理学療法ジャーナル 47巻1号 (2013年1月)

特集 脳のシステム障害と理学療法

EOI(essences of the issue)
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 脳は大脳半球皮質内のネットワーク,半球間の協調性,基底核や視床などを介したループ,小脳と大脳とのループ,さらには小脳,脊髄とが適宜連携をとりながら機能している.高次脳機能障害も大脳皮質のある局所が障害されて生じるだけではなく,縦横無尽に走る神経線維の傷害によって起こるシステム障害として理解することができる.そのシステム障害によってみられる病態を理解し,混乱した患者に対して理学療法士としてどのようにかかわるか解説した.

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 大脳は外界の情報を受け止める後頭葉,側頭葉,頭頂葉と,その情報などを基に外界に働きかけようとする前頭葉で構成されている.それらの情報のやりとりは,同側半球内では上縦束や下縦束,鉤状束などの長連合線維や近隣の回を結ぶ短連合線維を介してなされ,さらに左右半球間では脳梁に代表される交連線維で協調的な交換がなされている.

 それぞれの皮質がもつ機能は皮質損傷によってそれ相応の障害が生じるが,連合線維や交連線維の損傷によっても大脳は機能障害を来す.例えば,典型的な左半側空間無視を生じる領野である右下頭頂小葉には何ら問題がなくても,右前頭葉皮質下で上縦束の損傷があれば左半側空間無視を観察することができる.左半側空間無視という現象は同じかもしれないが,その両者の間で発生状況もかかわり方も,将来的な可能性も異なっていても何ら不思議ではない.

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はじめに

 前頭葉は前頭連合野と一次運動野から構成されている.前頭連合野はヒトで大きく発達しており,記憶,注意,意思決定,行動計画などの高次脳機能の遂行において中心的な役割を果たしている.一方,一次運動野には体部位再現があり,顔,上肢,下肢の動きを司る領域が外側から内側にかけて並んでいる.前頭連合野と一次運動野の各領域は,大脳基底核や小脳と選択的に連絡しており,こうした脳部位間の機能連関によって日々の行動が実現される.一次運動野の機能が失われると体部位再現に対応した強い麻痺症状が現れることは,最終的な運動出力の場として極めて重要であることを示す.

 これに対して,前頭連合野が障害されると,麻痺症状よりも高次脳機能障害が主要となる.この病態では,感覚機能や運動機能自体には基本的に問題がないので,周囲からの理解が得られにくい.しかし,高次脳機能障害はリハビリテーションの実施時や社会生活において問題となるので,運動障害と高次脳機能障害の両者に注目しながら患者さんの病態をとらえる必要がある.

 本稿は,その一助となることをめざして,前頭葉,小脳,基底核のネットワークについて解説したい.

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はじめに

 小脳出血や後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)域の梗塞などで,小脳損傷の患者の理学療法を実行するとき,はじめに思い浮かべる臨床症状は,協調運動障害やめまい,筋緊張低下などではないだろうか.もちろん,それ自体は大きな阻害因子であり,そのための治療介入を行うべきである.

 しかし,臨床上意欲がなく,介入しても拒否的になるケースを経験することはないだろうか.主症状に吐き気やめまいがあるので,動作練習はきついと判断し,それを受け入れたとしても,後日めまいなどがおさまっても発動性低下がしばらく続くケースがある.これは,小脳には大脳連合野,特に前頭連合野に線維連絡があり1~3),発動性低下や遂行機能障害などの認知障害が出現していることが推察されるからである.これらの症状は小脳損傷に限らず,視床損傷などでも現れ,大脳・小脳神経回路の認知ループ上の障害ととらえることができる.よって,大脳皮質自体の損傷以外にも,この経路の損傷ケースには理学療法上,運動障害に対する介入だけではなく,認知機能に関して対応する必要がある.

 本稿では,小脳や視床などと大脳皮質間の相互連絡の機能について,理学療法上留意すべき点を考える.運動制御や運動学習を形成する運動ループも含めた大脳・小脳神経回路に関し,小脳からの視点を中心に,筆者の所属施設で実際に経験した症例を提示し報告していく.

