耳鼻咽喉科・頭頸部外科 90巻3号 (2018年3月)

特集 頭頸部癌に対する薬物療法—最新情報

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POINT

●局所進行頭頸部癌に対する導入化学療法(induction chemotherapy:ICT)の目的は,切除可能例における喉頭温存と,切除不能例に対する予後の改善である。

●レジメンとしてはドセタキセル(TXT:T),シスプラチン(CDDP:P),フルオロウラシル(5-FU:F)の3剤を併用したTPFが標準治療となっている。

●ICT後の腫瘍縮小の状態により放射線治療(radiation therapy:RT)か手術(喉頭摘出)かを判断するchemoselectionの考え方が用いられている。

●ICT後の放射線治療については,RT単独,抗がん薬とRTとの併用,セツキシマブ(アービタックス®/セツキシマブ:E/Cmab)とRTとの併用のいずれがよいかは明確になっていない。

薬物同時併用放射線療法 横田 知哉
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POINT

●局所進行頭頸部癌に対する非外科的標準治療は,CDDPを併用する化学放射線療法である。

●局所進行頭頸部癌に対する治療オプションとして,セツキシマブ併用放射線療法がある。

●化学放射線療法に対するセツキシマブ併用放射線療法の非劣性は示されておらず,両者の使い分けに関して明らかなコンセンサスは得られていない。

●免疫チェックポイント阻害薬と放射線治療との併用療法が開発中である。

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POINT

●頭頸部扁平上皮癌の治療において,手術単独と比較して術後に放射線治療(RT)を加えることで生存が改善するかを直接比較した大規模なランダム化試験はないものの,複数の後ろ向きの報告の結果から術後リスクを有する患者に術後RTを施行することで治療成績が改善すると考えられるようになった。

●2つの大規模な前向きランダム化第Ⅲ相比較試験(EORTC 22931試験,RTOG 9501試験)の結果ならびにその2つの試験の統合解析の結果から,頭頸部扁平上皮癌術後,顕微鏡的断端陽性またはリンパ節転移節外浸潤陽性(いわゆる術後高リスク)を有する患者に対しては,術後高用量シスプラチン同時併用化学放射線治療(CRT)は術後RTと比較して生存を改善することが示された。

●毒性の軽減や入院期間の短縮を目的として,比較的低用量のシスプラチンを毎週投与する(weekly)レジメンの治療開発が進められている。

●術後CRTの標準併用抗癌剤はシスプラチンであるが,他の抗癌剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬といった新たな薬剤と放射線治療を組み合わせた治療開発も行われている。

上咽頭癌に対する化学療法 古平 毅
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POINT

●Stage Ⅲ〜ⅣA(UICC 8th)の上咽頭癌は同時併用化学放射線療法が標準だが,Stage Ⅱ(特にN1症例)にも化学療法併用が推奨される。

●強度変調放射線治療により頸部再発率は10%程度に抑えられるようになり,化学療法は遠隔転移制御の役割がより重要となってきた。

●局所進行癌(Stage Ⅲ〜ⅣA)には同時併用法と追加化学療法併用が標準的である。

●再発転移癌への新しい薬物療法の開発が検討されている。

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POINT

●再発・転移例の治療目標は延命・緩和であり,薬物療法の適応ならびに薬剤選択を慎重に検討する。

●一次治療として,5-FU+プラチナ系薬剤の併用療法に対するセツキシマブの上乗せ効果がEXTREME試験で示されており,現在の標準治療となっている。

●プラチナ抵抗例に対して,ニボルマブの有効性と安全性がCheckMate 141試験で示され,新たな標準治療となった。

●プラチナ抵抗性とは,化学放射線療法や一次治療としてプラチナ系薬剤を使用してから6か月以内に再発・進行をきたした場合を指す。

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POINT

●根治切除不能な甲状腺癌に対して分子標的薬(TKI)であるソラフェニブ,レンバチニブ,バンデタニブが保険収載された。

●甲状腺分化癌でのTKIの適応は,放射性ヨウ素(radioactive iodine:RAI)内用療法不応(抵抗性)かつ進行性であることが前提である。術前後の補助療法としての適応はない。

