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Ⅰ.まえがき
最近我が国は,平均余命が延長し,男性75.9歳,女性81.7歳という高齢社会が到来している.その中で,脳性麻痺者がどのくらい長生きしておられるかの全国的調査はみられない.
中高年者といえば,常識的に40歳以上の者を言うが,中高年脳性麻痺者の実数も定かではない.
最近における厚生省身体障害者実態調査(19877年2月現在)によれば,在宅身体障害者は241.3万人であり,40歳以上は,88.8%を占めている.その中で脳性麻痺者を含む肢体不自由者は全身体障害者241万余の60.5%であり,肢体不自由者の中で40歳以上は88.6%となっており,全身体障害者と同様に肢体不自由者も同様に高齢化している.
しかし障害別にみた脳性麻痺者は65千人と推定されているが,40歳以上の年齢分布は不明であり,中高年脳性麻痺者の実態はとらえ難い.
仮りに脳性麻痺者の年齢構成が,肢体不自由者と同じであるとすれば,65千人の88.6%すなわち57.5千人の脳性麻痺中高年者がいると推測される.
正確な実態把握の方法として考えられることは,身体障害者手帳交付の台帳から,1951年出生以前の脳性麻痺者を見いだし,現状の生存状況を分析しなければならない.
5年ごとに実施される身体障害者実態調査が1992年度に行なわれることを期待しているが,施設収容か在宅生活かの状態を把握することでさえ難点がある.
また40歳以上の脳性麻痺者が生まれた1951年以前は,脳性麻痺児の療育を行なう肢体不自由施設も全国に3施設(現在全国72施設)しか存在しなかったので,施設における追跡把握も一部分となろう.
したがって,中高年脳性麻痺者の全般的把握は,現時点では不可能に近い問題であるが,現実に中高年脳性麻痺者が多くの課題を抱えながら社会に生きていることは臨床経験上否めない.
筆者は,1950年ころから脳性麻痺の臨床的研究を続け今なお取り組んでいるが,①現在見ている40歳以上の脳性麻痺者30人の実態をまず紹介する.次に②重度脳性麻痺者のいる身体障害者療護施設の状況を説明し,さらに③中高年者予備群とも言える脳性麻痺者75人の現状を述べたい.これは東京板橋区整肢療護園における母子入園(1963~1968年の間)脳性麻痺幼児(111人)の1991年度に至る長期追跡例75人(26~36歳:平均29.4歳)の結果であり,脳性麻痺の幼児期から成人期への変化を知るものである.
与えられた課題に対しては,はなはだ不充分な解説となり忸怩(じくじ)たるものがあるが,現時点では止むを得ないと御寛容の程を願いたい.公務退職後は脳性麻痺の臨床的研究の完成を目指すなかで,脳性麻痺者加齢の問題を究めたい.
その際はPTジャーナル読者諸兄姉の協力を得たいと期待している.
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