部への小腸の脱出を認めたため，会陰ヘルニア再発と診断し再手術を施行した．腹腔鏡下に確認すると子宮の左側にfenestra type，右側にpouch typeの子宮広間膜裂孔ヘルニアを認めた．間隙を縫合閉鎖し，両側の広間膜を覆うようにメッシュを固定して修復術を行った．女性に対する直腸切断術後の子宮固定による会陰ヘルニア修復術後には子宮広間膜の菲薄化，脆弱化による子宮広間膜裂孔ヘルニアをきたすことがあり注意が必要である．

安全性を重視し二期的に施行した仰臥位胸腔鏡腹腔鏡併用横隔膜ヘルニア根治術の1例黒田　昂宏 , 島村　隆浩 , 江間　俊哉 , 神谷　欣志 30巻2号 , 2025年3月 , pp.107-113

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◆要旨：症例は68歳，男性．早期胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除後4年で非還納性の左横隔膜ヘルニアと診断された．待機的に腹腔鏡手術の方針としたが，大網と横行結腸がヘルニア門に強固に癒着し安全な剝離が困難であったため，二期的に仰臥位で胸腔鏡腹腔鏡併用横隔膜ヘルニア根治術を施行した．胸腔鏡下の観察を併用して胸腔内臓器損傷を回避し，仰臥位腹腔鏡下にヘルニア門の癒着剝離と還納，単純閉鎖，メッシュ固定を行った．横隔膜ヘルニアに対する術式は統一されていないが，ヘルニア門に癒着を伴う症例も多く安全な手術操作が肝要である．自験例のような仰臥位胸腔鏡腹腔鏡併用手術は横隔膜ヘルニアに対して汎用性に富む安全な術式と考えられた．

術後再発したupside down stomachに対し腹腔鏡下修復術および胃固定・胃瘻造設術を施行した1例瀬良　知央 , 橋本　拓朗 , 佐々木　麻帆 , 西澤　聡 , 藤原　有史 30巻2号 , 2025年3月 , pp.114-120

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◆要旨：症例は76歳，女性．統合失調症で当院精神科に長期入院中の患者．2年前に当院でupside down stomachに対し腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復術（Toupet法）を施行した既往がある．今回，急激な腹痛を訴えたためCT検査を実施したところupside down stomachを呈しており再発していた．上部消化管内視鏡検査では整復困難であり緊急手術加療とした．腹腔鏡にて手術を開始し脱出した胃は容易に腹腔内へ還納できた．裂孔開大部を再度縫縮し，再発を防ぐために尾側方向に牽引した状態で有棘縫合糸を用いて胃大彎側前壁を腹壁に固定する胃固定術と胃瘻造設を行った．術後経過は良好で合併症はなく，胃瘻は3か月後に抜去した．術後2年経過した現在再発なく経過している．

高度肥満症に対する腹腔鏡下単吻合胃管空腸バイパス術（laparoscopic single anastomosis sleeve-jejunal bypass : LSAS-J）関　洋介 , 笠間　和典 , 千葉　小夜 , 今村　清隆 , 春田　英律 , 梅澤　昭子 30巻2号 , 2025年3月 , pp.121-126

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◆要旨：肥満症に対する外科治療（bariatric and metabolic surgery：BMS）は，内科的治療（食事，運動，行動ならびに薬物療法）に抵抗性の肥満症患者に対する効果的な治療として広く行われている．2024年度の診療報酬改定により，従前の腹腔鏡下スリーブ状胃切除術（LSG）に加えて「スリーブ状胃切除によるもの（バイパス術を併置するもの）」が新たに保険収載された．バイパス術を併置するスリーブ状胃切除（いわゆるスリーブ・プラス）として，腹腔鏡下単吻合胃管空腸バイパス術（laparoscopic single anastomosis sleeve-jejunal bypass : LSAS-J）を国内で初めて実施したので症例報告する．

Leriche症候群を併存した肝細胞癌に対し腹腔鏡下肝左葉切除術を施行した1例三田地　克昂 , 小笠原　紀信 , 小野　翼 , 益田　邦洋 , 武藤　満完 , 上野　達也 30巻2号 , 2025年3月 , pp.127-133

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◆要旨：症例は71歳，男性．Leriche症候群に対して保存的に加療されていた．間欠性跛行の増悪にて施行した造影CTで肝S3/4のグリソンに接した腫瘤を認めた．血管は腹部大動脈から両側総腸骨動脈まで閉塞しており，下肢の血流は下腹壁動脈をはじめとする側副血行路で保たれていた．Leriche症候群を伴う肝細胞癌と診断し，側副血行路の損傷時に備え，血管外科のバックアップのもと手術の方針とした．アプローチ方法は側副血行路の損傷を避けるべく腹腔鏡手術を選択し，肝予備能は許容されることから，術式は切離面がシンプルな肝左葉切除とした．術前の体表超音波でマーキングした腹壁の側副血行路を避けて計7ポートで手術を施行した．手術は腹腔鏡で完遂し，合併症なく第7病日に退院した．適切な術式選択と血管外科との連携による十分な準備のもとで安全に腹腔鏡下肝切除術を施行しえた．

文献抄録

Extent of lymphadenectomy for surgical management of right-sided colon cancer : The randomized phase III RELARC trial 30巻2号 , 2025年3月 , pp.134

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目次 30巻2号 , 2025年3月 , pp.57

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欧文目次 30巻2号 , 2025年3月 , pp.58

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投稿時のチェックリスト 30巻2号 , 2025年3月 , pp.135

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編集後記伴　大輔 30巻2号 , 2025年3月 , pp.136

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　2024年10月より，東京科学大学（旧東京医科歯科大学）肝胆膵外科学分野の教授を拝命いたしました．先輩方からは「教授になると多くのことが変わる」と聞いておりましたが，予想以上に慌ただしい日々が続いており，限られた時間を有意義に使わなくてはと改めて身を引き締めております．

　新たな立場となり，最も大きく意識が変わったのは，後進の育成に対する責任です．教室員や大学院生が大学に所属し学ぶことで何を得るのかを常に考えさせられます．専門医試験や手術の技術など，目の前の臨床に拘泥しがちですが，実際には未解決の研究課題がいまだ数多く残されています．不確実な医療の中で最善の方法を模索し，真理を追究するためには，やはり論文執筆を通じて得られる学びが大きいと感じます．ある先輩が「外科医は論文を書くときにしか勉強しない」と仰っていましたが，まさに至言だと思います．