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視床・頭頂葉系の機能解剖

 視床は間脳に位置する神経核群で視床内髄板によって前核群,内側核群,外側核群に大別され,さらに12の核から構成されている.視床は感覚系の中継中枢として知られているが,個々の神経核は同側の大脳皮質に投射し,またその部位からの相互の線維連絡を受けることが知られている(図1)1)

 Schmahmann2)は,視床の機能を,網様核・髄板内核による注意覚醒系,前核群の辺縁系,後内側腹側核(ventral posteromedial nucleus of thalamus:VPM)・後外側腹側核(ventral posterolateral nucleus of thalamus:VPL)・外側(lateral geniculate body:LGB)および内側膝状体(medial geniculate body:MGB)などの特殊感覚系,前腹側核(anteroventral thalamic nucleusa:AV)・外側腹側核(ventrolateral thalamic nucleus:VL)などの運動系,後外側核(lateral posterior nucleus of thalamus:LP)・背側内側核(mediodorsal thalamic nucleus:MD)・視床枕(Pulvinar)などの連合系の5系に分類している.

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線条体の機能解剖

1.線条体と大脳基底核

 被殻と尾状核を合わせて線条体と言う.両者は発生学的には同一の細胞群からなるが,内包によって隔てられ(図1),互いに灰白質の線条の連絡で結ばれていることから線条体と呼ばれる(図2).線条体は,新線条体(または背側線条体)と腹側線条体に区分されるが,単に線条体と言った場合には一般的には新線条体のことを指し,本稿でも新線条体について解説する.

 大脳基底核は,臨床的には線条体(尾状核,被殻)と淡蒼球を指すことが多いが,厳密には機能的に関連の深い黒質,視床下核が含まれる.したがって,線条体のシステム障害を考える際には大脳基底核の機能を考慮する必要がある.

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はじめに

 脳血管障害や脊髄小脳変性症などでみられる小脳の障害では,低緊張・失調性・企図振戦を主とする症状を呈し,体幹部の動揺や失調性歩行のような運動障害が確認される.小脳性疾患は,一般的に四肢の随意運動は比較的良好に保持されているが,運動開始の遅延や運動範囲,運動出力,運動の測定エラーをはじめ筋緊張低下に起因した姿勢制御やバランスの障害が確認されることが多い.

 ヒトが2本足で立ち,巧みにバランスを維持しながら手を自由に使用し,高度なコミュニケーション能力を発揮できるのは,常にその活動を補償する適切な姿勢制御機構が働くためである.二足直立位で支持面となる足底には,効率よくバランスを営むために支持基底面からの感覚情報の変化を受け入れる能力が必要である.足底や下肢から入力される皮膚・固有感覚情報は背側脊髄小脳路を介して小脳に上行し,前庭系システムの調整を通して適切な立位姿勢制御に役立っている.このように,立位では重力に対する姿勢の偏位(displacement)に対する姿勢調整能力(ダイナミック・バランス)が無意識下で行われている.

 先にも述べたが,小脳に障害を受けた場合,一般的には筋緊張の低下がみられ,運動の開始に多くの時間を要する.さらには運動の調節がうまくいかず,重力に対する自律的な姿勢維持に異常を来し,立位保持さえも難しくなることがある.本来,良好な姿勢制御のためには,空間の身体位置を認知し身体の感覚受容器からの情報を組織化しなければならない.これらの姿勢制御に寄与する感覚には,視覚入力・体性感覚入力・前庭入力が重要でこれらの末梢入力が,重力および環境との相互作用で身体位置と運動を検知するために働いている.前庭および脊髄小脳神経回路に障害をもった場合,姿勢制御機構へ貢献する感覚システムが良好に作用せず,運動制御としてのバランスシステムに大きな影響を及ぼしていると考えられる.本稿では,脳卒中や脊髄小脳変性症などの変性性病変をもつことよって,前庭脊髄システムや脊髄小脳システムの機能が低下した対象者への理学療法について,脳のシステム理解を踏まえ述べてみたい.

とびら

重力とあそぶ 辻 清張
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 理学療法士になってちょうど30年になる.この拙論掲載はそのご褒美といったところか.私が臨床に出たころは神経生理学的アプローチ全盛期で,“何かのお墨付きをもっていないと理学療法士にあらず”的な風潮があった.良く言えば業界に向上心や昂揚感といったエネルギーが集積しており,悪く言えば身の丈以上の驕りが存在していた気がする.それはそれで心地よかった.

