JIM 19巻1号 (2009年1月)

特集 からむ痰,うっとうしい咳

今月のQuestion & Keyword Index
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より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.

Question

Q1 緑色痰をみたら緑膿菌感染と考えていいのですか? 10

Q2 咳の種類と原因疾患について教えてください. 16

Q3 亜急性~慢性の咳で,頻度の高い疾患は? 22

Q4 細胞診のための喀痰はどのように採りますか? 26

Q5 遷延性咳嗽,慢性咳嗽を呈するアレルギー性疾患の鑑別で重要なことは? 30

Q6 去痰薬以外で,痰のからみを治療することができるのですか? 34

Q7 急性気管支炎の「急性」の定義は何ですか? 38

Q8 COPDに去痰薬は有効か? 44

Q9 痰を物理的に有効に出す方法は? 50

Q10 禁煙治療の実施にあたって留意することは? 56

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喀痰とは何か

 喀痰とは,気管支・肺からの分泌物の塊である.健康な人からの下気道分泌物は少量で,通常は喀痰として認知されない.したがって喀痰を自覚することは,ある種の病的な状態があることを示す.逆に多量の喀痰があっても無意識に嚥下して喀痰として自覚しない場合もある.喀痰は咳とともに喀出されるが,本人は明らかに咳と認知していないこともある.口腔・咽頭・鼻腔・副鼻腔からの分泌物を含んで「痰が出ます」と訴えることも多いが,後鼻漏などについての問診を慎重にすれば多くは判別できる.

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Case

咳を主訴として受診した気管支喘息の1例

患者:79歳,男性.

生活歴:事務職で,タバコを20歳から50歳まで毎日60本すっていた.

現病歴:数年前から労作時に軽い喘鳴があったが放置していたところ,最近,咳が頻繁に出るようになり,朝方に白色痰も出るようになって受診した.

現症と検査成績:背胸部に高音性連続音(wheeze)を聴取し,肺機能検査で肺活量2.20l(69%),1秒量1.13l(50%),1秒率51%と閉塞性換気障害を認めた.末梢血で好酸球数の増加やIgE値の上昇はなく,アレルゲン検査でスギに対する抗体価の上昇を認める程度であった.

治療:副腎皮質ステロイド薬の吸入療法で咳は軽減したが,喘鳴が続いたので気管支拡張薬を併用して症状の改善をみた.咳が前面に出るタイプの喘息(咳優位型喘息)である.

One more JIM
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Q1 亜急性~慢性の咳の鑑別に身体所見は必要でしょうか?X線,肺機能検査,血液検査で十分ではないでしょうか?

A1 たしかに亜急性~慢性の咳では聴診所見正常である場合がほとんどである.しかしX線,血液検査,肺機能検査もほとんど正常である.気管支喘息のように,喘鳴の存在がヒントになる疾患,COPDのように,喘鳴,クラックルがヒントになる疾患が含まれとくに気管支喘息は検査所見は正常であることが多い.咳喘息においては肺機能検査でも異常を指摘できない.懸命に誘発しとらえたわずかな喘鳴,クラックルはそれだけで疾患を絞り込む有用な所見である.ただ本文中で述べたように検査も身体所見も的確に取られた病歴なしでは何の役にも立たない.亜急性~慢性の咳では聴診所見正常,検査所見正常であることは日常茶飯事であり病歴のみが診断を指し示す場合もある.繰り返しになるが病歴,身体診察を通じて絞り込まれた鑑別診断を最低限の検査で絞り込むのが原則である.(亀井 三博→p22)

【診断】

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 筆者の診療所に長引く咳のため来院する患者は後を絶たない.多くは痰のからまない咳であるが,少量の痰のからみを同時に訴える患者もいる.咳は老若男女すべての世代で最も多い主訴のひとつである.考える診断は年齢,性別,喫煙歴,職歴などによって異なってくる.そして身体所見の重点は予想される鑑別診断によって異なってくる.はたして聴診所見は診断にどこまで寄与しているだろうか?症例をあげながら話を進めたい.

 その前にうっとうしい咳(からむ痰)の定義をする必要がある.ここでは3週間から8週間の亜急性咳嗽,8週間以上の慢性咳嗽を含むこととする(J3)1)

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Case

からむ痰を伴った早期肺癌の1例

患者:74歳,男性.

