胃と腸 51巻12号 (2016年11月)

今月の主題 十二指腸の上皮性腫瘍

序説

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はじめに

 内視鏡による上部消化管スクリーニング検査の普及を背景に,近年,十二指腸腫瘍に遭遇する機会が増加し,特に十二指腸腺腫・癌の早期診断と低侵襲治療の必要性が高まりつつある.しかし,十二指腸腺腫・癌は,その頻度の低さから癌取扱い規約がないなど,食道・胃・大腸に比べて未解決の課題が多く,内視鏡治療の適応や治療法選択に関する明確な指針は依然確立されていない.

 本特集は「十二指腸の上皮性腫瘍」を主題として企画された.非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の中から神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor ; NET)を除外した腺腫・癌を主たる対象とし(Table 1),十二指腸腺腫・癌の病理診断,内視鏡診断,治療適応と治療法に関する最新の知見を収載した.

 本誌において,十二指腸腫瘍が特集として取り上げられるのは,46巻11号(2011年)の「十二指腸の腫瘍性病変」以来,5年ぶりである.

 本稿では,非乳頭部十二指腸腺腫・癌に関する最近5年間の動向を,①十二指腸の腫瘍様病変と胃型腺腫・癌,②十二指腸腺腫・癌の術前診断,③治療の3つの観点から,論文のレビューを含め,概説する.

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要旨●表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍33例33病巣の病理像と細胞形質について検索した.その結果は以下のように要約された.近位十二指腸(第1〜2部)には,腸型形質腫瘍の他,胃型形質腫瘍も発生し,後者の周囲粘膜には胃腺窩上皮化生や異所性胃粘膜が観察された.腺腫と腺癌はいずれも半球状または扁平な隆起を形成し,平均腫瘍径は約15mmであった.主な組織型は軽度〜中等度異型の管状腺腫と高分化腺癌であった.以上の特徴を指摘し,若干の病理学的考察を加えた.

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要旨●近年になり内視鏡技術の向上,機器の進歩および内視鏡医の認知度の上昇により十二指腸病変の報告が増えてきている.病変の拾い上げにはスクリーニング検査が重要であり,検査技術の向上も不可欠である.検査の際にまずは十二指腸の解剖学的特性を理解し,適切な前処置,スコープ選択をする必要がある.そのうえで鎮静剤の使用を考慮する.進行した十二指腸病変に対する治療は部位によって治療難易度や侵襲が大きくなることがある.想定される十二指腸病変の特徴をよく理解したうえで,適切な手順で見落としのない検査を行うことが重要である.部位的に頻度の高い疾患ではないため,今後は症例を集約することで診断学・治療方針の確立などを行っていくことが急務であると考える.

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要旨●十二指腸ESDは難易度が高く,術中,術後の偶発症率も高いため,高度の技術を要する.また,十二指腸は複雑な走行をしているため,死角になる部分が多い.その構造を十分に理解したうえで,慎重に観察することが重要である.十二指腸球部から2nd portionへscopeを挿入後に,scopeを引くとたわみがとれ,先端は3rd portionへ進むが,scopeを挿入すると逆に先端は口側へ移動する.この際に,軸が回転するため,注意が必要である.上十二指腸角や下十二指腸角の肛門側など,内視鏡検査の死角になりやすい部位があるため,注意深く観察することが重要である.

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要旨●最近,十二指腸腺腫や早期癌に対する内視鏡診断・治療をめぐって関心が高まりつつあるが,疾患の頻度の低さもあり,鑑別診断についてはあいまいな点が多い.腫瘍様病変としては異所性胃粘膜とBrunner腺過形成の頻度が高い.異所性胃粘膜は多発病変だと比較的診断は容易であるが,単発病変では他の腫瘍性病変(腺腫,早期癌)との鑑別診断が困難なことがある.生検による腺腫,癌の診断も容易ではなく,内視鏡診断・病理学的診断共に他の消化管に比べて課題が多いのが現状である.腸型の腺腫・粘膜内癌では絨毛の白色化が特徴的で,腫瘍性・非腫瘍性病変の鑑別診断に極めて有用な所見である.さらに腺腫と癌との鑑別診断には白色化の発現パターンや粘液形質との関連など臨床病理学的な検証が今後の課題である.

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要旨●目的:十二指腸上皮性腫瘍に対するNBI併用拡大内視鏡(M-NBI)の診断能について検討する.方法:生検未施行のM-NBIが実施された連続する十二指腸上皮性腫瘍27病変〔低異型度腺腫(LGA)群19病変,粘膜内癌・高異型度腺腫(EC)群8病変〕を対象とし,VSCS(VS classification system)によるLGA群とEC群の鑑別診断能について評価した.成績:VSCSを用いたM-NBIの診断能はそれぞれ,感度:100%,特異度:78.9%,正診率:85.2%であった.ほぼすべての病変に粘膜白色不透明物質(WOS)が存在し,63%の症例で微小血管構築像(V)が視認困難であり,Vの所見に両群間で有意差は認めなかった.表面微細構造(S)に関しては,EC群はLGA群に比べてirregularと判断された病変が有意に多く,その内訳としてWOSの形状不均一,分布非対称性,配列不規則を呈する所見の頻度が有意に高かった.結論:VSCSを用いたM-NBIは,十二指腸上皮性腫瘍の鑑別診断において有用であることが示唆された.特にWOSの形態学的評価が重要と考えられた.

