胃と腸 39巻11号 (2004年10月)

今月の主題 胃生検診断の意義 Group分類を考える

序説

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はじめに

 旧来の画一的な胃癌治療法に比べて,今日では胃癌の状態に応じて異なった治療法がとられるようになってきた.特に早期癌やそれに近い進行癌に対しては縮小手術ないし個々人に適合したtailor-madeの治療を選択する時代となっている.この治療法選択には,術前に病変の質的診断,癌ならその範囲診断・深達度診断・悪性度・転移巣・再発様式予測を正確に下すことが必須条件である.胃生検診断(ここではforceps biopsy,fine needle biopsy,aspiration biopsyでの診断を指す)はこれら術前診断の重要な役割の一部を担っている.しかし,胃生検診断は病変の一部を組織診断したものであり,その診断が必ずしも病変全体を正確に診断しているとは限らない点に問題がある.病理医は生検材料を提供してくれる臨床医と緊密な対話をすることによりこの問題は解消に向い,生検診断は外科切除材料の組織診断と同様ないしそれに近い精度の組織診断となることができよう.すなわち,胃生検診断の意義は外科切除材料の組織診断に匹敵する点にある.

 また,従来の胃生検診断は “病変が腫瘍か非腫瘍か,腫瘍なら良性腫瘍か悪性腫瘍か” を診断すればよかったが,今日の胃生検診断は “良性腫瘍なら,その治療法は.悪性腫瘍なら,その悪性度と治療法選択への助言は” とその後の処置も問われるようになってきた.

 このような時代背景にあって,1970年から胃生検組織診断基準として,わが国で用いられてきたGroup分類は “現在でも本邦で時代に適合したものであるのかどうか”,さらに“世界的視野からみた場合,日本の Group分類はそのままで通用するのかどうか”を問い直す必要があろう.本号はそのような点を明らかにするために企画されたものである.

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要旨 胃癌取扱い規約による現行のGroup分類(第11版,1985年にて改訂)の成立過程,およびその問題点を述べた.また,Vienna Consensus Classification(2000年)の成立過程,Group分類との対比,その問題点にも触れた.日本におけるGroup分類を,Vienna分類(Category分類)の長所を取り入れて,特にGroup IIをindefinite for dysplasia/neoplasiaとするよう,改訂すべきとの声があるが,現行のGroup分類は18年以上の長さにわたって,それなりの妥当性をもって広く用いられている.改訂は慎重であらねばならない.

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要旨 胃生検組織診断分類(Group分類)が世に出て30年余となり,Group分類が内在する矛盾点や欧米の診断基準との整合性が問題となっている.病理医のGroup分類に対する考え方の実態調査が必要と考えられ,電子メールを用いたアンケート調査が行われた.全国ほぼ均等に病院,大学,検査所等から152通のアンケート回答を得た.その結果,Group分類は全国で病理医にとって便利だから用いられている,Group IIIは腺腫や良性・悪性境界領域病変に用いられ,Group IVは質,量不足,また躊躇して癌としないときに用いられている,Group分類の改訂には賛成あるいはどちらでもよいとの意見が多く,改訂は国際的な分類にという意見が多いが,Vienna分類には関心のない病理医が多い,という実態であった.

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要旨 Group分類に関してアンケート調査を行い50の臨床施設から回答を得た.異型度の指標として簡便で,インフォームド・コンセントのときにも使いやすいなどの利点により,Group分類は臨床の場で必要だが,Group IIIやGroup II or IVがあいまいで,病理医よって分類に差があることが指摘された.Group IIIに対してはGroup II or IVと区別し腺腫に限定して使用する意見が多数あり,Group IVに対してはすぐに再検査するが,Group Vと同様に扱い切除治療を考慮する意見もあった.Group分類を改訂することについては,国際的に通じる分類にという意見が多かったが,改訂に慎重な意見もみられた.Vienna分類に関してはGroup分類とは差がありすぎるとする意見が多かった.臨床医と病理医との連携については病理医は98%で内視鏡所見や生検部位などを参考にしていた.また,内視鏡所見や生検部位などの臨床データが不十分な場合,86%の施設で病理医からの問い合わせがあり,日常臨床において臨床医と病理医の円滑なコミュニケーションが行われている実態が示された.

