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銀閣寺から南に向かい若王子まで,散りゆく桜小径をとりとめのない物思いに耽りながら散策する機会を得た.本邦近代の代表的哲学体系である西田哲学の創始者,西田幾多郎が思索に耽りながら好んで散策したことから哲学の小径と呼ばれている道である.私には哲学への興味は大いにあるが,生憎とその素養はなきに等しい.そんな私が哲学の小径を散策したのには理由がある.日頃多忙にかまけて家族孝行がおろそかになっているせめてもの罪滅ぼしになればと,京都観光がてらにという不純な動機で第29回日本医学会総会に出席した.帰路の途中,銀閣寺を訪れたためである.若い頃には伊達者を好んだ私だが,寄る年波には抗うことができないのか,少しは利口になったのか,わび・さびにより興味をそそられるようになった.本来の目的であった家族孝行は,参加したセッションが死生学であり,あまりに重いテーマであったため連れてこられた感が隠しきれない家族の表情をみればどうも失敗に終わった.私自身にとっては,日頃あまり深く考えることのない医師の使命と自らの立ち位置について,あらためて考えさせられる素晴らしい機会を得たと喜んでいる.
死生学のセッションでは,世界に類をみない本邦における急速な超高齢者社会を迎えるにあたって,聴講者に理想の生き方,死に方のアンケート調査が行われた.当然の結果ではあるが,健康長寿で苦しまずに永眠する,すなわちピンピンコロリを大多数が希望していた.しかし,不慮の事故や何らかの疾病による突然死でもない限り,この両者の両立は難しいのも現実である.われわれの専門領域に当てはめると,脊椎脊髄外科は加齢性変化に伴う変性疾患を扱うことが多いため,quality of life(QOL)観点から,ピンピンコロリをかなえるために大いに期待されるゆえんである.
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