胃と腸 51巻9号 (2016年8月)

今月の主題 消化管画像プレゼンテーションの基本と実際

序説

消化管病変診断の基本手順 斉藤 裕輔
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はじめに

 消化管画像診断の基本手順として,病変の発見,画像撮影と診断,病変摘除後の病理との対比,画像の振り返りという,早期胃癌研究会で行われている手順で進めることが重要であり,この形式に沿うことで本邦独自の消化管診断学は発展してきた.一般に学会や研究会で提示される症例は,まれな症例,診断に苦慮した,または臨床・病理学的に問題のある症例,の3つに分類される.これらの症例提示の際に最も重要な点は,提示症例の問題点を明らかにすること,かつその問題点を討論するに十分な画像資料を提示することである.症例提示の仕方ひとつで,聴衆に深く記憶されるようなすばらしい症例となったり,症例自体はすばらしいものの,プレゼンテーション方法が不十分なため十分な議論を尽くせない結果,症例の価値がわかりにくく,記憶に残らない症例となったりもする.本号では,近年のさまざまなモダリティの登場も考慮した消化管症例プレゼンテーションの基本手順について特集することとした.以下,筆者が考える提示症例の準備および提示症例作成法の概略について述べる.

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要旨●消化管における画像診断のエンドポイントは病変の病理組織構築像を推定していかに質的診断,深達度診断に迫れるかである.そのためには得られた画像所見と病理組織像を一対一で対比し,比較検討することが重要である.画像診断プレゼンテーションに必要な基本的な検査手順,画像提示のポイント,切除標本の病理学的所見と画像所見の比較,検討方法について実際の症例提示とともに概説した.

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要旨●消化管画像診断プレゼンテーションの基本手順を早期胃癌症例の内視鏡的切除例と外科切除例を用いて提示し,それぞれについて提示する項目となぜそのような項目や手順が必要かについて筆者の考えを述べた.まずは,一定の観察条件できれいなX線造影・内視鏡画像を撮影することが必要であることは言うまでもない.重要なポイントは,漫然と画像を撮影するのではなく,何を読影すべきかという明確な知識と意思を持って撮影を行うことである.そして必ず術後,詳細に画像所見と病理所見とを対比できるようにオリエンテーションやランドマークを撮影した画像に残すことである.本稿が,画像診断の研究会のプレゼンテーションを作成する先生方や「胃と腸」の症例報告を記載する先生方の参考になれば幸いである.

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要旨●大腸における腫瘍性病変の画像診断プレゼンテーションの基本について,大腸癌2症例を用いながら解説した.①注腸X線造影および通常内視鏡検査では空気の出し入れによる病変の変形や過伸展像による伸展不良所見の有無を,②拡大内視鏡検査では表面の微細構造・構築像を提示し,臨床診断を行っていただく.その後に病理学的な組織構築を切除標本肉眼像上に施したマッピングと顕微鏡写真で説明し,最後に臨床画像とマッピング入りの切除標本画像の一対一の対応をさせた合成画像を供覧する.この作業の繰り返しは,この作業に携わる医師にとって先人たちの築きあげた診断学を確認するにとどまらず,新しい診断学の創造にもつながっていくと思われる.

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要旨●小腸・大腸における炎症性疾患の画像プレゼンテーションについて,実例を提示しながら私見を述べた.腸管の炎症性疾患は外科的・内視鏡的切除に至ることは比較的少ない.したがって,臨床情報や画像所見の推移を参考としながら,生検病理所見を加味して診断を組み立てる作業が重要である.なかでも,肉眼所見の代替として充盈法,圧迫法および二重造影像を駆使した消化管X線造影検査で病変の分布や偏在性,腸間膜との関係,随伴病変を明示することが重要と思われる.一方,内視鏡検査では色素内視鏡検査の併用によるX線造影所見との対比と,微細な局所所見を要領よく提示すべきと考える.

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要旨●消化管疾患の診療に携わる臨床家と病理医にとって,切除標本の取り扱いとマクロ写真撮影の基本的な手順や作法(例えば,切除標本の開き方,張り付け方,正しい置き方,写真撮影に適したスタンド,背景板,照明,構図,スケールと目盛りなど)を理解しておくことは重要である.これらの質の向上をめざして,われわれにできることはたくさんある.ところが,なかなか思い通りに進まないこともある.それゆえに,常に基本に立ち返り,また,細心の注意を払って作業に臨む必要がある.現場に身を置き,手を動かし,根気強く経験を積むことが最も肝要である.

