脊椎脊髄ジャーナル 28巻6号 (2015年6月)

特集 脊椎脊髄の感染・炎症

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 脊椎脊髄の感染・炎症は,臨床において重要な疾患ですが,その診断そのものは,本文中で稲岡努先生が指摘されているように,画像診断を含め難渋することがしばしばあります.その理由としては,診断特異性が低いことや,画像,臨床像ともに多彩な像を呈し得ることが挙げられます.また,頻度としてはいわゆる変性や変形性疾患に比して圧倒的に少なく,「疑わなければ,感染・炎症を診断できない」といった状況もしばしばあると思われます.しかし,診断から治療というプロセスにおいて,感染・炎症性疾患は「早さ」が重要であるのはいうまでもありません.亀井聡先生の項目の「はじめに」の中に,神経学的救急疾患という表現がありますが,まさに的を射たものです.1回の診断のチャンスを逃せば,数日あるいは下手をすれば数時間後に症状は増悪し,当然ながら予後にも影響することとなります.

 上記のような背景をもとに,今回は特に脊椎脊髄の感染・炎症の診断や機序といった観点から,さまざまな科の専門家の先生方に,執筆,解説をお願いしました.もちろん治療に関しても言及されています.画像所見の項目からは,典型的なものや頻度の高いもの,特異性の高いものなど,実際の診断のポイントがよく理解できるものとなっていると思います.また,椎間板の炎症の機序や血液データ,髄液所見に関する詳細な解説,そしていまだに重要な疾患である結核に関する項目は,いずれも脊椎脊髄の感染・炎症を理解するうえで非常に重要,かつ診療上必要なものと思います.結果として本特集は,さまざまな観点から,総合的にかつ正確に脊椎脊髄の感染・炎症を診療するうえで有用なものとなったと考えています.

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はじめに

 脊椎・脊髄領域の感染・炎症の中で,脊髄内に主座を置く病変が占める割合は決して多くはない.それにもかかわらず,感染や炎症を生じる病因・病態は非常に多岐にわたる.ウイルスや細菌による感染性脊髄炎,多発性硬化症や視神経脊髄炎に代表される脱髄性疾患,膠原病やアレルギー性疾患に合併する脊髄炎,代謝障害に伴う脊髄変性など,多彩な病因・病態が脊髄炎の鑑別診断に含まれる.本稿では,脊髄の感染・炎症性の中で,特徴的な画像所見が診断に重要な役割を果たす代表的な疾患をいくつか概説する.

髄膜炎・硬膜外膿瘍 藤間 憲幸
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はじめに

 脊椎脊髄領域の炎症は,大部分が脊髄髄内(脊髄炎),あるいは椎体領域(脊椎炎,化膿性椎間板炎)に生じる.しかし,ときにそれ以外の部分(髄膜,硬膜外領域)に炎症が生じることもあり,注意が必要である.これらの領域での炎症性疾患は,従来まれとされていたが,近年ではMRI検査の普及に伴って,検出される機会は増加の一途をたどっている.本稿では,髄膜,硬膜外領域に生じる感染性,炎症性疾患の中でも比較的日常臨床で遭遇する可能性が高いものを中心に,特にMRIの画像所見を概説する.

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はじめに

 脊椎の感染・炎症では,疼痛や発熱などの非特異的な症状を呈することが多く,画像診断の役割は大きい.しかし,変性などさまざまな背景が存在することもあり,診断に難渋することがしばしばある.日常診療においては一般細菌による感染が多いが,一般細菌以外では結核が依然として重要で,免疫低下患者を中心として真菌感染もみられる.重要な鑑別疾患となる脊椎の炎症性疾患では脊椎関節炎があるが,その中では強直性脊椎炎が多い.また,特殊な臨床経過,脊椎病変を呈する病態としてSAPHO症候群も重要である.本稿では,まずは化膿性脊椎炎を中心に画像所見,臨床的な注意点について述べ,重要な鑑別疾患となる脊椎関節炎,SAPHO症候群,さらには変性や転移など日常診療において比較的高頻度に遭遇する脊椎疾患について触れ,その鑑別のポイントについて概説したい.

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はじめに

 はじめに,化膿性脊椎炎(pyogenic spondylitis)は,脊椎椎体炎(osteomyelitis)および椎間板炎(discitis)を指すが,ほとんどの症例では両者が同時に起こるため,臨床的には同一疾患として捉えられることが多い.化膿性脊椎炎については前稿でも述べられているため,本稿では特に,細菌性に椎間板の炎症や破壊が起こる過程における,分子生物学的なメカニズムを検討する.

