胃と腸 51巻8号 (2016年7月)

今月の主題 消化管疾患と皮膚病変

序説

消化管疾患と皮膚病変 清水 誠治
  • 文献概要を表示

 皮膚(外胚葉由来)と消化管(内胚葉由来)は,生体にとって外界に接しているという点で共通しているが,表面積は消化管が皮膚の100倍以上とされている.古くから皮膚は内臓の変化を映す鏡であると表現されてきた.“デルマドローム(dermadrome)”という言葉は米国のKurt Wienerの造語である1).文字通りには“皮膚徴候”であるが,全身疾患と関連して現れる皮膚病変を意味し,皮膚病変を手がかりとして全身性疾患や内臓に潜在する病変を診断することを意図したものである.Wienerは“dermadrome”をさらに“specific dermadrome”と“non-specific dermadrome”に分類した.前者は他臓器の病変を直接反映する皮膚病変であり,癌の皮膚転移,白血病の皮膚浸潤,皮膚結核が含まれる.後者は間接的に反映する反応性皮膚病変であり,瘙痒,発汗,紅斑,色素沈着,多毛,アレルギー性炎症,角化などである.この概念は網羅性をもたせようとしたためにかえって意味が薄れてしまったようで,欧米では死語となって久しい.しかし,語感が日本人好みであったためか,本邦でデルマドロームという言葉が主に内臓疾患の存在を疑う皮膚徴候を意味する言葉としてなお生き残っている.三橋2)はデルマドロームを直接デルマドロームと間接デルマドロームに分類し,前者は内臓病変が皮膚に直接波及して生じる病変(癌の転移など),後者は直接の因果関係がみられないもの(腫瘍随伴症候群など)と定義している.

 実際,消化管と皮膚の両方に病変がみられる場合にはさまざまな状況が考えられる.消化管病変と皮膚病変の併存に関しては既に井上3)が分類を試みており,①消化器と皮膚を選択的に侵す群,②系統的疾患の部分症として消化器と皮膚を侵す群,③皮膚病変が原因で二次的に消化管病変を生ずる群,④消化管病変が原因で二次的に皮膚病変を生ずる群の4群に分けている.しかし,これらに該当しない状況が存在するため場合分けについて再考してみた.

  • 文献概要を表示

要旨●デルマドロームという言葉は一般的に用いられているが,本邦でしか使われていない.“内臓病変の存在を示す皮膚の症候である”として理解および説明するときには便利な用語である.皮膚と内臓病変との関連性を理解しておけば,背景にある内臓病変の存在を疑うことができるという大きな利点がある.また,皮膚病変と内臓病変の関連性において,多くはどのような悪性腫瘍の頻度が高いかが知られているので,網羅的に全身検索を行うというより,優先的に進めるべき検査が上がってくる.したがって,両者の関連性を理解することが実地診療上有益となる.

  • 文献概要を表示

要旨●皮膚病変を呈する代表的な消化管ポリポーシスについて概説した.消化管ポリポーシスのうち,家族性大腸腺腫症(FAP),Peutz-Jeghers症候群(PJS),Cowden症候群(CS),Cronkhite-Canada症候群(CCS),若年性ポリポーシス/遺伝性出血性末梢血管拡張症複合症候群(JPs-HHT)には特徴的な皮膚病変が出現する.FAPでは類表皮囊胞や脂肪腫,PJSでは四肢末端と口唇・口腔内粘膜の色素斑,CSでは顔面丘疹,口腔内乳頭腫と四肢末端の角化性皮疹,CCSでは脱毛,爪甲異常や皮膚の色素沈着,JPs-HHTでは皮膚粘膜の毛細血管拡張が代表的な皮膚病変である.消化管ポリポーシスでは消化管外徴候を伴う疾患が多く,皮膚・粘膜病変の診察所見が診断契機となる場合もあるため,これらの所見を熟知しておくことが重要である.