症例検討

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はじめに

 胃生検組織診断ではしばしば診断困難な例がある.診断困難な理由としては,①組織標本が小さく,粘膜下層は採取されても表層のごく一部であること,②採取された異型細胞の量が少ない場合,③挫滅や断片化などのアーチファクトを伴う場合,④細胞異型あるいは構造異型の乏しい癌が存在する,などが考えられる.そして,生検組織では当然のことながらその病変全体の一部しか見ていないので,その病変の最終的“診断”とは区別するため,生検診断では病変の一部分での “判定” としてGroup分類を用いてきた.しかし,病理学的診断の進歩に伴い,かなり正確な質的診断がなされるようになってきてGroup分類の必要性と意義が問われるようになってきた.そしてさらに,消化管の組織診断基準は欧米と日本で大きな差が認められていたが,近年その診断基準のコンセンサスを得るべきであるという気運が高まり,1998年にVienna 会議が開かれVienna分類が作成された1).生検診断が欧米より進んでいる日本にとってはこのVienna分類は決して満足するような内容でなかったが,診断基準のコンセンサスがある程度得られたということには意義があると思われる.また,第75回胃癌学会で「胃生検Group分類の問題点」というパネルディスカッションも行われ,Group分類の問題点,運用方法の見直し,改正の是非,国際分類との関連などが討論された.これらを背景として日本の胃癌取扱い規約の改正作業に伴い,従来の Group分類の改訂が提案されている.

 「胃と腸」では過去に「座談会:胃生検の Group分類をめぐって」(19巻10号,1984年),「主題:胃癌の病理組織診断基準の再検討は必要か」(29巻2号,1994年)でGroup分類に関する問題点が検討されている.ここでは,実際の生検組織を現行のGroup分類とVienna分類にそれぞれ従い診断していただいた結果を解析し,Group分類とVienna分類の長所と短所およびそれらの運用上の問題点を浮き彫りにすることを目的とした.

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 Group分類困難例とされた49症例の生検組織を検鏡し,Group分類,Vienna国際分類それぞれで診断を行った.本稿では,各分類についての問題点,筆者の分類運用法,分類困難例について,検鏡症例を踏まえながら,述べたい.

Group分類診断について

 現行の胃生検Group分類1)は生検組織の上皮性病変を,Group I:正常組織,および異型を示さない良性(非腫瘍性)病変,Group II:異型を示すが,良性(非腫瘍性)と判定される病変,Group III:良性(非腫瘍性)と悪性の境界領域の病変,Group IV:癌が強く疑われる病変,Group V:癌,に分類している.Group IIIは,胃癌取扱い規約1)説明文(92頁)では “異型上皮巣,扁平腺腫,…陥凹性異型上皮” なども含むものとされており,質的に良性腫瘍(腺腫)と診断されるものと,異型の点から非腫瘍性(炎症再生異型など)か癌かの鑑別が困難なものとが同一のカテゴリーの中に包含されることになる.同様にGroup IVの中には癌が強く疑われる病変(腫瘍か非腫瘍かの規定はない),異型腺管や異型細胞が量的に不足しているもの,非常に高分化の腺癌,等多彩な病変が含まれている.Group分類に問題があるとすれば,質的診断の異なる病変が1つのカテゴリーの中に包含されているGroup IIIとGroup IVの位置づけが病理医によって異なりうること,そしてそれによってGroup分類の運用にも差異が生じるであろうこと,と思われる.

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 主として臨床側から提出されたと思われる,49例の生検組織について診断し,日本のGroup分類と国際分類双方の分類を記載した.

 生検標本に部位および肉眼所見のみが添付されていて内視鏡の写真は添付されていなかった.

