胃と腸 44巻6号 (2009年5月)

今月の主題 小腸疾患─小病変の診断と治療の進歩

序説

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 近年,カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡の登場によって,臨床現場における小腸疾患診療は飛躍的に進歩した.すなわち,従来は造影X線検査のみが小腸疾患診断の主役であったのに対し,近年はカプセル内視鏡,ダブルバルーン内視鏡,小腸X線検査の3者をうまく組み合わせて診断を進めていく時代となった.それに伴い,以前は困難であった小腸の小病変の診断が比較的容易となってきた.そして,症例の集積とともに,小腸小病変の疾患・病態への関わりの解明や新たな分類の考案などが必要となりつつある.このような観点から,本号では,小腸小病変にスポットを当て,その診断と治療における最近の進歩が取り上げられる.

 本誌では約8年前に,「十二指腸の小病変」(36巻12号,2001年)と「十二指腸の非腫瘍性びまん性病変」(37巻6号,2002年)という2つの特集が組まれ,十二指腸小病変の診断と治療が取り上げられている.これは,パンエンドスコープの普及により,上部消化管内視鏡検査の一環として,十二指腸第2部までの観察がルーチン化し,小さな十二指腸病変の発見が増加したことによる.カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡はパンエンドスコープほど簡便かつ安価な検査ではないが,内視鏡検査の進歩・普及が小病変の発見増加をもたらしたという背景は類似している.小腸よりも観察が容易な十二指腸における小病変の特徴に精通しておくことは,小病変から成る小腸疾患や全身性疾患の診断に極めて有用な情報をもたらしてくれると考えられる.

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要旨 近年臨床導入されたカプセル内視鏡(VCE)とバルーン内視鏡(BE)により,これまで画像診断で捉えることのできなかった小さな病変(1cm以下)が数多く発見されるようになってきた.当科で診断された551例411病変を対象とし,小病変の検討を行った.小病変は粘膜面の1cm以下の範囲で異常を来す疾患と定義した.小腸疾患の内訳のなかでは炎症性疾患が小病変を最も多く有し,保有率は69/411病変で全体の16.8%,疾患群内の44%であった.小病変のみの頻度では血管性病変が最も高かった.小病変診断のアルゴリズムは現状ではVCEを先行し,診断がつかなければ再度VCEを行うか,治療も兼ねたBEを検討することと思われる.

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要旨 深部小腸に直接到達できるダブルバルーン内視鏡が登場し,小さな小腸病変に対しても詳細な観察と内視鏡治療を行うことが可能となった.また,内視鏡先端のバルーンを排したシングルバルーン内視鏡も発売され,両者を合わせてバルーン内視鏡として普及が進んでいる.内視鏡の普及に合わせて周辺機器や処置具の開発も進んでおり,特にCO2送気やAPC関連機器,胆道系処置具などに進化がみられる.また,従来は内視鏡が到達できないために,姑息的に経過をみるか,外科手術に頼らざるをえなかった小腸の小血管性病変や浸潤のない腫瘍性病変に対してダブルバルーン内視鏡での治療が可能となり,治療ストラテジーにも変化がみられている.

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要旨 小腸血管性病変は小腸出血の原因のうち,かなりの部分を占めている.しかし,その内視鏡所見は様々で,用語や分類も一定していない.消化管の血管性病変は,病理組織学的に静脈の特徴をもつangioectasia,動脈の特徴をもつDieulafoy's lesion,動脈と静脈の特徴をもつarteriovenous malformationの3つに分類できる.これを踏まえ,われわれは小腸血管性病変の内視鏡所見を,拍動の有無に着目して6つのタイプに分類した.この分類を用いることで,各病態に合わせた治療方針を決定できる.また,内視鏡所見のうえでは統一した記載が可能となり,確かな知見を集積する一助となると信じている.

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要旨 非特異性多発性小腸潰瘍症(CNSU)9例とNSAIDs起因性小腸潰瘍(NSAIDs腸症)14例の内視鏡所見を比較した.単発ないし多発性狭窄はCNSU 9例(100%)とNSAIDs腸症4例(29%)にみられ,前者の8例と後者の2例で開放性潰瘍を伴っていた.非狭窄性輪状潰瘍はCNSUの6例(67%)とNSAIDs腸症の7例(50%)にみられ,前者全例と後者の4例は開放性であった.CNSUの4例(44%)とNSAIDs腸症の1例(7%)で開放性の縦走・斜走潰瘍を認めた.一方,NSAIDs腸症7例(50%)で多発症潰瘍,アフタ,潰瘍瘢痕などの小病変が確認できたが,CNSUでは2例(22%)にすぎなかった.以上より,CNSUでは慢性開放性潰瘍が,NSAIDs腸症では治癒傾向の強い潰瘍と小病変が内視鏡的特徴と考えられた.

