理学療法ジャーナル 40巻7号 (2006年7月)

特集 認知症へのアプローチ

EOI(essences of the issue)
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 認知症は高齢者領域の理学療法において,日常生活自立を阻害し,転倒の危険因子としても知られ,きわめて深刻な影響を及ぼしている.認知症への対応についてはこれまで多くの報告がなされているが,近年の治療実践の進歩を概観しアプローチを理解することは重要である.そこで最近の認知症治療の実際とリハビリテーションに関する知見について焦点をあて,医療とケアのなかで理学療法士の果たすべき役割についての提言をいただいた.

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認知症とは

 厚生労働省は2004年12月に「痴呆」を「認知症」という行政用語に変更することを決定し,これを受けて新聞やテレビなど報道関係でも痴呆のかわりに認知症という用語が定着してきている.学術用語としてはまだ完全に定着しているわけではなく,精神神経学会などではまだ呼称に関する議論が続いているが,当該領域に関する中核的な学会である日本老年精神医学会においては「痴呆」から「認知症」に呼称変更がなされている.

 認知症とは,いったん正常に発達した認知機能および精神機能が,脳の器質的な病変によって後天的な衰退・崩壊を生じる病態である.臨床でよく用いられる診断基準の1つである国際疾病分類第10版ICD-101)では,以下のように定義されている.「認知症は脳疾患による症候群であり,通常は慢性あるいは進行性で,記憶,思考,見当識,理解,計算,学習能力,言語,判断を含む多数の高次皮質機能障害を示す.意識の混濁はない.認知障害は,通常,情動の統制,社会行動あるいは動機付けの低下を伴うが,場合によってはそれらが先行することもある.この症候群はアルツハイマー病,脳血管性疾患,そして一次性あるいは二次性に脳を障害するほかの病態で出現する」.認知症およびその類似の症状を引き起こす疾患には様々なものが知られているが,代表的なものを表1に示す2)

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 看護は,患者さん本人だけでなく家族や地域に対して,直接的に,教育的に,マネージメント的にアプローチするものである.本稿では,認知症高齢者の生活援助について焦点を当てる.看護アプローチは,彼らの日常生活をより安全で快適に,できるだけ自力での生活を維持し,その人らしく暮らせるよう援助するものである.この目標は,生活援助を行う介護専門職とも共有するものであるが,看護アプローチ特有の視点について,入浴に関する拒否行動や攻撃行動に関する場面の紹介と調査結果のまとめから述べる.

認知症高齢者の行動の意味について,生活の流れの中で彼らの視点から理解して援助する

 認知症の中核症状は記憶障害であり,コミュニケーション障害も来す.記憶障害といっても,患者さんは単語を記憶できなくて困っているわけではなく,排泄や食事,入浴など,生活に不都合を来す記憶障害で困っているのである.また,彼らは,いつでもすべての行動について記憶できないわけではなく,常に気持ちを伝えられないわけでもない.認知症が進行しても,困った時に気持ちや理由を表すことができ,彼らなりに対処する力も有している.そして,それはすべて行動として現れる.

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はじめに

 認知症高齢者への心理・社会的アプローチは,1950年代にリアリティ・オリエンテーション(以下,RO),1960年代には,五感刺激法や回想法,また1970年代には,現在提示されている方法(音楽療法,記憶力訓練法,バリデーション療法,リゾリューション療法,モンテッソーリ療法など)が開発されてきた.これらの方法は米国精神医学ガイドラインによれば,行動に焦点を当てる行動療法的アプローチ,感情に焦点を当てる回想法やバリデーション療法,認知に焦点を当てるRO,刺激に焦点を当てる各種の芸術療法という4者に分類されている1).さらに,これらの心理・社会的アプローチの意義は,①認知機能障害の改善,②情動機能の改善,③BPSD(認知症の行動心理学的症状)の軽減に加えて,④包括的QOLの向上が挙げられる.現在,日本において展開されている認知症高齢者への心理・社会的アプローチは,療法としての活用のみならず,介護予防におけるプログラムやレクリエーション,アクティビティの領域で応用され,広範に用いられ始めている.本稿では心理・社会的アプローチの中から,回想法に関し,意義,方法,効果,実施の留意点について述べる.