 1970年代,脳性麻痺は治るか? といった議論が世界的に巻き起こっている一方で,新生児科領域では肺サーファクタント補充療法が確立し,低出生体重児の救命率が飛躍的に向上し始めたことを,私も含め当時の理学療法士は認識していなかったように思う.1985年からNICU(新生児特定集中治療室)とかかわりをもち,その後20年で1,000例を超える赤ちゃんと出会ったが,エビデンスを問われると頭を抱えてしまう.パラメータが多すぎるゆえに,早期理学療法の効果を声高らかに語るには無理がある.今も昔も赤ちゃんとその家族の笑顔に癒されるのみで,医療側から何が提供できたかはなはだ自信がない.自信がないどころか赤ちゃんからは学ぶことばかりだ.運動発達は,無重力の世界から重力にさらされた環境下に放り出されたときから始まる.要は重力とどう付き合うかである.

入門講座 統計学入門・1【新連載】

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はじめに

 個人的な話で申し訳ありませんが,大学・大学院の教員をしているせいか,「研究がしたいんだけど,“統計”がわからない」という声を聞いたり,「研究がしたいので“統計”を教えてください」という相談を受けることが少なくありません.やはり「研究」には「統計」が欠かせない要素のようです.そこでそうした“統計”を勉強しようとして関係書籍を開いてみても,数式が並んでいてなかなかわかりにくかったり,結局どうすればよいのかがわからなかったりするのではないでしょうか.

 では,このいわゆる「統計」とは一体何なのでしょうか.本稿を始めるにあたって,少しだけ「統計」や「統計学」について考えてみたいと思います.統計学は記述統計学と推測統計学(あるいは推計学)というものに分けられます.記述統計学とは,対象となる集団を観察した結果として得られたデータから,その集団の状態をより少ない数値に集約して表現する学問,あるいは手順のことです.対して推測統計学とは,対象となる集団全体(「母集団」)を観察するのではなく,全体から抽出した「標本」から全体の性質を推測しようとする学問,あるいは手順のことです.われわれが研究で「統計」と呼んでいるものは,この推測統計学を指すことが一般的です.

 例えば,ある理学療法介入による動的バランス能力の向上効果を検証するために,30名の地域在住高齢者にその理学療法を3週間実施したとします.そして3週間の理学療法の前後でファンクショナル・リーチを測定した結果,理学療法実施前に比べて理学療法実施後のほうが平均で14.7cm延長したことが明らかとなりました(例1,表1).この研究で言いたいことは,今回の被験者30名だけにこの理学療法による動的バランス能力の向上効果があったことでしょうか.たぶん,そうではないはずです.この研究では,被験者の30名だけではなく,地域在住高齢者であれば誰に対してもその理学療法を実施すれば,動的バランス能力が向上することを言いたいのではないでしょうか.このとき,被験者の30名は地域在住高齢者全体を母集団とした標本で,その標本から母集団全体を推測する手段が推測統計学,つまりわれわれが「統計」と呼んでいるものなのです.

 本稿では,この推測統計学のうち基礎的なものに絞り,統計手法を選ぶ手順を4つのステップに分けて解説していきます.さらに,統計手法の選択手順で考えた知識を用いて,収集したデータの記載方法についても解説します.

あんてな

放射線の人体への影響 齋藤 勉
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はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の発生以来,放射能に対する恐怖が東日本を中心に渦巻いている.これには事故による深刻な放射能汚染とともに,政府の対応や報道も大きく関与している.地震と津波で2万人近い犠牲者が出ているのに,放射能だけがきわめて危険なもののような取り扱いである.

 医療は医師の管理のもとに国家資格取得者により行われるため,使用限度(許容量)の範囲内でも身体的な影響が出ることがしばしばある.しかし,放射線の線量限度,特に公衆の被曝限度は人体に影響が出る領域からはるかに少ない線量で制限されている.

 食品などで消費期限と実際の食するには適さない状態との間に乖離があるように,被曝の影響(100ミリシーベルト以上)と一般人に対する安全基準(1ミリシーベルト未満)の間には大きなギャップがある(表1).これを知っていないと混乱してしまう.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

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 PS(Performance Status)とは,患者が自分で身の回りのことをどこまで行うことができるかを表す尺度である.主にがん患者の身体機能の評価に用いられており,生存期間の予測因子として重要である.