現病歴:25歳から喫煙を始めほぼ50年間毎日18本ほど吸っていた.1月頃から痰がからむようになり近医を受診したが,胸部X線検査で異常がないといわれた.9月初旬に集団検診を受け,胸部X線検査で無所見なるも喀痰細胞診で class Ⅴ(癌,扁平上皮癌の疑い)との判定が出たので(図1),オカルト肺癌(J2)の疑いで当院紹介となった.9月29日に気管支ファイバースコープで左肺上区入口部に軽度の粘膜隆起を認め,擦過細胞診でclass Ⅴ(扁平上皮癌)と診断された(図2).

治療:11月16日に左上葉切除を施行.上区支に大きさ5×2×10mmの上皮内癌(中分化型扁平上皮癌)を確認した(図3).進行期は0期(Tis/N0/M0),現在術後4年を経過して再発も転移もみられていない.

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Case

典型的な咳喘息の一例

患者:36歳,女性.

既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

喫煙歴:なし.

現病歴:3カ月前より,乾性咳嗽が持続的に継続している.喘鳴,呼吸困難感はなく,鼻汁,鼻閉,胸やけなどもなかった.1カ月前に近医を受診したところ,感冒といわれ鎮咳薬を処方された.しかし,症状が改善しないため当院を受診した.来院時,胸部聴診上wheezeは聴取しなかった.胸部X線写真,肺機能検査,血液検査に異常所見はなかった.吸入短時間作用性β2刺激薬を処方したところ,2週間後の受診時に咳は著明に減少していた.気管支拡張薬が有効であったので,治療的診断として咳喘息と判断した.診断をより確かなものにするためアセチルコリンの吸入による気道過敏性試験を行ったところ,5,000μg/mlの濃度で1秒量が20%以上低下した.さらに,高張性食塩水の吸入による誘発喀痰検査を行ったところ,喀痰中の好酸球比率は5%と軽度上昇していた.以上の結果より,咳喘息と確定診断した.

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Case

咽頭部閉塞感の治療例

患者:56歳,女性.体格は普通.

現病歴:数年前より,不眠傾向・些細なことが気になる・精神安定薬を服用しないと仕事に行けない,などの症状があり,心療内科にて加療を受けていた.喉に痰か何かがひっかかっている感じがあり,耳鼻科を受診するも異常なしといわれた.更年期障害の疑いにて,紹介された.

経過:咽頭部の閉塞感は,痰のからみを含めた器質的異常に基づくものではなく,漢方医学的に「気」の鬱滞と診断.約1週間の半夏厚朴湯投与により,咽頭部の閉塞感が改善傾向に向かい,2カ月の継続投与により,咽頭部の違和感は消失した.半夏厚朴湯を中止にしたが,その後,再発はなさそうである(再診していない).

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 薬はいつでも両刃の剣,効果と副作用,利益と無駄の両方を考える必要がある.よくある疾患に何が本当に有効か,エビデンスを見きわめたうえで対応することが,患者さんの利益になると考える.ここでは,急性気管支炎に焦点を当てて考えたい.考えやすいようにまずはCaseではじめてみよう.

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 喀痰は多くの呼吸器疾患で認められる非特異的症状であり,その治療は呼吸器領域の基本である.広義の去痰薬(Mucoactive agent)は作用別に,①排痰(去痰)薬 (Expectorant:痰の量を増加,加水で排痰を促し痰を出す),②粘液溶解薬 (Mucolytic:粘液の粘稠度を減少),③粘液作動薬(Mucokinetic:粘液の動力学を改善,気流改善,繊毛運動改善,上皮への粘着性,水分粘液の分泌),④粘液調節薬 (Mucoregulator:慢性の粘液過分泌の減少),に分類されるが,最近はこれら薬剤のもつアンチオキシダント作用,抗炎症作用も注目されている1).本稿では去痰薬の有効性について,慢性呼吸不全をきたす疾患,とくに慢性閉塞性肺疾患(COPD)を中心に,エビデンスを含めて概説する.

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Case

慢性の咳嗽と喀痰を主訴とした1例

患者:66歳,女性,主婦.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:20年前からうつ病,約5年前から慢性副鼻腔炎.

