理学療法ジャーナル 46巻12号 (2012年12月)

特集 高齢下肢切断の理学療法

EOI(essences of the issue)
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 近年,閉塞性動脈硬化症,糖尿病などによる末梢循環障害が原因で下肢切断を余儀なくされる高齢者が増加しているが,在院期間が短縮化するなかでの義足歩行能力の獲得には多くの課題がある.加齢による体力低下に加え,呼吸循環器疾患や脳血管障害などの合併症を有するなか,最適なソケット,膝継手などを用いた義足歩行やADL指導のあり方が理学療法士に問われている.

 そこで本特集では,最新の高齢下肢切断の動向と課題を明らかにして,高齢下肢切断における効果的な理学療法について紹介する.

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はじめに

 65歳以上の老齢人口は1995年の1,825万人から2025年の3,300万人まで急速に増加を続け,2015年には25%台に達し,その後も低出生率の影響を受け,2050年には32%に達すると推測されている.

 老齢人口が全体の7%に達すると高齢化社会と呼ばれ,そしてその2倍の14%に達すると高齢社会と呼ばれる.1994年に高齢化率が14%を越し1997年には老齢人口が年少人口を上回り高齢化が一段と進展し,すでに超高齢社会になっている.

 このような人口の高齢化とともに疾病構造も変化し,リハビリテーション(以下,リハ)サービスを必要とする高齢障害者へは青壮年者とは異なる高齢者の特性を踏まえた対応が求められる.高齢の下肢切断者は,青壮年期に下肢切断が行われ高齢になった場合と,高齢になってから下肢切断を余儀なくされた場合とがある.高齢になってからの下肢切断では,加齢に伴う知的・精神的機能,身体的機能に多くの問題を抱え,複数の慢性疾患を併発していることが多く,義足歩行の獲得に難渋することが多い.

 下肢切断者のリハビリテーションの目標は通常義足歩行の獲得とされるが,高齢になって下肢切断が行われた場合には,切断高位にもよるが必ずしも義足歩行を獲得できるわけではなく,義足非装着での活動を促進することが目標となることがある.

 一方,最近では義足の開発や材料の進歩が著しく,下肢切断者に処方される義足は,種々の機能を備えた義足部品や材料が開発されている.高齢下肢切断者においてもそれらの機能や新しい材料による製品を最大限に利用して,これまで義足歩行を断念していた切断者が義足歩行を獲得できるようになり得るのではないかと考える.

 本稿では,わが国における切断者に対する調査報告をふまえ,高齢者の下肢切断の現状や理学療法における課題として,義足歩行獲得およびその指導の考慮点について記述する.

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はじめに

 近年,わが国は高齢化の一途をたどっており,糖尿病や閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)などの末梢循環障害による高齢下肢切断患者の増加が指摘されている.一般的に,下肢切断患者のリハビリテーションはADL(activities of daily living)や歩行能力の再獲得を目的とし,理学療法士が積極的に治療にかかわることが求められる.なかでも高齢大腿切断患者に対する理学療法は切断レベルが高位であるだけでなく,高齢者に特有の様々な合併症により難渋することが少なくない.

 一方,診断群分類包括評価(diagnosis procedure combination:DPC)による入院期間の短縮化により,高齢切断患者は急性期から回復期リハビリテーション病棟や地域のリハビリテーション病院に転院するようになり,理学療法士が義足作製にかかわる機会や時間が減少しているのが現状である.

 そこで本稿では,当院での高齢大腿切断の理学療法における現状と課題について実際の事例を交えて述べる.

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はじめに

 高齢化や生活様式の変化に伴い高齢の下肢切断者が増加し,その中でも血行再建術や切断術の技術の進歩,膝関節機能の温存への意識の高まりにより,下腿切断の割合が増加している.下腿切断者は膝関節機能が温存されるため,高齢下肢切断者の中でも比較的歩行を再獲得できる場合が多い1).そこで本稿では,高齢下腿切断者における理学療法を施行するうえでの問題点や留意点,義足処方や装着の工夫,退院時の指導,フォローなどについて報告する.

 下肢切断の原因として近年割合が増加しているのが末梢循環障害による切断で,外傷性,腫瘍と続く.血管原性切断では全身の動脈硬化に基づく筋力低下や体力低下を伴っていること,また悪性腫瘍による切断の場合には切断術と並行し化学療法や放射線療法などを施行することも多く,これらの副作用による血球減少などの全身状態の低下を併発することがあるため,全身状態に配慮したリハビリテーションの実施が不可欠である.