  • 文献概要を表示

要旨●潰瘍性大腸炎とCrohn病に代表される炎症性腸疾患(IBD)はさまざまな腸管外合併症を伴うことが多く,なかでも壊疽性膿皮症や結節性紅斑などの特徴的な皮膚病変を伴う.またBehçet病でも診断において重要な皮膚病変を伴う.これらの皮膚病変からIBDやBehçet病の診断に至ることもある一方,消化器病変の病勢に並行しない皮膚病変もあり,皮膚症状の把握については,消化器科診療において注意深い観察が必要である.皮膚病変の治療にあたりステロイド内服などの全身療法が必要になる場合もあるので,皮膚科医との連携が重要である.

  • 文献概要を表示

要旨●膠原病と血管炎の消化管病変と皮膚病変を抄出した.これら希少難治性疾患は多彩な消化管病変を呈するが,非特異的な所見にとどまることが多い.一方,皮膚病変は,出現頻度が高く,病変確認が容易なうえ,生検による血管炎の診断感度が高い.膠原病とIgA血管炎の診断とANCA関連血管炎などの病態評価には,消化管病変の評価に加えて,各疾患に特徴的な皮膚病変の確認と皮膚生検施行が重要である.

  • 文献概要を表示

要旨●特定の内臓疾患に発現する特有の皮膚症状をデルマドロームと呼び,内臓悪性腫瘍などの疾患発見に寄与することがある.消化管と皮膚は連続しており,いずれも外界と接するため,他臓器と比較して多くのデルマドロームが認められる.消化管病変によるデルマドロームは臓器相関の観点から,①消化管と皮膚を選択的に侵す群,②系統的疾患の部分症として消化管と皮膚を侵す群,③皮膚病変が原因で二次的に消化管病変を生ずる群,④消化管病変が原因で二次的に皮膚病変を生ずる群に整理することができる.消化管疾患とそれに伴う皮膚疾患の病理を知ることで,原疾患の病態把握と適切な対応に有用であると考えられる.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は70歳代後半,男性.臍部腫瘤の精査にて皮膚科を紹介され受診した.臍部に大きさ約20mm,暗赤色,弾性硬の結節状腫瘤を認めた.臍部皮膚生検を施行し,粘液産生を伴う高分化腺癌組織を認めた.サイトケラチンおよび粘液形質の免疫組織化学的検索に基づき,消化器癌の臍部転移を考え,腹部造影CTと上部消化管内視鏡を施行したところ,胃体上部大彎に1型進行胃癌を認めた.胃生検では臍部腫瘍と同様の高分化腺癌を認め,免疫組織化学染色の特徴も類似していたことより,進行胃癌の臍部転移(Sister Mary Joseph's Nodule)と最終診断した.約2年の比較的長期にわたり全身化学療法を継続し,診断から約25か月後に原病死した.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は50歳代後半,男性.20歳代後半時に,von Recklinghausen病と診断された.検診の腹部エコー検査で小腸に異常を指摘されたため,当科へ紹介,受診となった.腹部造影CT検査で,空腸に造影効果のある径30mmの腫瘤を指摘された.小腸内視鏡検査で,上部空腸に多発性粘膜下腫瘤様隆起を認めた.腹腔鏡下空腸部分切除術を施行した.病理組織学的には,束状に増殖する紡錘形細胞から構成される腫瘍で,これらの細胞は,KITおよびCD34を発現し,核分裂像は強拡大50視野あたり5未満であった.低リスク群のGISTと診断した.以後,経過観察し,現在まで6年間,無再発である.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.多発性骨髄腫に対し同種末梢血幹細胞移植が行われた.移植後90日ころより四肢,口腔に扁平苔癬様変化が生じ,皮膚・口腔慢性GVHDと診断した.同時期に嚥下時違和感も出現し,食道に発赤と粘膜上皮剝離を認めた.CyA,PSLを継続していたが,移植後7年目に食道入口部狭窄を認め,食道慢性GVHDと診断した.嚥下困難感のため定期的な内視鏡的バルーン拡張術が必要とされたが,食道潰瘍の改善をはかり免疫抑制治療を強化したところ,潰瘍は瘢痕化し嚥下困難感も軽快した.本例では6年にわたり計40回のバルーン拡張術が行われた.食道慢性GVHDはQOLを著しく低下させる可能性があり,定期的な内視鏡検査と早期の対応が望まれる.