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要旨●組織学的マクロ再構築図(以下,再構築図)の基本的な作成手順と作成実例を解説した.再構築図は画像診断と病理組織所見を対比する際の,両者の仲介役として重要な役割を担っている.消化管疾患の再構築図が最も頻繁に利用されるのは,早期癌あるいは表在癌における癌の進展範囲,深達度に対してであるが,①Barrett食道の組織学的粘膜構築,②萎縮性胃炎の分布や萎縮腺境界の構築,③炎症性腸疾患の潰瘍の構築,などの非腫瘍性疾患に対しても応用可能である.再構築図作成は決して難しいものではなく,医学部の講義程度の病理学的知識で十分に作成可能であるので,病理医だけではなく,その疾患の画像診断や画像プレゼンテーションに携わる臨床家自らが作成されることを推奨する.

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要旨●画像所見と病理所見を正確に対比するコツの第一歩は,魂のある画像を撮影することである.食道表在癌では深達度がリンパ節転移と強く相関するため,深達度診断の根拠となるきれいな画像を記録しなければならない.切除後は標本を適切に伸展させ,関心領域を中心に割を入れ,割入りの固定標本を撮影後,病理医に提出する.次に病理診断,割入り固定標本上のマッピングをもとに内視鏡像との対比を行う.対比の際には,ヨード不染帯辺縁形状や扁平上皮島とともに,関心領域における2点マーキング法が有用である.最後に自らの診断にフィードバックできた時点で,正確な対比は完了する.

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要旨●内視鏡画像所見と病理所見を正確に対比し,術前診断の妥当性を検証することは,内視鏡診断の精度を上げるために必須である.さらに,NBI併用拡大内視鏡をはじめとする内視鏡機器の進歩は著しく,より詳細な内視鏡診断が可能となってきた.特に,拡大内視鏡所見との対比のためにはきめ細やかさが必要となり,まず詳細な内視鏡観察にて関心領域を決定し,その近傍に目印をつけて内視鏡像を撮影し,関心領域に割が入るように切除標本の切り出しを行うとよい.

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要旨●消化管における内視鏡診断の最終的な到達点は病理組織診断と一致することにある.内視鏡所見と病理組織像を対応させるには,①通常観察による病変全体の形態的特徴や拡大観察による表面微細構造,微細血管像の特徴を捉える.②一括切除あるいはそれに準じた形で切除を行う.③得られた標本を展翅し,ホルマリン固定を行う.④画像的特徴が反映されるように臨床医自ら,もしくは病理医へ内視鏡所見のスケッチなどを明示して標本を切り出し,プレパラートを作製する.ただし作製過程で削り落される部分のことも考慮して切り出す必要がある.地道な標本処理が診断学向上につながると考える.

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患者

 60歳代,女性.

主訴

 食欲不振.

家族歴

 特記事項なし.

既往歴

 特記事項なし.

現病歴

 2013年12月上旬より心窩部不快感と食欲不振が出現し,2014年1月に近医にて上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)を施行されたところ,胃穹窿部に潰瘍性病変を指摘され,同年2月に精査加療目的で当科に紹介され受診となった.

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要旨●患者は60歳代,男性.前医のスクリーニング上部内視鏡検査で胃体上部後壁に隆起性病変を指摘されたため,当科へ紹介され受診となった.病変は当院で4年前に胃過形成性ポリープと診断したものと同一病変であったが,増大傾向がみられたために生検を施行したところ,印環細胞癌を認めた.診断的治療目的に内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行し,切除標本を病理学的に検討した結果,最終的に印環細胞癌を伴った0-I型低異型度分化型胃癌と診断した.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 江頭 由太郎
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 “症例が先生”,“症例に学べ”と言われるように,消化管画像診断学の日々の研鑽の基本は“症例検討”にある.また,丁寧で詳細な“症例検討”の繰り返しと積み重ねが,本邦の消化管画像診断学の発展に寄与したところは大きい.研究会や学会,あるいは症例報告論文において,“症例”を“検討”の場に提示する手段が消化管画像プレゼンテーションである.これまで消化管画像プレゼンテーションに関する解説書や指南書の類が出版されたことはほとんどなく,もちろん,本誌で特集が組まれたこともない.そこで,本特集では「消化管画像プレゼンテーション」を取り上げ,食道・胃・小腸・大腸の各分野のエキスパートに消化管病変のプレゼンテーションの基本と実際を解説していただいた.本特集は八尾建史(福岡大学筑紫病院内視鏡部)が発案し,斉藤裕輔(市立旭川病院消化器病センター)と江頭由太郎(大阪医科大学病理学教室)を加えた3人で企画を進めた.

 まずは,序説にて斉藤が消化管病変診断の基本手順を概説した.

基本情報

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胃と腸
51巻9号 (2016年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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