胃と腸 51巻7号 (2016年6月)

今月の主題 新しい小腸・大腸画像診断─現状と将来展望

序説

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はじめに

 小腸・大腸は腹腔内に存在し,5m以上に及ぶ長い管腔臓器であり,腸間膜に固定されながら複雑な腸索を形成している.本邦では,胃の画像検査法として,二重造影を中心としたX線検査法と内視鏡検査法が開発され,その後腸疾患にも用いられるようになった.なかでも,注腸X線造影検査法と大腸内視鏡検査法は大腸疾患の診断と治療に大きく貢献したことは周知の事実である.

 1980年代〜1990年代にかけて,大腸拡大内視鏡機器の開発・改良が進み,拡大観察が広く普及した.この流れは,その後の上部消化管病変の診断にも多大なる影響を与えている.一方,頭蓋内と実質臓器の画像診断法として開発されたCTやMRIは,1990年代以降,画像解像度が顕著に向上したこと,および非侵襲的検査法であることから消化管の画像診断法として積極的に用いられるようになった.

 さらに,21世紀に入ってコンセプトの異なった2つの内視鏡検査法,すなわちカプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)とバルーン内視鏡が普及し,小腸を含む全消化管の内視鏡観察が可能となった.そこで,本稿では小腸内視鏡検査,CTC(CT colonography),CTE(CT enterography),およびMRE(MR enterography)の現状と将来の展望について述べる.

主題

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要旨●カプセル内視鏡は従来の内視鏡が到達困難であった深部小腸を観察する目的で開発された.ほぼ同時期に登場したバルーン内視鏡とともに,今や小腸検査の主流となった.近年,Crohn病やアスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)起因性小腸傷害が増加傾向であり,それら小腸病変に対する内視鏡検査の需要が高まっている.しかし,カプセル内視鏡の見落としや読影負担の課題も残る.今後は磁気誘導型のカプセル内視鏡の開発や読影支援体制の充実などが期待される.

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要旨●大腸カプセル内視鏡は2009年より第二世代に移行し,本邦では2014年1月に保険収載された.この第二世代の大腸内視鏡カプセルは視野角172°のカメラをカプセル両端に有し,撮影枚数を自動に調節するAFRや病変サイズが計測可能なPSEが搭載されており,径6mm以上の大腸ポリープの感度は84〜91%,特異度64〜94%と報告されている.大腸カプセル内視鏡は,全大腸観察が困難な症例や,羞恥心などの心理的負担により大腸がん検診で便潜血陽性だが大腸内視鏡検査を躊躇している患者に対するオプションとしての可能性を秘めており,将来的には大腸がん検診の受診率向上への寄与が期待される.ただし,現時点では高コスト,前処置,適応,読影などの課題が山積しており,さらなる機器の改良や工夫が必要である.

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要旨●大腸CT検査は大腸腫瘍性病変の検出に優れ,その有用性は,①腸管前処置の軽減,②短い検査時間,③鎮静剤・鎮痙剤が不要,④検査手技の容易さ,⑤苦痛が少ない,⑥偶発症がまれ,⑦少ない人員で検査の実施が可能ということである.一方,①表面型病変の検出精度,②治療はできない,③医療被曝,④読影医の未整備といった課題がある.将来展望として,大腸CT検査は任意型検診や精密検査で大腸内視鏡検査の実施が困難な場合に,大腸内視鏡検査を補完する第一選択となるだろう.しかし,大腸CT検査を活用するためには,精度検証に裏打ちされた適切な検査手技や読影方法に基づいた実施などの標準化が必須である.

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要旨●年々増加傾向にあるIBD患者の診療では,客観的かつ詳細な病態評価により最適な治療法を選択することが求められている.Crohn病では,腸管および腸管外の病変をより詳細に評価できるCT enterographyが小腸病変だけではなく,大腸病変の描出にも有効である.CT colonographyは潰瘍性大腸炎において,仮想注腸像(AI)における腸管の伸展性低下,ハウストラの消失,MPR像における腸管壁肥厚,造影効果,腸間膜血管の拡張,脂肪織濃度の上昇などを検討することで内視鏡と同様に炎症状態を評価できる.今後,前処置の簡便化やX線被曝の低減化が課題であるが,低線量CTなどの導入により解決できる可能性がある.

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要旨●小腸疾患は臨床症状と病状が必ずしも相関しないため,画像診断が重要であり,被曝のないMRIは診断や病状評価,経過観察にも有用である.小腸管腔内を液体で拡張させて撮像するものは,MRE(MR enterography)と呼ばれる.MRC(MR colonography)では,大腸洗浄液を内服に加え微温水の注腸を併用する.また,小腸と大腸の両者を対象とするMR entero-colonographyも報告された.撮像は,T2強調画像,T1強調画像を基本にする.さらに,連続撮影によるcine表示による動的評価も可能である.主な適応としてCrohn病があり,欧州ではMREが評価法として推奨されており,MaRIAやCDASといったスコアリングが提案されている.その他,潰瘍性大腸炎や腫瘍性疾患にも応用されており,今後重要な検査方法となると考えられる.

