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少し前に公開された映画「Note Book(邦題:きみに読む物語)」では,アルツハイマー病に罹患した主人公のアリーが自分の半生をノートに記し,記憶障害が出現したあとも恋人であり夫であるノアに自分の物語を読んでもらう.この物語は,「他の誰か」の話だと思っているアリーが,あるときこれは自分の話だと気づき,一瞬これまでのストーリーをよみがえらせる.認知症の主人公をめぐるせつないこの映画をご覧になった方も多いであろう.
認知症への対応は家族にとっても,理学療法士にとっても大きな課題である.従来の研究をみても,対象は「指示理解可能なもの」として,暗に認知症例を除外した報告が多かった.近年の介護予防の観点から初期の認知症への対応が注目されてきている.このような情勢を踏まえて本特集は企画されたのである.まず鈴木論文では「認知症の病態と治療」についてその中核症状,薬物治療と非薬物治療に関して言及され,「誤りなし学習」の有効性について論じられている.高山論文では,看護アプローチの視点から生活の流れを重視した方法と事例が紹介されている.この論文の最後に理学療法士への提言として「理学療法室のなかで平行棒1往復しか歩行できないこと」が困っていることではなく,「1往復の歩行ができるのに,入浴時の転倒危険性のため車いす移動にせざるを得ないこと」であるという指摘,さらに実際の生活にどれだけ一般化できるかという指摘は大変重要である.野村論文では「回想法」を中心とした心理・社会的アプローチについて詳しく述べていただいた.施設機関でのグループ回想法,在宅認知症者と家族への訪問ライフレビューについて論じられており,半構造的ライフレビューの結果などは大変興味深いものとなっている.小幡論文と川副論文は認知症と運動との関係を論じたもので,至摘運動強度への言及,日常生活の低下は脳の「廃用症候群」を引き起こすゆえ運動が脳機能の改善をもたらす,という指摘はこれから大いに議論すべき視点であると思われる.
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