国際分類とGroup分類との相違点

 国際分類(カテゴリー分類・Vienna分類)と,本邦のGroup分類との違いは,カテゴリー2が“非腫瘍性・腫瘍の鑑別困難な病変”と定義され,腺腫あるいは癌か非腫瘍性か鑑別の困難な症例が分類されている点(Group分類のGroup IIは異型を示す良性病変).カテゴリー3が“非浸潤性軽度異型腫瘍”と定義され,良性腺腫の症例が分類されている点(Group分類のGroup IIIは良性と悪性の境界領域病変).カテゴリー4が“非浸潤性高度異型腫瘍”と定義され,腫瘍で異型が強く良性悪性の診断が困難な症例と,癌と診断できるが非浸潤の症例が含まれる点(Group分類のGroup IVは癌が強く疑われる病変).カテゴリー5が浸潤性腫瘍と定義され,浸潤癌のみが分類される点(Group分類のGroup Vは癌と診断される病変)である.

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 Group分類困難例とされた生検組織標本の検討に参加した.約50例の診断困難例を限られた時間で診断していくことは簡単ではなく,これまで本誌で行った症例検討と同様であった.検鏡後のコメントを求められたが,現時点では切除標本と対比した結果は知らされておらず,生検診断が正しいものであったかどうかは不明である.したがって,検鏡の際に感じた症例提示の問題点と,検討で用いたGroup分類あるいはCategory分類をどのように運用したのかについて述べる.

 検鏡時に感じたことは,臨床情報が十分ではない症例が含まれていた点である.すなわち,①症例の臨床所見が簡単に記載されていたが,大きさ,肉眼型の不明な症例があった,②肉眼所見を提示していただきたかった,③病変のどのようなところから採取されたのかがまったく不明であった,④症例によっては他の部位の所見を必要とした,などが挙げられた.日常の生検で診断に迷う症例に遭遇した場合には,必ず申し込み用紙の臨床所見を吟味し,可能であれば臨床医に問い合わせをしている.さらに臨床医とともに内視鏡写真の検討を加えることにより,組織異型所見に対する解釈がより正確になることは少なくない.消化管を専門とする病理医は切除標本の肉眼所見を検討しているだけでなく,様々な検討会でX線あるいは内視鏡所見との対比に参加し,組織診断へのフィードバックを重ねている.したがって,Group分類困難例という診断の難しいものを扱うのであれば,簡単な文章による臨床情報だけでなく,実情に即した形での症例提示が望まれた.また,いくつかの標本は退色あるいは染色が薄く,組織所見が捉えにくいものであった.診断の質を問うのであれば,できるだけよい条件で提示されるべきであろう.

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 呈示された49症例の鏡検を終えて,Group分類,Vienna分類,それに病理診断の対応の難しさを改めて感じている.私は,日常の病理診断においてGroup分類は使用しない立場であるが,Vienna分類と比較すると,現行のGroup分類のほうがはるかに使いやすい.理由は明らかで,Group IIIという診断が幅広く使用できるからである.Group IIIの使用法が正しいか否かの問題はおくとして,腫瘍性か反応性か判断の難しい病変,腺腫,癌を疑う病変のいずれもがGroup IIIの枠の中で診断されているのである.したがって,生検の病理診断としては,Group IIIという診断だけでは不十分で,Group IIIの内容を併記する必要があることは言うまでもない.これに対してVienna分類では,分類記号と診断内容をより厳密に対応させようとした結果,例えば,癌を疑うが確定できないという診断や,良性悪性境界病変に対応するカテゴリーが存在しない.これに対して,癌の診断は必要以上に細分化されている.例えば,カテゴリー4の第2項,non-invasive carcinomaは,carcinoma in situを意味していると考えられるが,通常の胃の粘膜内癌で,既存の構造を保ったまま増殖している癌は,ほとんど存在しない.カテゴリー5の第1項,intramucosal carcinoma は intramucosal carcinoma with invasionに相当するが,このような細分化は無意味に思われる.むしろ,intramucosal carcinoma;low-grade atypiaとintramucosal carcinoma;high-grade atypiaに分類したほうが理解しやすい.これらの問題点を踏まえてVienna分類を修正すると,次のような提案が可能になる(Table1).