1ページ講座 医療器具を知る【新連載】

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 点滴静脈注射は薬液を静脈内に持続的に注入する方法で,点滴ボトルを輸液セットにつないで行われる.目的には,薬剤投与や水分・電解質・栄養補給などが挙げられる(図1).

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 臨床10年目に入り,L4/5椎間関節の形成不全とL3/4癒合によりL4のすべりとL4/5の狭窄が生じ,右下肢筋力低下と重度間欠性跛行を来した.鎮痛薬や神経根ブロックにて一時的な症状緩和を図ってきたが,日常生活に支障を来し始め,仕事では6分間歩行試験中に患者さんの歩行スピードや耐久性に自分自身がついていけなくなってしまった.症状改善のために手術を受けることを決心し,腰椎すべり症に対する全身麻酔下での6時間以上の手術(椎体固定術)を受けた.その入院中に読んでいたコナン・ドイルによる「ボヘミアの醜聞」という物語のなかに「You see, but you do not observe. The distinction is clear.」1)という記載があり,この言葉が下記のことを考えるきっかけになった.

 麻酔が切れ始め覚醒すると,手術室の明かりがまぶしく,痰が絡んでいるのに咳がしにくく息苦しさを感じた.その直後,吸引,抜管が行われ,すぐに咳ができ呼吸が少し楽になった.しばらくの間は声がかすれ,飲水ができず,術後3時間は酸素マスク5L/分の使用が必要であったため,口の中がカラカラの状態であった.効果的な咳嗽ができない原因の1つの咳嗽の第3相(圧縮)の人工気道による声門閉鎖不足とはこのことかと,身をもって実感した.術後翌日は,事前に採型していた硬性コルセット装着下にて離床許可が出ていたが,強い創部痛のため寝返りもままならず,1日ベッドから離れられなかった.また術後初めて歩いたときには,トレンデレンブルグ跛行が生じ思うように歩けず,「これからどうなるんだろう」という不安と情けなさ,悔しさでいっぱいになり,忘れられない体験となった.

講座 運動連鎖・1【新連載】

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はじめに

 「運動連鎖」は,本来の定義が曖昧なまま広く用いられている不思議な用語である.またその用語を用いることで身体運動を理解した気になってしまう危険性をも秘めている.

 この用語の由来と思われる英語には,“kinetic chain”と“kinematic chain”という2つの言葉があり,運動力学的並びに運動学的概念のもと解釈されている1).歴史的背景としては,機械工学の分野に起源をもつ,ピンジョイントで結ばれたリンクモデルの動きを示すために用いられていた“kinetic chain”という概念を,身体運動学に適応させたのがSteindler2)であることは広く知られている.また,職種間における認識や定義も異なっており,バイオメカニクス分野においては,運動連鎖を運動学(kinematics),運動力学(kinetics)だけでなくエネルギー論(energetics)で考えるようにしているという長浜ら3)の報告もある.山岸4)は,運動連鎖という用語に踊らされることなく,解剖学,生理学,生体力学,心理学に基づく身体運動学的視点に立って,全身がどのように協応して身体運動を達成しているのかを考えることが重要であると述べている.運動連鎖の視点は理学療法を展開していくうえで必要な概念となるが,その定義を明確にしたうえで活用しなくてはならない.

 歩行時における股関節の主要な役割は,体幹の安定化を図るために,骨盤・体幹を直立位に保つことである5,6).また下肢の各関節とのかかわりにより,歩行各相に課せられた役割を果たすために機能する.変形性股関節症の歩行特性としては,痛み,筋力,脚長差の側面から,疼痛性跛行,軟性墜落跛行,硬性墜落跛行とに分類されるが7),その他の特徴である,寛骨臼,大腿骨頸体角・前捻角などの構造的問題から生じる被覆率の低下や,病期進行に伴う関節可動域の低下などの要因を理解することで,多様化する変形性股関節症の歩行分析における観察ポイントがみえてくる.

 本稿においては,運動連鎖の定義を股関節機能が身体に及ぼす副次的な動きと限局し,運動学並びに運動力学の視点のもとに,歩行時における股関節の役割と変形性股関節症の歩行特性について矢状面を中心に,前額面・水平面からの視点も加え解説していく.