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はじめに

 術後創部感染(surgical site infection:SSI)は,検知と対応が遅れると治癒させることが甚だ困難となる.脊椎手術におけるSSI発生率は0.4〜4.3%といわれてきたが7〜9),2011年に行われた全国調査によると,すべての脊椎手術の深部感染発生率が1.1%であり,instrumentation手術はさらに高率で,SSI発生率は減少しているとはいえない4).それゆえ,SSIは予防の努力が第一であるが,同時に早期に検知して対応することも最重要課題である.従来,SSIのスクリーニングにはC反応性タンパク(C-reactive protein:CRP)が最も有用であると報告されている10,12,15).脊椎手術における術後CRPは,術後2〜3日目に最高値を示し,術後5〜14日で正常化したという報告15)が最初であるが,術後14日目でも半数以上は正常値には復さなかったという報告1,3,5,10,13)もある.SRL検査項目レファレンスによると,CRPは「外傷や手術後は,48時間をピークに上昇し約5日でほぼ正常範囲に復するといわれている.CRPの高値がさらに持続する場合は,感染症の併発を考慮しなければならない」と説明されている.しかし,脊椎手術では感染がなくてもCRP値が1〜2週にわたりいわゆる正常範囲に復さないことはよく経験することであり,CRPが高値であるからといってSSIと即断することはできない.CRPがSSIの診断意義を示すのは,いったん低下した値が術後7〜14日で再上昇する場合である10,11,13).換言すれば,CRP値は経時的相対評価が重要視されるのみで,術後の基準値は認識されていない.術後3〜4日目のCRPがいくら高値であってもSSIを積極的に疑う根拠とはならず,さらに術後7日目の値が術後3日目より低下していたとしても低下率がわずかであればその解釈は困難である.血液検査を毎日行えば術後3日以降の詳細な変化を把握できるが,スクリーニング検査としては現実的ではない.そこで,CRP値について経時的変化のみで評価するのではなく,術後の基準値を設定することができれば早期のSSI検知に役立つと考えた.本稿では当施設の取り組みを紹介し,その結果を報告する.

結核性脊椎炎 井澤 一隆
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はじめに

 日本国内の結核の発生件数は微減傾向が続くものの,いまだ根絶の見込みは立っておらず,欧米と比べてはるかに高い水準にある.内科はもちろん整形外科でも結核は珍しくないのが現状であり,高齢者のみならず免疫抑制剤使用下での結核の発症は近年の新たな課題となっている.本稿では,骨関節結核で最も頻度の高い結核性脊椎炎の診断・治療とその注意点について解説する.

脳脊髄液の所見 亀井 聡
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はじめに

 脊椎脊髄の感染として,髄膜炎・硬膜外膿瘍・椎体椎間板炎などが挙げられる.これら感染症において,腰椎穿刺による脳脊髄液の所見は,疾患の診断や鑑別をするうえできわめて重要である.しかも,髄膜炎は初期治療が患者の転帰に大きく影響する神経学的救急疾患(neurological emergency)であり,早期診断に基づく早期の適切な治療開始が不可欠である.しかし,これら疾患の病因診断が確定されるまでには一定の時間を要する場合も多い.したがって,患者の発症経過・症候・神経放射線学的な検査所見を含む各検査所見から疾患・病因を推定し,直ちに治療を開始する.この早期の推定診断において,脳脊髄液所見は,病因推定上も,また治療反応性の判断の点からも重要で,各疾患におけるその所見を十分に理解しておくことが必要である.しかし,一方で腰椎穿刺には適応があり,その施行が禁忌となる場合もある.この施行適否を理解せずに実施した場合,ときに脳ヘルニアを惹起したり,髄膜炎を併発させたりして,患者生命に危険が及ぶ.このような現況を踏まえ,本稿では,代表的な感染症における腰椎穿刺による脳脊髄液検査の適応,さらに各疾患の脳脊髄液所見について概説する.

