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Ⅰ.初めに
自分の髪を解くのももどかしく感じるほどの肩関節拘縮の患者に,今までにどのような治療を受けたかと聞いてみると,「これは放っておけば治ると言われた」,「低周波を当てたのみだった」,「マッサージをしてもらった」,「理学療法士に動かしてもらった」,「アイロンで振り子運動をするように言われた」等々,いろいろな答が返ってくる.
ため息が出るほど硬い肩を触り(さわ)りながら,他の先生方はいったいどう対処しているのだろうと考えることがある.ある本には,肩関節周囲炎を治すには仙腸関節の加療が良いとまで書かれている.また,にわか覚えの筋筋膜摩擦伸張法を試してみて,患者とともに「よく動く」と感激することもある.関節造影での肩甲下滑液包拡張1)や超音波などとにかくいろんなことをやるが,治療すればするほど困難にぶち当たるのである.
関節包や靱帯などの軟部組織が器質的に短縮を起こしている以上,可動域を改善するには,やはりダイナミックなストレッチはきわめて基本的だが必要不可欠な手技であろう.昨今は,より生理的に関節運動を起こさせるには,骨運動学だけではなく“関節運動学”を考慮しなければ治療としては不十分であるとの見解が一般的になってきた.実際に“いわゆる五十肩”の患者の肩を挙上したとき,痛みを訴える部位は内転筋群の伸張痛ではなく,第二肩関節(上腕骨大結節と烏口肩峰アーチとの関係を機能的な関節としてとらえた呼びかた)であることがほとんどである.その痛みを軽減させるには関節運動学を考慮して骨頭を操作しなければならないが,そのことで可動域が改善するわけではない.むしろ重要なことは,関節運動学の知識を存分に応用し,また,筋の伸張性を十分に高めた上での“ストレッチを行なう”ことではないだろうか.
肩関節拘縮の因子には,他の関節と同様それを構成する骨・関節面の形態の異常,筋・腱・靭帯・関節包などの軟部組織の短縮,癒着,炎症による痛みなどがあり,臨床上よく経験するものは,やはり肩関節周囲炎による拘縮と術後の拘縮である.
ここでは肩関節周囲炎による拘縮について,解剖学的事項に照合しながら制限因子を考え,それに対する運動療法を検討する.
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