臨床実習サブノート 基本動作の評価からプログラムを立案する・10

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はじめに

 「臨床実習サブノート:基本動作の評価からプログラムを立案する」シリーズも終盤にさしかかるなか,本稿のテーマは本シリーズ唯一の内部障害疾患を対象とした「呼吸器疾患患者の基本動作の評価からのプログラム立案」である.臨床実習中の学生が,スーパーバイザーから「呼吸器疾患の患者さんを担当症例にするよ」と言われたときの心中を察するのは容易である.おそらく学生にとって呼吸器疾患を含む内部障害は『目にみえにくい障害』であり,運動器疾患や脳血管障害と比較してリスク管理が難しく,何を評価・治療していけばよいのかと悩むことであろう.しかしながら,今回中心に述べる慢性閉塞性肺疾患(chronic Obstructive pulmonary disease:COPD)の患者数は530万人以上と推計され1),今後は原疾患としてだけでなく,他疾患の合併症としても対象となる機会の増加が予想される.呼吸器疾患は,理学療法士として避けて通ることのできない疾患となりつつあるのだ.

 本稿では,その目にみえにくい障害をいかに可視化し,評価,治療へと結びつけていくかを,基本動作を中心に述べていきたい.

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要旨:[目的]高齢者に対する足踏み運動と計算課題を組み合わせた二重課題トレーニングについて,研究1では運動負荷強度の検討および転倒歴との関連,研究2では運動機能および認知機能に対するトレーニング効果を検討した.[方法と結果]研究1では高齢者17名に対し,足踏み運動および計算課題の単一および二重課題の条件で,運動負荷量,足踏み運動と転倒歴との関係を比較した.二重課題の遂行能力は転倒歴と関係があり,認知機能と正の相関関係があった.また,二重課題は単一課題と負荷量に相違はなく,強度はKarvonen法にて10~20%と低強度であった.研究2では高齢者15名を無作為に単一課題群,二重課題群に分け,それぞれ6週間自主トレーニングを行い,運動認知機能の変化を調査した.その結果,二重課題群ではトレーニング前後で足踏み回数が増え,加えて注意配分の測定指標であるプローブ反応時間が短縮した.[結語]足踏み運動と計算課題による二重課題自主トレーニングは,高齢者に対し低強度で実施でき,運動機能に加え,注意配分能力の向上が認められた.

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はじめに

 障害者スポーツは,リハビリテーションから競技レベルに至るまで,身体障害者がより活動的な人生を充実させていこうとする1つの手段である.そして,理学療法士が実際に選手や競技団体にかかわる機会も少しずつ増えている.

 さて,アンプティサッカーという競技をご存じだろうか.まだまだ日本では馴染みの薄い競技ではあるが,障害者スポーツの1つとして徐々に普及が進んでいる競技である.

 アンプティサッカーは上肢・下肢切断者が義肢なしでプレーするサッカー(図1)であり,1980年にアメリカで始まった.1チーム7人で,フィールドプレーヤーは下肢切断者,ゴールキーパーは上肢切断者が務める.フィールドプレーヤーは義足を外した状態で両手にクラッチ(ロフストランド杖)をもち,杖でボールをコントロールすると反則で,オフサイドはない.ピッチの広さは健常者のサッカーの3分の2ほどであり,試合時間は前後半各25分の計50分である.日本での歴史は浅く,2010年に元アンプティサッカーブラジル代表の日系人が来日したことをきっかけに普及活動が開始され,その後日本初のアンプティサッカーチームFC Gatharsec(ガサルス)が立ち上げられた1).また2010年第8回ワールドカップアルゼンチン大会への出場を機に,日本アンプティサッカー協会(JAFA)2)が設立された.国際アンプティサッカー連盟(WAFF)には現在20か国以上が加盟しており,高価な器具を使わずプレーできるため,経済的に恵まれない国々でも受け入れられやすい.特に紛争の多い地域では,四肢を欠損した兵士や民間人の身体的リハビリテーションやメンタルヘルスケアに効果を上げている.世界大会も10回以上行われており,ヨーロッパ,アフリカ,南米などではプロリーグやジュニアリーグも存在する.

