理学療法ジャーナル 26巻10号 (1992年10月)

特集 中高年脳性麻痺者の問題点

中高年脳性麻痺者の実態 五味 重春
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 Ⅰ.まえがき

 最近我が国は,平均余命が延長し,男性75.9歳,女性81.7歳という高齢社会が到来している.その中で,脳性麻痺者がどのくらい長生きしておられるかの全国的調査はみられない.

 中高年者といえば,常識的に40歳以上の者を言うが,中高年脳性麻痺者の実数も定かではない.

 最近における厚生省身体障害者実態調査(19877年2月現在)によれば,在宅身体障害者は241.3万人であり,40歳以上は,88.8%を占めている.その中で脳性麻痺者を含む肢体不自由者は全身体障害者241万余の60.5%であり,肢体不自由者の中で40歳以上は88.6%となっており,全身体障害者と同様に肢体不自由者も同様に高齢化している.

 しかし障害別にみた脳性麻痺者は65千人と推定されているが,40歳以上の年齢分布は不明であり,中高年脳性麻痺者の実態はとらえ難い.

 仮りに脳性麻痺者の年齢構成が,肢体不自由者と同じであるとすれば,65千人の88.6%すなわち57.5千人の脳性麻痺中高年者がいると推測される.

 正確な実態把握の方法として考えられることは,身体障害者手帳交付の台帳から,1951年出生以前の脳性麻痺者を見いだし,現状の生存状況を分析しなければならない.

 5年ごとに実施される身体障害者実態調査が1992年度に行なわれることを期待しているが,施設収容か在宅生活かの状態を把握することでさえ難点がある.

 また40歳以上の脳性麻痺者が生まれた1951年以前は,脳性麻痺児の療育を行なう肢体不自由施設も全国に3施設(現在全国72施設)しか存在しなかったので,施設における追跡把握も一部分となろう.

 したがって,中高年脳性麻痺者の全般的把握は,現時点では不可能に近い問題であるが,現実に中高年脳性麻痺者が多くの課題を抱えながら社会に生きていることは臨床経験上否めない.

 筆者は,1950年ころから脳性麻痺の臨床的研究を続け今なお取り組んでいるが,①現在見ている40歳以上の脳性麻痺者30人の実態をまず紹介する.次に②重度脳性麻痺者のいる身体障害者療護施設の状況を説明し,さらに③中高年者予備群とも言える脳性麻痺者75人の現状を述べたい.これは東京板橋区整肢療護園における母子入園(1963~1968年の間)脳性麻痺幼児(111人)の1991年度に至る長期追跡例75人(26~36歳:平均29.4歳)の結果であり,脳性麻痺の幼児期から成人期への変化を知るものである.

 与えられた課題に対しては,はなはだ不充分な解説となり忸怩(じくじ)たるものがあるが,現時点では止むを得ないと御寛容の程を願いたい.公務退職後は脳性麻痺の臨床的研究の完成を目指すなかで,脳性麻痺者加齢の問題を究めたい.

 その際はPTジャーナル読者諸兄姉の協力を得たいと期待している.

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 Ⅰ.初めに

 社会福祉法人太陽の家(以下,「太陽の家」と略.)は,1965年10月5日,働く意欲をもちながら,就労の機会に恵まれない身体障害者に対して,就労の機会を提供するために,大分県の別府市に設立された職業リハビリテーションの場である.

 太陽の家のある別府市(亀川)は,人口約13万人の全国的に有名な温泉の町である.昔から,湯治に訪れる弱者を受け入れてきた歴史をもつ.太陽の家は,移動に困難の多い身障者に住みやすい条件として,なるべく町に近い平坦地を選び,垣根のない解放型の施設づくりを目指してきた.亀川は,北部別府の人口約2万人の町であり,開所当時,蓮田であった周囲も住宅地に変わり,今では別府で数少ない平坦地でもあり,住みやすい町の筆頭に挙げられる.

 創立27年目を迎える歴史の中で,健康管理(スポーツを含む)は身体障害者就労の裏付けとして力を注いできた一つである.また,身障者の雇用を考える企業にとって健康管理は,もっとも頭の痛い問題である.太陽の家では,協力企業は主に生産技術を,太陽の家が健康管理(身体的,精神的)を受けもっている.

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 Ⅰ.初めに

 脳性麻痺の治療やリハビリテーションは,従来より幼小児に主な関心が偏っており1),したがって成人脳性麻痺者や高齢の脳性麻痺者に関する論述はあまり多くない.一方,リハビリテーションの現場ではこれまで幼小児期あるいは青壮年期の問題であると考えられてきた障害にも加齢が新たな問題として付け加わったため,少なからぬ混乱が生じている.