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要旨 nonsteroidal antiinflammatory drugs(NSAIDs)は,慢性疼痛の治療のみでなく,脳梗塞や心筋梗塞後の再発予防や,不整脈による血栓症予防に対して広く使用されており,上部消化管のみでなく下部消化管,特に小腸にも粘膜傷害を来す.従来のX線造影検査では微小病変の描出が非常に困難であり,小腸病変の診断は容易ではなかったが,近年カプセル内視鏡およびダブルバルーン小腸内視鏡検査が臨床使用されるようになり,微小病変を含んだNSAIDsによる小腸病変の病像の解明がなされている.NSAIDs小腸病変の動物モデルでは縦走潰瘍を来すことが知られているが,ヒトにおいてはさらに輪状潰瘍,膜様狭窄,円形打ち抜き状潰瘍,アフタ様潰瘍,びらんなどの病変が認められる.

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要旨 Crohn病は全消化管に病変を形成する原因不明の慢性炎症性腸疾患であり,わが国において疾患患者数は年々増加の一途をたどっている.近年,カプセル内視鏡,ダブルバルーン内視鏡をはじめとする小腸内視鏡検査機器の開発により,Crohn病の小腸病変に対する詳細な検討が可能となってきた.特に,Crohn病初期病変の診断のみならず,術後再発病変の粘膜治癒の状態を内視鏡で評価することも可能となっている.従来の栄養療法に加えて,免疫調節剤および生物学的製剤の使用は患者のQOL向上に貢献してきた.このような強力な薬物療法があるにもかかわらず観察される小腸病変を,臨床的にどのように捉えていくかが今後の課題である.

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要旨 ダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡の開発により,これまで観察不可能であった小腸が観察可能となった.詳細な観察が可能となり腸結核の小さな病変も見つけることができる.また,免疫不全状態で,肺に原発巣のない腸結核がみられるなど疾患頻度は増している.しかしながら,内視鏡やX線といった画像単独の検査だけで確定診断に至るのはいまだ困難である.問診や画像所見などと併せてPCR法やクオンティフェロン(QFT-2G)など新しい検査を加えていくことが診断への早道である.

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要旨 小腸小病変の診断に内視鏡検査は不可欠である.しかし,その診断能や診断体系は確立されておらず,今回,当科で小腸の観察を目的としてDBEを施行した283症例を対象として検討した.283例のうち,2cm以下の小病変を有していた小病変合併例は189例(67%)であった.189例中小病変の他に主病変を合併していた症例が120例(63%),小病変のみの症例が69例(37%)だった.主病変を有する症例は,そのほとんどが確定診断に至っていた.小病変のみの症例のうち,炎症性疾患では約半数が診断未確定であった.小潰瘍性病変の検討では,2mm以下のアフタ,小びらんの診断確定率は低かった.一方,大型アフタ,びらん,小潰瘍を呈する場合は,小病変のみであってもCD,NSAIDs起因性腸炎,腸結核などの疾患に診断確定していた. CDによる小病変は縦走傾向や比較的大型のものが多く,腸結核や非特異性多発性小腸潰瘍症では典型病変に類似する傾向があった.すなわち,小病変であっても,これらの特徴を捉えることができれば診断確定に有用であると推察された.上記以外の診断が確定していない症例では,特異的な疾患による病変ではなく,広義の軽度炎症の病態としての小病変も含まれている可能性がある.こうした病変と特異的疾患を確実に鑑別診断する必要があり,今後さらなる内視鏡,X線所見を含めた小腸検査の整理,体系化が不可欠である.

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要旨 カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡による,10mm以下の小さな小腸上皮性腫瘍に関しての報告を,遡及的に調査し現状を概説した.新しい小腸内視鏡検査が施行されている現状においても,臨床症状の出現が小腸の主な検査動機となっていることから,微小な病変は偶発的に認められたわずかな報告しか存在しない.症例の蓄積による小腸上皮性腫瘍の高危険群の設定が必要である.その際に内視鏡を含めた肉眼所見に関しても,コンセンサスの得られた共通の表現を用いて症例を集積する必要がある.