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はじめに

 日本の高齢化の状況として,日本の総人口は2051年に1億人を割り,2095年には6,000万人まで減少すると予測されている.出生率は2050年には1996年に比べ3割強も少なくなり,加えて平均寿命の伸びと少子化により,日本の高齢化はさらに加速する.2015年には国民の4人に1人が,また2050年には3人に1人が高齢者となり,諸外国もかつて経験したことのない本格的な高齢社会が到来するものと予測されている.

 2002年の将来人口推計(厚生労働省)によれば,寝たきりや認知症,または虚弱となり介護や支援を必要とする高齢者は200万人であり,65歳以上人口の11.8%を占める.要介護高齢者は今後,2010年には390万人,2025年には520万人に達するとされている.同時に認知症高齢者も増加の一途をたどり,2025年には約70万人に上るとされている.

 そのような状況の中,認知症に関して,現時点でその病態生理については様々な報告がされているが,その発症原因などは未だ明らかにされていない部分が多い.2000年に厚生労働省(旧厚生省)が発表した「平成11年老人保健施設調査の概況」によれば,介護老人保健施設入所者の85.7%が認知症高齢者であると報告されている.また同年の理学療法の対象者が有する疾患調査では,認知症高齢者は第5位であり,理学療法の対象としての位置づけがなされている.

 高齢者に関する理学療法研究は数多くなされており,現在その運動療法については活動量を増やすという点で効果が認められている.しかし対象を認知症高齢者にしぼった場合には未だ明確なエビデンスは少ない.また,生理的な機能面でその効果を捉えようとした場合には,疾患の特徴である問題行動や認知機能低下により,継続的な測定は困難である.

 筆者らはこの点に着目し,認知症高齢者の身体能力の確認とともに,その効果的な運動処方について検討した.本稿ではその概要を紹介する.

認知症予防と運動の関係 川副 巧成
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はじめに

 認知症の高齢者は,年々増加傾向を示している.2005年は約189万人,2020年には約292万人に達すると予測されている1)(図1).それゆえに,認知症予防は関心が高く,今般,介護保険改正で掲げられた「介護予防」の重点課題とされている.さらに,認知症予防の最重要ターゲットは,健常と認知症の境界状態にある高齢者とされ(図2),地域での啓蒙・啓発から実践に至る様々な過程において認知症予防に対する積極的な取り組みが推進されている.

 一方,認知症予防には,従来から関わりと集団活動を介した精神・心理面への働きかけが効果的とする報告が多かった.しかし昨今,脳の機能低下や,それに伴う低活動状態による運動能力の低下を防ぎ,生活機能を維持することが重要とされ,その手段として,運動の有効性に関する報告も多くみられるようになった2,3)

 そこで本稿では,介護予防の背景と,筆者らが行ってきた要介護高齢者に対する筋力向上トレーニングの実践内容の双方を踏まえ,認知症予防と運動の関係について述べる.

とびら

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 私の勤める診療所では訪問リハビリテーション(訪問リハ)を実施しているが,対象疾患の約7割は呼吸障害患者である.対象者の詳細は,呼吸器疾患が半数で,神経難病,高齢者の呼吸器感染症,末期癌など,多岐にわたる.慢性の経過をたどり定期訪問を行っている場合から,緊急の訪問要請が初回訪問という場合もある.

 私が勤めてきた施設は呼吸器疾患患者が多く,当初から呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を積極的に行って来た.昔話になるが,現在,呼吸不全の評価に使われているパルスオキシメータも普及する前で,運動耐用能検査などを行うたび,医師に連絡して血液ガス検査のための採血をしていた時代もあった.近年の高度医療は医療機器にも反映され,すばやい画像診断や生化学検査などが可能になり,理学療法の場面でも,特に急性期における評価がしやすくなったと感じる.私の経験では,情報に慣れてしまうと検査結果なしでは理学療法実施に不安になることも多く,実際にデータは刻々と変化した.推移する情報に埋もれて臨床を過ごして来た中で,この患者さんは本当に家に帰って暮らせるだろうか,と考えることが徐々に増えていった.私自身,恥ずかしながら,「障害者が家で暮らすこと」がどういうことなのか分からないまま何年も理学療法を行って来たことになるし,今でも理解できているかというと,不安がある.患者さんの日常生活において画像や検査データには表れない問題があることは,経験がある理学療法士なら誰でも感じているはずである.そして,患者さん1人ひとりの生活を理解するには相当の時間と労力を要すると思われる.個人因子や環境因子を考慮することは生活機能評価に欠かせないと実感する.慢性呼吸不全,呼吸障害を持つ患者さんは,様々な障害や不安を抱えて地域で暮らしているのである.