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要旨●現時点では大腸癌診断におけるFDG-PETの役割は病期診断(特に遠隔転移診断)と再発診断である.2010年から“早期胃癌を除く”すべての悪性腫瘍にFDG-PETが保険適用となったため,小腸癌やGISTなどの非上皮性腫瘍にも実施できるようになった.FDG-PETを用いたがん検診において,大腸癌は最も多く発見される癌である.感度は便潜血検査よりも優れており,スクリーニング検査として意義がある.現在の分子標的薬剤は治療効果が遺伝子変異に相関し,PETはそのイメージングバイオマーカーとして有望である.治療効果判定や予後予測を目的とした場合,FDG-PETは保険適用外であるが,今後エビデンスが得られればPETの用途がさらに広がるものと思われる.

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要旨●小腸・大腸疾患における体外式超音波は壁の層構造,血流,硬さなどを評価することのできるユニークな診断法であり,多くの疾患の診断が可能であることを症例提示を中心に概説した.進行癌の典型的超音波像は層構造の消失した限局性壁肥厚である.一方,急性炎症は粘膜下層を中心とする比較的範囲の広い壁肥厚として描出される.IBDにおいては,肥厚の程度や血流の評価によりその活動性を推測することができる.絞扼性腸閉塞やNOMIの診断に造影超音波は非常に有用であり,その診断能も高い.体外式超音波は単に非侵襲的で簡便なだけでなく,その高い空間分解能やリアルタイム性,微細血流の表示など,スクリーニングから精査まで幅広く応用できる診断法である.

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要旨●カプセル内視鏡(CE)が実用化され15年が経過した.この間,小腸CEは小腸疾患診断において確固たる地位を確立し,大腸CEは2014年に本邦でも保険適用となり,欧州では食道CEも実臨床で使用可能となった.さらに,胃CEも有管式内視鏡検査との比較試験が行われている段階であり,消化管の各臓器をターゲットとしたCEが出そろうのも間近と思われる.一方,嚥下したCEは最終的に肛門から排出されるため,1回のCE検査で全消化管が観察できれば理想的である.しかし,部位により解剖学的構造や主たる疾病が異なるため,全消化管にわたる良好な観察能と検査の円滑な進行を担保するには克服すべき課題が山積されている.

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要旨●NBIやBLIといった異なる波長を用いた内視鏡が開発され,光デジタル法(IEE)として注目されている.従来の色素内視鏡と異なり,ボタン操作ひとつで使用できることから,日本のみならず,海外においても急速に普及しつつある.NBIは専用フィルターにより狭帯域の波長を抽出し,腫瘍表面の微細血管構造の視認性を高めた内視鏡システムである.BLIは,NBIフィルターの代わりに,2種類の波長のレーザー光を照射することで,NBI同様,腫瘍表面の微細血管構造の視認性を高めた内視鏡システムである.大腸におけるNBIなどのIEEの臨床的有用性は,①質的診断,②腫瘍の発見,③深達度診断の3点に集約される.これらの3点について,文献的考察,内視鏡画像を交えながら,解説する.

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要旨●消化管診断学の分野では,内視鏡機器の開発や発達に伴い,腺口形態(pit pattern)や微細血管の観察が可能になった.内視鏡像の解像度はさらに向上し,腫瘍・非腫瘍の鑑別診断や癌の深達度診断の精度が一層高くなり,診断学や治療技術は飛躍的に向上した.一方,超拡大内視鏡(EC)や共焦点内視鏡(CLE)は生検せずにreal timeで病理診断を行うという発想をもとに誕生した次世代の内視鏡である.ECやCLEは標的粘膜にスコープ先端を接触させることで,生きた細胞の生体内診断が顕微鏡レベルまで可能である.今後も検討を重ねることで,生物の本質に迫った診断を行うことが期待される.

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要旨●大腸腺腫に対する内視鏡的摘除は,大腸癌の発生率およびその死亡率低下につながることから,広く行われている.一方で,腺腫発見率(ADR)は,検者の能力や内視鏡機器に差があることが報告されており,内視鏡検査の質の指標とされている.その向上のために,大腸の解剖学的理由から広い視野角を得ることを目的とした内視鏡の開発が進んでいる.従来の前方視レンズに加え,側後方の視野が得られるパノラマレンズを内視鏡先端に搭載した広角内視鏡(extra-wide-angle-view colonoscope)がOlympus社にて開発されている.2つのレンズから得られた画像がひとつのモニターに表示されることが特徴であり,大腸のひだ裏などのいわゆる“死角”の観察が容易となることからADR向上の期待がかかる.

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要旨●患者は30歳代,女性.人間ドックの上部消化管内視鏡検査にて前庭部異常を指摘され当院を受診,内視鏡的に前庭部に隆起性病変を認め,生検組織診でGroup 4と診断された.精密胃X線造影・内視鏡所見では背景粘膜に萎縮・胃炎の像はみられず,生検組織診ではUSS(The Updated Sydney system)に準じた組織学的胃炎の所見を認めず,また血清H. pylori抗体,尿素呼気試験も陰性だった.早期胃癌0-IIa+IIc型の診断でESDを施行し,病理組織学的には,腸型優位の形質を発現する高分化管状腺癌(粘膜内癌)の所見であった.H. pylori未感染胃粘膜の幽門腺領域に腸型形質の分化型胃癌が発生することは極めてまれと思われ,文献的考察を加えて報告した.