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要旨 ダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡の開発により,腹部CTや体外式超音波検査では検出が不可能であった小腸の小さな腫瘍も検出可能となった.小腸腫瘍のなかでも非上皮性腫瘍は悪性リンパ腫,GIST,リンパ管腫,血管腫,脂肪腫などがあるが,小さいものに限ると濾胞性リンパ腫,リンパ管腫,血管腫が多い.小病変はCTや体外式超音波による拾い上げは困難であり,その診断にはダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡が必要である.

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要旨 消化管はアミロイド沈着の好発臓器であり,なかでも十二指腸,小腸は最も沈着の高度な部位である.アミロイドーシスの沈着様式はアミロイド蛋白別に特異性がみられ,蛋白ごとに形態学的特徴が異なる.AAアミロイドーシスでは粘膜固有層と粘膜下層血管壁が沈着の主体となり,内視鏡的には微細顆粒状隆起が多発する粗糙な粘膜が特徴的である.ALアミロイドーシスでは粘膜筋板と粘膜下層,固有筋層へ塊状沈着傾向がみられ,内視鏡的には粘膜下腫瘍様隆起の多発と皺襞の肥厚が特徴的である.今後はカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡による知見も増えてくることが期待されるが,本症の形態学的特徴を念頭に置いて診断することが重要と思われた.

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要旨 膠原病と呼ばれる全身性自己免疫疾患は,様々な結合織疾患や血管炎症候群が含まれる疾患群である.全身性自己免疫疾患ではしばしば消化管病変を来し,潰瘍による出血や穿孔など重篤な消化管合併症は予後に影響を与え臨床的な問題となっている.今回,十二指腸および小腸に病変を有した自験33例を対象とし,そのX線・内視鏡的所見を検討した.十二指腸・小腸病変として,潰瘍45%,発赤・びらん35%,浮腫33%,腸管拡張18%,顆粒状粘膜15%を認めた.血管炎関連疾患と非関連疾患で比較すると,前者では潰瘍,後者では腸管拡張を高率に認めた.これらの結果より,全身性自己免疫疾患の十二指腸・小腸病変では潰瘍が比較的多く,血管炎の関与が示唆された.

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要旨 従来小腸の画像診断は小腸X線検査が主流であったが,カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の開発により,小腸X線で描出困難であった小病変や平坦病変の検出が可能になった.そのような小病変は疾患別では血管性病変や医原性病変(薬剤性・放射線性小腸炎)が多かった.小病変の検査別有所見率の比較では小腸X線検査に比べ,有意にカプセル内視鏡,ダブルバルーン内視鏡の有所見率が高かったが,カプセル内視鏡単独,ダブルバルーン内視鏡単独では見落とし例もあるため,それぞれ補完して使用する必要がある.

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要旨 症例は47歳,男性.腹痛と下血を主訴に来院した.ダブルバルーン式小腸内視鏡検査では,回腸全域に多発する小潰瘍を認めた.生検組織からは,炎症細胞浸潤のみで特異的な所見はないと報告された.経過観察中,約3年後に睾丸腫脹と疼痛を認め,泌尿器科にて睾丸摘出術を施行,NK/T細胞リンパ腫と診断された.化学療法準備中であったが,状態は急激に悪化し永眠された.その後の病理組織学的検討で,小腸と皮膚の初回生検組織よりNK/T細胞リンパ腫ならびにEpstein-Barr virusが証明された.

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要旨 症例は60歳代の女性.2005年7月,心窩部痛のため上部消化管内視鏡検査を施行し,胃体部に隆起性病変を指摘された.経過観察中の2007年3月,上部消化管内視鏡検査にて前回と同部位に有茎性隆起病変を認め,生検でGIST(gastrointestinal stromal tumor)と診断.外科的に胃局所切除を施行した.免疫染色にてc-kit陽性,s100蛋白陰性,desmin陰性であり,GISTと診断した.腫瘍は粘膜筋板に囲まれるように存在し,粘膜筋板由来のGISTと診断した.約1年9か月間,経時的に腫瘍の形態変化を観察しえた.

