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はじめに―経営学理論を活用した部門運営の提案
経営学に馴染みがなくとも,「もしドラ」という言葉を耳にしたことがある人は多いと思う.この『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』1)は,主人公の女子高生が,著名な経営学者であるドラッカーの著書『マネジメント』2)と出合い,その内容を自身がマネージャーを務める野球部のマネジメントに活かして彼らを甲子園に導く,という物語である.「もしドラ」がビジネスパーソン以外の人にも広く読まれた背景には,読み物としての面白さとは別に,「経営(マネジメント)」に興味をもつ人が多数存在していることもあるだろう.
経営とは,理論と実践を組み合わせることにより,組織において限られた経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」を有効活用して,最大限の成果を創造し,組織の「価値」を高めることを目的としている.一般的に,企業における「成果」は金銭的な収益で測られるため,経営というと「いかにして儲けるか」がテーマであるような印象をもたれる場合も少なくない.しかし,「成果」の定義を組織に見合ったものに置き換えることで,企業のみでなく医療機関や行政などの非営利団体をはじめ,ひいては家庭生活や子育てにまで応用可能な経営理論が多く存在するのである.
そのなかで,理学療法士を含むリハビリテーション部門は,身体機能を評価・改善するという職能を発揮することで,医療・福祉施設が提供する医療サービスの「価値」を高めることができる.そのためには,医療において最も重要な「ヒト」という経営資源である「理学療法士」としての個人の力を集結したリハビリテーション専門職集団を統治(ガバナンス)し,組織内で求められる,もしくはそれ以上の役割を果たすことが重要となる.
よって本稿では,多くの経営理論のなかから,理学療法士という専門職の組織を運営していくために有用であると思われる概念やフレームワークを紹介する.「経営理論」とは,バランスのとれた意思決定を行うための原理原則であり,医療機関での部門運営という正解のないなかで,最善策を求めるために先人の知恵を集約した思考方法であると言える.それら経営理論に基づくフレームワークの活用方法を提示することで,各施設でリハビリテーション部門の舵取りを担う,リーダーや管理職者の一助となれば幸いである.
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