 さらに,高齢者では原疾患や合併症による機能低下2)のベースに,加齢による機能低下が伴っていることを忘れてはいけない.加齢現象とは緩やかに進行する器官の機能低下とホメオスタシス機能の低下であり,最大努力・最大ストレス時にみられる器官の予備力の低下,環境変化への適応力の低下,ストレスに対する反応性の低下と言われており,その結果として疾病や外傷を受けやすくなる3).切断術後の機能としては,術前の生活レベル以上の能力を獲得することは難しいため,切断術前の運動機能,生活レベルを把握することは,ゴールを設定するうえでも重要である.

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はじめに

 近年の生活習慣の欧米化により社会の疾病構造が大きく変化し,糖尿病,高脂血症,高血圧などの生活習慣病を背景とした動脈硬化性疾患に由来する虚血性心疾患や末梢循環障害(peripheral arterial disease:PAD)が増加してきている.澤村による兵庫県下の下肢切断者の疫学調査1)においても,下肢切断者数は変わらないが交通外傷や労災による切断原因が減少し,PADによる切断が70%を占めるようになってきた.長島らの岡山県での調査2)でも同様にPADが増加してきており,切断時年齢も65歳以上が67.5%を占めていた.

 TASC Working Group3)による調査では,重症虚血肢に至り下腿切断を受けた患者の2年後の転帰において,二次切断により両側下肢切断へ移行したものが15%であった.また,Evskovら4)によると,一側下肢切断に至った場合,4年以内に反対側下肢を切断するリスクは44.3%にのぼると報告されている.わが国では2050年には高齢者人口が30%を超えるとの試算もあり,今後も臨床現場において高齢両側下肢切断者がますます増加するものと思われる.

 本稿では,PADによる高齢両側下肢切断者の理学療法の現状について,症例を提示しながら述べる.

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はじめに

 近年,高齢者の切断の原因は,外傷ではなく,糖尿病や動脈硬化症をはじめとする血管原性疾患の増加が指摘されている.動脈硬化症や糖尿病に合併する脳血管障害,虚血性心疾患といった併存疾患は,機能的予後や生命的予後に大きな影響を与えるため,疾患管理は理学療法を進めるうえでも重要である.

 また高齢者では,退院後の生活指導において,長年馴れ親しんだライフスタイルの変更を受け入れられないことも多い.このような背景をもつ在宅高齢下肢切断者に対して,実地の生活の中で,切断という障害と生活スタイルの再構築の両面から理学療法を考えていくことは非常に重要であり,生活動作の検討・練習にかかわる理学療法士の役割も大きい.

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 日本における理学療法士の歴史は,1966年に実施された第1回理学療法士・作業療法士国家試験に始まり,現在約半世紀を迎えようとしている.一方,理学療法士と深い関係にある日本リハビリテーション医学会は先行して2013年に半世紀を迎え,同年6月に第50回の記念大会が東京国際フォーラムで開催されることになっている.

 さて,今われわれは,理学療法と臨床現場であるリハビリテーション医療が半世紀前と比較して著しく進歩したと断言できるだろうか.理学療法の大きな進歩は2点ある.1点目は,理学療法士数が増えたことである.日本理学療法士協会のホームページによると,2012年6月時点現在の会員数は77,844名であり,今後も毎年1万名以上の増加が見込まれている.理学療法士数の増加は,理学療法士が勤務する施設数と1施設あたりの理学療法士数が増えたことを意味する.近年,慢性疾患患者と高齢者の急増により,国民の多くがリハビリテーション医療を必要としてきたが,その根幹を支える人材としての理学療法士は,他のどの職種よりも大きな社会貢献を果たしたことは間違いない.

入門講座 動画の活用・3

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 近年,学術大会や各種講演などにおいて,動画を活用するプレゼンテーション(以下,プレゼン)が頻繁にみられるようになってきた.われわれ理学療法士の仕事は症例ごとに機能再建を図り,最終的には症例の有する機能に応じた適正な動作を獲得させることを目的としている.こうした動作を視覚的に伝えるには,動画の活用は最も有効な手段の一つと言える.そのため,われわれがプレゼンする際に動画を上手に活用することは,今後さらに重要性が高まると予測される.