●RAI治療不応の進行・再発甲状腺分化癌を対象としたTKIの国際第Ⅲ相試験では,プラセボに対して有意の無増悪生存期間の延長を認めた。

●TKIは血管新生阻害薬であるため,頸動脈や気管・食道浸潤症例では大出血や瘻孔形成をきたす場合があり,注意を要する。

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POINT

●標準的薬物療法はいまだに確立されていない。

●多彩な組織型を有するため,それぞれの臨床的特徴をよく理解し,薬物療法の適応を検討する。

●唾液腺導管癌・腺癌NOS・低分化癌などでは,白金製剤とタキサン系抗癌剤併用療法,アンドロゲン遮断療法,あるいは抗HER2療法の有用性が報告されている。

●腺様囊胞癌での薬物療法の開始は慎重に適応を検討する。

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POINT

●2014年以降,抗PD-1抗体のニボルマブ(オプジーボ®)が承認されて以降,悪性黒色腫に対する新薬が続々と認可され,パラダイムシフトが起こっている。

●BRAF遺伝子変異を知ることが重要で,BRAF遺伝子変異陰性例に対しては抗PD-1抗体が第一選択となるが,BRAF変異陽性症例に対しては,低分子性分子標的薬か免疫チェックポイント阻害薬のどちらも選択できる。

●今後,さらなる効果を期待して,免疫チェックポイント阻害薬との併用,分子標的薬との併用などさまざまな併用療法が治療の主流になると思われる。

●術後補助療法として,抗PD-1抗体あるいは低分子性分子標的治療薬の有効性が立て続けに報告され,今後術後補助療法においても大きな変革の時期がやってくる。

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POINT

●頭頸部領域では,CheckMate 141試験の結果を受け,2017年3月に転移・再発頭頸部扁平上皮癌に対する免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)の処方が保険適応となった。

●ニボルマブは,プラチナ製剤抵抗性の転移・再発頭頸部扁平上皮癌患者において全生存期間(OS)の延長効果を示した初めての薬剤である。

●免疫チェックポイント阻害薬は多彩な免疫関連有害事象を合併するため,診療科,職種の垣根を越えた協力が不可欠である。

●頭頸部領域における局所進行例や臓器温存希望例に対して,免疫療法と放射線療法の併用の臨床試験が進行中であり,結果が待たれる。

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はじめに

 耳鼻咽喉科診療において,頭頸部領域の疼痛は最も多い症状の1つである。その原因は頭頸部領域の炎症や悪性腫瘍などが多く,耳鼻咽喉科医にとって診断は容易であるが,なかには逆流性食道炎などの消化器疾患や,虚血性心疾患などの循環器疾患,さらには精神疾患などの他科疾患が原因となる場合があり1),日常診療の際に注意を要する。

 今回われわれは,頭頸部領域の疼痛を主訴とし,初診が耳鼻咽喉科となった虚血性心疾患3例を経験したので報告する。

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はじめに

 バセドウ病は,甲状腺のびまん性腫大を有する後天性自己免疫性甲状腺機能亢進症であり,小児期発症例では薬物治療が第一選択となる。しかしその寛解率は約30%と成人に比して低く,治療に難渋することも少なくない。今回われわれは抗甲状腺薬の副作用として血小板減少が疑われ,手術加療を行った1例を検討した。甲状腺機能のコントロールや出血のリスクなど多くの課題を認めたが,小児科,内科と共診のうえ,可能な限り予測されるリスクを回避して手術に臨むことができた。本邦において手術にまで至った小児バセドウ病の報告は少なく,検討すべき事案も多い。本症例を通して得られた課題をまとめ,文献的考察を含め報告する。

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はじめに

 多形腺腫は耳鼻咽喉科領域では大唾液腺,特に耳下腺に発生することが知られているが,鼻腔に発生することは稀である。鼻腔原発の多形腺腫は迷入した小唾液腺に由来するもので,再発率についても耳下腺発生に比べて低い。今回われわれは,鼻内内視鏡手術にて整容面を保ちながら根治切除できた鼻中隔原発多形腺腫を経験したので報告する。

