胃と腸 51巻13号 (2016年12月)

今月の主題 狭窄を来す小腸疾患の診断

序説

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はじめに

 小腸は5m以上に及ぶ長い管腔臓器であり,腸間膜に固定されながら複雑な腸索を形成している.また,内径は大腸に比べても小さいため容易に管腔狭小化に至る.したがって,小腸の狭窄性病変に遭遇することは比較的多い.しかしながら,小腸内視鏡検査法が確立された今日でも診断に難渋する症例に遭遇するのも事実である.事実,本邦の小腸内視鏡診療ガイドラインでは,“原因不明の消化管出血”とともに“狭窄”も内視鏡検査の適応として重要な徴候に挙げられている1)

 狭窄を来す小腸疾患には多種多様の疾病が含まれている2).また,小腸では腫瘍性疾患よりむしろ非腫瘍性病変の頻度が高いことも特徴である.したがって,小腸狭窄を正しく診断するためには,詳細な病歴聴取,臨床検査成績の把握,CT・MRIを含むX線造影所見・内視鏡所見と生検病理組織学的所見を分析し,その上で鑑別診断を想起することが必須となる.本稿では,狭窄を来す小腸疾患の診断過程に関して,筆者の考えを述べる.

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要旨●小腸狭窄合併例に対する内視鏡的アプローチには限界があり,その全体像の把握や質的診断には小腸X線造影検査の併用が有用である.狭窄を合併した小腸疾患の診断について,X線造影診断を中心に言及した.小腸狭窄を来した炎症性疾患の鑑別診断には,①狭窄部の形態の分類,②狭窄と腸間膜の位置関係,③狭窄部周囲の随伴所見の解析が有用である.一方,腫瘍性疾患の鑑別診断には,①狭窄部の両端のoverhanging edgeの有無,②粘膜下腫瘍様所見の有無,③壁伸展不良所見の程度,④管外性発育傾向の有無,などの解析が重要である.

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要旨●カプセル内視鏡(capsule endoscopy;CE)やバルーンアシスト下小腸内視鏡(balloon assisted endoscopy;BAE)の登場により全小腸の内視鏡的観察が実現し,BAEでは生検で病理組織学的評価も可能となった.小腸疾患の評価には腹部US,X線造影検査,cross-sectional imagingなどの検査法が存在するが,各々有用性と課題が混在し,いずれの検査もgolden standardとはなりえない.狭窄を含めた小腸病変を評価するためには,必要な検査を相補的に行うことが望まれる.本稿では概して評価が不十分となることが多い小腸狭窄を来す代表的な疾患の内視鏡所見を中心に概説する.

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要旨●小腸の狭窄病変に対する超音波診断について概説した.病変の検出に関しては狭窄の口側に拡張がある場合は容易だが,病変の壁肥厚に乏しく,かつ口側腸管の拡張を伴わない場合には限界がある.腫瘍性疾患において,狭窄を来すような病変であればその検出や診断は比較的容易であり,限局性に層構造の消失した肥厚として描出される.慢性炎症や放射線照射,あるいは虚血などを原因とする壁の高度な傷害により生じた狭窄も同様に層構造が消失,あるいは不明瞭となっているが,肥厚の程度は腫瘍に比較して軽度であることが多い.狭窄部位の超音波画像のみでの疾患の鑑別は必ずしも容易ではなく,他の部位の病変の有無や病歴などを参考にする必要がある.

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要旨●小腸に狭窄を来す疾患は原因別に炎症性狭窄と腫瘍による狭窄に大きく分けられる.他の消化管に比べると小腸の腫瘍や炎症はまれである.小腸病変は上部,下部消化管内視鏡検査や造影検査では観察することができず,診断までに時間がかかることが多い.炎症性狭窄ではイレウスや消化管穿孔などの重篤な結果となることもあり,早期の発見が重要である.近年カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の登場により,小腸の評価でも内視鏡が選択肢のひとつに含まれるようになった.しかし,CTやMRIの技術進歩もめざましく,腸管壁や腸間膜血管の評価も可能となっている.本稿ではCT・MRIの立場から狭窄を伴う小腸疾患の診断へのアプローチについて症例を提示しながら概説する.

