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はじめに
現在,一般に推奨されているアメリカスポーツ医学会が提唱した運動処方では,運動の効果が得られる強度として,最大酸素摂取量の50~85%,最大心拍数の60~90%,自覚的運動強度において12~13程度の強度が示されている1).これらの運動強度は,ほぼ嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold:以下,AT)レベルの負荷強度に相当し,長時間の運動持続が可能であること,血中乳酸値の持続的増加がみられないこと,アシドーシスの危険性が少ない2)といった理由から健康増進・障害予防に有用な負荷強度であるとされている.
しかし,施設に入所している高齢者においては本負荷強度では生体への負荷が強く,運動による生体の反応性の減弱および継続性,意欲の面から実施不可能または継続困難な症例が多く存在する.例えば,本研究で用いたカルボーネンの式注1)から得られる50%運動強度は,70歳,安静時心拍数72 bpmの対象者を仮定すると,目標心拍数は111bpmとなる.この目標心拍数は,予測最大心拍数150bpm(220-年齢)の74%程度の負荷強度となる.したがって,このような対象者に対して運動を処方する場合,標準的に推奨されている負荷強度より,さらに低く設定した運動強度でのプログラム作成が必要である.低強度負荷による運動プログラムは,身体への負担が軽く,生理的反応および自律神経機能の過剰興奮を誘発しにくい点で有用であると考えられる.自律神経機能評価の1つである心拍変動は,非侵襲的に自律神経系を評価することが可能な手法として広く臨床応用されるようになった3,4).心拍数は,主として自律神経系の直接的な支配を受けるため,心拍変動に周波数成分解析法を適用することで,交感・副交感神経の機能バランスを推定できる有効な方法であるとされている5).
漸増負荷運動中の心拍変動を解析したこれまでの報告では,副交感神経活性を反映する高周波数領域(以下,HF成分)は運動開始から負荷強度の増加に伴って減衰していくことが報告されている6~8).また,交感神経活性を反映する低周波数領域/高周波数領域の成分比(以下,LF/HF)は,運動開始後しばらくは低値を示し,ATを越えてから急激に増加するという報告もある6).筆者らは以前に心拍数を一定にした運動負荷試験を行った場合の負荷試験前,負荷試験中,負荷試験後の相における自律神経反応のパターンの変化を検討した.その結果,交感神経機能は運動により亢進し,運動終了後もしばらく継続すること,副交感神経機能は運動により抑制され運動終了後速やかに回復することを確認している9).以上の結果を踏まえて,運動による負荷の前後の自律神経活動を評価することで,運動療法の効果判定ができるものと思われる.
本研究では,施設入所高齢者を対象に,ATレベル以下の運動強度を設定した12週間の低強度負荷運動プログラムを実施し,その効果を,自律神経活動を中心とした機能レベルおよび運動機能を中心とした活動レベルの評価項目から検討した.
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