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はじめに

 下田(司会) 本日はお忙しいところお集まりいただき,ありがとうございました.今日はご意見をいろいろおうかがいしながら,使いやすいGroup分類とはどういうものか,あるいは生検診断と臨床所見との整合性をいかにするか,ということも含めて,まとめていきたいと思っております.皆様ご存じのように,胃生検のGroup分類は,1971年に当時の胃癌取扱い規約委員会の中で病理系の委員によって決められたのが最初でございます.当時使われておりました細胞診のパパニコロー(Papanicolaou)分類(class I,II,III,IV,V)というのがございますが,この分類の基本はIとIIIとVです.それに準じて最初の胃生検Group分類が作られたというのが実情です.その当時のGroup IIIは,良悪性境界領域病変となっておりますが,その後腺腫(adenoma)の概念がはっきりしてまいりまして,Group IIIも含めて,もう少しきちんと現状に即した分類に直したほうがいいだろう,ということで,1985年に故喜納勇先生を中心としてこのGroup分類の見直しが行われました.そのときにGroup IIIとGroup IIに大きな変更が加えられ,それが先生方のお手もとにある新旧の比較をしたものでございます(Table1).その後多少の字句の訂正などが加えられて1993年に基本を維持したまま,胃癌取扱い規約に載せられて現在に至っています.しかし,それからの10年間に胃癌の組織型を含めまして,いろいろなことがわかってまいりました.それに従って,現在のGroup分類が本当にいいのかどうか,あるいは使いやすさがどうであるか等,いろいろ議論されるようになり,その話題が昨年の胃癌学会でも取り上げられました.本日は今までの流れを踏まえて,Group分類の現状はどうであるか,そして先生方がどのような問題点をお考えであるか,ということをおうかがいしたいと思います.その前に,生検診断は現在では通常一般的に行われているわけです.生検をされる臨床の先生方に,その生検診断に何を求めているのか,ということをおうかがいしたいと思います.まずは川口先生から口火をお願いします.

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 〔患 者〕 54歳,男性.2004年5月4日に突然の胸焼け感,上腹部痛を自覚.その後,症状の悪化を認めたため同年5月6日,当院消化器内科を受診.翌日の上部消化管内視鏡検査にて食道に異常を認めたため精査加療入院となった.

 〔食道内視鏡所見〕 下部食道に小類円形や,広い地図状の浅い潰瘍の多発を認めた(Fig.1a, b).食道胃粘膜接合部直上には深い打ち抜き様潰瘍を認めた(Fig.1c).

 〔生検病理組織学的所見〕 潰瘍辺縁からの生検組織標本では炎症性滲出物の中に,特徴あるすりガラス状の腫大した核をもつ変性上皮細胞や多核の変性上皮細胞を認めた(Fig.2a).これらの変性上皮細胞の核は抗HSV1型抗体による免疫染色で陽性を示した(Fig.2b).

 〔入院時血液検査所見〕 生化学検査ではCRP1.4mg/dlと軽度の炎症反応上昇がみられたほか,異常を認めなかった.血清ウイルス抗体検査(EIA)ではHSV1型IgM3.81,IgG78.3と両者ともに陽性であった.

 以上より HSV1型によるヘルペス食道炎と診断した.aciclovirを投与し治癒した.

早期胃癌研究会

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 2004年6月の早期胃癌研究会は6月16日(水)に日本教育会館で開催された.司会は鶴田修(久留米大学第2内科)と門馬久美子(都立駒込病院内視鏡科)が担当した.mini lectureは村田洋子(ムラタクリニック)が「EUSと病理―入門編」と題して行った.

 〔第1例〕 54歳,女性.早期肛門管癌の1例(症例提供:札幌厚生病院胃腸科 黒河聖).