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要旨●小腸狭窄を来す疾患として,癌,悪性リンパ腫,Crohn病,狭窄型虚血性小腸炎について,その肉眼形態と病理組織学的所見について概説した.癌は上皮性変化を伴う高度な輪状狭窄を示し,病理組織学的に癌の浸潤に伴う高度な線維性間質反応が伴う.一方,悪性リンパ腫は間質反応の少ない腫瘍細胞の充実性増殖から壁が肥厚し,浅い潰瘍と幅の狭い輪状狭窄を示す.Crohn病は腸間膜付着側に一致した縦走潰瘍から偏側性狭窄を来し,しばしば裂孔性の深くて幅の狭い潰瘍を伴う.狭窄型虚血性小腸炎は全周性区域性潰瘍を伴う管状狭窄を示す.組織学的には潰瘍底に血管に富む肉芽組織と粘膜下層の高度な線維筋症と線維化,比較的強い慢性炎症細胞浸潤を伴う.

主題症例

原発性小腸癌 石橋 英樹 , 二村 聡
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症例

 患者は50歳代,女性.意識障害,嘔吐,体重減少(20kg/9か月)を主訴に当院へ救急搬送された.血液検査にて,貧血(Hb6.3g/dl), 腎機能障害(BUN 85mg/dl,Cr 5.7mg/dl),低Na血症(Na 123mEq/l)を認めた.輸液管理,輸血を行い,貧血,高度脱水,電解質異常を補正し,全身状態の改善を認めた.精査のため施行した画像検査にて,空腸に単発の狭窄性病変を認めた.本例はTreitz靱帯より約15cm肛門側に発生した空腸癌であり,好発部位であるTreitz靱帯より60cm以内1)に発生していた.小腸X線造影検査ではnapkin-ring signを認め,狭窄長が短い輪状狭窄型であった(❶).小腸内視鏡検査では,全周性に周堤を伴う不整形潰瘍性病変を認めた(❷,❸).同部の生検診断は,高分化管状腺癌であった.腹部CT,PET-CTでは,空腸に壁肥厚像,FGD(18F-fluorodeoxyglucose)の異常集積を認めた(❹,❺).以上の点を踏まえ,腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.

 切除後の固定標本では,全周性の周堤隆起を有する潰瘍性病変を認め,口側腸管は著しく拡張していた(❻).病理組織学的には,漿膜組織まで浸潤した高異型度の高分化管状腺癌であった(❼).

Kaposi様血管内皮腫 清水 誠治 , 石田 英和
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症例

 患者は20歳代,男性.特記すべき家族歴,既往歴はない.2か月ほど前から時々,腹部膨満感,悪心を自覚するようになった.1週間前から下痢が出現したため当科を受診した.腹部単純X線検査で小腸に鏡面像,腹部超音波検査で小腸の拡張・内容のうっ滞を認めたため入院となった.体格・栄養は良好で,腹部診察で腸蠕動音がやや亢進し下腹部正中に軽度の圧痛がみられた.

 血液検査ではWBC 5,300/μl,RBC 587万/μl,Hb 9.9g/dl,Ht 35.7%,MCV 60.8,PLT 33.6万/μl,TP 6.1g/dl,Alb 4.1g/dl,Fe 16μg/dl,フェリチン 0.2ng/ml,CRP 0.28mg/dlであり,鉄欠乏性貧血がみられたのみであった.

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症例

 患者は60歳代,男性.嘔吐,食欲不振を訴え前医を受診し,麻痺性イレウスと診断され当院へ救急搬送された.3年前にも右上腹部痛あり,急性胆囊炎として救急搬送され,胆囊摘出術が行われていた.意識は清明であり,腹部は軽度膨満し,打診で鼓音を認めた.3年間で約30kgの体重減少があった.

 腹部単純X線検査で著明な小腸ガスを認め,明らかな麻痺性イレウスの所見を呈していた(❶).血液検査にて,白血球増多(WBC 13,000/μl),貧血(Hb 10.6g/dl),低ナトリウム血症(Na 132mEq/l),低アルブミン血症(Alb 1.7g/dl),CRP高値(3.7mg/dl),HTLV-1(human T-cell leukemia virus type 1)抗体陽性(1,024倍)であった.