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西の港SASEBO

森の家HUIS TEN BOSCHより

 (社)長崎県理学療法士会では,本年10月5日・6日の2日間にわたり佐世保市のアルカスSASEBOを会場として,第41回日本理学療法士協会全国学術研修大会の開催を予定しております.佐世保市には九州最大のテーマパーク「ハウステンボス(オランダ語:森の家)」があり,今回のレセプションもハウステンボス内ホテルヨーロッパのレンブラントホールにおいて開催される予定です.「ハウステンボス」というと長崎市にあると思われている方々が多いようですが,今回の開催地である佐世保市にありますので,この機会に是非お立ち寄りいただきたいと思っております.名称も今回から「全国研修会」より「全国学術研修大会in○○」となる初めての大会であり,塩塚 順大会長をはじめ準備委員および長崎県士会会員一同,参加される皆様に十分満足していただける大会となるよう,準備を進めております.

「大会テーマについて」

テーマ:「生活機能向上に対する理学療法技術」

 2001年の世界保健機関(WHO)総会において国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)が採択され,従来の国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:ICIDH)とは大きく概念が転換しました.従来の,身体障害をマイナス面で分類する観点から,障害者はもとよりすべての人々の生活機能をとらえる立場として,環境因子などの要素が加えられました.ICFを構成する各要素は,相対的独立性と相互依存性という関連によって生活機能を形成し,障害および健康についての情報を国際的かつ多分野での共通言語として活用するためのツールとして位置づけられています.理学療法の分野においても多角的な視野に立った「生活機能向上」に対する実践的介入が求められていると考えます.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

転倒予防 新小田 幸一
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 米国では1989年にAmerican Physical Therapy Associationにより,転倒を含むバランス障害への理解を深め,理学療法による臨床介入を発展させるためのフォーラムが開催された.日本では1990年代初期から高齢者転倒とその予防に関する本格的な研究が始まっている.転倒の定義には「意志とは無関係に,足底以外の身体のある部分が床や地面に触れる」といった狭義のものから,転びそうになって,「物にもたれ」たり「椅子から立ち上がれず再び座り込む」ものも含める広義のものまでがある.転倒要因には感覚や身体機能・能力の低下,服薬,認知力などを中心とする内在性要因と,引っかけやすい電源コードや絨毯の捲れ,段差,不整地面,滑面,照度不足などの,主に環境による外在性要因があり,両要因の見極めが重要である.

 転倒を回避するには抗重力姿勢を保持し,重心線を支持基底面内に確保するか,歩行のような動的条件では新たな支持基底面を作り出す必要がある.内在性の転倒要因を有する高齢者には,主として筋骨格系とバランス再獲得のアプローチが行われる.打撲や骨折に至るような大きなバランスの崩れを避けるには上肢による支持で新たな支持基底面を創生することが必要な場合があり,下肢と脊柱だけでなく,上肢へのアプローチも必要である.ただし,関節可動域の改善は矯正ではなく自動運動を基本とする.

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学院の特色

 本学院は,つしま記念学園を本部とし,日本福祉学院に次ぐ2番目の養成校として,平成7年に北海道で最初に開設された理学療法士・作業療法士養成のための専門学校です.開設当初は,理学療法(PT)学科・作業療法(OT)学科(定員各40名)の2学科でしたが,平成16年には放射線学科(札幌市真栄キャンパス),そして今年度から言語聴覚(ST)学科が開設されました.

 また,専門知識だけではなく幅広い知識を修得するため,埼玉県にある人間総合科学大学と提携し,併習もできるように専任の教員が学院内に常駐しています.