 腹痛と便秘を主訴に来院した患者である.読影は清水(大阪鉄道病院消化器内科)がX線・内視鏡とも担当した.X線では直腸下端歯状線近傍に基部を有する径3cm弱の立ち上がりが急峻な丈の高い隆起性病変で,一部に陥凹を有するが表面はおおかた平滑であり,粘膜下腫瘍と診断した.さらに質診断を行うには色調や硬さの情報が必要ともコメントした.内視鏡では肛門管に基部のある病変で,粘膜下層に病変が存在し,表面には滲出物で覆われたびらん面とびらんのない部が存在し,びらん以外の部は上皮で覆われている(Fig.1)が,それが腫瘍か非腫瘍かも腺上皮か扁平上皮かもわからず診断に苦慮するとした.平田(大阪医科大学第2内科)はびらんのない部の表面は拡大観察による血管像が食道癌で見る血管所見に類似しており,腫瘍性の扁平上皮が露出した扁平上皮癌で,深達度は筋層以深とコメントした.山野(秋田赤十字病院消化器病センター)は拡大観察所見からは正常の腺上皮で覆われた粘膜下腫瘍であり,pit patternの読みが難しいのは機械的刺激による腺上皮の変性・萎縮のためだろうとコメントした.小山(佐久総合病院胃腸科)は表面が腺上皮か扁平上皮かわからないが,扁平上皮だとしたら血管に口径不同や太い血管がないのでsm massiveに浸潤した癌が表面に露出したものではないであろうとコメントした.

 病理は村岡(札幌厚生病院病理)が説明し,肉眼的には歯状線をまたぐ形で発育した大きさ2.6×2.1cm,高さ1cm 強の隆起性病変で,組織学的には肛門管より発生した m 部も存在するsm3の0-Isp型扁平上皮癌であるとし,表層の血管は腫瘍間質の血管であるとした.最後に小山と門馬(都立駒込病院内視鏡科)が食道癌ではこの症例にみられたような血管でsm massiveの診断はできないとコメントした.

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 2004年7月の早期胃癌研究会は7月23日(金)に新高輪プリンスホテル国際館パミール3階「北辰」で開催された.司会は小山恒男(佐久総合病院胃腸科),工藤進英(昭和大学横浜市北部病院消化器センター)が担当した.mini lectureは「十二指腸・小腸のびまん性病変の鑑別診断:臨床と病理の比較検討の重要性」と題して多田修治(済生会熊本病院消化器病センター)が行った.

 〔第1例〕 53歳,男性.食道扁平上皮癌(症例提供:都立駒込病院内視鏡科 遠藤純子).

 読影はX線,内視鏡ともに平澤(仙台市医療センター消化器内科)が担当した.X線ではMt,前壁の辺縁隆起を伴う陥凹性病変で肛門側に付着むらを伴うことから約3cm大の0-IIa+IIc型の扁平上皮癌で,隆起が目立つが側面変形が乏しいため深達度m3から sm1と診断した.小沢(わたり病院消化器科)は肛門側のIIc伸展はなく約1cm大のIIa+IIcで,隆起が目立つため深達度sm2~3と診断した.また,側面変形が少ないことから柔らかい腫瘍と考えられ組織型は特殊型であると診断した.内視鏡では大きさ約1cm大の辺縁隆起を伴う陥凹性病変(Fig.1)で空気量を減じても堅さがあった.陥凹内に不整な結節もあり,拡大観察にてIPCL(intra-papillary capillary loop)は破壊されavascular areaもあることから深達度sm2と診断した.井上(昭和大学横浜市北部病院消化器センター)は通常観察では厚みもありsm2と診断するが,拡大観察での血管パターンはVI程度でありm3~sm1程度と判断され,総合的にsm2と診断するとコメントした.