 本連載の第3回となる今回は,プレゼンに適した動画データの編集,保存方法,ファイルへの貼り方,インターネットへの取り込み方法,トラブルが起きないための注意点などについて解説する.

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要旨:シャイドレーガー症候群は起立性低血圧などの自律神経障害が主体となる疾患であり,オリーブ小脳萎縮症,線条体黒質変性症とともに多系統萎縮症として包括されている.

 起立性低血圧の対処法として弾性ストッキング,腹帯,足関節運動などが挙げられるが,本例では著明な起立性低血圧を防止することは困難であった.しかし,ベッド上座位で下肢を深く屈曲する,端座位では体幹を屈曲し,頭部を下垂する肢位において起立性低血圧を防止することが可能であった.

 シャイドレーガー症候群の起立性低血圧の対処法として理学療法を行う際,従来の方法に加え,ベッド上座位では下肢を屈曲する,端座位では体幹を屈曲し,頭部を下垂するなど姿勢を考慮した対応が重要であると思われる.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

軟部組織 金子 哲
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 軟部組織(soft tissue)とは,各種臓器および骨などの硬組織を除く体組織を指す.支持組織や運動器などがこれに含まれ,皮下組織,筋肉,筋膜,腱,滑膜,真皮,漿膜などの主に間葉系組織からなる1).われわれ理学療法士にとって,疼痛,関節可動域制限,筋力低下など,日々の臨床で最も関連の深い組織である.

1ページ講座 福祉機器―在宅生活のための選択・調整・指導のワンポイント

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 より重度の要介護者に対する床ずれ(褥瘡)予防や悪化の防止は重要なケアの一つであり,局所への持続的な圧迫力やずれ力を除去するケアと同時に,褥瘡防止用具の有効活用が重要なポイントとなる.

 介護保険レンタルで用いられる褥瘡防止用具には,① ウレタンやゲルによる静止型マットレスと,② 圧切替型エアマットレスがあるが,一般的には褥瘡がすでにある場合や,日常的に自力で寝返りが行えず褥瘡の危険因子を持っている場合にエアマットレスが選択される傾向にある.褥瘡の危険因子とは,生活場面での同一の姿勢の持続,体位変換が困難,病的な骨突出,浮腫,拘縮(特に下肢),皮膚の湿潤(多汗,尿便失禁),水分や栄養状態の低下などである.また,介護・介助の仕方や介護力の低下なども重要な因子である.

講座 医療経済・3

病院・介護事業経営 八木 麻衣子
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はじめに―経営学理論を活用した部門運営の提案

 経営学に馴染みがなくとも,「もしドラ」という言葉を耳にしたことがある人は多いと思う.この『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』1)は,主人公の女子高生が,著名な経営学者であるドラッカーの著書『マネジメント』2)と出合い,その内容を自身がマネージャーを務める野球部のマネジメントに活かして彼らを甲子園に導く,という物語である.「もしドラ」がビジネスパーソン以外の人にも広く読まれた背景には,読み物としての面白さとは別に,「経営(マネジメント)」に興味をもつ人が多数存在していることもあるだろう.

 経営とは,理論と実践を組み合わせることにより,組織において限られた経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」を有効活用して,最大限の成果を創造し,組織の「価値」を高めることを目的としている.一般的に,企業における「成果」は金銭的な収益で測られるため,経営というと「いかにして儲けるか」がテーマであるような印象をもたれる場合も少なくない.しかし,「成果」の定義を組織に見合ったものに置き換えることで,企業のみでなく医療機関や行政などの非営利団体をはじめ,ひいては家庭生活や子育てにまで応用可能な経営理論が多く存在するのである.

 そのなかで,理学療法士を含むリハビリテーション部門は,身体機能を評価・改善するという職能を発揮することで,医療・福祉施設が提供する医療サービスの「価値」を高めることができる.そのためには,医療において最も重要な「ヒト」という経営資源である「理学療法士」としての個人の力を集結したリハビリテーション専門職集団を統治(ガバナンス)し,組織内で求められる,もしくはそれ以上の役割を果たすことが重要となる.

 よって本稿では,多くの経営理論のなかから,理学療法士という専門職の組織を運営していくために有用であると思われる概念やフレームワークを紹介する.「経営理論」とは,バランスのとれた意思決定を行うための原理原則であり,医療機関での部門運営という正解のないなかで,最善策を求めるために先人の知恵を集約した思考方法であると言える.それら経営理論に基づくフレームワークの活用方法を提示することで,各施設でリハビリテーション部門の舵取りを担う,リーダーや管理職者の一助となれば幸いである.