入門講座 ベッドサイドでの患者評価 1

心疾患 高橋 哲也
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はじめに

 病棟や訪問に1人で行った時に,対象者を目の前にして「どこからどうしたらいいのか」と悩むことがある.理学療法士は運動を主たる治療手段とする職業であるために,常に目の前にいる対象者に対してこれから運動というストレス(負荷)を掛けても大丈夫かと考えることが多い.特にその対象者が心疾患の既往を有していたり,現在心疾患の治療中であったりすると,自分の行う理学療法によって状態を悪くしてしまいはしないかと不安に陥ることがしばしばある.理学療法士が心疾患に苦手意識を持つ最大の理由は,四肢の麻痺や骨折などと違って,外見上健常な状態と区別がつきにくい(実際は比較的わかりやすい)との印象があるからであろう.

 本稿では,そんな苦手意識を少しでも解消することを目的に,心疾患に対するベッドサイドでの評価方法を,「対象者を直接評価する前に医師カルテや看護経過記録から収集できる情報」と「理学療法士自身が実際に対象者に接し得られる情報」の2側面から概説する.

講座 福祉工学の最前線 1

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はじめに

 福祉工学は医学と工学の境界分野の新しい学問分野であり,リハビリテーション工学,生活支援工学などと重なる内容が多いと考えられる.対象者として障害者だけではなく高齢者や介護者まで含むことが特徴であり,福祉機器,福祉用具の開発が重要な柱の1つになると思われる.本稿では,義肢装具の試験評価や規格の作成に携わっている筆者の目から見た福祉工学の現状と課題について,規格を中心にして述べる.

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はじめに

 現在,一般に推奨されているアメリカスポーツ医学会が提唱した運動処方では,運動の効果が得られる強度として,最大酸素摂取量の50~85%,最大心拍数の60~90%,自覚的運動強度において12~13程度の強度が示されている1).これらの運動強度は,ほぼ嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold:以下,AT)レベルの負荷強度に相当し,長時間の運動持続が可能であること,血中乳酸値の持続的増加がみられないこと,アシドーシスの危険性が少ない2)といった理由から健康増進・障害予防に有用な負荷強度であるとされている.

 しかし,施設に入所している高齢者においては本負荷強度では生体への負荷が強く,運動による生体の反応性の減弱および継続性,意欲の面から実施不可能または継続困難な症例が多く存在する.例えば,本研究で用いたカルボーネンの式注1)から得られる50%運動強度は,70歳,安静時心拍数72 bpmの対象者を仮定すると,目標心拍数は111bpmとなる.この目標心拍数は,予測最大心拍数150bpm(220-年齢)の74%程度の負荷強度となる.したがって,このような対象者に対して運動を処方する場合,標準的に推奨されている負荷強度より,さらに低く設定した運動強度でのプログラム作成が必要である.低強度負荷による運動プログラムは,身体への負担が軽く,生理的反応および自律神経機能の過剰興奮を誘発しにくい点で有用であると考えられる.自律神経機能評価の1つである心拍変動は,非侵襲的に自律神経系を評価することが可能な手法として広く臨床応用されるようになった3,4).心拍数は,主として自律神経系の直接的な支配を受けるため,心拍変動に周波数成分解析法を適用することで,交感・副交感神経の機能バランスを推定できる有効な方法であるとされている5)

 漸増負荷運動中の心拍変動を解析したこれまでの報告では,副交感神経活性を反映する高周波数領域(以下,HF成分)は運動開始から負荷強度の増加に伴って減衰していくことが報告されている6~8).また,交感神経活性を反映する低周波数領域/高周波数領域の成分比(以下,LF/HF)は,運動開始後しばらくは低値を示し,ATを越えてから急激に増加するという報告もある6).筆者らは以前に心拍数を一定にした運動負荷試験を行った場合の負荷試験前,負荷試験中,負荷試験後の相における自律神経反応のパターンの変化を検討した.その結果,交感神経機能は運動により亢進し,運動終了後もしばらく継続すること,副交感神経機能は運動により抑制され運動終了後速やかに回復することを確認している9).以上の結果を踏まえて,運動による負荷の前後の自律神経活動を評価することで,運動療法の効果判定ができるものと思われる.