 病理解説は河内(都立駒込病院病理)が行い,12×10mm大の0-IIc型扁平上皮癌で深達度は辺縁部でm3,中央部でsm2であり,ly陽性であったがリンパ節転移はなかったと解説した.細井(霞ケ浦成人病研究事業団)はX線の読影に関して解説し,空気量を変化させても形が変わらないため,smに浸潤した癌と読めるが,側面変形が軽度であった原因として病変が小さく,正確な正面像の撮影が困難であったことが考えられると解説した.小さいながら深部浸潤した悪性度の高い癌の典型症例であった.

2004年9月の例会から 川口 実 , 樋渡 信夫
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 2004年9月の早期胃癌研究会は9月15日(水)に東商ホールで開催された.司会は川口実(国際医療福祉大学附属熱海病院内科)と樋渡信夫(いわき市立総合磐城共立病院)が担当した.また,第10回白壁賞・第29回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.

 〔第1例〕 75歳,女性.特異な形態を呈したGISTの1例(症例提供:徳島大学臓器病態治療医学 岡村誠介).

 検診目的で上部消化管内視鏡検査を受け胃体上部小彎に約5cmの隆起性病変を指摘され来院.

 X線の読影は安保(札幌厚生病院胃腸科)が行った.噴門直下小彎の胃内腔に突出する隆起性病変で表面滑らかで,隆起を粘膜が被っている.隆起の一部がさらに結節状に突出する形態であり,さらにこの腫瘤自体の重みで垂れ下がっている.中央部はやや凹んだ部が存在する.これらの所見から粘膜下腫瘍と読影した.粘膜下腫瘍の鑑別については頻度からleiomyomaを一番疑うとした.小沢(わたり病院消化器科)は多結節状であり,部位も考え合わせると鑑別診断にsubmucosal heterotopiaを挙げておく必要があるとした.細川(福井県立病院外科)は表面がnodularな構造を有し,空気量により形態が変化することよりGIST(gastrointestinal stromal tumor)などの内部充実性の腫瘍は考えにくくむしろ軟らかい腫瘤を考えておく必要があると述べた.内視鏡所見(Fig.1)では安保は2こぶ状の隆起で,頂部の陥凹部(びらん)は辺縁整で癌を疑う所見を認めない.基部はほぼ正常の粘膜に被われている.しかも基部の一部が空気量で変化するので,基部と頂部では性格の異なる腫瘤であると読影し,inverted hamartomatous polypなどを考えておく必要があるとした.超音波内視鏡所見を芳野(藤田保健衛生大学第2教育病院内科)が説明した.腫瘤は第4層と連続し,2こぶ状を呈するがEUS上は同じ成分から成り,すなわちほぼ均一な低エコーを示すが,その底部に無エコー部を有する腫瘤とした.

 病理は佐野(徳島大学病理)が解説した.腫瘍はepithelioid patternを有するGISTで大きなcystを形成しており,このcystに相当する部が基部であり,内視鏡的に軟らかいと読んだ部に一致する.腫瘍は胃内外発育型GISTで大きなcystを伴っていることが特異な症例であった.cystの形成機序は腫瘍が壊死を起こし脱落した可能性があり,epithelioid patternを有するGISTは間質が浮腫状になったり,嚢胞形成を起こしてくることが特徴であると下田(国立がんセンター中央病院臨床検査部)が追加した.

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要旨 患者は80歳の男性.嚥下困難と体重減少を主訴に来院した.X線検査では,胸部中部食道に基部を有する巨大な亜有茎性のポリープ状腫瘤を認めた.食道は著明に拡張しているが,食道壁に強い硬化像はみられなかった.内視鏡検査では,表面は比較的平滑であるが,深い分葉状を呈し緊満感に乏しく,ヨード染色像では腫瘤のみが不染で背景粘膜に不染域はみられなかった.その特異な形態より術前診断は癌肉腫とし食道切除術が施行された.病理診断は著しく角化し壊死に陥った細胞を含む高分化型の扁平上皮癌で,腫瘍の間質は非常に乏しく肉腫の成分は全く認めなかった.巨大なポリープ状に発育する食道腫瘍の場合,食道癌肉腫や悪性黒色腫などの特殊な組織型の腫瘍を考えがちであるが,扁平上皮癌も常に念頭に置く必要がある.鑑別のポイントとして,①腫瘍が食道上皮に覆われているかどうか,すなわち腫瘍自体がヨード不染であるかどうか,②腫瘍周囲に扁平上皮癌の上皮内伸展があるかどうかという一般的な事項のほか,腫瘍の緊満感,分葉の深さが重要であった.