虚血性小腸炎 大門 裕貴 , 高木 靖寛
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症例

 患者は70歳代,男性.慢性腎不全で外来透析中であった.黒色便と倦怠感が出現し,1か月間でHb 12.5g/dlからHb 3.6g/dlへの貧血の進行があり,精査のため当科に紹介となった.上部消化管および下部消化管内視鏡検査で出血源を認めなかったため,カプセル内視鏡検査を行った.その結果,下部小腸に全周性潰瘍とカプセル内視鏡の接触による活動性出血を認めた.小腸X線造影検査では回盲弁より約50cm口側の回腸に急性期の所見1)と考えられる拇指圧痕像を呈する6cmにわたる管状狭小化を認めた(❶,❷).小腸内視鏡検査では,比較的境界明瞭な浅い帯状や全周性の潰瘍を呈する腸管の狭小化を認めた(❸,❹).虚血性小腸炎と診断し保存的加療を行ったが,出血による輸血を繰り返したため小腸部分切除を施行した.切除小腸の肉眼像では出血を伴う,境界明瞭な帯状から地図状の潰瘍を認めた(❺).病理所見も潰瘍底は血管に富む肉芽組織で被覆され(❻),粘膜下層には軽度〜中等度の線維化(❼),担鉄細胞の出現も確認(ベルリンブルー染色)され(❽),虚血性病変に矛盾しない病理組織像2)であった.

放射線性小腸炎 大森 崇史 , 大宮 直木
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症例

 患者は60歳代,女性.子宮頸癌IIIb期に対して化学療法および放射線療法(weekly CDDP 40mg/m2×8回+全骨盤照射50.4Gyおよび腟内照射18Gy)を行った.CRにて約1年が経過したところ,貧血(Hb 8.8g/dl),低蛋白血症(Alb 2.4g/dl),便潜血反応が陽性となり,消化管の精査を行った.小腸X線造影検査では,照射範囲に一致して,骨盤内回腸に粘膜収束像と内腔の狭小化を認めた(❶).回腸内視鏡検査では,全周性に白濁した浮腫状粘膜と内腔の狭小化,毛細血管拡張所見を認めた(❷,❸).加えて,造影CT検査では,照射範囲に一致して,骨盤内回腸のびまん性壁肥厚と腹水を認めた(❹).同部位の生検にて虚血性変化を認めること(❺),また前述の検査結果から放射線性小腸炎と診断した.同部位から出血を認め,APC(argon plasma coagulation)による焼灼を反復して行ったがコントロールできず,病変部の口側回腸で人工肛門造設術を施行した.

家族性地中海熱 江﨑 幹宏 , 河野 真一
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症例

 患者は30歳代,女性.1〜2か月ごとに繰り返す38〜39℃台の発熱と上腹部痛および背部痛の精査目的で当科に紹介された.受診時の血液検査では異常を認めなかったが,2週間後の症状出現時にはWBC 28,900/μl,CRP 10.72mg/dlと高度の炎症所見を認めた.緊急上部消化管内視鏡検査では,十二指腸水平脚に発赤・びらんの多発を伴った浮腫状結節状粘膜(❶)を認めたが,生検組織では高度の炎症細胞浸潤を認めるのみであった(❷).

 感染症を否定した後に経口プレドニゾロン40mg/dayで治療を開始したが,25mg/dayに漸減した段階で症状が再燃した.再評価目的に行ったゾンデ法小腸X線造影検査(7か月後:有症状時)では,十二指腸水平脚から上部空腸にかけて粘膜は結節状変化を呈し,特に十二指腸では壁の伸展性が低下し,管腔狭小化を伴っていた(❸).内視鏡検査(9か月後:有症状時)では,同部位に結節状隆起が密在し管腔は狭小化していた(❹,❺).

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症例

 患者は40歳代,女性.10歳代より貧血,低蛋白血症を認め,十二指腸潰瘍で幽門側胃切除歴あり.

 家族歴:弟は皮膚骨膜肥厚症,小腸潰瘍症(詳細不明),妹は非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1;CEAS)(SLCO2A1遺伝子変異陽性).

 血液検査値:ヘモグロビン値8.6g/dl,アルブミン値1.9g/dl.