 著者は,昨年より,日本で初めてのアンプティサッカーチームFC Gatharsec(ガサルス)に,専属トレーナーとして練習および試合に帯同している.これまでチーム帯同のみならず,日本のアンプティサッカーに定期的にかかわるトレーナーはおらず,トレーナー業務の立ち上げから現在までの経過,取り組み,今後の課題を紹介および報告したい.なお今回の報告に際し,選手より同意を得た.

資料

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 『神経解剖集中講義 第2版』(原著“High-Yield Neuroanatomy 4th Edition”)は,実に丁寧に作り込まれた本である.それは原著にも翻訳にも言える.恐らく原著に触発された翻訳者が,翻訳に際して労を惜しまなかった結果,このような単なる翻訳書にとどまらない,工夫に満ちた本として仕上がったものと思う.

 翻訳者は巻末に現行の「コア・カリキュラム対応表」を付け,原書には含まれない解説を付し,さらにはわが国の臨床統計を追記している.これは並大抵なことではない.翻訳者および監訳者の真摯(しんし)な取り組み姿勢に心からの敬意を表したい.

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 『アナトミー・トレイン(原題Anatomy Train―Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists)』は筋筋膜の構造を臨床的および解剖的知見からまとめ上げた書である.筋膜(fascia)は運動の力や張力を伝達するすべての結合組織性の構造物を指し,筋筋膜(myofascia)は筋組織(筋)とそれに付随する結合組織網(筋膜)と結束して分離不可能な性質のものを示している(本文より).本書は筋筋膜の連続体を「アナトミー・トレイン」と名付けた12本の筋筋膜経線(myofascial meridian)の体系として述べている.著者のThomas W. Myersは米国の免許をもつマッサージセラピストで,マッサージとボディーワークセラピストの認定を受けている.彼は,Ida Rolf博士が体系付けた筋筋膜に対する徒手療法であるRolf法の認定療法士であり,長年にわたって臨床と教育に携わっている.

 従来の解剖学は,人体を細分化し,骨格系,筋系,神経系,消化器系,呼吸器系,循環器系,泌尿器系,感覚器系などに分けている.一般的な解剖学の教育は人体の構造を学習するのに,各系について部分から全体を学ぶように行われている.その過程で「全身の複合体」である筋膜系は教育されていない.本書は筋骨格系を骨格とそれを結び付けて支えるゴム紐のような張力材からなる,テンセグリティー(緊張tensionと統合integrityを合わせた造語)構造としてとらえている.骨格をはじめとするあらゆる臓器を張力材として結び付けているものが,全身に連続して分布している筋筋膜であり,12の筋筋膜経線(アナトミー・トレイン)からなる.各トレインは姿勢機能と運動機能に関連しており,本書ではそれらの異常を評価し治療する方法がトレインごとに具体的に述べられている.さらに,「運行中のアナトミー・トレイン」として姿勢や動作の分析方法を紹介し,「構造分析」として,全体的姿勢評価法について述べられている.付録のDVDには「アナトミー・トレイン」の概念,解剖により剖出した各トレインとその説明,姿勢機能と運動機能の評価法と治療手技についての動画と静止が収載されており,書籍のページにはDVD参照マークが示されている.

第24回理学療法ジャーナル賞発表

文献抄録

編集後記 吉尾 雅春
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 世界保健機関(WHO)が示した国際生活機能分類(ICF)では,障害をもった人々がより健康な生活を送れるようにするために,いろいろな視点から評価し,アプローチすることを求めています.そのなかの要素の1つとして患者の「環境因子」を取り上げています.家族の熱い思いと行動力も環境因子であり,家屋構造や玄関の前の石段も環境因子になります.

 ここまではリハビリテーション医療従事者の誰もが考えることです.いや,リハビリテーション医療従事者だからこそそのように考えるのであり,それらへの対策を考えていく専門家がリハビリテーション医療従事者です.しかし,患者の立場に立ってみると,今重要な環境因子とは家屋構造などではなく,目の前にいる医療スタッフ自身の考え方であり,能力であり,病院のコンセプトなのかもしれないのです.残念ながらそのことを自ら評価する医療スタッフはあまりいませんし,気づかなければ修正もできません.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
47巻1号 (2013年1月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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