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はじめに

 HIV(human immunodeficiency virus)感染症では,皮膚や性器に病変がなく,真菌・細菌・ウイルス感染症やカポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫などの新生物など,特徴的な口腔・咽頭の病変・症状で発症し,それが診断の契機となる例が少なくない。今回,われわれは口腔咽頭カンジダ症がHIV感染症の診断の契機となった症例を経験したので報告する。

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はじめに

 癌診療の現場では,細胞学的に癌が証明された頸部リンパ節転移を認めても原発巣を見出せず,原発不明頸癌と診断される症例がある。頭頸部外科領域において,頸部リンパ節腫脹を初発症状とする原発不明頸部リンパ節転移癌は全頭頸部癌の1〜5%を占めると報告されている1-3)。治療は,患側の頸部郭清術と口蓋扁桃摘出術を施行し,術後の病理組織診断結果に応じて化学放射線療法を追加する施設が多い。

 より適切かつ効果的な治療法を選択するためには,原発巣の確定に努めることが非常に重要である。しかし,残念ながら診断技術の進歩が目覚しい今日においても原発巣判明率を向上させることは容易ではなく,診断や治療に苦慮することが多い。

 今回われわれは全身麻酔下において彎曲型喉頭鏡による喉頭展開を行い,下咽頭梨状陥凹ならびに食道入口部に存在する粘膜病変(原発巣)を確認し,的確な根治治療を行い得たリンパ節転移癌の1例を経験したので報告する。

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はじめに

 輪状甲状間膜切開は緊急気道確保に重要な方法の1つである1,2)。当科では輪状甲状間膜切開の適応を,①上気道狭窄または閉塞,②換気困難または挿管困難,③進行する低酸素血症または徐脈,④より低侵襲な気道確保が不可能,⑤延命拒否の提示のない場合,としている。今回,上気道狭窄による気道緊急を呈した急性喉頭蓋炎,下咽頭進行癌,気道熱傷の3症例に対して輪状甲状間膜切開により緊急気道確保を行ったので,若干の文献的考察を加えて報告する。

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欧文目次

バックナンバーのご案内

あとがき 丹生 健一
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 紆余曲折を経て,2018年度より総合診療を含む19基盤診療科の専門医制度の日本専門医機構による運営が開始されることになりました。2017年10月から募集が開始され,研修医達の動向が心配されましたが,耳鼻咽喉科専門医養成プログラムには1次募集終了時点で,既に例年を大幅に上回る約250名の応募があったそうです。今後もこの傾向が続くとよいですね。

 さて,ここ数年の間に,抗EGFR抗体や分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬など,頭頸部癌・甲状腺癌に対して新たな作用機序による薬物療法が次々と登場してきました。従来の抗癌剤では効果がみられない再発・転移に対して,長期生存が期待できるようになった反面,これまでに経験しなかった副作用もみられます。そこで,本号の特集は「頭頸部癌に対する薬物療法-最新情報」と題して,導入化学療法,薬物同時併用放射線療法,術後化学放射線療法,上咽頭癌に対する化学療法,切除不能再発・転移頭頸部癌,甲状腺癌に対する分子標的薬,唾液腺癌に対する薬物療法,悪性黒色腫に対する薬物療法,免疫チェックポイント阻害薬について本邦における第一人者にご解説いただきました。原著論文も,耳鼻科領域の疼痛を主訴として受診した虚血性心疾患(渡邉論文),抗甲状腺薬による血小板減少が疑われたバセドウ病(中田論文),鼻中隔に発生した多形腺腫(亘論文),口腔内病変が診断の契機となったHIV感染症(澤田論文),彎曲型喉頭鏡により原発巣を同定し得た原発不明癌(大久保論文),輪状甲状間膜切開を要した上気道狭窄(加藤論文)など,安全・安心な医療を行っていくうえで非常に参考となる症例報告が揃いました。こちらも是非,ご一読ください。

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
90巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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