 本研究では,施設入所高齢者を対象に,ATレベル以下の運動強度を設定した12週間の低強度負荷運動プログラムを実施し,その効果を,自律神経活動を中心とした機能レベルおよび運動機能を中心とした活動レベルの評価項目から検討した.

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はじめに

 慢性進行性の経過をたどる脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:以下,SCD)に対して,経時的変化を追跡でき,各進行時期に対応できる検査法が必要である1).リハビリテーションの施行に際し,疾患・障害の進行を捉えることは,治療目標の設定や直接治療効果を判定する上で重要な要素である.しかしながら,これまでの検査表2~5)は,移動能力,バランス機能に注目して重症度分類を行っているため,SCDの症状,障害を総体的に捉えきれない側面があった.そのため,SCDの病型や進行速度,個体差の差異などから経時的な変化を読み取りにくい一面があり,協調運動障害の詳細を把握するには困難であった.International Cooperative Ataxia Rating Scale(以下,ICARS)6)は,協調運動障害の総合評価として薬効判定などにも用いられる検査法で,19項目,総点数100点(重症ほど高点数)として構成される.

 本研究の目的は,ICARS,望月の重症度分類(以下,重症度分類),Barthel index(以下,BI)の3つの検査法を用いてSCD患者の1年間の変化を追跡し,ICARSの有用性について検討することである.

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 目的:本研究の目的は,急性期脳卒中患者の麻痺側上肢の感覚運動と機能の回復について,神経発達学的練習に短期間の電気刺激療法を加えることによる効果を調べることである.

 方法:36名の急性期の初回発症脳卒中患者を対象とし,TENS群(平均年齢69.5±14.0歳,男性3,女性15,発症後経過日数9.5±3.6日),と対照群(平均年齢66.7±11.2歳,男性12,女性6,発症後経過日数9.8±5.9日)に2分した.すべての患者に対して,ボバースアプローチに基づく1日1時間の治療を10日間行い,TENS群にはそれに加え,総指伸筋と橈骨手根伸筋への1日1時間の電気刺激療法を10日間行った.電気刺激装置は,2チャンネルの小型TENS(TX-5M, ModelSD-606M;Data Teknik Tic, Izmir)を用い,パルス周波数2Hz,パルス幅260μs,波形は非対称性双方向性の矩形波を使用し,出力は手と指の最大伸展を出現させる最小の値を利用した.治療前後に,Kentによる手指の運動覚と位置覚の点数化と,Katrakによる手の機能テストと動きスケールによる点数化を行い比較した.治療前後における運動覚と位置覚の群間比較にはχ2乗検定を行い,群中の治療前後の比較にはMcNemarのχ2乗検定を使用した.手の機能と動きについては,群間比較をMann-WhitneyのU検定で行い,群中の比較にはWilcoxonの順位和検定を用いた.有意水準は5%未満とした.

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 目的:非侵襲的補助換気(NIVS)を加えた運動トレーニングはCOPDの運動耐久性を向上させると報告されているが,いずれも研究デザイン上の問題がある.本研究は盲験的無作為化比較試験によりCOPDに対するNIVS運動トレーニングの効果を検討した.

 方法:FEV1.0%が予測値の60%未満,換気予備力がMVVの20%未満,安静時PaO2が60mmHg未満,運動直後SpO2が85%以上の29名のCOPD患者を対象とした.NIVSにはプレッシャーサポート(PS)換気を用い,圧設定は10cmH2O(IPS10群)と5cmH2O(IPS5群)とし対象者をランダムに分けた.運動トレーニングは1回45分間とし,週3回で8週間行った.初回は65%Wmaxの運動強度より開始し,15分以上継続できれば次回は5%増強した.評価基準値として肺機能検査,呼吸筋力,血液ガス,運動負荷試験を行い,アウトカムとしてシャトルウォーキング(SW)試験,75%Wmaxでの持続運動時間,セント・ジョージ呼吸器質問票を運動トレーニング前後で計測した.統計処理には,グループ間の比較に対応のないt検定とMann-Whitney U検定を,グループ内の比較に対応のあるt検定とWilcoxon検定を用いた.