 精査のため施行した小腸X線造影検査(❶)で下部回腸に多発する狭窄,斜走する潰瘍瘢痕を認めた.バルーン小腸内視鏡検査(❷〜❹)では,下部回腸に偽憩室様所見,斜走する浅い多発潰瘍を認めた.臨床経過,家族歴,諸検査所見および,SLCO2A1遺伝子変異陽性であることから(❺,❻),CEASと診断し経過観察を行っている.

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患者

 60歳代,女性.

現病歴

 2013年胃前庭部の早期胃癌に対しESD(endoscopic submucosal dissection)を施行した.1年後のサーベイランス内視鏡検査にて胃体上部小彎に発赤陥凹面を認めた.

検査所見

 血算および生化学検査に異常なし.血清Helicobacter pylori(H. pylori)抗体は陰性であった(H. pylori除菌歴なし).

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要旨●患者は60歳代,男性.肺結核治療後で,さらに非定型抗酸菌症の内服治療中,小腸イレウスを発症した.下部消化管X線造影検査および下部消化管内視鏡検査で回盲弁から約70cmの範囲の回腸に多発性の憩室,潰瘍,狭窄を認めた.狭窄が高度であったため手術を施行した.切除標本で多発する憩室はすべて腸間膜付着側に存在し,病理組織学的に仮性憩室であった.憩室開口部近傍と憩室間の粘膜には不整形潰瘍が多発していた.潰瘍は病理組織学的にUl-IIで,粘膜下層に浮腫と高度の線維性肥厚がみられ,固有筋層の肥厚とともに狭窄を来したものと考えられた.肺結核の治療歴とリンパ節にみられた類上皮細胞肉芽腫から陳旧性腸結核が存在すると考えられた.しかし切除標本の肉眼所見は腸結核の特徴的病像とは異なっており,多発憩室が病変の形成に関与した可能性についても考察した.

早期胃癌研究会

2016年4月の例会から 田中 信治 , 竹内 学
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 2016年4月の早期胃癌研究会は2016年4月27日(水)に笹川記念会館で開催された.司会は田中 信治(広島大学病院内視鏡診療科),竹内 学(長岡赤十字病院消化器内科),病理は伴 慎一(獨協医科大学越谷病院病理診断科)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,西倉 健(済生会新潟第二病院病理診断科)が「臨床医が知っておくべき病理 その2【小腸・大腸】神経内分泌腫瘍:neuroendocrine neoplasms」と題して行った.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

第23回「白壁賞」論文募集

早期胃癌研究会 症例募集

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 残暑厳しい中にもようやく秋の風を感じ始めた2016年9月21日(水),東京の笹川記念会館で開かれた早期胃癌研究会の席上にて,第22回白壁賞と第41回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第22回白壁賞は清水誠治・他「診断困難な炎症性腸疾患の特徴」(「胃と腸」50:867-876, 2015)に,第41回村上記念「胃と腸」賞は江﨑幹宏・他「血管炎による消化管病変の臨床診断─IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)」(「胃と腸」50:1363-1371, 2015)に贈られた.

 授賞式の冒頭,今回のプレゼンターである選考委員の斉藤裕輔氏(市立旭川病院消化器センター)から,両賞の選考過程の説明が行われた.今回の選考では,“白壁賞は173編プラス英語論文1編の174編から,村上記念「胃と腸」賞は173編から選出しました.お二人の先生,誠におめでとうございます”と両名の受賞を祝した.

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 清水 誠治
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 昨年,本誌で「狭窄を来す大腸疾患」がテーマとして取り上げられたのに続き,本特集「狭窄を来す小腸疾患の診断」が企画され松本,二村,清水が担当した.大腸と異なり,小腸では疾患頻度が低く,十分な画像情報を得ることが難しい.

 まず松本による序説では小腸狭窄に対する診断の考え方,進め方について現在のスタンダードが簡潔に示されている.続く主題論文ではX線(蔵原),内視鏡(岸),超音波(畠),CT・MRI(山城)の各検査法によって得られる診断情報とその限界,重点疾患の病理診断の要点(平橋)が詳述されている.これらの主題論文と主題症例,早期胃癌研究会症例までを通観すると,狭窄を来す小腸疾患のほぼ全貌を見通せる充実した内容になっている.以下に本号で画像が提示された疾患を列挙してみる.

基本情報

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胃と腸
51巻13号 (2016年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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