脊椎脊髄ジャーナル 29巻12号 (2016年12月)

特集 脊髄血管障害—最新の診断と治療

特集にあたって 飛驒 一利
  • 文献概要を表示

 脊髄血管障害は,本誌においても何度か取り上げられていますが,日々の臨床では比較的頻度が少なく,診断・治療が可能な施設が限られているのが実態です.近年,MDCTAの進歩,術中のモニタリング,術中DSA,ICGなどを駆使したハイブリッド手術室,さらに血管内手術の進歩により,病態の解明,より低侵襲な治療が可能となっていますが,今回,それぞれのエキスパートに現時点での診断と治療の限界について解説していただくこととしました.

 脊髄血管障害の中では脊髄動静脈奇形が代表的な疾患であり,本誌でも多くの著者に解説していただきましたが,分類については,いまだ統一的な見解はないのが実情です.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)は脊髄動脈系と静脈系の短絡を本態とする疾患であり,出血,静脈うっ滞やmass signにより発症する.

 頭蓋内AVMの1/10程度の有病率という希少疾患であり,十分な経験をもつ施設が少ないことから,一般的な脳神経外科医が経験する機会が少なく,知識のup dateも十分なされていない可能性がある.

 そもそも脊髄動静脈奇形という概念は,脊髄血管造影により診断され,その発展とともに理解が深まってきたという歴史的背景がある.血管造影上の形態に基づく分類から始まり,現在に至るまでその基本的なコンセプトは変わらないが,安全性の高い造影剤,選択的造影法の発達,高解像度の画像など,血管造影の進歩とともにさまざまな分類が提唱されてきた.その結果,多数の分類やterminologyが提唱され,非常に煩雑になっており,理解しづらく誤用も時にみられる.“脊髄AVMは難解な疾患である”と認識されることも少なくない.本稿では,これらの病型,分類,terminology,診断方法を整理することにより,脊髄AVMの理解を深めていただくことを目的とした.

 なお,脊髄AVMはさまざまな病型を含んでおり,この疾患名は奇形(malformation)といいながら瘻(fistula)を含んでいる.この点は,頭蓋内AVMと頭蓋内硬膜動静脈瘻がそもそも違う疾患概念であることと対照的であり,脊髄AVMの理解を妨げている要因の1つとなっていると思われる.筆者は個人的には,後述する“spinal cord arteriovenous shunt”,“spinal vascular lesion”,“arteriovenous lesion”のほうが,この疾患を表現するのによりふさわしい呼称であると考えている(しかし,現時点でも統一された呼称はない).しかしながら,本邦でより馴染みの深いと推察されるという理由から,本稿では“脊髄AVM”として統一することとする.

脊髄動静脈奇形の病態 髙井 敬介
  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)とは,脊髄血管障害の1つで脊髄症や神経根症をきたす1,6).神経脱落症状をきたす原因として,脊髄うっ血9),脊髄出血4,11),血栓化12,14),圧迫病変10)などが報告されている.脊髄AVMはまれで,脊髄病変の鑑別診断の1つに挙がらないことが多く,ほかの病変と誤診され診断が遅れることが多い.画像診断の発展にもかかわらず,特に脊髄硬膜arteriovenous fistula(AVF)の脊髄うっ血については,発症から診断までの平均期間はいまだ15カ月かかっている5).本稿では,脊髄AVMの症例を提示し,神経症状と画像診断から病態を解説する.なお,脊髄AVMの分類は,古典的分類2)に脊髄硬膜外AVF3,8,9)を追加したものを用いた(表1).

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural arteriovenous fistula:以下,dural AVFと記載)の治療には,外科治療,血管内治療という2つのオプションがある.外科治療では硬膜動静脈シャントよりも遠位(脊髄側という意味)で硬膜内へ逆行する流入血管(arterialized draining vein)を遮断する.血管内治療ではn-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)などの液状塞栓物質によって動静脈シャント(AVF)そのものを閉塞させる.従来どちらも有効な治療とされてきたが,最近のmeta-analysisでは,初回治療でのAVF閉塞率は外科治療で96.6%,血管内治療で72.2%であった.再発のオッズ比も血管内治療が外科治療よりも高く,NBCAを用いた塞栓治療後の再発率は23%と報告されており,初回閉塞率,再発率いずれの観点からも,外科治療の優位性が示されたかたちとなった2).血管内治療を推奨する背景には,本疾患の患者が高齢,高度動脈硬化などの全身麻酔リスクのあるケースがまれではなく,血管内治療の低侵襲性が好適と考えられること,治療合併症の1つである遅発性静脈内血栓症をきたした場合に抗凝固治療を実施しやすいこと3),などがあるが,上記報告を踏まえると,外科治療は今後も必ず有しておくべき治療オプションであると確信する.ここでは,Dural AVFの好発部位によって,1)中位胸椎〜腰・仙椎病変,2)頭蓋頸椎移行部病変,に分けて,外科治療の実際,留意点などを述べることにする.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄動静脈奇形に対する治療では,脳血管障害と同様に血管内治療が徐々に主体となりつつある.しかし,血管内治療においても困難あるいは不完全な治療となる場合が少なからず存在し,直達手術の適応および技術的問題は以前にもまして重要課題である.特に脊髄辺縁部動静脈瘻(spinal perimedullary arteriovenous fistula:SPAVF)では,前あるいは後脊髄動脈からの分枝が流入動脈となっているため,治療選択の判断に難渋することが少なくない.最善の治療選択を行うためには,造影CT血管造影(脊髄CTA)あるいは脊髄血管造影(脊髄DSA)から正確に流入動脈,動静脈シャント(AVシャント)のポイントおよび流出静脈を理解することが最初の関門となる(図1)8).直達手術および血管内治療の安全性および根治性について,診療チーム内で慎重に判断することが必要である1).最終的にどちらの治療を選択しても,脊髄の正常な動静脈環流には影響を与えず,異常血流のみを完全に遮断することが治療ゴールであることに変わりない.本稿では,SPAVFに対する安全かつ根治的直達手術について,当科での取り組みを紹介する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 一般に脊髄動静脈短絡と呼ばれる疾患は,ナイダスをもつ動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)と,ナイダスをもたない動静脈瘻(arteriovenous fistula:AVF)に分類され,その存在部位からそれぞれ硬膜内,硬膜,硬膜外に分類される.実際には,硬膜,硬膜外疾患でナイダスをもつ動静脈奇形を経験することはきわめてまれである.本稿では,それぞれの疾患に対する血管内治療につき概説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 髄内動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)は脊髄血管障害の中でも遭遇する機会の少ないまれな疾患である.これまで外科的直達手術,血管内治療,そしてその複合治療による治療成績が報告されているが,治療経験の多い専門施設であってもその治療に難渋しているのが実情であろう3,10)