 脳性麻痺者の場合,中高年にいたって生じる問題点として,臨床面からは変形性関節症や頸椎症性頸髄症による機能障害がしばしば指摘される.これらの疾患は言うまでも無く脳性麻痺に特異的に合併するわけではないが,もともと身体機能の予備力が低い個人に発現するとdisabilityを助長するであろうことは想像に難くない.また,アテトーゼ型の脳性麻痺者に頸椎症性変化が健常群よりも若年のうちから高頻度に出現する2)ことが明らかにされており,この早期の加齢現象が脳性麻痺者の社会生活の質を蓍しく低下させている.

 今回,これまでに経験した症例の検討と文献上の総説を行ない,脳性麻痺者の自然経過とそれから生じる問題点および対策を考察してみる.

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 Ⅰ.初めに

 ここ数年,在宅障害者や高齢者(脳卒中,痴呆など)を対象にした地域に関する報告を目にする機会がよくある.これは医療などの進歩によって平均寿命が延び,それに伴い高齢化が進んできたということと,ノーマライゼーションの普及,および家族体系(核家族化)の変化による介護力の低下など,社会的問題が表面化してきているからではないかと思われる.これらのことを考え併せると,今後ますます在宅(地域)におけるケア(Care)の充実を図ることがたいせつになると考えられる.いずれにしても在宅(地域)において重要なことは保健・医療・福祉がそれぞれの分野をオーバーラップして連携をとっていくことがたいせつで,これをつねに念頭においておかなければならない.

 一般的に地域において中高年に限らず,脳性麻痺者の生活を支えていくための必要な条件として,

 (1)機能を維持するための機能訓練および健康管理体制の整備

 (2)介護支援体制の整備

 (3)住環境を含めた周辺環境の整備

 (4)デイサービスなどの社会資源の整備

 (5)ADLを含めQOLをいかに豊かにするかなどが挙げられる.これらの条件をふまえた上で,以下,当市におけるケアの不要な人も含めた中高年脳性麻痺者の,地域における実態と問題点および今後の課題についてケースも含めて述べてみたいと思う.

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 Ⅰ.初めに

 これまで脳性麻痺児については予防医学から早期発見,早期治療ならびにリハビリテーションについて多く論じられ,その重要性についてよく知られるようになってきている.一方,中高年齢に達している脳性麻痺者の問題について取り上げて発表されているものをみると脳性麻痺者側からの問題提起として挙げられているものはさまざまな側面をもっているのが現状である.

 今回脳性麻痺者が約半数入所している療護施設の概要,入所者自治会の権利宣言と園の対応,さらに理学療法室に来ていてことばによるコミュニケーションのとれる人たちと面接し施設における日常生活で入所時と現在との変化,改善してもらいたいこと,楽しみにしていることなどをうかがってみた.施設ケアの現状と問題となっていることがらについて少しでも理解できればと願っている.

とびら

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 高齢化社会を迎え人口・文化の大都市集中による弊害に対し,地方を活性化する必要最小限の条件は,高齢者の生活環境整備による健康の維持であり,究極的には“ネタキリ”を予防することである.地方の時代が叫ばれて久しいが,リハビリテーション医療についても同様ハード面・ソフト面ともに地方にはなかなか波及して来ない.人口密度はますます低下し,若者が流出,当然ながら企業活動も渋帯,自治体の財政を圧迫し,結果として住民の生活活動も萎縮してくる.若人の集う場所も少なく,活動連鎖もしぼんでしまいがちである.昨年の異常気象下,17・19号と2度の台風直撃によるツメ跡が今も残り,未だに青いビニールシートに包まれた屋根を散見する.傷を治癒する若い細胞活動が不足しているのである.

入門講座 関節可動域訓練・4

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 Ⅰ.初めに

 自分の髪を解くのももどかしく感じるほどの肩関節拘縮の患者に,今までにどのような治療を受けたかと聞いてみると,「これは放っておけば治ると言われた」,「低周波を当てたのみだった」,「マッサージをしてもらった」,「理学療法士に動かしてもらった」,「アイロンで振り子運動をするように言われた」等々,いろいろな答が返ってくる.

 ため息が出るほど硬い肩を触り(さわ)りながら,他の先生方はいったいどう対処しているのだろうと考えることがある.ある本には,肩関節周囲炎を治すには仙腸関節の加療が良いとまで書かれている.また,にわか覚えの筋筋膜摩擦伸張法を試してみて,患者とともに「よく動く」と感激することもある.関節造影での肩甲下滑液包拡張1)や超音波などとにかくいろんなことをやるが,治療すればするほど困難にぶち当たるのである.