  • 文献概要を表示

要旨●当院で2009年1月〜2015年10月までの間に抗TNF-α抗体製剤で治療した炎症性腸疾患患者1,189例(Crohn病853例,潰瘍性大腸炎336例)を対象として皮膚有害事象の発生について検討した.明らかな皮膚病変は49例(4.1%)で確認され,瘙痒症など皮膚症状のみの症例も加えた有害事象の頻度は17.0%と比較的高率であった.皮膚病変では,湿疹・発疹が最も多く,紅斑・膿皮症・皮脂欠乏性皮膚炎・帯状疱疹などがこれに次ぎ,逆説的副反応と呼ばれる乾癬様皮疹の出現(掌蹠膿疱症含め)は6例(0.5%)と海外に比べて低率であった.皮膚病変の出現による抗体製剤治療の中止率は1.4%で,皮膚病変出現例の約50%は軟膏などの局所療法の併用で抗体製剤治療を継続しえていた.

  • 文献概要を表示

要旨●[症例1]患者は20歳代,男性.1歳時より難治性鉄欠乏性貧血,低蛋白血症を認めていた.X線造影検査で中部小腸に非対称性の変形・狭窄が多発しており,小腸内視鏡検査で狭小化を伴う浅い開放性潰瘍が確認された.SLCO2A1遺伝子変異を有しており,非特異性多発性小腸潰瘍症と診断した.[症例2]患者は60歳代,男性.15歳頃から貧血を指摘され,小腸切除術を施行されている.X線造影検査および内視鏡検査で中部小腸に短い狭小化と全周性の帯状の開放性潰瘍を認め,SLCO2A1遺伝子変異が確認された.2症例とも皮膚病変として,ばち指と前額部の皮膚肥厚所見を有しており,肥厚性皮膚骨膜症の徴候を伴った非特異性多発性小腸潰瘍症と診断した.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は80歳代,男性.吐血を主訴に救急搬送.上部消化管内視鏡検査で前庭部大彎に周堤様の隆起を伴う平皿状の類円形潰瘍性病変を認めた.第4病日の再検では潰瘍底に深い溝状陥凹を認めた.生検でGroup 5(por2〜tub2)の診断となった.第15病日に右膝窩動脈の急性動脈閉塞症を認め治療を行った.第38病日の内視鏡検査では隆起性病変に変化していた.第58病日に幽門側胃切除術を施行.病理診断はType 5,リンパ球浸潤癌,pT1b2,ly1,v0,pN0であった.リンパ球浸潤癌が線維化に乏しく軟らかい腫瘍であったため,外力により病変が内腔側に折れ曲がり隆起型へ変化したものと思われた.

消化管組織病理入門講座・18

【大腸】鋸歯状病変 八尾 隆史
  • 文献概要を表示

はじめに

 大腸鋸歯状病変は,現在の過形成性ポリープ(hyperplastic polyp ; HP)を1962年Morson1)によりmetaplastic polypという用語で紹介されたのが最初で,鋸歯状構造を示す非腫瘍性の数mm大の直腸に好発する病変で,癌化の危険性はないとされていた1)〜3).そして,1990年にLongacreとFenoglio-Preiser4)により鋸歯状構造を示すが,腫瘍性病変である鋸歯状腺腫(serrated adenoma ; SA)という概念が提唱された.SAは左側大腸に好発し,癌化の危険性は管状腺腫と同等と考えられていた4)5).さらに,1996年にTorlakovicとSnover6)は,鋸歯状ポリープのうちHPやSAとは区別すべき腫瘍性のものがあると主張し,SSA(sessile serrated adenoma)という用語を用いた.その後,SSAは組織像からは腫瘍性とは判定できないことからSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)*1という名称が一般的となっている7).SSA/Pは高率にBRAF変異を有しマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability ; MSI)*2を示す大腸癌の前駆病変として注目されている.なお,英国ではSSL(sessile serrated lesion)という名称を用いている8)