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要旨●十二指腸非乳頭部腫瘍に対する関心が高まるなかで,その内視鏡診断には明確な基準がないのが現状である.胃や大腸のようにNBI拡大観察で個々の微細模様や微小血管の異型から診断すると内視鏡診断と病理診断に乖離が生じることを経験する.筆者らは,微細模様が単一なパターンで構成(mono type)されるか,複数のもので構成(mixed type)されるかに着目した診断基準を提唱した.今回この診断基準に対するvalidation studyとして検討を行った.mixed typeであるときにVienna classification Category 4以上の異型と診断した際の,感度は87.8%(36/41),特異度は45.5%(5/11)であり,正診率は78.8%(41/52)であった.NBIを用いて病変全体の微細模様を拡大観察することで,内視鏡治療適応か否かの選別ができる可能性が示唆された.

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要旨●本邦において表在性非乳頭部十二指腸腫瘍の内視鏡的・外科的切除件数は急速に増加している.しかし,治療方針決定に重要な低異型度腺腫と高異型度腺腫/表在癌との内視鏡的鑑別点などは明らかになっていない.国内多施設アンケート調査によって396病変を集積・解析した結果,発赤調,腫瘍径≧6mmは高度異型腺腫/表在癌において有意に頻度が高く,術前診断において内視鏡の正診率は生検組織より高かった.腺腫/表在癌に対する標準的内視鏡治療法はEMRと考えられる.ESDは偶発症発生率(穿孔率30%前後)が高いことから,現時点において,標準的とはなりえない.SM浸潤癌の報告数は極めて限られており,今後,症例の集積が必要である.

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要旨●乳頭部腫瘍を除く十二指腸腫瘍の内視鏡切除例について13施設にアンケート調査を行い,1,397例を集計した(1993〜2016年7月).穿孔は7.0%(98/1,397),うち術中が5.4%(75/1,397),遅発性が1.6%(23/1,397)であった.後出血は3.6%(50/1,397)であった.穿孔率を手技別にみると,ESDで16.2%(72/445)と最も高かった.穿孔例における緊急手術の割合は,25.5%(25/98)であった.時代的変遷をみると後期では全体に占めるESDの割合は41%から27%へと低下していた.後期にはcold snare polypectomyやunderwater EMRなどの新しい手技が試みられているが,十二指腸の内視鏡治療の一般化はまだ時期尚早と思われた.

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要旨●十二指腸病変の経過が追えた家族性大腸腺腫症40例を対象に,乳頭部腺腫と十二指腸腺腫症の内視鏡所見および病理組織像の経時的推移(中央値12.7年)を検討した.初回検査では31例で乳頭部腺腫が確認された.最終観察時までに乳頭部腺腫を新たに2例で認め,6例で乳頭部の形態変化が出現したが,病理組織学的にはいずれも中等度異型の管状腺腫であった.一方,十二指腸腺腫症は初回検査で全例陽性で,大部分は多発する褪色調の小隆起ないし陥凹性病変として認識された.最終観察時には6例がSpigelman分類Stage IVに分類されたが,病理組織学的には高度異型腺腫を1例に認めるのみで,腺癌の出現はなかった.以上より,本症の十二指腸病変の進行は緩徐であり,癌化もまれと考えられた.

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要旨●十二指腸に発生する良性上皮性病変と腫瘍に対して,GNAS,KRAS,BRAF遺伝子変異検索を行った.良性病変については臨床病理学的事項についても検討した.胃腺窩上皮化生,異所性胃粘膜,幽門腺腺腫,腸型腺腫,腺癌はGNAS変異をそれぞれ41%,28%,92%,0%,17%に認め,KRAS変異をそれぞれ26%,2%,42%,20%,37%に認めた.BRAFは胃腺窩上皮化生の1例のみ変異を認めた.異所性胃粘膜3例で,胃腺窩上皮化生部分と胃底腺部分で共通のGNAS変異が認められた.腺癌に対する免疫染色では,GNAS変異陽性例ではMUC5ACが有意に強陽性を示し,CDX2が陰性もしくは弱陽性となる傾向を示した.以上より,十二指腸の胃腺窩上皮化生や異所性胃粘膜が幽門腺腺腫や腺癌の前駆病変である可能性が改めて示唆された.