 関節包や靱帯などの軟部組織が器質的に短縮を起こしている以上,可動域を改善するには,やはりダイナミックなストレッチはきわめて基本的だが必要不可欠な手技であろう.昨今は,より生理的に関節運動を起こさせるには,骨運動学だけではなく“関節運動学”を考慮しなければ治療としては不十分であるとの見解が一般的になってきた.実際に“いわゆる五十肩”の患者の肩を挙上したとき,痛みを訴える部位は内転筋群の伸張痛ではなく,第二肩関節(上腕骨大結節と烏口肩峰アーチとの関係を機能的な関節としてとらえた呼びかた)であることがほとんどである.その痛みを軽減させるには関節運動学を考慮して骨頭を操作しなければならないが,そのことで可動域が改善するわけではない.むしろ重要なことは,関節運動学の知識を存分に応用し,また,筋の伸張性を十分に高めた上での“ストレッチを行なう”ことではないだろうか.

 肩関節拘縮の因子には,他の関節と同様それを構成する骨・関節面の形態の異常,筋・腱・靭帯・関節包などの軟部組織の短縮,癒着,炎症による痛みなどがあり,臨床上よく経験するものは,やはり肩関節周囲炎による拘縮と術後の拘縮である.

 ここでは肩関節周囲炎による拘縮について,解剖学的事項に照合しながら制限因子を考え,それに対する運動療法を検討する.

1ページ講座 関連職種の動向・10

リハビリテーション医 福田 道隆
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 日本リハビリテーション医学会は1963年9月29日に誕生した.以来発展をとげ,1992年3月31日現在,リハビリテーション医学会員は8451名で,医師8273名,医師以外の会員178名となった.リハビリテーション医学会で認定した研修施設は238施設である.会員のうち認定臨床医は4330名,専門医は453名(いずれも1992年6月11日現在)である.

講座 障害者・高齢者のための住宅・4

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 Ⅰ.初めに

 慢性関節リウマチ(以下,RAと略.)は「全身性の炎症性疾患で再燃と寛解を繰り返す」という特徴を有し,将来における障害像を予測することが他疾患に比べ非常に困難である.このことがRA患者の家屋改造を困難にしている.一般に障害者の住宅に関する文献は車いす使用者を中心としたものが多いが,RAの場合上肢障害も著しいことや日本の建築様式から考えると車いすによる生活は実用的とは言えない.また,当院においては入工関節置換術により,かなり高い確率で,少なくとも室内歩行が確保されるようになっている.したがって本稿では,室内歩行以上のレベルを対象とした内容を中心に述べる.

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 Ⅰ.初めに

 理学療法士は日々の臨床の中で障害者と接することが多く,機能状態を把握しているなどの理由で「最適な改造は」と相談を受けることがよくある.中でも,脊髄損傷者の場合は車いすの生活となるため大規模な改造を行なうことが多く,慎重な対応が必要である.

 本稿では,脊髄損傷者の中でももっとも対応に苦慮する頸髄損傷による四肢麻痺者を中心に,残存機能の評価および住宅改造のポイントを紹介する.

プログレス

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 急死を発病から24時間以内の予期せぬ死亡と定義すれば,その原因として脳血管障害が多く含まれてくるが,突然死を1時間以内の死亡に限定すれば心疾患に起因する例が圧倒的に多くなる.

 久山町研究,追跡22年間における連続剖検846例中に1時間以内の突然死を含む90例の急死(10.6%)がみられた.1時間以内の突然死と,1~24時間以内の急死に区別してその原因疾患をみると,脳卒中による突然死はクモ膜下出血の1例にすぎないが,心疾患では24時間以内の死亡34例中,突然死が17例(50%)を占めた.逆に22例の突然死中17例(77.3%)が心疾患によるものであった.心臓突然死17例の内訳をみると,心筋梗塞と冠動脈硬化症を合わせると10例(58.8%)を数えた.冠動脈硬化症とは,剖検で高度の冠動脈のアテローマ硬化を伴うが,心筋には瘢痕(1cm未満)か線維化のみが認められた例である.心疾患による突然死22例中には,心臓弁膜症による2例と,いわゆる“ポックリ病”による5例が含まれた.

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 Our徳島といえば,皆さんは情熱的な「阿波踊り」を連想するのではないでしょうか.それは全国的に有名ですから,誰でも知っていると思いますが,そのほか,徳島の独創的な伝統文化として,巡礼お鶴とお弓の悲しい物語を伝える「阿波人形浄瑠璃」や「藍染め」「大谷焼」などもあるんですよ.また,観光地としては,鳴門の渦潮,祖谷のかずら橋,大歩危小歩危,南阿波サンラインなど,風光明媚な名所があちこちに散在しています.我が地域は自然と伝統と人情にあふれた心のふるさとです.