 現在のWHO分類において大腸鋸歯状病変*3は,HP,TSA(traditional SA),SSA/Pに分類され,さらにSSA/Pに粘膜内癌を含む明らかな腫瘍を併存するものはSSA/P with cytological dysplasiaという用語で表現される7).本邦の「大腸癌取扱い規約 第8版」9)もWHO分類に準じた分類を採用している.

 また,Jassら10)は形態および粘液組織化学的に鋸歯状腺腫と類似性のある癌に対して“serrated carcinoma”という言葉を初めて用いたが,Mäkinen11)のグループが鋸歯状構造を認める癌を“serrated adenocarcinoma”という概念で包括し,MSIが高率に認められ,分子生物学的因子(EphB2,PTCH,HIF1α)が通常の大腸癌と異なることより,大腸癌の一亜型として分類する意義があると報告している.WHO分類では大腸癌の組織亜型としてserrated adenocarcinoma(鋸歯状腺癌)という名称で記載されている12)

 本稿では,鋸歯状腺癌も含めたこれら大腸鋸歯状病変の病理組織学的特徴とそれらの鑑別のポイントについて解説する.

私の一冊

  • 文献概要を表示

 これまで本誌への執筆および編集に長年かかわり,多くの新知見を発信することができたと思う.また,筆者が直接かかわっていない号からも多くのことを学ばせていただいた.それらの中から“私の一冊”を挙げろと言われても無理であり,これまでこの欄の執筆を避けていた.しかし,遂にこれぞ“私の一冊”が現れた,それは「胃底腺型胃癌」である.

 胃底腺型胃癌は,2005年ころから遭遇するようになり,その後10症例の蓄積により,新しい疾患概念として成立することを確信したため,2010年に順天堂大学消化器内科から大学院生として筆者の下にやってきた上山浩也が論文としてまとめ,新しい組織型として世に発表することができた(Am J Surg Pathol 34:609-619, 2010).

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 2015年9月の早期胃癌研究会は2015年9月16日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は八木一芳(新潟県立吉田病院内科),清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科),病理は九嶋〔滋賀医科大学医学部臨床検査医学講座(附属病院病理診断科)〕が担当した.また,セッションの間に,第21回白壁賞,および第40回村上記念「胃と腸」賞の授与式が執り行われた.

--------------------

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 松本 主之
  • 文献概要を表示

 本号は,皮膚病変を伴う消化管疾患の特集として企画された.皮膚疾患と消化管疾患は表皮や粘膜に“面”を形成すること,常に抗原に曝露され局所の免疫反応が病態に深く関与すること,臨床的に両者を熟知することが日常診療において極めて有用であることなどに着目した特集号である.

 皮膚病変を伴う消化管疾患は,悪性腫瘍,遺伝性疾患,炎症性疾患,膠原病・血管炎症候群に大別される.これらのうち,成澤論文では遺伝性疾患と腫瘍随伴症候群(paraneoplastic syndrome ; PS)について詳細に解説されている.特徴的な皮膚病変が示されているが,特にPSに分類される皮膚病変は消化器専門医にとってぜひ知っておくべき知見と考えられる.同論文でも詳細に解説されている消化管ポリポーシスに関しては,平野論文において消化管病変と対比しながら提示されている.いずれの皮膚病変も一度みたら忘れられない所見であるので,これらの論文をぜひ熟読いただきたい.

基本情報

05362180.51.8.jpg
胃と腸
51巻8号 (2016年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月9日~9月15日
)