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要旨●小さな十二指腸腺腫はこれまで経過観察されることが多かったが,大きくなってからESDを行うと偶発症発生率が高く治療に難渋してしまい,より早期での治療介入が望ましいと考える.そこで10mm以下の十二指腸腺腫に対して,近年大腸で有用性が報告されているCSP(cold snare polypectomy)を導入した.D-CSP(duodenal-csp)のメリットとしては,①筋層への通電によるダメージがない,②粘膜下層浅層で切除されるため術後潰瘍底に粘膜下層を比較的多く残すことができる,③スネアによる絞扼切除のため潰瘍底が小さく縫縮しやすい,などが挙げられ,最も懸念される偶発症である遅発性穿孔の発生率低下が期待される.

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要旨●患者は60歳代,男性.上部消化管内視鏡検査で,十二指腸球部に,頂部に陥凹を伴う径約10mm大の粘膜下腫瘍様隆起を認めた.NBI併用拡大観察では,陥凹面内部に腺管構造の消失と微小血管の異常を認め,陥凹周囲の病変表面には胃腺窩上皮パターンの領域を認めた.超音波内視鏡検査で病変は第2層を中心に内部に囊胞を伴うやや低エコー領域として描出され,第3層は保たれていた.粘膜内にとどまる悪性病変と考え,診断的治療目的でESDを施行した.病理組織学的に病変内部に高度異型腺管の増生を認め,周囲にBrunner腺腫や過形成への移行がみられたため,Brunner腺より発生し粘膜下腫瘍様の形態を示したBrunner腺由来の十二指腸癌と診断した.病変の表面には,陥凹に一致して癌の露出を認め,その周囲の病変表層にMUC5AC陽性の胃腺窩上皮化生領域を認めた.近年,Brunner腺過形成や過誤腫の病変表層に胃腺窩上皮が多くみられることが報告されているが,本例では癌が露出した陥凹面周囲の病変表層に胃腺窩上皮化生の領域を認めた.本例の術前診断において,NBI併用拡大観察は陥凹面の評価と胃腺窩上皮化生の存在診断に有用であった.

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要旨●患者は70歳代,男性.主訴は,黒色便,下痢.小腸X線造影検査では,ほぼ全小腸に粘膜粗糙,細顆粒から小顆粒状の隆起をびまん性に認めた.内視鏡検査では十二指腸から下部小腸にかけてびまん性に白色絨毛を認め,以上の画像所見からWhipple病が疑われた.十二指腸からの生検で粘膜固有層内に多数の泡沫状マクロファージ,脂肪滴を認め,電子顕微鏡観察でTropheryma whippleiを同定し確定診断した.CTRX,ST合剤の加療にて症状は改善した.さらに治療1か月後の内視鏡検査では,十二指腸の病変は著明に改善し,びまん性の白色絨毛は消退していた.今回,本邦においてまれなWhipple病の各種画像所見を経時的に確認しえたので報告する.

早期胃癌研究会

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 2016年6月の早期胃癌研究会は2016年6月15日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は大宮直木(藤田保健衛生大学消化管内科),丸山保彦(藤枝市立総合病院消化器内科),病理は和田了(順天堂大学医学部附属静岡病院病理診断科)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,八尾隆史(順天堂大学大学院医学研究科人体病理病態学)により,「臨床医が知っておくべき病理 その2【小腸・大腸】虚血性腸炎,薬剤性腸炎」と題して行った.

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次号予告

編集後記 九嶋 亮治
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 「十二指腸における胃型細胞の出現様式」1)に興味を持ち続け,本号を企画した一人として,編集後記に絡め十二指腸上皮の細胞分化と腫瘍について短く熱く語ってみたい.十二指腸は胃という大国の影に隠れ,いくつか教科書を繙いてみても十二指腸病変が多くのページを割いて記載されることは少なく,取扱い規約やガイドラインもない.解剖学の教科書には小腸は十二指腸,空腸,回腸から構成されると記載されているが,「胃と小腸をつなぐ消化管である.(中略.)なお小腸の一部とする考え方もある」との記述もみられる(Wikipediaより.筆者が投稿したわけではない).

 発生学の教科書では,Vater乳頭までが前腸由来となっているが,このあたりまでBrunner腺が粘膜固有層深部から粘膜下層に存在する.Brunner腺は胃の粘液腺と酷似しており,それに関連する病変の病理組織学的所見も併せて胃の一部と見なしたほうが理解しやすいこともある.すなわち,球部と下行脚のVater乳頭あたりまでは“小腸の皮を被った胃”で小腸壁内に胃がBrunner腺を舌状に伸ばし自国の領海と主張しているのである1).粘膜を剝がすと多量のBrunner腺が剝き出しになる.この構築が十二指腸に発生する腫瘍の診断と治療を困難なものとしているのかもしれないが,蔵原による序説がこの点を踏まえて十二指腸上皮性腫瘍の診断と治療の問題点を実に見事に総括しており,まずはこの4ページをじっくり読んでから各論に進んでほしい.

基本情報

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胃と腸
51巻12号 (2016年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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