 脊髄AVMの分類と診断についての詳細は他稿に譲るが,本稿では髄内AVMに,Anson and Spetzler分類2)中のintramedullary glomus malformation/extensive juvenile malformationを含めたい.そして,その治療における定位放射線治療の担う役割と可能性について,最近の文献的考察を含めて紹介する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 頭蓋外椎骨動脈には「頸椎を貫通しながら走行する」という特異な解剖学的特徴があり,それゆえ椎骨動脈は頸椎の動的影響を受ける.動的影響を受けても通常は何ら症状を呈さないが,ひとたび病的因子が加わると脳虚血の原因となり得る.

 頸椎を貫通する頭蓋外椎骨動脈に動的因子が関わり生じる病態は,1978年にSorensen14)が頭部回旋により脳虚血を呈した症例を“bow hunter's stroke(BHS)”として報告し,以後広く知られるようになった.しかし,本病態を巡っては,それ以前に慢性関節リウマチ関連の環軸椎亜脱臼に伴う椎骨動脈塞栓症の死亡症例の報告6,17)がなされている.また,これらの報告以後も基礎疾患の有無や病因の違い(血行力学的脳虚血か血栓塞栓症か)の要因も加わり多岐に及ぶ疾患定義が提唱されているため,本病態の理解においていまだ混乱を招いている.

 本稿では,過去の報告を遡って本病態における定義解釈を再検討し,positional vertebral artery occlusion(PVAO)としてその特徴・診断・治療について概説する.

 なお,椎骨動脈起始部の先天的位置異常により頭部回旋時に脳虚血を呈する病態としてPowers症候群が知られているが,脊椎骨との直接の関連性がないため,その詳細については他稿を参照されたい.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄硬膜外血腫(spinal epidural hematoma:SEDH)は1869年にJackson16)が初めてspinal apoplexyとして報告し,1897年にBain3)によって最初に手術が施行された.その後も,ややまれな疾患としてしばしば報告されている.通常は突然の後頸部痛〜肩甲骨部の痛みより始まり,次第に上下肢の感覚障害,運動麻痺へと移行する.血腫の局在に応じて,monoparesis,hemiparesis,tetraparesisとさまざまな症候を呈する.原因としては軽微な外傷11)や原因不明であることが多く,症状が突然発症のため,脳血管障害と誤診されることも多い19,23,24,35).近年のMRIを中心とした画像診断技術の向上により,その報告は増加しており,同時に軽症のうちに診断されることも増加している2).以前は脊髄硬膜外血腫が確認されれば,速やかに外科的処置(血腫除去術)を施行していたが9,28),症状が経過中に改善し,保存的治療にて良好な経過を得る事例も多く報告されるようになってきた32,33).今回,最近の文献報告をまとめた臨床像とわれわれが経験した24例のSEDHの臨床病態について解説する.

Nomade

愚者の記憶,賢者の忘却 安田 宗義
  • 文献概要を表示

 釈迦の弟子,スーラ・パンダカをご存知の方もいるでしょう.

 彼は物忘れがひどく,自分の名前さえ忘れる始末だった.そこで仲間が,パンダカの名前を大書した旗をいつも彼に背負わせていたそうだ.パンダカの死後,彼の墓地に生えた植物は,これに因んで茗荷(ミョウガ)と命名された.だから今でも,ミョウガを食べすぎると物忘れをするとの伝承がある.

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第40回

症例:生後11カ月,女児 桑島 成子
  • 文献概要を表示

症例

 症例:生後11カ月,女児.

 主訴:二分脊椎の精査.

 周産期:正常分娩,呼吸障害なし.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:小頭症,発達遅滞.新生児期より便秘を繰り返す.

 現病歴:今回,肛門頭側に皮膚洞があることに気づいた.

問題

 1.脊椎の単純X線所見は?

 2.脊椎MRI所見は?

 3.疑われる診断は?

--------------------

次号予告

ご案内

バックナンバー 特集一覧

学会・研究会 事務局一覧

会告案内一覧

編集後記

基本情報

09144412.29.12.jpg
脊椎脊髄ジャーナル
29巻12号 (2016年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

文献閲覧数ランキング(
9月14日~9月20日
)