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 目的:太極拳では連続した体重移動,身体の回旋,片足で立つという動作が繰り返し行われ,これらの動作は的確な関節コントロール,協調した筋活動,優れたバランスを必要とする.今回の研究では,知覚運動とバランスの反応様式について短期間と長期間の太極拳トレーニングの効果を比較した.

 対象:健常者48人(男性24人,女性24人),経験が1~3年の長期太極拳経験者16人(平均年齢53.8±12.2歳),3か月の短期太極拳経験者16人(平均年齢52.9±11.7歳),デスクワーク中心で太極拳の経験がない16人(平均年齢59.5±10.6歳)をコントロール群として設定した.3グループとも年齢・性別は同等であった.

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 目的:Whole-body Reaching(WBR)が脳卒中者の動的バランス機能の指標として,段階づけが可能で妥当なものとなりうるかどうか調査した.

 方法:23名の脳卒中者で,初回の発症で移動が自立している者を対象とした.対象者のバランス機能を,WBR,椅子からの立ち上がり動作(sit-to-stand:STS),BBSによって評価した.各テストの実施はランダムに行った〔WBR:直立位を開始姿勢とし,両足部を圧計測システム上に10~15cm離して平行においた.リーチする目標をつま先から,身長の10%(距離1),および身長の30%(距離2)前方の床面に設置した.踵を離さず床上の目標にリーチし,上肢の力を用いずに開始姿勢に戻るよう教示した.各距離を3回ずつ計6回,ランダムに計測した.STS:足部をWBRと同様に設定し,膝の高さより1cm低い肘掛のない椅子から3回繰り返し実施した〕.圧センサーにより足圧中心(COP)の総軌跡長(COPE),最大前方移動距離(COPAP),最大側方移動距離(COPML),動作時間(MT)を算出し,変数とした.また,下肢荷重の非対称性(LS)を求め,これらの変数をWBRの距離1と2間で,対応のあるt検定を用いて比較した.また,WBRとSTS,WBRとBBSのスコアをピアソンの相関係数を用いてそれぞれの距離の相関関係を求めた.

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 IDストレッチング第2版を手にしたとき,「なんと立体的で解りやすい本であろう」と印象深く思った.本書は,1999年に名古屋大学医学部保健学科の鈴木重行教授が「個別的筋ストレッチング(IDストレッチング)」という新しい概念を世に送り出してから約7年の歳月をかけて,先生の臨床経験の積み重ねと,各地での指導を通じて気づいた点を検討し改良を加え,さらに症例報告も盛り込んで,このたび新しい「IDストレッチング」として上梓された最新版である.先生は各地での指導の折,常に強調して話されていることがある.それは,解剖学と神経生理学的知識に精通することである.「第2版の序」においてはさらに次のように述べられている.「IDストレッチングを治療法の一つとして用いるためには,解剖学・神経生理学などの基礎知識に精通し,疼痛抑制や筋伸張の理論的背景を第三者に説明できることがさらに重要である」.この科学的根拠に基づいた説明の重要性は,本書の「第1章 IDストレッチング概論」「第2章 IDストレッチングのための基礎知識」において,豊富な解りやすい図とともに丁寧に説明されている.

 さて,解剖学・神経生理学の知識に精通するとはどのようなことなのか,それは,解剖書に記載されている筋の名前を単に羅列的に覚えることではなく,一つの筋あるいは周辺の筋の立体的な構造(三次元的構造)を体表に投射して覚えた知識であり,いわゆる臨床に役立つ生きた知識の習得のことであろう.そのことは,「第3章IDストレッチング」「第4章IDストレッチングの実際」において,随時,ターゲット筋だけでなく周辺筋との関連が三次元的にカラーでイラスト化され,しかもIDストレッチングの実際をカラー写真と同時に目にすることができることから確信できる.まさに,生きた知識の習得が治療法の展開において必須となることの教授と受けとめたい.神経生理学的知識においては,等尺性収縮をリラックスしている筋に対して行うと,逆に筋の緊張を助長する危険があることの理解は臨床において重要である.