学会印象記

第5回日本消化管学会総会 小林 広幸
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 第5回日本消化管学会総会は,2009年2月12,13日の両日に坂本長逸会長(日本医科大学内科学講座消化器内科教授)のもと「消化管学,新たな領域へ(New Vision in Gastroenterolog) : 小腸疾患診療の進歩」をメインテーマとして開催された.会場は新宿の京王プラザホテルで例年どおりの平日開催(木,金)ではあったが,参加者数は1,600名以上と今回も過去最高となった.メインプログラムでは,コアシンポジウム4(41演題),ワークショップ11(99演題)に加え,メインテーマの小腸疾患にスポットを当てたシンポジウム(7演題),ワークショップ(12演題),症例検討(8演題)が開催され,一般演題はオーラル(82演題),ポスター(98演題)であった.本学会は毎年着実に会員数が増加しており,今回の参加会員数や演題数をみても学会としての勢いが増してきていることが実感できた.

 まず1日目の開会式では,坂本会長が今回のテーマであるカプセル内視鏡と小腸内視鏡による「小腸疾患診療の進歩」を,“New Vision in Gastroenterology”というキャッチフレーズで強調しながら挨拶されたのが印象的であった.会長挨拶の後は,コアシンポジウム4「消化管癌の診断・治療戦略─ここまで可能となった分子生物学的技法と工学的技法」〔司会 : 前原喜彦(九州大学消化器・総合外科学),北川雄光(慶應義塾大学外科学)〕の前半を聴講した.個人的には消化管の形態学を専門としていることもあり,この分野に関してはあまり理解できなかったが,演者と会場からの熱き討論が尽きなかった.これらのコアシンポジウムは本学会の特徴の1つでもあり,特定のテーマの進捗についてシリーズとして数年にわたり取り上げ議論を重ねるもので,今後も継続していただきたい企画である.

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大腸癌研究会「微小大腸病変の取り扱い」プロジェクト研究班設立の背景

 近年の内視鏡診断機器性能の向上,色素撒布法の普及1),NBI(narrow band imaging)の登場2)3)などにより,表面型を含む5mm以下の大腸微小病変の発見頻度は増加している1)4).そのためこれら日常比較的高頻度に発見される病変の臨床的取り扱いが問題となっている.すなわち,人的,時間的制約の中で,微小病変を発見した際に,経過観察する,生検を行う,内視鏡的に切除する根拠となる基準は大腸癌取扱い規約5)にも明言されておらず,検査医師,施設により異なっているのが現状である.

 6mm以上の大腸癌病変の性状診断,癌の深達度診断と同様に大腸微小病変の診断においても拡大内視鏡などが有用であることは疑いの余地はない6)7).しかし,一般臨床家においては時間的な制約や技術的な問題もあるため,発見頻度が高い大腸微小病変の診断において,実際にすべての病変に対して拡大内視鏡検査を行っている施設は,全体からみるといまだ多くないのが現状である.色素撒布を併用した通常内視鏡観察のみの日常検査8)において発見される大腸微小病変の取り扱い指針を作成することは,臨床診療上重要なことである.

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欧文目次

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 早期胃癌研究会では,毎月原則として5例の症例が提示され,臨床所見,病理所見ともに毎回詳細な症例検討が行われている.2003年より,年間に提示された症例の中から最も優れた症例に最優秀症例賞が贈られることになった.

 6回目の表彰となる早期胃癌研究会2008年最優秀症例賞は,九州大学大学院病態制御内科学・板場壮一氏の発表した「多結節状の形態を呈した胃平滑筋腫の1例」〔早期胃癌研究会症例として「胃と腸」44巻2号(2月号)に掲載〕に贈られた.なお2009年3月18日(水),笹川記念会館で行われた早期胃癌研究会の席上で,その表彰式が行われた.

編集後記 岩下 明徳
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 消化管の中で最も長い部を占める小腸には,多種多様の病変が存在します.これまでこれらの病変を内視鏡的に直接観察することが困難か不可能であったこともあり,“小腸はいまだ暗黒大陸である”という表現も一部でなされてきました.しかし,最近のダブルバルーン・シングルバルーン小腸内視鏡やカプセル内視鏡検査の急速な発達と普及に伴い,小腸病変,特にその小さな病変が白日のもとにさらされつつあり,小腸も暗黒大陸から脱して希望のもてる大陸と化しつつあります.このような小腸の疾患研究の黎明期に,本特集号が皆様方の小腸病変への興味を引くものであり,さらにはこれら病変の理解を深めるのに少しでも役立つものであるとしたら,大変うれしく存じます.幸いに,この分野のエキスパートから原稿をご執筆いただけたこともあり,いずれも秀でた力作ばかりで読みごたえがあります.ぜひ御一読を薦めたく存じます.

基本情報

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胃と腸
44巻6号 (2009年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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