臨床実習サブノート 基本動作の評価からプログラムを立案する・9

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はじめに

 腰痛の原因の85%は,原因が特定しきれない非特異的腰痛とされており,その多くは,椎間板,椎間関節,仙腸関節,背筋などの腰部組織に痛みの原因がある可能性が高いと考えられているが,特異的な理学所見や画像所見が乏しいことからその起源を明確にはできないとされる1).こうした背景から,腰痛を解剖学的あるいは生物学的損傷と捉え,それを矯正する手段をみつけようとする生物医学的腰痛モデルに代わり,近年では,生物・心理・社会的疼痛症候群という概念が一般的になりつつある2).つまり,生物学的因子とともに,心理的,社会的因子など多様な因子が腰痛の増悪や,慢性化に深く関連しているということであり,腰痛の捉え方が従来とは大きく変化してきている.したがって,腰痛症患者の評価・アプローチにおいては,腰部組織などの生物学的機能障害として捉えるとともに,腰痛に対する不安感や恐怖心などの心理的因子や,職場における人間関係のストレスや周囲のサポートが少ないことなどの社会的因子の関与も考慮しながら進めることが必要となる.

 本稿では,腰痛を生物・心理・社会的疼痛症候群ととらえたうえで,腰痛症患者が特に症状を訴えることが多い基本動作の一つである,坐位・立位に注目し,基本的な評価および理学療法アプローチについて解説する.

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要旨:これまで筋骨格系疾患において運動イメージ想起能力が低下することが指摘されてきたが,疾患特異的なものか,末梢運動器官に関連したものかは定かではない.本研究では,運動イメージ想起能力と末梢運動器官との関連性を検討するため,運動機能との関連が報告されている生活空間評価と運動イメージ想起能力の関連性を検証することを目的とした.対象は,下肢に筋骨格系疾患を有さず,日常活動すべてに自動車を使用していない健常者50名とした.生活空間評価にはlife space assessment(LSA)を用いた.運動イメージ想起能力の測定にはメンタルローテーションを用い,写真が表示されてから回答するまでの反応時間を求めた.その結果,LSAスコアとメンタルローテーション反応時間は中程度の負の相関を認めた.この結果は,生活空間評価に示される活動と運動イメージ想起能力が相互的に影響を及ぼしている可能性を示しており,運動イメージ想起能力が末梢運動器官に関連したものであることが示唆された.

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要旨:本研究の目的は,健側上肢でズボンの上げ下げ(以下,下衣操作)が自立している在宅脳卒中片麻痺者の下衣操作能力を,バランス能力,および筋力との関係という側面から分析することである.対象は脳卒中片麻痺者28名で,下肢Brunnstrom stageはⅢ 10名,Ⅳ 12名,Ⅴ 6名であった.検討する評価項目は,下衣操作能力(動作遂行時間,持ち替え回数),バランス能力(静止立位時の総軌跡長,静止立位,下衣操作時の健側・患側荷重率),筋力(健側膝伸展筋力,握力)とした.結果は,バランス能力では,静止立位,下衣操作時ともに,麻痺が重度なほど荷重率は健側下肢優位であり,統計学的にもstage ⅢとⅣ,Ⅴでは有意差が認められた.また,患側機能(10秒間最大荷重率)と下衣操作能力に相関を認めなかったことからも,患側への荷重能力の向上が必ずしも下衣操作能力の向上にはつながらないことが示唆された.

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第4回九州ハンドセラピィ研究会(第34回九州手外科研究会と同時開催)

会 期:2013年2月2日(土) 9:00~17:30

会 場:マリトピア(佐賀県佐賀市新栄東3-7-8)

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 1980年以来,工房や車いす製作者,時には著者たちSIG姿勢保持運営スタッフと共労し,小児や重症児・者など多様な障がいをおもちの方々の姿勢保持環境の改善やスポーツに関与してきた理学療法士として,感想を述べさせていただく.