現病歴:約1年前から咳嗽と喀痰が出現するようになった.近医にて慢性気管支炎として治療を受けたが,症状が軽快しないために当科外来を受診した.

身体所見:血圧140/90mmHg,心臓雑音は聴取しない.両側下肺野に「パリパリ」という湿性ラ音を聴取する.腹部に異常所見なく,神経学的にも特記すべき異常を認めない.

診断:肺病変は胸部X線および胸部CT(図1a)からびまん性汎細気管支炎(J1)と診断した.さらに,本例は慢性副鼻腔炎を併発していることから,副鼻腔気管支症候群(J2)と診断した.

治療経過:近年,マクロライド系抗菌薬がびまん性汎細気管支炎および慢性副鼻腔炎に有用であることが報告されている.本例に対してはクラリスロマイシン(CAM 200mg×2/日)を投与した.喀痰に対しては,ジェットネブライザーによりブロムヘキシンの吸入療法,理学療法士による体位ドレナージとスクイージングを外来で行った.これらの治療により,咳嗽,喀痰は次第に軽減し,半年後,症状の軽快とともに,胸部CT上のびまん性小粒状陰影はほぼ完全に消失した(図1b).

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 2006年度の診療報酬の改定において,ニコチン依存症が新たな治療の対象となる病気として位置づけられ,「ニコチン依存症管理料(J1)」が新設された.これにより,保険診療としての外来での禁煙治療が可能になった.本管理料を算定するには各都道府県の社会保険事務所への届出が必要であり,そのための施設基準として,医療機関の敷地内禁煙化や呼気一酸化炭素濃度測定器を備えることなどの条件が定められている1).全国の登録医療機関数は,2008年11月末現在,約7,300施設まで増加している.

 本管理料による禁煙治療の内容は,「禁煙治療のための標準手順書」1)に基づいて,12週間にわたり計5回の治療を行うこととされている.この治療において,これまでニコチンパッチのみが保険薬として使用可能であったが,2008年5月から内服薬のバレニクリンが保険薬として使用可能となり,治療の選択肢が広がった(J2).

 本稿では,日常診療における患者に対する禁煙の働きかけと禁煙治療のポイントを紹介する.

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 小学4年生の時まで小児喘息を持っていたためか,咳と痰には奇妙な親近感がある.あの当時,吸入ステロイド治療薬などはなかったから,非選択性のβ刺激吸入薬が唯一の救いであった.透明で多量な(子ども心には多量に感じた)痰が出ると,死ぬかもと思うほど苦しかった呼吸が楽になったことをいまさらながらに思い出す.

 咳と痰だけをターゲットにして本特集を構成したが,知らないことが多いのには少し驚いた.急性気管支炎に有効な治療薬のエビデンスはデキストロメトルファン(メジコン(R))しかなく,リンコデ(リン酸コデイン)の有効性はないとか,禁煙治療薬にバレニクリンが加わったこととかである.

What's your diagnosis?[73]

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病歴

患者:79歳の女性.主訴:全身倦怠感,発熱.

現病歴:入院2カ月前から全身倦怠感,食欲低下,下腿浮腫,労作時息切れが出現.入院1カ月半前から長時間坐位時に首が右側に傾き,なかなか元に戻らなくなってきた.入院1カ月前には籐椅子に腰掛ける際に失敗し,臀部を強打したが病院には行かなかった.入院半月前に近医を高血圧フォロー目的で定期受診.その際上記症状に対する精査目的で当院総合外来紹介受診.外来にて胸部X線写真,心エコー,下肢静脈エコーに異常なしであった.同時期に整形外科を受診,斜頸についてはX線で所見なし,腰痛についてはL4の圧迫骨折と診断されている.入院10日前に近医再受診の際37.8℃の発熱を指摘された.それまでも熱感を感じることはあったものの熱を測っていなかった.入院5日前にも発熱は続いており近医にてレボフロキサシン(クラビット(R))処方されるも連日38℃台後半の発熱が継続し,採血上低蛋白血症,貧血,炎症反応強陽性を認めたとのことで精査加療目的に当院総合診療科入院となった.体重はこの2カ月で2kg減少した.

既往歴:20歳時に虫垂切除術,20歳代に肺門リンパ節結核を指摘されるも治療歴なし.家族歴:母;胃癌,弟;高血圧.内服薬:4年前よりケルロング(R)(βblocker),半月前よりフェロミア(R),ラシックス(R),入院5日前~クラビット(R).嗜好品:タバコ,アルコールなし.