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要旨 症例は62歳,男性.検診にて便潜血反応陽性となり大腸内視鏡検査施行.直腸に陥凹性病変を認め,精査入院となる.陥凹面の大部分は再生上皮粘膜で一部に腫瘍性病変を認め,生検にて内分泌細胞癌と診断.低位前方切除術を施行し,直腸(Rb),左壁の0-IIc+IIa,癌部の大きさ2.5×2.0mm(非癌部を含めると11×9mm),m,ly1,v0,n0,stage0であった.本例は,内分泌細胞癌のみより形成される粘膜内癌であり,病変部において腺癌の合併は認めず,p53,Ki-67染色においても高異型度を呈していた.内分泌細胞癌の発生経路からも興味ある症例と思われ報告した.

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欧文目次

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 2004年9月15日(水),東商ホールで行われた早期胃癌研究会の席上,第10回白壁賞と第29回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第10回白壁賞は井上晴洋・他「食道扁平上皮癌の拡大内視鏡」(胃と腸38 : 1629-1640, 2003)と岩下明徳・他「Mesenteric phlebosclerosis ─ A new disease entity causing ischemic colitis」(Diseases of the Colon and Rectum 46 : 209-220, 2003)に,第29回村上記念「胃と腸」賞は松田彰郎・他「胃型分化型早期胃癌の画像診断─X線を中心に」(胃と腸38 : 673-683, 2003)に贈られた.

 研究会司会の樋渡信夫氏(いわき市立総合磐城共立病院消化器科)から,まず第10回白壁賞受賞者代表として井上晴洋氏(昭和大学横浜市北部病院消化器センター)と岩下明徳氏(福岡大学筑紫病院病理)が紹介された.本賞は,故白壁彦夫氏のご業績をたたえて,消化管の形態・診断学の進歩と普及に寄与した論文に贈られるもので,「胃と腸」に掲載された論文に加え,応募論文も選考の対象となる.今回は「胃と腸」38巻に掲載された全論文と応募のあった英文論文2篇が選考対象となった.

編集後記 大谷 吉秀
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 Group分類はこれまでも主題に取り上げられてきた(19巻10号「胃生検の問題点」,29巻2号「胃良・悪性境界病変の生検診断と治療方針」).今回はVienna分類の紹介と既存のGroup分類との対比を念頭に置いて, わが国におけるGroup分類の現状を浮き彫りにすることを目指して,複数の病理医によるプレパラートの評価,臨床医と病理医双方へのアンケート調査結果,座談会など盛りだくさんの情報が大変コンパクトに収載された.

 胃癌取扱い規約に掲載されて以来, Group分類は質的診断と併記して用いられ,広く普及した.“わが国と欧米の診断基準の相違を埋めるために提案されたVienna分類は,早期癌の統計や治療成績の国際比較に当たっては利用に値する”(加藤論文)とされる.国際的に認知されるために,共通の理解に基づいた記載方法(カテゴリー分類)が必要なことも事実である.しかしながら,臨床医の立場では,座談会でも述べられているように,all or nothing を示しうる情報伝達の手段のほうが,より簡潔でわかりやすい.IとV,そしてグレーゾーンとしてのIII.これのみで事足りるというのが,患者さんを前にして,インフォームド・コンセントをとる際の臨床医の実感である.これらのギャップについて問題点を明らかにし,読者の方々に関心を持っていただくことが本主題「胃生検診断の意義―Group分類を考える」のねらいである.

基本情報

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胃と腸
39巻11号 (2004年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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