 総論の第1章「姿勢保持の基礎知識」では,姿勢保持の概要と歴史,姿勢保持装置の基礎知識やチェックポイントが簡潔明瞭に記載されている.そして,第4章「姿勢保持装置製作の実際」に連携し,実践的な知識や技術が紹介されている.日本における姿勢保持の分野をリードし,歴史を築かれてきた繁成剛,飯島浩の両氏を中心に,工業デザイン・リハビリ工学技師たちがこれらの骨格を担い著作されている.さらに,厚生労働省障害福祉専門官の髙木憲司氏による特別資料「座位保持装置・車いすなどに関する支給制度について」は端的・詳細・最新情報である.以上で,過去から現在に至る姿勢保持について有効に学べる内容である.

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 近年,理学療法士養成校の教員や大学院生だけでなく,臨床の理学療法士や学部学生レベルでも研究を実施する能力が求められるようになってきている.これは,理学療法がエビデンスベースドのリハビリテーションを重視するようになったことや,専門理学療法士の資格取得をめざす際に学会発表が義務付けられたことも背景にある.学会発表を行うためには適切なデータ解析が必要となり,その中核となる知識として統計処理が挙げられる.しかし,この統計処理が壁となって学会発表まで踏み出せない者も多い.この統計処理には2つの壁がある.1つ目の壁としては,統計処理に対する知識に関する壁である.データを収集したのはよいが,どのような統計手法を選択して,得られた結果をどのように解釈して発表に使えばよいかわからないという壁である.2つ目の壁としては,統計解析を行うためのツールに関する壁である.Excelなどの表計算ソフトを用いれば,ある程度の統計解析を行うことはできるが,臨床データの統計処理に必要とされることが多いノンパラメトリック検定や多変量解析などの複雑な統計解析は行うことができない.これらの解析を行う場合にはSPSSなどの高価なソフトウェアを入手する必要があるが,大学などの研究機関は別として,臨床で働く理学療法士や学生個人で入手することは難しい.本書はこれら2つの統計処理に関する壁を取り除くべく執筆された書籍である.

 本書の3つの特徴を以下に述べる.1つ目はデータの見方や統計的検定から,理解が難しい分散分析や多変量解析までの内容が,数学的な知識がなくてもわかるように平易な表現を用いて解説されている点である.2つ目はそれぞれの統計解析手法の選び方や使い方が示されており,得られた結果の解釈の仕方,抄録やプレゼンテーションで結果を使用する際の留意点までがステップバイステップで解説されている点である.そして3つ目の本書で特筆すべき点は高機能な統計解析ソフトJSTATが付録として収載されている点である.JSTATの機能としては,t検定や相関分析等の簡単な統計処理はもちろんのこと,高価な統計解析ソフトウェアを用いなければ行うことができない,ノンパラメトリック検定,二元配置分散分析や重回帰分析,ロジスティック回帰分析などの機能が含まれている.また,操作方法が簡便であり,出力される統計結果もシンプルでわかりやすい.ここまで高機能で使いやすい統計解析ソフトを付録とした統計書籍はこれまでに存在しなかった.

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次号予告

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

文献抄録

編集後記 鶴見 隆正
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 2012年もあとわずかとなりましたが,この1年も国内外を取り巻く社会情勢はとても平穏な年とは言いがたい状況です.尖閣諸島や竹島などの領土に関することでは,隣国との歴史観や価値観の違いに加えて感情的な行動がより問題解決を複雑にしているように感じます.冷静に知恵を出し合い,より良い方向に解決することを願っています.また国民生活に目を向けると,金融貯蓄ゼロの世帯数が28.6%と過去最悪であると金融広報中央委員会は報告しています.この厳しい経済状況のなかで,懸命に高齢者を支え,在宅介護をされている家族の姿が透けてみえてきます.今こそ,安心して暮らせるような社会体制が望まれるときですが,国会周辺では相変わらず「近いうち」という文言の駆け引きばかりで,ひた向きに生活している国民のことを置き去りにしているように感じます.

 このような沈みがちな想いをスカッとする朗報が世界中に発信されました.人工多能性幹細胞(iPS細胞)を世界で初めて作製した山中伸弥京都大学教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことです.iPS細胞の画期的なところは,心筋や神経などの様々な組織細胞に置き換わることで,損傷した臓器や脊髄神経などの修復に用いる「再生医療」の新たな道を開いたことです.受賞コメントの「皆ができないと思っていることをできるようにするのが科学です」という教授のひと言は,難渋する中枢神経疾患の運動療法などに日々取り組む理学療法士の心に響き,力が湧いてきます.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
46巻12号 (2012年12月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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