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◆臨床の現場では相補代替医療(complementary and alternative medicine:CAM)に接する機会が多い.一方で患者からのサプリメントなどの問い合わせに苦慮する臨床医の声を耳にする.欧米ではCAMについてもランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)などEBMの手法で評価しようとする認識が浸透し,この10年でCAMの情報収集に関する分野は劇的な発展を遂げた.本稿では,エビデンスに基づいたCAMの情報源を整理し,その利用の仕方について紹介したい.

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[19]

「コンスタンティン」 浅井 篤
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自殺と罪の死後の行き先

 ジョン・コンスタンティンは20年もの間大量の喫煙をしてきたために肺癌に侵され,今や末期状態にある30代のエクソシスト(悪魔祓いの祈祷師)です.彼は神とサタンが結んだ契約を破って人間界に入り込んでくる悪魔たちを地獄に追い返すことを仕事にしていました.物語は精神科病棟に入院していたイザベルが自殺するところから始まり,この世に不法侵入してくる悪魔が増えて天国と地獄の勢力バランスが崩れ,地獄からやって来る恐ろしい存在とコンスタンティンとの対決でクライマックスを迎えます.

 主演のキアヌ・リーブスはかっこよく,霊感の強い双子のイザベルとアンジェラを一人二役で演じるレイチェル・ワイズは魅力的です.作品は特撮シーン満載でテンポのよい伝奇アクション映画に仕上がっています.ただストーリーは結構入り組んでおり,キリスト教や天国と地獄の概念について熟知していないとなかなか理解が難しいところがあるのも確かです.私は台詞の意味を理解し,悪魔を含む登場人物たちの「人間」関係を整理し,ストーリーの流れを把握するために4回は観たでしょうか.

私的小児科外来診療学入門[19]

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 腎泌尿器系の訴えで受診する小児の大半は,3歳児健診,保育園,幼稚園,学校で実施された尿検査の異常者です.今回は,尿検査異常以外の腎泌尿器系の訴えでプライマリ・ケアを受診する小児の診療を考えます.

レビューでわかる! いまどき診療エビデンス[30]

腰椎穿刺後の頭痛 星野 智祥
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 筆者は,地方の総合病院の総合診療科に勤務している.頭痛を訴えて来院する患者も多く,髄膜炎との鑑別に頭を悩ます機会も多い.髄膜炎の診断に寄与する病歴や理学所見については海外のレビューで紹介されているが,感度,もしくは特異度に問題があって,結局は髄液検査を実施してみないとよくわからないということも少なくない.

 ところが先日,腰椎穿刺後に1カ月以上も頭痛が持続した患者さんを経験した.文献を読んでみると,腰椎穿刺後の頭痛(post-lumbar puncture headache:PLPHA)は2日から14日間(平均8日間)にわたり症状が持続するとあるが1),「PLPHAを発症すると10%以上のケースで自然回復まで3週間以上かかる」という報告もあり2),日常診療で腰椎穿刺を行う医療者にとって決して無視のできない問題である.

となりの総合診療部[47]

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 長崎大学医学部は,昨年創立150周年を迎えた日本で最も伝統ある医学部です.そのなかにあって総合診療科は発足してまだ8年の最も新しい診療科であり,伝統の重みと若さの勢いを兼ね備えています.後期研修医から教員までスタッフ一丸となって,患者に信頼され人間味あふれる,現代版赤ひげともいえる総合医・家庭医の確立に向けて前進している教室です.

Update'09

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魅力満載のオーストラリア

 成田空港から飛行機に乗ってシドニーまで9時間20分,そこから飛行機を乗り継いで1時間30分の移動ののち,今回のWONCA Asia Pacific Regional Conference2008が開催されるメルボルンに到着しました.飛行機の搭乗時間は長いものの,時差は1時間なので,時差による体調の変化はあまり感じずに到着時から活動することができます.

 メルボルンはビクトリア州の州都で,首都がキャンベラに移るまでの間,オーストラリアの首都としての役割も果たしていました.そのため,現在でも多くの企業の本社が置かれているそうです.

基本情報

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JIM
19巻1号 (2009年1月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

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