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はじめに

 結核を含めた脊椎の感染症は腰痛症の原因として早期に診断・治療する必要のある疾患であり,その早期診断において画像診断の果たす役割は大きい.また,化膿性脊椎炎と結核性脊椎炎では治療法が異なっており,両者を早期に鑑別することも重要である.その鑑別はそれぞれの病態の特徴と深くかかわっている.早期の脊椎炎での画像診断におけるMRIの有用性はすでに多くの文献で強調されていることであり,脊椎終板から椎間板や脊椎周囲の軟部組織の病変の広がりが十分なコントラストをもって描出できることが知られている.それに対して単純X線やCTは救急現場で多く用いられており,その早期診断から病変の経過観察における知識は重要である.特にCTは,脊椎という複雑な骨を詳細に描出でき,さらにMRIと比較して腐骨や石灰化の描出に優れるという利点がある.また,CTガイド下生検による組織診断や原因菌を同定するための細菌学的評価,治療に関わる経皮的ドレナージ術まで,治療にも大きく寄与している.このように,感染性脊椎炎においては,単純X線,CTの画像所見を理解することは重要である.本稿では,脊椎感染症の早期診断,および化膿性脊椎炎と結核性脊椎炎の鑑別を中心に,単純X線,CTの画像所見について概説する.

Nomade

絶対矛盾的自己同一 乾 敏彦
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 銀閣寺から南に向かい若王子まで,散りゆく桜小径をとりとめのない物思いに耽りながら散策する機会を得た.本邦近代の代表的哲学体系である西田哲学の創始者,西田幾多郎が思索に耽りながら好んで散策したことから哲学の小径と呼ばれている道である.私には哲学への興味は大いにあるが,生憎とその素養はなきに等しい.そんな私が哲学の小径を散策したのには理由がある.日頃多忙にかまけて家族孝行がおろそかになっているせめてもの罪滅ぼしになればと,京都観光がてらにという不純な動機で第29回日本医学会総会に出席した.帰路の途中,銀閣寺を訪れたためである.若い頃には伊達者を好んだ私だが,寄る年波には抗うことができないのか,少しは利口になったのか,わび・さびにより興味をそそられるようになった.本来の目的であった家族孝行は,参加したセッションが死生学であり,あまりに重いテーマであったため連れてこられた感が隠しきれない家族の表情をみればどうも失敗に終わった.私自身にとっては,日頃あまり深く考えることのない医師の使命と自らの立ち位置について,あらためて考えさせられる素晴らしい機会を得たと喜んでいる.

 死生学のセッションでは,世界に類をみない本邦における急速な超高齢者社会を迎えるにあたって,聴講者に理想の生き方,死に方のアンケート調査が行われた.当然の結果ではあるが,健康長寿で苦しまずに永眠する,すなわちピンピンコロリを大多数が希望していた.しかし,不慮の事故や何らかの疾病による突然死でもない限り,この両者の両立は難しいのも現実である.われわれの専門領域に当てはめると,脊椎脊髄外科は加齢性変化に伴う変性疾患を扱うことが多いため,quality of life(QOL)観点から,ピンピンコロリをかなえるために大いに期待されるゆえんである.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-79

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手術適応

 髄内腫瘍に対する手術適応については,自然経過が必ずしも明瞭ではないため,神経症状が軽度あるいは無症候性の症例に対しての判断は,決して容易ではない.患者因子(年齢,全身状態,社会活動性など),症状経過,神経症状および画像診断などを入念に判断する必要がある.手術が望ましいと判断した場合には,手術到達法の選択が最初の課題となる.後正中溝到達法は髄内腫瘍手術の基本到達法であり,ほとんどすべての髄内腫瘍に対して適応可能である.しかし,腫瘍の性状および局在を考慮して,後外側溝到達法あるいは経軟膜到達法を用いる場合がある.理論的には前正中裂からの腫瘍切除も可能であるが,実際には前脊髄動静脈が存在するために困難である.本稿では,髄内腫瘍への到達経路として標準的な後正中溝到達法について,良性髄内腫瘍である上衣腫を代表例として記載する(図1).

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第27回

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症例

 症 例:58歳,女性

 主 訴:歩行困難

 現病歴:3年ほど前より間欠的に腰痛が出現.腰痛の際には歩行障害が自覚された.

 半年ほど前から腰痛が増強し,下肢脱力や多発関節炎などの症状が出現し,さらに1カ月前より筋力低下も伴うようになり受診.

 理学所見:関節症状として肩関節痛,股関節痛を認める.下肢には軽度筋力低下を認める(MMT 4程度).両足底に掌蹠膿疱症を認めた.

 血液生化学一般,体幹部・四肢の単純X線,CT,MRIおよび各種の核医学検査が施行された.単純X線検査と脊椎MRI検査で異常が疑われた.

問題

 脊椎の単純X線およびMRIについて,

 1.画像所見は?

 2.診断は?

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
28巻6号 (2015年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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