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 Rehabilitationの外来語を初めて見聞したのは,昭和30年代であった.昭和40年,理学療法士及び作業療法士法が制定されるまで,リハビリテーション医学・医療関係の書物の多くは英語版だけであった.当時,Kamnetz HL(MD)が編集した「Physiatric Dictionary」(Charles C Thomas Publisher, Springfield, USA, 1965)を手にしたのであった.専門用語の語彙をこの辞典で索引することで新しい知識を得ることができた.総数168ページの小さな事典の中に見出した“exercise”の語に37,“gait”の語に25の技法の呼称があり,それぞれに簡単な解説が含まれていた.用語に関して今まで学習したことのない理学療法のテクニックがあることを知る喜びを感じたものであった.

 40余年の時を経て,このたび,監修・奈良 勲氏,編集・内山 靖氏により,理学療法を“学”として標準化し,独自性を具現化するものとして企画され,主に理学療法士の執筆による「理学療法学事典」が医学書院から発刊された.この重厚な「理学療法学事典」を手にしたとき,リハビリテーション関連の専門用語の習得に飢えていた当時と同じような感動が新たに呼び覚まされた.総数約8,000用語の中には,これまで学習によって馴染んだ用語がページを埋めている.何気なくめくったページには今まで知らなかった用語が表れ,この語の語彙はご存知か,とばかりに語りかけてくる.書棚を埋め尽くすほどのリハビリテーション関連の書物は,日本語版が格段に多くなった中にあって,用語は欧和で示され,語の解説は簡潔でとても理解しやすい.略語索引と欧和索引のページは,診療録や研究論文を書くとき,用語の使い方によき相談相手になってくれよう.情報が過多になるほど未知の用語に接することが多くなっている.本事典は,臨床,研究,教育の各分野に業務する理学療法士ばかりでなく,看護師,作業療法士,義肢装具士,言語聴覚士,ソーシャルワーカー,介護福祉士,医療秘書,司書など,リハビリテーション医療に従事するものにとっても,理学療法学をさらに理解する事典として薦めたいと思う.欲を言えば,用語によっては語の意味を補う図がもう少し多ければ意味が深められるのではないかと思う.

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編集後記 網本 和
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 少し前に公開された映画「Note Book(邦題:きみに読む物語)」では,アルツハイマー病に罹患した主人公のアリーが自分の半生をノートに記し,記憶障害が出現したあとも恋人であり夫であるノアに自分の物語を読んでもらう.この物語は,「他の誰か」の話だと思っているアリーが,あるときこれは自分の話だと気づき,一瞬これまでのストーリーをよみがえらせる.認知症の主人公をめぐるせつないこの映画をご覧になった方も多いであろう.

 認知症への対応は家族にとっても,理学療法士にとっても大きな課題である.従来の研究をみても,対象は「指示理解可能なもの」として,暗に認知症例を除外した報告が多かった.近年の介護予防の観点から初期の認知症への対応が注目されてきている.このような情勢を踏まえて本特集は企画されたのである.まず鈴木論文では「認知症の病態と治療」についてその中核症状,薬物治療と非薬物治療に関して言及され,「誤りなし学習」の有効性について論じられている.高山論文では,看護アプローチの視点から生活の流れを重視した方法と事例が紹介されている.この論文の最後に理学療法士への提言として「理学療法室のなかで平行棒1往復しか歩行できないこと」が困っていることではなく,「1往復の歩行ができるのに,入浴時の転倒危険性のため車いす移動にせざるを得ないこと」であるという指摘,さらに実際の生活にどれだけ一般化できるかという指摘は大変重要である.野村論文では「回想法」を中心とした心理・社会的アプローチについて詳しく述べていただいた.施設機関でのグループ回想法,在宅認知症者と家族への訪問ライフレビューについて論じられており,半構造的ライフレビューの結果などは大変興味深いものとなっている.小幡論文と川副論文は認知症と運動との関係を論じたもので,至摘運動強度への言及,日常生活の低下は脳の「廃用症候群」を引き起こすゆえ運動が脳機能の改善をもたらす,という指摘はこれから大いに議論すべき視点であると思われる.

基本情報

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理学療法ジャーナル
40巻7号 (2006年7月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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