消化管組織病理入門講座・17

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はじめに

 腸の虚血性疾患はさまざまな原因で発生するが,急性期においては共通の特徴的な病理組織像を示すため,生検組織のみでも確定診断が可能である.ただし,慢性期には特発性腸間膜静脈硬化症*1以外は特徴的な病理組織像は示さないため,その診断においては特徴的な肉眼像と他疾患の除外が必要である.特発性腸間膜静脈硬化症は特殊な虚血性腸疾患であり,その他の虚血性腸疾患とは臨床病理学的特徴が全く異なるが,特徴的な病理組織像を示すので,知っていれば生検組織のみでも確定診断が可能である.

 薬剤による粘膜傷害にはさまざまなものがあり,薬剤による影響と病理組織像の関連は不明なものも多いが,ある特定の薬剤により特徴的な病理組織像を示すことがあり,鑑別診断に生検組織診断が有用な場合がある.

 腸の炎症疾患は病期や病勢により幅広い病理組織像を示し,虚血性腸炎と薬剤性腸炎においても同様であり,それらの特徴的あるいは特異的な病理組織像を把握しておくことが確定診断に有用である.本稿ではそれらの特徴的あるいは特異的な病理組織像を中心に解説する.

 なお,虚血性変化の原因としては抗生物質起因性出血性大腸炎など薬剤性のものもあり,特殊な虚血性腸疾患である特発性腸間膜静脈硬化症の少なくとも一部は薬剤との関連があることも示唆されている.虚血性腸炎と薬剤性腸炎の原因を含めた鑑別診断の際は,これらは一部オーバーラップしていることも念頭に置いておく必要がある.

早期胃癌研究会

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 2015年11月の早期胃癌研究会は2015年11月18日(水)に笹川記念会館で開催された.司会は上堂文也(大阪府立成人病センター消化管内科)と大川清孝(大阪市立十三市民病院消化器内科),病理は伴 慎一(埼玉医科大学)が担当した.

 画像診断教育レクチャーは,西上隆之(製鉄記念広畑病院病理診断科)が「臨床医が知っておくべき病理 第2弾 潰瘍性大腸炎と癌─典型的な組織像(活動期,寛解期,dysplasiaと癌)」と題して行った.

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欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小林 広幸
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 近年のカプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)をはじめとした新たな小腸・大腸画像診断技術の進歩はめざましいが,一般的な画像診断であるX線造影検査や大腸内視鏡検査と異なり,高額な機器や設備が必要な検査もあり,すべてのモダリティを備えている施設は極めて少ないのが現状であろう.その一方,これらの先進画像診断では適応疾患が限定されているため,保険診療であってもCEやPET(positron emission tomography)-CTでは患者負担も高額となる.それゆえこれらのモダリティを使いこなすには,その適応疾患や診断における利点や欠点(問題点)などを熟知しておくことが必要であるが,はたして読者諸氏はすべてのモダリティに精通されているであろうか.このような背景も含め,本号では先進画像診断のエキスパートに自験例の成績も交えながら各モダリティの現状(診断特性や適応疾患,利点,欠点,限界など)と問題点克服に向けた取り組み(将来展望)を解説いただくとともに,将来臨床応用が期待される次世代画像診断についても紹介した.

 まず,主題論文の前半で,本邦では2007年から保険収載されたCEを取り上げた.CEは非侵襲的かつ簡便な検査法であり,最も早くから実用化された小腸CEの画質や解析ソフトの向上はめざましい.パテンシーカプセルの登場により,すべての小腸疾患が保険適用となったことやバルーン小腸内視鏡が検査に時間を要し侵襲的であることから,今や小腸疾患が疑われる際には第一選択といっても過言ではない.ただし,国産メーカーではいまだ保険適用疾患が限定されていること,通過速度の速い十二指腸・上部空腸病変や粘膜異常のない憩室・粘膜下腫瘍の見落としなどがピットフォールとして指摘されている.一方,一昨年より保険収載された大腸CEは,高コスト,前処置,適応,読影などの課題が多く,低コスト・短時間で挿入観察可能な従来の大腸内視鏡検査を超えるスクリーニング検査となるには程遠いのが現状であり,今後も超えるべきハードルは高い.なお,欧州では既に食道CEが実用化されており,本邦でも日本人に多い胃癌診断のスクリーニングとして管腔の広い胃内での磁気誘導操作による胃CEの開発も進められている.また,別項のトピックスで取り上げたが,一度の検査ですべての消化管を観察する長時間撮影可能なリチウムイオンバッテリー搭載の全消化管CEの開発も進められている.

基本情報

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胃と腸
51巻7号 (2016年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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