あんてな

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 情報化社会の進展に伴い,情報処理機器のコミュニケーションツールとしての活用が幅広い分野で行なわれるようになってきた.パーソナルコンピューターやワードプロセッサー,ファクシミリをはじめとするパーソナルな情報処理機器は,従来の難しい概念からやさしい概念に変化してきた.いわゆる専門家が使うものから,誰もが使える情報処理機器の出現である.

 人間と機械とのかかわり合いにおいては,使いやすさ,わかりやすさ,やさしさなどが強く要求されるようになっており,技術の新しい進歩には,より使う側のニーズを満足すべき対応が求められている.

雑誌レビュー

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 Ⅰ.初めに

 近年,カナダ理学療法協会は理学療法サービスの質の向上と普及に努めてきた.臨床家のみならず,研究者,教育者として通用する人材の育成に取り組んでいる.このような改革の一つに協会誌である“Physiotherapy Canada”の編集方針の変更があった.“Physiotherapy Canada”について会員からの批判は,自分たちのニードを十分に満たしていないというのが理由の一つであった.研究報告に加え,広く臨床家に興味ある内容が望まれていた.

 1991年版(vol.43)は,これらの要求を考慮して編集されている.発行回数は年6回から年4回に減ったが,内容は多岐にわたり実践的な報告が多くみられる.この変化はおおむね会員には好評のようである.しかし一部には批判もある.例えば論文の編集担当であるscientific editorを廃止したことは,ジャーナルの科学性に影響し研究者が興味を示さなくなるのではないかと危惧されている.以上,簡単に改革の経過を紹介したが,今後ともこの変化に注目していきたい.

 1991年版は,研究論文11編,総説論文4編,症例報告1編の計16編が掲載されている(図1).本稿では分野別に分類し,内容を紹介する.なお,文中の[( )]の数字は,( )内が論文の掲載号数,それに続く数字がページ数を示す.

印象に残った症例

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 Ⅰ.初めに

 交通事故による死亡記事が毎日のように新聞に掲載されている.中には病院に搬入されてから死亡する例も多いと思われる.しかし医学の進歩,特に救急医療の進歩,人工呼吸器の普及に伴い,交通事故に逢った人々が救命されることも多くなった.だが,せっかく救命できても高位頸髄損傷患者とりわけ横隔膜麻痺が有る場合,永続的に人工呼吸器の装着を強いられる1)か,短時間の離脱のみで,患者のADLあるいはQOLにおいて,きわめて大きな問題となっていた.

 今回,当院で約10年間人工呼吸器に依存しながら生命維持を行なってきた交通事故による高位頸髄損傷患者が,横隔膜ペーシングの植込術を行ない2,3),昼間はほぼ完全に人工呼吸器から離脱でき,かつ家庭復帰したので理学療法士としてのかかわりから報告する.

学会印象記 第29回リハビリテーション医学会学術集会

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 第29回日本リハビリテーション医学会は,「リハビリテーション医学の地域への進展を求めて」のテーマで1992年5月28から30日まで澤村誠志学会長により神戸国際会議場で開催された.今回は,第7回リハビリテーション工学カンファレンス,英日地域リハビリテーションジョイントフォーラム,そして31日にはリハビリテーション工学国際セミナー(1992)が同時に開催された,盛りだくさんの企画であった.さらに特筆すべきは,特別企画展示(報告)として「わが国における地域リハビリテーション活動」(39題)が設けられ,保健・福祉施設などの理学療法士をはじめ他職種によるパネルデスカッションが行なわれたことである.医学会の会員になりにくい理学療法士・作業療法士にとって地域での理学療法や作業療法の仕事を多くのリハビリテーション医に示し,議論できたことはたいへんすばらしいことである.(1992年3月末のこの医学会会員は,医師が8273名,医師以外が178名の合計8451名である.)

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文献抄録

編集後記 松村 秩
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 本号は,中高年脳性麻痺者のもつ多様な問題点を取り上げて,特集とした.

 高齢社会の到来に伴う,脳性麻痺者の実態に関する全国的調査は未だ実施されていない.五味論文は,その実態の一部を明らかにしたものである.五味氏はあとがきの中で,ライフサークルにふさわしいサービスの重要性を述べているが,そのことばのもつ意味は重い.

基本情報

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理学療法ジャーナル
26巻10号 (1992年10月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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